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「…」
闘技場を後にした日の夜、僕は部屋で剣だったものを眺めながら落胆する。武器をダメにしてしまう戦い方は化け物との戦いにおいて致命的な隙になる
今回が対人であり、武器が剣に限定されていたことを差し引いても無茶を通したのはあまり良い選択ではなかったと反省をする
意地、けじめ、我儘を押し通した結果がこの様ではあまりに不甲斐ない、それは同様の状況になった時に同じ過ちを犯す可能性があるということを示している
とても褒められた行動とは言えない
「アノスさん?ご飯持ってきたよ」
「ありがとうございますシルビアさん」
「綺麗に粉々ね」
砕けた剣のかけらを袋に詰めているとティナが晩御飯を持ってきてくれた
「かなり使い倒してたからね」
「何か思い出が?」
「強いて言えば父上がくれた剣でしたね
今ではショートソードですが
これが中々取り回しが良かったもので」
「なるほど」
現在ティナとリリアナが何やら話すとのことで2部屋に分かれている。どうにも込み入った話の様で僕は元いた部屋を追い出されてしまった
「あれ?鞘と握りは続投?」
刀身のなくなった剣を鞘に納めた僕にシルビアさんが不思議そうに聞いてきた
「あ、鞘は鈍器に使えるので」
僕は鞘に刀身のない剣を当てる。それは刀身を守るため、果ては斬撃の効かない敵や大抵の敵に効果のある鈍器としての運用方法だ
かなり力を入れなければ抜剣はできず不意の盗難にも対応できる強固な鞘はそれだけで武器となる
「不思議な戦い方に装備ですね」
「あまりやってなかったんですが
これの有用性を知っていると
やめるにやめられなくなって」
◆◇◆◇◆
「アノスさん、剣を買い換える予定は
ありますか?」
「そうだね、不要な武具を売却して
盾と武器を補充しておきたいね」
「補充?」
「ロンさんに渡した盾の代わりと
剣が欲しいなと思いまして」
『蝙蝠洞窟』での一件を思い出しつつ、日課の手入れを始める
僕は独り言混じりに話しつつ鞄から槍を取り出し握り、柄、刀身を確認、清掃、磨きを行う。手入れは小まめにしておかなければ手が鈍ってしまう
ラントさんからあの後譲り受けた槍は珍しく『付与』が施されており手入れが簡単に済むのが便利だけどしないでいいわけではない
やり過ぎると劣化を招く、他の武装が3回手入れを受ける辺りで1回手入れをすれば事足りる位には汚れにくい
「え?どこから取り出した?」
「鞄からだけど」
「いや、大きさ全然合ってない…
もしかしてアーロン領の?」
「うん」
「あ〜うん、まぁ」
シルビアさんは何やらひとりで腑に落ちた様に数度頷くとそれ以上は何も言わなくなった
◆◇◆◇◆
弓や自動弓、斧などなど拾ったり、買ったり、作ったりで増えに増えた武具を取り出し手入れを行い、やや熱の冷めた料理を口に運び始める
「…アノスさんは武器をひとつに絞ろうとは
思わなかったんですか?」
広げられた武具を見てシルビアさんが半笑いで僕を見てきた
「急だね」
「あ、いえ、責めているとか
咎めているわけではなく素朴な疑問で」
「そうだね」
今まで疑問にも思っていなかったけど、確かに数ある武器の中でひとつに何故絞らなかったのか、効率や技の習得を前提としたならこれ程矛盾した戦い方はないだろう
「ひとつは手段を絞ると
対応できる戦局が限られることと
化け物に対して必要な技量は
そこまで必要ないからかな」
「?」
シルビアさんが納得いっていない様子だったので匙と肉叉を持って話を始める
「今回みたいな対人ならそれぞれの技量や
身体能力により勝敗が分かれるますね」
「そうだね」
「化け物には基本それがない
必要になっても生きてさえいれば
時間がそれを解決してくれる」
食事のひとつ、椀に入ったスープを肉叉で掬うも先の割れた肉叉では具材が拾えても肝心の液体が間から椀へと返っていく
「… … …」
「だったら広く浅く適した武装を
使いこなせれば問題ないわけって感じ」
僕は匙に持ち替えスープを掬う。具材であるミンチ肉や細切れ野菜と液体を掬うことができた。肉叉でも問題ないものの僕にとっては匙がスープ用の食器だと感じるため、そのまま食べ進める
「何というか、変わってますね」
「そうかな?」
「そうですよ」
相変わらず呆れた様子を見せていた
◇◆◇◆◇
「アーバレスト領が
フォードにより警戒体制!?」
「はい」
隣の部屋───そこではアーロン領での密命と周辺領域の報告が行われていた
「発見の遅れた迷宮からフォード発生
溢れ出した化け物が発生直後の
迷宮にまで入り、勢力を拡大中とのことです」
「冗談よね?」
「私は冗談が上手ではありません」
「聞いたことがない、迷宮を育てる化け物なんて」
「加えて、アーロン領には現在
新種の化け物が発生しているとのことです」
「…はぁ?」
「新種の化け物は『アンデッド』
死を拒絶した存在になります」
「どうやって倒せってのよ」
「それは、こう、一撃で粉微塵に」
「誰ができるのよ、そんな力技」
「ゴードン様ですね」
「…」
「後もうひとつ」
「まだあるの」
「安心してください、これで最後です」
「安心できる要素がひとつもないんだけど」
「黒龍が目を覚ましました」
「…冗談よね?」
「私は冗談が上手ではありません」
混沌の時代以来の
未曾有の大災害がすぐそこまで迫っていた




