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◆◇◆◇◆


「…」


 朝、ティナが何も言わずに出ていったのを知った。理由は冒険者ギルドに向かった時、空気が張りつめているのを感じた時に理解した


「どうしたんですか?」


「アノスさん」


 フランさんが険しい顔で僕を見た。僕に怒っているのかと考えたものの、違った


「実はアーバレスト領が」


◆◇◆◇◆


「…」


 何故相談してくれなかった?リリアナは何故何も言わない。僕はそこまで頼りがない存在だったのだろうか?


「なんなんだ」


 侵攻が産声を上げた。前に言われていた『領域侵攻』が本格的に表出化の兆候を見せ始めた


 僕は宿に向かい、シルビアさんに置き手紙をするとアーバレスト領に向かって走り出した。昨日の夜に宿屋をたったなら昼には追いつける


 馬車を使われても1便後でも十分に追いつける


「アノス様、どうしても行かれるんですか?」


 宿屋を出た矢先、リリアナに鞄を掴まれた


「うん、行くよ」


「どうしても、ですか」


「どうしてもだ」


「アノスさ…」


「…」


◆◇◆◇◆


 鞄越しに伝わる鋭い殺気にリリアナは素早く距離を取った、咄嗟の状況にリリアナは武器を抜かれたと錯覚し鞄から手を離した


 アノスは眼前の邪魔者を見つめた


「危険すぎる化け物が

 迷宮を溢れ、侵攻の準備を進めています」


「知ってる」


「新種の化け物だって」


「わかってる」


「黒龍アーテルレストが…」


「くどい!」


 リリアナが何とか止めようとするもアノスは繰り返される問答に対し、大声を上げ、それを一喝した


「領域が脅かされているのを

 ここで見過ごせと」


「…はい」


 普段のリリアナであれば元上司であり、師でもあるアノスの一喝に対し怯む所を歯茎から血が出るほどの力みで相殺し、返す言葉で反抗を示した


「何故」


「…」


「僕は行くよ」


「なりません!」


 リリアナが踵を返したアノスに向かい拳をあげる。しかし、アノスは外套でそれを流し、無防備にさらされた背中を押してリリアナをあしらった


「力任せは相変わらずか」


「っ!」


 転んだ状態から攻撃に転じるリリアナ───足払いを避けるべく飛び上がったアノスに対し昇拳による吹き飛ばしをはかった


 しかし、拳を起点に交わされ様、鞄による拘束を受ける。重量物───10を超える武具の数々の詰まった頑丈な鞄によりリリアナは地面に押し倒された


「不問だ、リバレーの宿で待て」


「…」


 拘束数秒、全身の力みが限界に達したあたりでアノスが拘束を解くと背中に鞄を戻した。アノスの考えは変わらなかった


 潰されたカエルのように空を仰ぎ見るリリアナは仕方なしと考えてながら身体はそれを容認することはなかった


「だめ、です」


◆◇◆◇◆


「…リリアナ」


 身体全体が痛いし、宿屋で休みたい、かつてないほどの重圧に逃げ出したい。でもゴートン様の命令だ。アノス様を守らなければ


「ダメです!!」


 命令だから?ティナ様にお願いされたから?いや、これは我儘だ。ここまでのことを考えるに黒龍にさえ単身で突っ込み押し返すだろう。その命を持って


「あぁあ!」


 握り込んだ拳───引絞るがこれは囮だ


「…」


 本命は『降脚』による『ブラックアウト』───アノス様の癖だ。相手の力量に合わせて御自分の実力を引き出される。私程度なら良くて2割!そこの隙を突く


 握り込んだ拳を放った時、手の甲が肉の感触を捉えた


「ッ!?」


 アノス様の手が拳を包んでいた。距離の縮まりにより脚での攻撃は勢いを伴わず、軽々と止められた。私は思考に僅かなズレを生じさせていると足払いによる2度目の敗北を受けた


「小手先の技術を使うなんてらしくない」


「… … …」


 敵わない。力量でも技量でも遠く及ばないなんて


「モンスターが増えた理由も不明

 化け物も跋扈している現状は見過ごせない」


 なんで?どうして?


「僕は先を急ぐからこの外套を預けとくよ

 住民に助けて貰うまで守って…」


「なんで?」


◆◇◆◇◆


「…」


 リリアナの目から大粒の涙がとめどなく溢れ始める。地面を背にして空を眺めながら両目を潰す勢いで涙を拭った


「なんでそこまで領域に

 身を捧げようとするんですか」


「…それは」


「あなたはもう領域主でも

 ましてやアーロンの剣でもありません!」


「わかってるよ」


「わかってない!全然

 これっぽっちも!!わかってない!!!」


 リリアナがやぶれかぶれの組みつきを行うも2度の敗北により身体は限界を超えてボロボロだった。それに拘束の能力は微塵もなかった


「離してリリアナ」


「離しません!」


「離せ」


「嫌だ!」


 アノスはこれを振り解こうか迷い始めていた。これ以上時間を無駄にすることもリリアナを介抱してあげられる時間的余裕がない


「嫌だ!死んでも離しません!」


◆◇◆◇◆


「リリアナ」


 ここまで感情的になれる子だったのか、初めて知った。アーロン家にいた時はここまで泣いたり、怒ったりする子ではなかったな


「リリアナ、僕は行くよ」


「アノスさ…」


「ティナのために行く」


「…」


「領域のためじゃない、僕の大切な

 仲間を助けるために行く」


 領域も大切だと思うけど、今はそれ以上にティナを助けたいという気持ちが強い。そして、何故僕に相談すらしてくれなかったのかも気になる


「…そこは恋人では?」


「突っ込みを入れるな」


◆◇◆◇◆


「それじゃあリリアナ、頼んだよ」


「この外套は…」


「後で返しに来て」


 今は時間がない


「増援の件、任されました」


「頼んだ」


 僕はありったけの『金銭』をリリアナに渡し走り出した


「『リープ』『フリート』」


 僕は『走行速度』を上げる魔法を使いしな街の外まで走り抜けた

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