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◆◇◆◇◆


「ゴートン様」


「何だ、今は」


「アノス様がお越しになっています」


「今向かう」


 防衛戦中にそれは起こった


 兄さんが帰ってきた


 これほど喜ばしいことはない。アーロンの剣となるに相応しい戦力が加わるということはそれ即ち戦争の有利に立てるということ


 これが終わった暁には『あれ』を渡そう


 動かす足の速さに磨きがかかるのが分かる。大広間に続く階段まで角ひとつの所で歩きに移行し、兄さんを出迎える準備をして、いざ出迎えた時


 大広間に佇む血だらけの人型が兄さんと気づくのに秒とかからなかったものの、それを飲み込むのに思考が割かれた


 俺の予想とは全く違う兄さんがそこに座っていた。ぐったりとしているティナ・アーバレストを抱き抱えながら膝を折り、祈るような体制で


「兄さん?」


「ゴートン…」


 絞り出した俺の声と枯れている兄さんの声が混ざる。一体何があったというのだろうか


「兄さん、これは一体?」


「ゴートン、無理を通して頼みたいことがある」


「…」


 金の無心だろうか?いや、兄さんに限ってそんなことはない。犯罪を犯し命からがら逃げてきたから匿って欲しい?いや、兄さんに限ってそんなことはない


「内容次第かな」


 俺はそう言った。いくら血縁等の腹を割って話せる輩とて、無理難題を押し付けられてはたまったものではない───しかし、兄さんにならある程度の譲歩は視野に…


「ティナをここで診て上げて欲しい」


「ティナ・アーバレストの容態は?」


 何故今まで気がつかなかった。ティナ・アーバレストと兄さんから気配が全く感じない【極】【神剣使い】に限ってそんなことはない筈だ───これではまるで


「【不死】から回復したばかりなんだ」


「フシ?」


 兄さんの口から聞きなれない単語が飛んできた。フシとは何だろうか


「対価は?」


「…」


 聞きたいことが山ほどある。何故このタイミングで帰ってきたのか。不死とは何か。ここにはいつまでいられるのか


 ことと次第によっては枷を掛けて話を聞かなければ


「今起きてる未曾有の大災害の被害抑制

 迷宮の掃討、アーバレストへの援軍要請」


「…兄さん」


「うん」


 眉唾物ではないことが【スキル】で分かるがいくら強い兄さんとてこの被害規模をひとりで抑制する?しかも迷宮の掃討やアーバレストへの援軍なんて何処から


「期間は…」


「ゴートンが望むならいくらでも」


「…分かった」


◆◇◆◇◆


「…」


 あの後ティナは目を覚まさなかった。脈も体温も呼吸も正常なのに、目を覚まさなかった


 アーロン家の奉仕人に抱えられ僕の元から離れていくティナを眺めながら僕はゴートンからの指令を待つ、こんな僕でも剣として動けるのだから


「兄さ…アノス・アーロン」


「はっ」


 僕は差し出された『エレメント鉱石の装飾品』───見る角度、時間、環境によって色の変化する鉱石。今ならこれの意味が理解できる


 僕のカバンの中にも『同じ物』が入っている


「急ぎアンデッドの侵攻を迎撃

 問題の根を絶ってこい」


「はっ」


『エレメント鉱石の装飾品』───圧倒的な魔力保有量、絶望的な状況に置かれても尚その輝きは失われない。希望と絶望、生と死を体現する鉱石は送った相手に対し『死地送り』を言い渡すこと


 圧倒的な魔力を使用しての生還或いはそれを用いての共倒れ。『受けた側』は撤退を視野に入れない命令をされたことを意味する


 今はそれ程までに戦況が悪い


「…」


 ゴートンを背に僕はアーバレスト領に向けて『扉を開けた』


◆◇◆◇◆


「ティナ、アーバレストの剣が何故寝ている」


 執事に寝かされ、寝息すら聞こえないティナ・アーバレストを俺は叱責する。聞くものは眠り続け、誰にいうでも聞くこともない呟きが部屋に響き渡る


「紋入りの指輪はどうした

 銀の装飾品は?」


 何もない指、銅の装飾品に再び叱責する。返事は当然ない。期待していない。それに、それ以上に許せないのが


「何故兄さんをひとりにしているんだよ」


 目が熱い、頬が痒い。とめどなく溢れてくる涙を拭いとる


「何故兄さんが勤めを早々に終えて

 お前と2人で自由に暮らせばいいのに

 何で、何で戻ってきてるんだよ」


 自室にある『指輪入れ』───中には何もないそれは『追放』ではなく『解放』であり、紋入りの指輪を中に入れることで剣としての役目、筆としての役目、ひいては家のしがらみを返納することを意味する


 しかし、今はその逆『エレメントの装飾品』を渡している事実に俺は耐えられない


「何で、こんな、理不尽だ」


『剣として生き、剣として死ね』といったものであり、俺が忌み嫌う昔ながらの家の在り方、戦争のあり方をなぞっているのだ


 こんな最悪を何故、俺たちに背負わせる女神よ

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