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「暇ですね」
「暇だね」
馬車に揺られるアノスとリリアナはこれ幸いとばかりにだらけ切っていた。ふざけているわけではなく暇な時こそ、休息を取るべきと『アーロン』の教えである。のだが如何せん側から見れば退屈に身を流す怠惰そのものに見えること間違いなしな様子だった
ハーサバル領までは実に『残り25』と言った距離であり、出発した彼らの張り詰めていたであろう緊張の糸が解れるのも無理はなかった
「ゴートン様はどうされてますかね」
「ティナはどうしてるんだろう」
やっぱりだらけているだけかもしれない
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『現在』───目指しているハーサバルは海沿いにある領域である。化け物の領域と人間領域の境目、その一角にある海を通らなければ双方干渉のできない中立領域を持つ謂わば最前線。しかし流れが早く生身で入れば無事では済まない故『攻めるは難し、守るは易し』と言われている
「なるほどです」
「シルビア殿は勉強熱心ですね」
「情報は武器ですから」
「教え甲斐があるわ」
5日によりシルビアはフラワーライトとレイアと仲良くなり、崩れた雰囲気を醸し出していた。初めこそガチガチであったシルビアもあれこれ質問できるほどにはこの空間に馴染んでいた
「それにしてもリリアナとアノスさんは」
窓の布をずらし、シルビアは二人を見ると大凡真面目とは言えない姿勢をとり、空を仰ぎ見ていた
「凄くだらけてる」
「そう見えますが」
『殺気』───レイアが使う『タウント』。対象に具体的な攻撃の意識を飛ばすことで注意を引く、怯ませる、反応させる技
アノスは外套を構え、糸に魔力を込め、殺気に対し俊敏な反応を見せた。リリアナは手綱を捌き暴れようとする馬の制御を早々に終えた
「やはり、警戒は常にされておりますね」
「何なんでしょうか」
「頼もしいことですね」
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何度目かの夜を迎える
「【エレメント】」
アノスは警戒のために糸を張り巡らせ座ったまま眠りについた。リリアナも同様に手綱を構えて眠った
焚き火を囲むレイア、シルビアは慣れた様子で野営の準備を始めると5日目も何事もなく朝を迎えることになった
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「ハーサバルは何が名産なんですか?」
「魚介類もそうだけど
一番は貴金属かな、少量だけど
確実に手に入るんだ」
「意外ですね」
「後はモンスター由来の海産素材
アクセサリーの類も名産だったかな」
警戒に見えない警戒をしながらハーサバルへの旅路を進むアノスとフラワーライトの一行だった
◇◆◇◆◇
『殺気』『索敵』『予知』の三拍子により
モンスターがやってくるわけもなく




