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◆◇◆◇◆


「…」


 ハーサバルの雑木林を抜け、小高い丘を見つけた。領域を一望できるそこには普段あまり人が通ることがないのだろう。踏み荒らされた草木の跡がくっきりと残っていた


「…はぁ」


『F級迷宮』───痕跡を辿った先でそれを見つけた。垂れ流される魔力と感じる異質な雰囲気、しかし『アレら』の気配は感じられなかった


 好機だ


「【エレメント】『アーテルレスト』」


 迷宮を前に魔力を集中させる


 迷宮を外郭から攻略するなんて前代未聞な挑戦のため、ありったけを込め始める


◆◇◆◇◆


 周囲から光の粒子が現れては夜を照らし、闇に吸い込まれていく、闇はその度に膨れ上がり、その形を曖昧なものから明確な形を帯び始めていた


 言わずもがな『黒龍』の形へと


 知ってか知らずかアノスの思い描く『アーテルレスト』は『黒龍』の印象を根底に『再現』を行う一撃に完結をしていた


 魔力が許す限りを込めるにつれ、魔力はそのイメージに寄せられて行き、やがては『再現』へと収束する


◆◇◆◇◆


「…」


 纏う魔力が身体の物理的な一部の様に感じられる感覚が止んだ時、これが最大なのだと直感する


 集中によって練り上げた魔力に指向性を持たせるために手を前に出す。癖で構えた無い筈の腕が魔力によって形作られていくと今はなき『いつもの腕』がそこにはあった


「…」


 指向性を与えるに十分な助力を受け、満を持して最大威力の『未分類魔法』を放った


英雄の雲隠れ(アーテルレスト)


 腕の肘関節より先に存在していた闇が周囲を漂う魔力を纏めていくとその輪郭を球状に変化させ、やがて音もなく定めていた先に闇の一筋を出現させた直後


「…」


 瞬きの後には黒い粒子となって『アーテルレスト』は霧散していた。残っていたものは『何の変哲もない地面』だけだった


◆◇◆◇◆


「…」


 何もなくなった地面に触れる。ただの地面だった


 背の低い草と土の湿り気。これは多用してはいけないものだと立ち上がり思った


『作品』との対峙も課題の一つながら、この様に攻略してしまっては迷宮の恵みを獲得できないことが何よりの痛手だ


「…」


 最大威力での使用により理解したのは『エーテル』への『還元』と言う───『無に帰す』ことの無慈悲さ。数時間、或いは数日、数ヶ月もしくは数年を掛けて攻略をする迷宮をこうもあっさり消せてしまえること


 しかしながら『F級への迅速な対応』と言う点では目を見張るものがあるのは確かだった


「…」


『ハーサバル・グレイ 該当者5』

 

 領域内に残る3人はどうしたものか


 気怠さを感じながらも歩き始めた。夜の見通し辛さは状況判断を鈍らせる。見えなかった、知らなかった、分からなかったは理由にならない


「…」


 肘より先を見つめる。先程とは違い魔力で腕を形作ることはできなかった


「…欠損は流石にね」


 無駄な挑戦をしている暇はない。ハーサバルに向けた走りに集中する前にキャリアーを飛ばし、その背中に少しばかり見送った


◆◇◆◇◆


『???』───遥か彼方を飛び去っていく伝書鳩を前にアノスは何を思ったのか立ち止まり、空を仰いだ


 先刻、無駄な挑戦をするには惜しい場面と自己に言い聞かせた手前、両の足で駈けるに慣れているとはいえ、距離のある道のりにとある最悪が思い出された


 同じ過ちを繰り返すにはあまりに苦い経験と対峙するため、今一度の反旗を翻すために魔力の集中に入った


「…」


 無意識に掲げた虚空の片手を起点に魔力が紡がれていく───『アノス・アーロン』が至った『至境魔術』


『不変の慈愛、宵闇に発つ蛮行

 しばしの別れを許したまへ』


『天翔る誓い』───人類最初の飛翔術式である


『手繰り至る楔の袂

 友に報いる天上への抜錨』


 森のざわめきと大地の讃歌、アーテルレストの時とは比べ物にならない程の光の粒子が湧き起こるとアノスに人ならざる形と翼を授けた


「『ルシフェル・スフィア』」


 咆哮と共に天に昇った光の柱は瞬く間に消えた


◆◇◆◇◆


 突風に揺れる雑木林はやがて凪いだ

 

 夜へと見送った

 白竜への見送りをやめるが如く

 静まり返ると少し先を見つめる


 星の合間を縫う様に泳ぐ

 白竜はやがて

 とある街へとその身を下ろした


◇◆◇◆◇


 この日この時、世界中の魔法使いが突如流れ込んでくる『飛翔術式』を前に頭を抱えた


『飛翔文明』の前兆、今まで空はモンスターの縄張りとなっていたが、これの発現により人類は躍進的な世界変革へと向かう


 一方でこの時はエーテル全盛期───魔力の最も純粋な形『自然の魔力』。それが主流のこの時代において、人間個人が有する魔力ではこれを行使するにはあまりに無謀だった


 膨大な魔力を常に捻出、放出しなければならなかったからだ


 それこそ『自然の魔力』を借りる他ない程に出鱈目な術式。それができる魔法使いがこの世界にどれ程存在するか


 これが人ひとりで賄える様に普及するのは数年後の物語となる

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