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僕は兵士の突進に身構えた
盾に隠れた兵士の次なる行動は未知数だ。突進してくるか、直前で攻撃に切り替えるのか
答えは後者だった───盾の構えが解かれるや否や振り上げた片手斧が僕に目掛けて振り下ろされる
僕は剣先で斧の一撃を捉え、剣先を流して斧の軌道を僅かに逸らした
◆◇◆◇◆
「…」
まるで実力を計っているような立ち回りだと思った。打ち込む一撃が簡単に合わされ、その度にガラ空きになった肢体に鞘が当てられる
これが真剣でのやり取りだったら今頃は血の海の上で絶命していたに違いない。悔しくも洗練された動きに最早戦う意志を削がれる始末だ
「六花の魔法使いがそばに置くわけだ」
誰にいうでもなくそう呟いた直後、振り上げられた両腕の隙間を縫って両首に鞘を当てられた
◆◇◆◇◆
「似てる」
『対人剣』───混沌の時代の剣術。化け物にではなく人に向けられた剣。暴徒とかした民衆を治めるためか、はたまた見せしめにするためかはともかくとして
相手の挙動に合わせ、起こりを崩すもしくは否すことで制圧する『防の剣』と急所を潰すもしくは抵抗する力を奪うことで制圧する『攻の剣』に大きく分類される剣術
殺人剣とも呼ばれるその大きな特徴は化け物に対抗するための一撃を重視した物とは違い、適当な力で効率よく制圧するための言わば抑止力としての剣
「アーロン家はそんな物を教えてるの?」
私は訝しんだ。現領主の臆病者が我が子にそんな物を教えるわけがない。牙を抜き、首輪をつけるまで安心しない様な男が牙を抜かずに、あまつさえ研ぐなどと
「アノス、何処でそんな剣を」
私は前から感じてた違和感が他者を通してわかった時、アノスが私の知るアノスではないのではないかと邪推してしまった
それでも確かなのは『鞘付き』でそれを使ったことだ、あの男が先ずしない戦い方だ。アノスのアノスらしさが感じられる点に少しばかりの安堵感を感じた
◆◇◆◇◆
「不思議だ」
身体が思った様に動く、全身を糸で操っている様にしたいこと、やりたいことを操作できる感覚だ
『アーロンの剣』は一撃を重視し、武具の破壊すら厭わない勇猛果敢を具象化した剣術で僕が父上から習った剣術なのだが
僕が使った剣はなんだ?何故鞘をつけた?薙ぎ払うべく振り絞る横剣は?滝すら打ち返す昇剣は?巨岩をも打ち崩す降剣は?空すら穿つ牙剣は?
「素晴らしい剣術でした」
「あ、ありがとうございます」
否定されている気分だ。僕が積み上げたこれまでが僕の知らないこれからに踏み躙られる不快感が僕にまとわりついて離れないのが分かる
『でもこれで認められるなら』
「必ずクラウンスパイダーを倒しますので」
受け入れた方がいいんだろう