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◆◇◆◇◆
「アノス様、時間です」
「…そんなに寝てたのか」
ちょっとした休憩のつもりが深い休息をとってしまっていたようでリリアナに声を掛けてもらって漸く起きたことに少し驚く
「アノスさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
宿屋の外で合流したシルビアに心配されたが寧ろ、身体の疲労は完全に抜けきっていた。夕方の日差しが部屋の中を覗きに来る時間帯、寒さ対策にコートを羽織り海岸に歩いて向かい始めた
◆◇◆◇◆
「アノスさん」
「アノス殿」
「ゴウマンさん、レイアさん
こんばんは」
海岸に着き、見知った顔に挨拶をすると『丁度』作戦指揮者が登壇した
「冒険者の皆さん、緊急依頼に
お集まり頂き感謝致します
ハーサバル領域主の
ハーサバル・グレイです」
凄まじい魔力放出を伴って現れた王子はフルプレート───頭を含む全身を鎧で着込んだ姿。で現れると、これまた凄まじい声量で名乗った
「元気そうで良かった」
「?」
ふと聞こえた。歓声に混じって聞こえた声に振り返るとそこには女性が立っていた。どっしりとした体型に服装からして『解体屋』だろうか
「すみません」
「はい?」
「私錫等級冒険者のアノスと申します」
「私はゼニス、しがない解体屋だよ」
「ゼニスさん、先程
王子が元気そうだ、と言ってましたが
どういうことでしょうか?」
「あ、口に出てた?」
◆◇◆◇◆
ゼニスは頭を掻く仕草をした
「グレイ様はね、領域主を継いでから
体調を崩されていたんだよ」
「体調を…」
「そう、以前から様子が優れないのか
心ここに在らずと言った様子はあって
海の方を眺めては
ため息ばかりついていたんだ」
「なるほど」
「でもあの調子じゃあ
私の思い過ごしだったみたいだね」
どこか悲しげにグレイを眺めるゼニスは心配だけには感じられない視線をグレイに掛けていた
「失礼ですが、ハーサバル領主とのご関係は?」
「…」
「少し気になって、不快に思われたのであれば
謝罪を」
「いいんだよ、そんなんじゃないから
以前に一度話したことがあってね
ただ」
「ただ?」
「グレイ様は」
ゼニスは悲しみ混じりの笑顔を作るとグレイを眺めていった
「強いお方さ、優しいお方なのに」
「…」
『暗雲』───言い切ることができない言葉を濁していった。『強い』と『優しい』一見似ているようで違う人柄、一体何を濁したのか、とても聞ける雰囲気ではなくなっていた
◆◇◆◇◆
「アノス殿、どちらに?」
「少し、気になることがありまして」
「さてはまた、何かに気がつかれましたか?」
「いえ、それより先ずは」
グレイが演説を終えると漁獲祭の開始の挨拶が終わる。がその前に一拍おいてグレイが再び話し始めた
「今回の漁獲祭は例年と比べ
やや遅咲きとなっていることは
知ってのこと、だろう」
そこに触れるのかとどよめく中、もうひとりが登壇すると、皆が息を呑んだ───ジルバレー・フラワーライトが壇上に上がった
「ジルバレー・フラワーライト皇女殿下が
本漁獲祭の視察に来られている」
「ジルバレー・フラワーライトです
今回は漁獲祭の開催を調整いただき
感謝致します」
懐疑的だった空気が一変した。まさに鶴の一声というに相応しい『嘘』───時間のズレの前段階【Suspend】を目撃している手前混乱を鎮める方便
「さて、残る問題はあの獲物だな」
「ですな」
「ですね」
◆◇◆◇◆
「…」
私には告げられなかった未来───大陸全土の防衛は【天啓】により大きく支えられている事実を前に『告げられなかった』というのは『それだけで』大きな障害に変わってしまう
疑いもしなかった【スキル】への疑念、不完全かも知れないという事実。だからこそ必要となるのは確かな実績と実力を持つ人材、後手に回ろうと挽回できる盤面
「(直接戦闘においてはやや劣りますが)」
『変幻自在』アノス・アーロン
『一騎当千』ルパード・Y・レイア
幸い優秀な方が私にはついてきてくださっています。特にアノス・アーロンは尖兵でありながら通信兵としての役割も担えるとか、まさに変幻自在
ルパード・Y・レイアもまた戦場における武力において無類の強さを発揮して下さるでしょう
「(問題があるとすれば)」
ハーサバル・グレイ───貴方はこの漁獲祭にあまり乗り気ではないことを領民に吐露していたと聞きます。普段ならこの時期は自室に籠られていると聞いていましたのに
それに誇示するように放ち続けている魔力は一体。何故今回に限って参加をしようなどとお思いになったのかしら不気味なことこの上ないわ
「ジルバレー皇女殿下?」
「どうされましたか?」
「いえ(凄い睨まれてた気がしたんだけど)」
この漁獲祭の内にでもその化けの皮を剥いでやりますわ




