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◆◇◆◇◆


『修羅』───最早、人かどうかも怪しい佇まい、握り込んだモンスターの四肢を武器として扱い


 折れれば千切って、曲がれば千切って、なくなれば千切って、気がつけば化け物ばかりが残った


 姿勢は背筋を伸ばしきり曲げることを忘れ、膝を常に曲げ、倒れる様に踏み込み化け物を叩き伏せる。目は被った血肉の奥深くで虚空を見つめていた


 些か無理のある戦い方は中々どうして倫理に反していてなお理にかなっている戦い方をしていた


◆◇◆◇◆


 あれからどれだけ経ったのか分からなくなる。寝ているのか起きているのか定かではなくなり、ほとんど感覚で動いている


 目を開けているはずなのに真っ暗で

『このまま身を任せてみよう』と思えてくる


 脳裏に浮かぶのは横たわるティナの姿で後悔ばかりが湧き出てくる。『力に身を任せていれば起きなかった』かもと思えて仕方がない


 使い続けて壊れる手の中の得物を手放す。いや、落としてしまった───身体の限界を感じるより早く、僕の四肢は力をなくすと同時に折れ曲がり地面へと、身を投じた


◆◇◆◇◆


「アノス!しっかりしろアノス!」


「…え?」


 不意に声がし、地面との邂逅を果たす前に支えられた。記憶の片隅、聞き覚えのある声が僕の名前を呼んでいま。真っ暗だった世界から線が流れ込み、次に色がつき始めると降り頻る雨の中


「しっかりしろアノス!」


「ロンさん?」


 黒檀の装備に身を包み、胸元に金の装飾品をつけた大男のロンさんが僕を支えてくれていた


「アーバレストまで突っ込め!」


「押せ!」


 ロンさんの背後から様々な装備をつけた人たちが次々と前線に入っていくのを見届けつつ僕はロンさんに連れられ前線を離れた


◆◇◆◇◆


『報告書』


 作戦開始───簡易駐屯地設置。F迷宮対策本部設置完了。10名からなる1部隊が前線に配置、以降a部隊と呼称する。先行部隊aがB級迷宮を含む11個の迷宮を攻略に成功


 作戦開始より半日経過───当初予定されていた10名からなるのa部隊がこの時点で半壊、撤退を視野に入れた戦線へ移行。B級迷宮内の構造複雑化が原因と断定。斥候並びに薬師、調教師の導入による前線維持要員が必要かと思われる


 援軍到着───撤退準備中援軍到着。物資の補充により部隊回復。b部隊は非戦闘員で構成されたアーロン領所属の村民による援助。前線維持および進軍継続『回復』による強行によりB級迷宮の5個を攻略に成功


 作戦開始より1日経過───予定していなかったb部隊の到着により善戦するも『回復中毒』による『障害』を懸念し『戦略的撤退』へと移行


 作戦開始より1日とふた回り(2時間程度)───援軍到着、c部隊合流、並びに『中毒』を受けない『回復魔法の情報共有』を受け『夜戦』へ移行


 ロン、ラント含む12名で構成された『金等級援軍部隊』c部隊により作戦開始より3日───『単身先行工作員・斥候のアノス』と合流を果たし、アーバレスト領までの移動路の奪還に成功


 アーバレスト領近辺に簡易駐屯地移設、以降状況が動き次第追って戦況の報告を行う


◆◇◆◇◆


「『伝書鳩(キャリアー)』」


 不慣れな報告書を書き終え、ギルドマスターに届く様にと『キャリアー』を使い、椅子から立ち上がり衛生テントまで走り出しながら飛んでいって貰った


「アノスさん!」


 盾と杖の『赤印』のテントに到着すると同時にあの人の名前を呟く、慣れないことばかりの続く日々に不穏な空気が混じる中の一筋の希望を願うばかりに声を荒げてしまう。テントの入り口、視線を上げた先には手当を受けるあの人の姿があった


「フランさん」


 半身を濡れタオルで拭かれながら微笑むようにこちらに身体ごと視線を動かしたアノスさんが居た。赤黒い血を全身に纏っていたものの声で分かった


「ウッ…」


 あまりに重症な見た目に目の前が真っ暗になりました


「フランさん!?」


「失神してますね」


「だろうな」


◆◇◆◇◆


 フランが衛生テントに寝かされる傍らでアノスの処置が行われていた。処置といっても外傷は殆どなく感染症を防ぐために身体を清潔にされているだけだった


「脱げないだ?」


「僕もこれがなんなのか分からないんです」


 アノスの体を拭くべくロンは鎧を脱ぐように言うもアノス本人でさえ、鎧の脱ぎ方が分からないと言われ呆れていた。清潔な布を丹念に織り込んだ───タオルにお湯を染み込ませたもので仕方なく鎧を拭いていくと


 ボロボロと崩れていく鎧を摘み上げたロンは驚きを隠せなかった。それらは動物やモンスターの血肉の固まったものでありまだ熱を帯びていた。不気味と言わざるを得ない程圧縮硬化された代物なのにも関わらずだ


「どうしました?」とアノスが手の止まったロンを心配していた。思わずこのことを伝えそうになったロンだったが出そうになった言葉をグッと飲み込み平静を装うことにした


「にしても1年もしない間にこうも

 事件が重なるとな」


 薄紅色に変色したタオルを眺めながらロンはアノスに同情の疲れ笑いを漏らし、アノスはそれに釣られてわらった


「そうですね」


 そうして、アノスの身体は綺麗になったものの心臓のあたりにあるアザだけがどうしても治ることはなかった


◆◇◆◇◆


「すみません、アノスさん」


 程なくして起き上がったフランがアノスに頭を下げると挨拶を短めに切り上げ今後のことについて話を始めた


「現在アーバレスト領内では

 避難活動が続いています

 黒龍の巣がある工房区画を避け

 活動を続けています」


 現在アーバレスト領───領主の住まいを中心に栄えた構造の領域。中心から『ある程度離れた位置』にその巣はあるという。領域主は孤立、血縁者もまた同様の状態とあり不安は高まる一方とのこと


「ですが混乱によりこれが

 難航を見せているとのことです」


「できれば救いたいが

 俺たちがくたばったら元も子もないな」


「…」


 アノスは鞄の中から『箱』を取り出し、ひとつの決意を語った


◆◇◆◇◆


「それは…恐らく有効ですが」


「どこでそんなもの手に入れたんだよ」


「少し込み入った話がありまして」


 アノスは『指輪』をつけた。それは大きな問題となる火種であり、今最も力を発揮する指輪だ


「もしものことがあれば

 全面協力させていただきます」


 各々の覚悟が交錯する中、黒龍眠るアーバレスト領の撤退戦が始まろうとしていた

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