61
◆◇◆◇◆
『…ん?」
起き上がるとそこは見覚えのない部屋だった。知らない天井、身体を見るに誰かが手当てをしてくれたのだろう包帯のキッチリした状態が見て取れた
「…」
片腕はなくなっていた。地上に向けて放たせるために『回避』を捨てた全力の『身体操作』───半身を失う覚悟で放った代償が片腕なのはいいことだ
「ゴートンに報告を」
立ちあがろうとするもフラフラと倒れ込んでしまう。視界の曇り、平衡感覚の消失、上がるのが早い呼吸、貧血だろう
止血するまでにかなり流したから仕方ないか
『コンコン』───誰かがノックをすると中にいる僕の返事を待たずに入ってきた。入ってきたのはフランさんで彼女は僕を見るなり固まった
「おはようございます、フラン…」
「…」
僕の言葉を待たずしてフランさんは僕を締め上げた。両腕で力一杯、振り解こうとした矢先に離れ、涙を流しながらフランさんは「よかったぁ〜」と大声で泣き始めた
昏睡状態で7日目とのことだった
◆◇◆◇◆
「申し訳ございません」
「いえいえ」
『エレメンタル鉱石』───装飾品に使用されている『これ』に許す限りの魔力を込めた場合、領域に存在する町をひとつ丸ごと飲み込める暴走を発生させることができる
これを使うとは『自爆』を前提とした任務の遂行。あの文面であれば『恨まれて』当然だろう
「アーバレスト領は問題なく
復興を始めております」
「よかった」
◆◇◆◇◆
「迷宮の発生箇所は」
耳を疑いたくなる報告を受けた。冒険者の方々が町の中で発生した迷宮を外側から破壊したであろう痕跡。壊せたからいいものを今回、その迷宮を破壊せずに放置し、今回の事態が起こした戦犯がいる
「それは黒龍が丁度
寝床にしていたところですね」
近場にいて何故、アノスさんを援護しなかったのか『ブランドー』罪人は黙秘を続けているが現場証拠から今回の事態を招いたのは領域主である『ブランドー』自身であることは明らかだった。大罪人として処罰が降るのは時間の問題だろう
奉仕人から隙を見てアーテルレストを撃退、名誉を回復させる算段だったことは聴取済み
「以上です」
「概ね一致しますね」
現地で活動をしていたアノスさんの証言と町の状況は一致した。後は
「アノスさん」
「はい?」
◆◇◆◇◆
「こちらです」
「…!?」
僕は目を疑った。黒龍は光の粒子になって全て光の粒子に変わった筈なのに目の前には『黒龍アーテルレスト』の生首が転がっていた
「これは…」
「アーテルレストの首です」
見れば分かるけど、何故こんなものが残っているのか不思議でならない
「僕はこの目で黒龍が消えるのを見たんです」
「疑うつもりは微塵もありません
ですがこれもまた事実とだけ」
今にも動き出しそうな質感のそれを前に息が詰まる。これ程───『黒龍の息吹』1発分の魔力を有している。今にも動き出しそうで恐ろしい
「どうにかできませんか?」
「どうにか?って」
「こちらは魔力が残っており
私たちではどうにもできないんです」
「なるほど」
生首になっても龍種は龍種、見に纏った魔力で防御は鉄壁だということか
「【デバッグ】【エレメント】」
僕は生首に向かって【エレメント】を使った
◇◆◇◆◇
『報告』
『黒龍』の【バグ】を『修正完了』
『星の夢』より『受諾』
『星獣』の『再誕』には『1年』が『必要』
【円環】を『エレメンタルの鉱石』に『付与』
『黒龍』が『再誕』『成龍』になるまで
『淀み』の『解消』
『推奨』
『迷宮』を『破壊』
◆◇◆◇◆
「何ですか!?その魔法」
「後で追って報告します」
アーテルレストは化け物ではなくモンスターだった?それに『淀み』?何もかも分からないことだらけだ
黒龍の首に触れてみる。危険性はもうなかった
「…分かりました。黒龍の解体後
お伺いします」
◆◇◆◇◆
アーバレストの冒険者ギルドで僕を出迎えたのはお酒のむせ返る匂いだった
「アノスさん!よくぞご無事でぇはは!」
「アンデッドの群れが突如として
消えたからもしやとは思ったが」
「大魔法使いアノス様〜」
酔っ払いと吟遊詩人が飲めや歌えや大騒ぎをしていた。その一方で怪我を負った負傷者の姿も目立つ、どれも致命傷ではないものの跡が残るだろう
それでもアーバレストの厄災を終わらせることができて一安心だ
「アノス様?」
達成感に満ち溢れた冒険者の面々の中で聞こえた声に見渡す。冒険者たちのお祭り騒ぎの中でも鮮明に聞き取れたその声は
「リリアナ?どうしてここに
それにシルビアさんも」
『カクテルパーティ効果』───真っ黒の外套を身につけたメイドのリリアナとシルビアさんがギルドの卓から立ち上がったのが見えた
宴会場をひとっ飛びしたリリアナが僕に目掛けて落下してきた。両手で受け止めるつもりが片腕がないことを忘れており真正面からリリアナを受け止めることになった
「アノス様、アノス様!申し訳ございません」
「???」
「お疲れ様でした。アノスさん」
「シルビアさんも」
◆◇◆◇◆
「影の様な人?それが今回の黒幕?」
「はい、ラントさんに
リリアナも一緒に戦いました」
現場に残されていた生首。『黒龍』を始めに倒したのはそいつだろう。恐らく【バグ】と呼ばれる奴だ。そんな奴が黒龍との戦いに介入してきたかも知れないと考えると恐ろしい
「シルビアさん、リリアナ
ありがとう」
泣き続けるリリアナとシルビアさんにお礼を言った。ラントさんにも会いに行かなければいけないな
◆◇◆◇◆
それから向かったのは病院だ。受付を済ませ、病室へと入るとそこには両手を包帯巻きにしたラントさんの姿があった。傍ではロンさんがラントさんの身の回りの世話をしていた
「お久しぶりです。ラントさん」
「おう、アノス元気そうだな『お互い』」
「…そうですね」
◆◇◆◇◆
「アーテルレストっていう
大物を倒したんだって?」
「そうですね。ですが
あれは本当の黒龍ではなかったんだと
思います」
「そうかい」
『ロールバック』──────星の夢と『定命の世界』において発生した『不具合』『情報の欠落』を『修正』するために発生する【◾️◾️◾️】。物理現象
急拵えで設けられた席に他人が座った言わば『操り人形』、【不完全】ではなく『完全』だったら『黒龍アーテルレスト』だったら確実に負けていた
愚策を3回も使ってそれに尚も引っ掛かるのは『化け物』に成り下がっていたからだろう
「ま、だとしても黒龍を倒したのには
変わりがねぇ、それで何だ
お見舞いだけって面じゃないな」
「お見舞いが主な目的で」
だからこそそんなことをやらかしてくれやがった。その『人影』に腹が立って仕方がない
「…」
「人影についてお話を聞きたいなと」
◆◇◆◇◆
「僕と同じ剣術」
「あぁ、ロンが話してた
お前の剣術と似てたんでな
多分間違えない」
でも僕とゴートン、父上以外にアーロンの剣を使う人なんて見たことがない
「まさに『天井天蓋』って感じだ」
「そこまで強いんですか?」
『天井天蓋』───上にいて蓋の様に君臨する極地の者を指す言葉
「槍の極意を剣で再現する出鱈目っぷりだ
逆立ちしても勝てる気がしなかったよ
何で生きてるのかが不思議だよ」
「剣で槍の極意を」
なるほど、確かに天井天蓋に相応しい実力だと思う。故に解せないことがある。何故世界を壊そうとするのか
「っとすまない、食事の時間だ」
「いえ、色々聞けて良かったです」
僕は病院を後にした
◆◇◆◇◆
「新たな戦の神を讃えよう」
病院を出るとそこに吟遊詩人がいた。リュートを片手に誰かしらの英雄譚や世界情勢、各領域での噂話をしてくれる人だ
「戦の神か」
「そこ行く人」
『アノス・アーロン君』
「!?」
聞き覚えのある声に急いで吟遊詩人の方を見ると
『ちょっと話そうよ』
「戦の神の話を聞かないかい?」
吟遊詩人の肩に肘を置きこちらを笑って見ているスーツ姿の『あいつ』がいた
「…」
「?」
『まぁ座りなよ、彼の歌は最高だよ
僕の一員に入れたいくらいはね』
「今手持ちが少ないけどいいかな?」
「勿論さ」




