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「…」
アレは不味い。アンブラ・ディアボリカとはまた違った最悪を見た
アーテルレストを間近で見て分かった。アレは【赤龍の息吹】や【氷龍の息吹】とは次元が違うことを読み解いた
【息吹】には違いない。違いないが明らかに他の龍が放つ【息吹】とは何かが決定的に違う
『アレは防げない』
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区画間を分け隔てるのは石煉瓦積み上がる強固な城壁、領域確保依頼それが化け物に壊されることはなかった
石煉瓦と言えどそれらの多くは『付与』の施された特別仕様のため、見た目こそ貧相ながらもその耐久性は『マグナス』が保証する
耐震性、耐突性、耐打性、耐斬性など大凡物理的干渉を防ぐ、それに今大穴が空き、夕焼けを満たす空が一部夜へとなった
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伝書があのブレスに触れた瞬間───千切れた、切れた、燃えた、破れたとは訳が違う一切の抵抗をも許さない一撃が通り過ぎた。音すらもなしに
「はは…」
風に乗って舞い踊る伝書だったモノを前に思考が回り、辿り着いた答え───『消えた』だった
「躱してよかった」
アンブラ・ディアボリカでもそうだけど、防いだ相手を防御諸共確実に殺そうとする意地の悪さが感じられる
本当にいい性格をしていると思う
息吹が飛んでこないところを見ると他の【息吹】の様に再度打つのに時間を必要とすると見て間違いなさそうだ
音もなしに過ぎていく以上物陰諸共消されるだろうけど
「…」
もし【息吹】を受けたら、その部位はどうなるのか、できれば当たりたくはないが対策を講じることも考えなくてはいけない
「【エレメント】」
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夕焼け満たす空がブレスの影響もなしに夜を纏い始めると龍の吐息が城壁外の民衆にも聞こえ始め、重なる様に悲鳴や啜り泣き、嗚咽が上がり始める
誰も居ない街の中をアノスは歩き通し、決戦の準備を始めていた。町のあらゆるところに魔法陣を敷いていた
「…」
アノスは『伝書』を飛ばし、予定していた最後の魔法陣を敷き終えると片膝をついて夜空を見上げた
フランの一存で破棄となる作戦───寝る間も惜しんで設置する理由はそれだけ有用であり、生存率に直結するからだ
「『ヒートスタンス』」
寒さの強まるこの時期に対抗するべく魔法で暖をとる。未だ雪の降るほどの寒さがないながら、指先の感覚を奪うにあまりある寒さを前にアノスは朝を待った
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「なんで誰も頼ってくれないんでしょうか」
d部隊のシルビアは不満を吐露しながら歩き続けていた。閑散とした町は至る所に数刻前までは人の営みが感じられる部分が見て取れる
リリアナはそんなシルビアの後ろをついて歩く中で不満を漏らすシルビアに答えを返した
「アノスさんは
自分を信用していないんですかね」
「その逆だと思いますよシルビア」
「え?」
思ってもみない返答に足を止め振り返るシルビア、その視界に入るリリアナは首を傾げて言葉を続けた
「アノス様はああ見えて上下関係に対して
厳格な方です」
「であれば自分はもっと
頼られる筈では?」
「いえ、アーロン家の上の者は
個にして完成しております故
元来集団でことに当たりません
加えて申し上げるのであれば
上の者の指示を仰ぐのは最初のみ
肩を並べるなんてことは基本ありません」
「…じゃぁ、ラントさんは」
あまりに毅然とした物言いにシルビアは視線を逸らしつつ不満のもとであるラントの名前を口にした。リリアナは眉を顰めつつも自分の考えを言った
「私はそのラントという方を
あまり存じ上げませんが
見ていた限りでは実力不足のみを
引き合いに出していた訳ではない様に
見えましたよ」
「だったら何?味方を見殺しにでもしろって!?」
頭に血が上り続けるシルビアがリリアナの目の前まで歩くと睨みつける様に見上げた。リリアナはあっけらかんと答えた
「ラントという方もシルビアを
見殺しにできないと思っての発言かと」
「…あっそう!」
再びの図星に踵を返したシルビアは町の中心に向かって歩き始めた。リリアナもそれに続いて歩き始める
夜の暗闇に星が瞬きを見せる刻も過ぎ去りて、朝日昇る時、伝書鳩が数羽、町の中心目掛けて大空を泳ぐ様に羽ばたきを始めていた




