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◆◇◆◇◆


「アノス様」


「どうしたリリアナ」


「お渡ししたいものが」


 作戦開始前、作戦地点への移動中にリリアナが手渡してきたものに目を疑った


「あの黒装束が落としていったものです」


「…」


『海に見立てた波打つ線と魚影とその主が彫られている指輪』───ハーサバル家の紋章の入った指輪だ。これが意味するところは


「…」


「今回の騒動、ハーサバルが

 起こしたことでしょうか」


「まだ断定はできない」


 アーバレスト領での一件で僕自身が行った『代弁者』の悪用も考えられる。指輪を保有していた者が不幸に見舞われた、もしくは紛失した場合も考えられる。軽率な判断はかえって事態を悪化させかねない


 今できることは、偽物ではないことの証明だけだった。取り敢えず『魔力鑑定』『鑑定』で確認する


『魔力鑑定』───この手の指輪を含む、魔力を持っている『魔道具』には術式並びに魔力が充填されていることが多い、そうでなければ形だけ似せ、犯罪に利用されかねないからである。副次効果として『状態』の確認もできる


 どうにも偽物ではないことが分かった


『鑑定』───紋入りの指輪は魔力以外にも職人が丁寧に仕上げた紋様が彫られる、偽装防止の一貫として用いられる『職人技』である


 ひとつひとつ、丁寧に彫られた完全受注生産物。個数を管理されたオーダーメイド商品。斥候の時に得た知識を活かして確認して見たものの偽物らしき痕跡は発見できなかった


「偽物ではないか…」


「如何いたしましょう」


「不届者がいたら拘束しろ

 幸い、手は足りている。頼んだ」


「…分かりました」


 ハーサバル・グレイ、何を企んでいる。しかし、証拠がなければ有耶無耶にされかねないだろう。今はフルプレートを睨みつけるしかできないのが歯痒いところだ


◆◇◆◇◆


「アノスさんはなんて?」


「確たる証拠が出るまで傍観する様にと」


「そんな!フラワーライトさんが!」


「分かっています。ですが

 今問い詰めたところで

 シラを切られるだけです」


『煙に巻かれる』───今は目の前のこととに注力しつつ、いつ来るか分からない襲撃に後手に回らざるを得ない状況、状況が複雑化すると盤面を叩き割りたくなる


 拘束しろだなんて、戦闘が始まればそんな余裕なんて


「手は足りている…」


「リリアナ?」


「シルビア、アレを、備えますよ」


「!はい」


 冒険者を襲った刺客が誰であれ、その刺客が本性を出さなければ問い詰められない。しかし、その本性を出した時には毒牙がすぐそこまで迫っている可能性が高い


 如何に事態に気付けたとて、毒牙の届く距離を瞬きの間に詰めるなんてことは人の技ではない。理想を突き詰め現実を疎かにするのは愚の骨頂


 ならばどうするか、お膳立てはされている。ならば態々匙を伸ばすこともなし


◆◇◆◇◆


「(あぁ、憎らしい

 悍ましい腹立たしいです)」


 刺されたところがまだ痛むです。消えても痛む、あぁ、どうすればあの冒険者どもに目にもの見せられるか


「(あぁ、この漁獲祭

 これが嫌で嫌でたまらないのです)」


 我が物顔で闊歩する冒険者とそれを肯定する民衆、あぁ悍ましい。潰せど潰せど湧いてくる虫の様だ


「(何故闇を晴らすのです)」


 私たちは共存できていたと言うのに


「(…私達はまだ共存できる)」


 そうだ、そうだ、そうだ、そうだ。まだ道は完全には分かたれてはいない。好機を待とう次期にあいつらも海に出る。そうすればきっと『この子』も答えてくれる筈


「(です)」


 本来なら誘い出すのが手間です。が不幸中の幸い、漁獲祭であるならそれは容易、一網打尽です。あぁ落ち着いてきたです


「(さぁおいで)」


◇◆◇◆◇


 暗い暗い海の奥深くで陽の光が霞む深海の隅に漂う紅の靄、辿ればそのもと、モツにまみれた遊泳漁の剥き出した口元にあり


◾️()ランド◾️()◾️()ットン』


 ギラついたまなこが射殺すのは『漂う藻屑』と『水面を照らす陽光』に『冒険者の船舶の陰』ばかりだった

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