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避難活動が続く中、次の行動に向けフランは厳しい決断を三度迫られていた
黒龍アーテルレストの監視、戦況が整うまで、これを続けることができるものに頼まなければいけないという苦渋の決断を迫られていた
それは斥候はアノスに作戦を説明した上で『死地へ向かえ』と命令をすることであり、あまりにあまりな命令であることは明白だった
単独先行をしていたアノスにこれらを改めて背負わせるにはあまりに酷だとフランは考え、代替案をあれこれ考え、思い立ちながらもそれら代替案は時間的、人材的、資源的な問題により非現実的なモノと言ったものばかりだった
結局、フランはアノスの元へと向かわざるを得ず、おずおずとやってきたフランを見るや否やアノスは耳を傾けた
ことの経緯を伝えるとアノスは二つ返事で了承した。フランはそれに目を丸くして聞き返した
「いいんですか?」
「えぇ、問題ありません」
フランが軽視していたのは普段であればティナというストッパーがいるため依頼と私ごとを精査してくれていた。しかし、今のアノスは己で止まることを考慮できない。さながら暴走馬が如く
対外的に見れば問題ない様に見える。アノスの状態が詳細に理解できないフランはそんなことは梅雨知らず、頼んでしまった
その事態を直感的に感じていたフランは考え直し、声を掛けようとした時には既に遅く、そこにアノスの姿はなかった
「…私のバカァ!!」
1人取り残されたフランは地面に向かって叫ぶしかなかった
◆◇◆◇◆
「…」
好機と見るべきか、相手の力量を測るのにもってこいの機会を得た。黒龍アーテルレスト、F級に分類されるそいつは果たしてアンブラ・ディアボリカと比べて自分の手に負えるのか否か
叶うなら『バレリア』───ティナのお姉さんに『ブランドー』───ティナのお父さんの安否が気になって仕方がない
城内に閉じ込められている現状は龍ばかりが脅威となる訳ではない、化け物の発生源が不明な以上、城内に化け物が流れ込むかもしれない可能性も脅威となる
そうでなくても黒龍が占拠している以上は物資が有限であり、籠城が瓦解するのも時間の問題である
一刻でも早い解決が必要となる
「…」
しかし、それをするためには情報も手数も力も足りない恐れがある。いや、明らかに足りない。悪戯に刺激をすれば被害が出る。それは避けたい
「となれば」
乗り継いでいた屋根のひとつで立ち止まり件の黒龍アーテルレストを遠目に確認する。光を僅かに反射するばかりで『夜がそのまま龍となった』という逸話に相応しい漆黒の龍の鱗をしている
叶うならいつまでも眺めていたいもののそうは言ってられない。この距離なら問題はないだろう
「報告を…」
紙に目を落とした目の端で夜の内に生じた2つの月を捉えてしまった。嘘だと思いたい。恐る恐る視線を先行させ、顔を追わせた瞬間月の短い消失の後、僅かに揺れた
「『キャリアー』!」
紙を握り潰し空へ放る。あれはこちらを『認識』していた。一対の月が見定める先にあるのは僕だ
あり得ない訳ではない、跳ね動く僕は羽虫が如く目障りだろう。僕も視界を邪魔する虫や草木を払うことがある。それは当たり前の行動であり、不快であれば尚更のこと
飛び去る伝書に建物の陰に身を隠す僕。その直後
◇◆◇◆◇
空気さえ抉り取った【英雄の雲隠れ】
それは『黒龍アーテルレスト』に許された唯一の『◾️◾️』に対する【対策】である───如何に強固な防御を敷こうとも、障害を設けようとも、それら一切を『エーテルへと還元』する【円環】
その【円環】を『凝縮』し『放出』することが
◇◆◇◆◇
「黒龍の息吹…」
けたたましい咆哮の直後、夕焼けに敷かれた一線───光を飲み尽くす夜が大空を裂いて通った。橙色と漆黒のはっきりとした境目を前に
「お終いだ」
「アノスってやつが何かしたんだろ!」
「アーバレストは何をやってんだよ」
民衆は誰か、何かしらに責任を負わせなくては平静を保てなくなり───そんなものは焼け石に水、意味を成すことなく『発狂』は伝播した
フランもその状況に『半狂乱』となり呼吸が浅くなり、その場に膝をついて頭を抱えた
「フランちゃん!」
「フラン?」
「ラントさん、ロンさん」
「あの咆哮って」
膝から崩れたフランに急いで戻って駆け寄ったラントとロン。先ほど聞こえた咆哮と目に見えた変化である夜の出現にc部隊は表情を強張らせていた
その様子は『説明』を求める一心の表れだった
「アーテルレストが起きたんだと思います」
「起きたって、何だよ」
「おい、アノスは?」
「まさか?彼が」
「え、あ、それは…私が」
采配ミスが脳裏をよぎり、フランは後悔を吐露したのも束の間
「だったらなんだと言うんですか?」
苛立ちを見せるラントと半狂乱のフランの言葉を遮る様にやってきたd部隊が呆れた様子で割って入った
「フランさんこちらを『ジャスミンティー』です
ゆっくりとお召し上がりください」
周辺の介護へと迅速に移るリリアナ
「ラントさんお久しぶりです」
「…シルビア」
「アノスさんはどちらに?」
挨拶をそこそこにシルビアは苛立った様子を見せていた
「何をしに来た」
「仲間を助けにです」
「シルビアお前…」
「止めても無駄ですよ」
何か言おうとしたラントの言葉を遮りシルビアは続けた
「自分が頼られないのは慣れっこですから
勝手に考えて動きます」
踵を返したシルビアはラントに背を向けた
「仲間との約束ですし
何より蚊帳の外は癪です」
「物資はこちらに置いて行きます
鞄は後で取りにきますので」
d部隊の背中を見つめるc部隊は複雑な気持ちを握り締めた拳をそれぞれ竦んだ部位に叩きつけた
「何で、お前らは」
「お前ら、俺らはできることをするぞ」
「…あぁ」
後悔は数あれど立ち止まることは許されない。引退した『金等級』は後に続くモノを鼓舞する象徴。その活躍は必ずしも武による貢献に在らず
それでもラントは拳を改めて握り締めていた




