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◆◇◆◇◆


 牢屋の中で小さな窓の先から入る陽の光を眺めるイバシルは意気消沈といった様子だった


「俺は弟にも弟の息子にも勝てなかったのか」


 虚な目で空を眺めるイバシルは独り言を呟いた


「どうしてこんなことになった」


 思い出しては沸々と燃え盛る苛立ちに真正面から向き合おうにも不快感は増すばかりでの見下すことなど到底できずにいた


「アーロンの剣で…」


 負けた事実【スキル】で勝っている筈の俺が負けたということは技術で完全に敗北したことになる。言い訳を連ねることはできても『もう』自分を騙すことすら叶わないほどのコテンパン


 おまけに監獄の中とあっては処刑は免れないだろう


◆◇◆◇◆


 監獄の中では自問自答ばかりが頭を駆け巡る


「あの時どうすれば?こうすれば良かったのか?」


 再燃した苛立ちをぶつけようにも構えた拳、しかし、手錠がそれを脱出の意思ありと判断し拘束がより強固になる


 嫌でも内に苛立ちを収めることしか叶わなかった


「アノスは一体いつからアーロンの剣を」


 認めたくない


「そうだ、体調が悪かったんだ

 いや、日頃から鍛錬していれば…」


 そこまで言いかけて言葉を飲み込んだ。それを認めてしまっては完全に折れてしまう。未だ再起の道は閉ざされていない筈だ


「本当に、どうしてこんなことになったんだ」


 あの日を境に俺はすべてを手に入れたんだ


 俺は間違っていない。優秀な弟にばかり目を掛けていた親が悪い


 領主としての教育も、剣の腕すらも不真面目なお前と違い、俺は努力をしてきたんだ


「黙れ」


 あいつは天才だった。何をやってもあいつに届かないのなら、努力なんてするだけ無駄だった


「黙れ黙れ黙れ!」


 優秀な跡取りが居るから放っておけば良いと、俺はあっさりと見放され、弟もそれに乗っかった。あいつはいつもそうだ


「アノス、お前もそうなんだろ」


 なぜ俺から離れていくんだ


「|《愚弟》アビス」


◆◇◆◇◆


 イバシルの幼少期は親からの必要最低限の干渉によって形成された。しかし、彼の弟であるアビスもまた同じく必要最低限の干渉を受けて育った


『非凡に在らず』───【スキル】を受けるより前に『アーロンの剣』を修め、一代でかなりの躍進を見せたアビスにとってその環境に合っていた。だがイバシルにとってはそれが苦痛でならなかった


「結局、俺はあいつには勝てねえのかよ」


 同等の扱いを受けて尚イバシルにとってはそれが我慢できなかった。唯我独尊───何事においても自身が一番で他が下、同等であること、劣ることを恨めしく思い、今日まで彼を突き動かしていた


 その『劣等感』に対する『異常な程の憎悪』が【極】果てには『この世ならざるものを呼び寄せた』


「これはこれは」


◆◇◆◇◆


 監獄のひとつ、個室の中に突如として『それ』は現れた。ボロボロの服に身を包み今にも死んでしまいそうな程細い見た目のそれを前にイバシルは低く唸るように言った


「何者だ?」


「◾️◼︎…『星の語り部』だよ」


「そんな星の語り部が何のようだ?」


「随分と無様にやられたみたいだねえ?」


 イバシルは手錠の拘束も意に介さない力みの後、星の語り部と名乗った者の首を掴み上げ地面に組み伏せた


「俺は今、機嫌が悪い。直ぐに立ち去れ」


【極】【剛腕】の一振りは地面の石材を茶菓子が如く砕くと殺しかねない勢いで首を絞め始めた


「おー、怖い怖い。でもね」


 星の語り部はイバシルの拘束をいとも簡単に抜けるとイバシルを壁へと軽く投げ飛ばした。力み、助走、踏み込みの一切の前起き無しに


 背中に走る衝撃と【剛腕】の通用しない事態にイバシルは目玉が飛び出んばかりに眼前の敵を眺めた


「実力差を見極められない人は

 長生き出来ないよ?君の弟さんみたいに」


「は?」


「本題に移ろうかイバシル・アーロン

 力が欲しくないかい?」


 そう言って、星の語り部は歩み寄り始めた。先程の出来事と部屋に満ちる不快感にイバシルの身体は迎撃、逃走、拒否の反応を示した


 歯がなり、筋肉が緊張のあまり震える中、イバシルはゆっくりと口を開いた


「その力があれば俺は…」


 星の語り部は全てを聞く前に頷いてみせた


「あぁ、それ以上に【最尊】に至れる」


『【最尊】』───分野における境地への到達者。同【スキル】の頂点におり、他の追随を許さない存在。『固有スキル』と呼ばれる


「そんな、上手い話が」


 イバシルは警戒を露わにする


「そうだね。条件があるにはある」


◆◇◆◇◆


「アノス・アーロンを亡き者にして欲しいんだ」


 一瞬の躊躇が頭をよぎった


『君を認めない全ては悪だ

 それを押し通すだけの力を持て』


 しかし、そうだと納得した。俺は平和な日々を謳歌したいだけだ。皿を邪魔する奴らは悪だ


「イバシル・アーロン

 君はこの力を手に入れ波風の立たない

 平和な日々を取り戻すんだ」


 そして差し出された手を掴んだ


『恐れることは何もない』


「がぁあ?!」


 拘束が反応し、手首を締め上げる感覚と全身を駆け巡る鋭い痛み、視界に走る虹色の羽虫の様な何かが数秒続き、俺は意識を手放した


◆◇◆◇◆


「こうも簡単に『◾️◾️』を受け入れるとはねえ」


 倒れ込んだイバシルを星の語り部は持ち上げる。すると『カチャン』と地面に落ちた『手枷』。それを一瞥する。テンサイとは恐ろしいものだ


 イバシルをベッドへ寝かせ、手枷を拾い上げる


「老人共は使い物にならないな

 いつまで待たせる気でいるんだろ」


 手の内で遊ばせる手枷をイバシルの手元に起きつつ、窓の外を眺める。良い天気をしているんだろうな


「今代の◾️◾️◾️は厄介だな

 あいつらがヘマをしなければ

 ディアボリカ達が来てくれる筈だったのに」


 落胆のため息をついた星の語り部は鉄格子をいとも簡単にすり抜けると振り返りイバシルを一瞥した


「厄介な相手だよね」


 口ではそう言いながら、少年は楽しそうにと笑った


「時間稼ぎにくらいはなってくれるかな

 上手くいけば君も『作品』だ

 出来損ないの子達とは違うことを証明してね」


◇◆◇◆◇


 バグを受け入れた者が目覚めるまで、まだまだ時間がかかる。星の語り部は気絶したイバシルに優しく微笑むと監獄を後にした

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