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◆◇◆◇◆


「民間人の避難終わりました」


「分かりました。伝書を飛ばします

 その間に全部隊退避を」


『キャリー』の魔法を無数に放つフラン


「アノスって奴にだけ任せていいんですか?」


「そうだ、俺らも行けば…」


「それはいけません」


 毅然と言い放つフランの背中は確固たる意思を持ちa・c部隊に有無を言わせない気迫を放っていた


◆◇◆◇◆


「それはいけません」


 アーテルレストに殆ど単騎で挑むという暴挙───アノスさんが提案してきた無謀とも言える作戦、それでも実行せざるを得ない理由。アーテルレストが放つ『黒龍の息吹』───破城の一撃でさえ瓦礫などの破壊跡が残るもの、あの息吹にはそれすら無く、防御を容易く貫くという


 とあればbを覗く生存と攻略に重点を置いた前衛で構成されたa部隊、その多くが前衛で盾をになっていた元冒険者、金等級c部隊では足手纏いとなる


「撤退準備を」


 これは撤退戦だ。少を切り捨て多を救う、これが最も被害の出ない撤退の選択で最良の選択


「d部隊とアノスさんに任せ

 戦線を放棄します」


「…」

 

 分かっています。皆さんの気持ちは


 F級に挑むには明らかに少ない戦力。まるで捨て石、私を蔑むのであれば幾らでも───私はアノスさんが提示した選択に乗っただけ…私は悪くない


「受付嬢ちゃん」


「フランちゃん」


 それがたとえ、無謀だったとしても。アノスさんが帰ってこなかったとしても。『家紋入りの指輪』を名前しか知らされていない誰かに返すことになっても。あの人の自業自得


「なん、ですか」


 脳裏に残るのは届いた手紙の内容


『エレメンタル鉱石の使用を前提とした作戦』


「なん、なんですか!あの人は!!」


 いつもと変わらない文体で書かれた手紙


『許可をお願いします』


 一切の躊躇いすらないことが嫌だった。返事の感触が手のひらにまだ残って離れないのが悔しくて嫌だった。今も目からこぼれ落ちる雫も、大っ嫌いだ


「うぅう…」


 堰き止めていた涙に歯止めが効かなくなって皆がいる前で泣き崩れてしまった


◆◇◆◇◆


「…」


 伝書に残る涙の後と僕への恨み言の数々がいくら何でも送り過ぎじゃないかという量がこちら目掛けて飛んできている


 アーテルレストを打倒できなければ来世にも恨み言を吐かれそうだ


「形式は守った」


 ティナに言われた通り、報告もしたし、人払いはフランさんが終わらせただろう。あとは僕がやり切れば全て丸く収まる


「倒せるかな…」


 独り言が増えてきたな、隣にティナがいた時が遠い昔のように思える。考え事に雑念が混じるのを感じる


「はぁ〜」


 吐く息が白くなる寒空に雲のかかる今日この頃


「…」


 僕は黒龍への攻撃を開始した


◆◇◆◇◆


『同時刻』───リリアナとシルビア


 何でこんなところに人影が?逃げ遅れた民間人だろうか、商業区画の一本通りでそれを見かけた


「ここは危険です。早く逃げて…」


 駆け出した自分の首に掛かる剣、それが瞬間、自分の首を掠めた


「え?あ、なんで」


 続く衝撃音が2回、気がつけば人影との距離が開いていた


「シルビア、警戒して下さい

 アレは民間人ではないです」


 首の圧迫感が消えて漸く理解するのは無傷な理由、リリアナが自分の襟を掴んで引っ張ってくれたからだった


「貴方は誰ですか?」


「◾️◾️◾️」


 リリアナの問いにあからさまな返事が聞こえるも、その内容までは聞き取れない、言葉を話しているはずなのに目の前の人のことが分からない


『不気味』───命を奪うことに何の葛藤もなく、躊躇なく斬りかかって来た。理由のない殺人───化け物そのものの挙動は出鱈目の中にある規則性を自分達に見せた


「アレはアーロンの剣…」


「アノスさんの…」


 人型の化け物はアノスさんと同じ剣術を使って自分を殺そうとして来たことを理解すると僅かに生じていた恐怖を飲み込む怒りが込み上げて来た


「何か向かっ腹が立ちます」


「奇遇ですね、私もです」


 リリアナの隣に立ち、杖を殺人鬼に向けて杖を構える


「◾️◾️◾️?」


「何を言ってるのか、全然分かりません」


◆◇◆◇◆

 

『キャリアー』───町に響き渡る黒龍の咆哮が朝空を夜に染め続ける中、恐れを知らない空飛ぶ書簡がその合間を縫って黒龍へと特攻を続ける


 朝日が町を見下ろす日時───突如出現した魔法陣が瞬く間に町の半分を飲み込むとその内側から無数の伝書鳩が空に向かって羽ばたき、黒龍を中心とする扇範囲による、円周から黒龍に向かっての一斉突撃


 黒龍は【円環】の『凝縮』を始める。口を開き、凝縮した円環に指向性を持たせて放った


『黒龍の息吹』───黒龍が咆哮と同時に放った一撃は空を覆い尽くし、空を飛ぶ悉くを夜の星へと還し夜空で空を覆い尽くし続ける


 今も続く伝書鳩の特攻、それに気を取られる黒龍は自分を目掛けて駆け込んでくる少年に気がつくことはなく、その身に致命打を受けることになった


◆◇◆◇◆


「…」


『牙◾️・翔』───狙い澄ました一槍と踏み込みを乗せた瞬きの間をも許さない一撃が飛翔すると同時に黒龍の無防備に晒された逆鱗───首元の最も柔らかい鱗のある位置に深々と突き刺さった


「…ッ」


『横◾️・舞』───黒龍に狙い定めた斧による3連撃。槍を押し込む形で放たれたそれは最初の勢いに勝ることはなく、僅かに食い込みを押し進めるも弾き返され、アノスを地面に転がした


「…!?」


 黒龍は滴り続ける血液を踏みつけると無茶苦茶な角度でアノス目掛けて『黒龍の息吹』を構えたが


『魔法陣』を記した黒龍宛の書簡、書簡に戻ると同時に記されている魔法陣が発動する───『キャリアー』が黒龍に触れた瞬間、大爆発を起こす結果を起こした


 大爆発の勢いに体制が崩れ『黒龍の息吹』は地面に向かって放たれ霧散し、事なきを得た


「痛みを感じないのか!?」


 アノスは黒龍の常識外れの挙動に驚嘆しつつ距離を取って魔法主体に立ち回りを変更した。『キャリアー』による陽動、牽制は思った以上に機能したのは良い収穫だった


 しかし、それは同時に『それだけ』の効果に留まることを意味する───書簡に纏められ、尚且つ『キャリアー』の魔法の発動を阻害しない魔力しか込められない以上『その程度』の威力しか出ない


「『ファイヤボール』」


 加えて僕の使える魔法はたかが知れている。【エレメント】による『強化』を持ってしてもティナには遠く及ばない。精々が龍鱗をやや焦がす程度だ


「…」


 長期戦を覚悟しなければならない状況。僕は苦肉の策として、閑散とした商業区画の食料に手をつけることも視野に入れなければいけないことに苦い気持ちになった


「退いてくれると良いんだけど」


 僕は改めて魔力の集中を始めた

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