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◆◇◆◇◆
「…」
僕は剣を握り、物思いに耽る。果たして父上に勝てるだろうかと
闘技場───街の娯楽の一つで『何か』と『何か』を互いに争わせ、それを見て楽しむ施設。基本として『モンスター』と『モンスター』もしくは『人間』が争うことが主なのだが『双方同意のもと』であれば『人間』と『人間』でも行うことが許されている
今日はその決闘の日だ。鼻につく鉄の匂いはここで最近まで誰かが止血していた名残だろうか、そんな不気味さ漂う中、僕は静かに鞘から剣を引き抜いた
◆◇◆◇◆
「アノス、どうして」
闘技場の観客席で見ていることしかできないことが悔しくてならない。何故アノスはあんな要求を飲んだのだろうか
「お前はどっちにかけた?」
「鉄と水銀じゃあ、水銀だろ」
「バカ、んなわけないだろ」
「アレが噂の『迷宮殺し』案外小さいな」
なんて下世話な奴らだろうか、人の生き死にが関わるかもしれないと言うのに賭け事に利用するなんて最低以外の何者でもない
「でも気になるのも分かる」
イバシルの【剛腕】は扱いやすい【スキル】のひとつだ。力が増すというシンプルさ故に当人の実力が諸に強さへ直結する
イバシルのあの余裕はどこから来るものかと考えた時、アノスの『剣の師』であることが思い浮かぶ、アーロンの剣は全世代を通して、前の領主から脈々と受け継がれたものだ
そうなれば剣の弱点や改善点を次代に引き継ぐことができる。加えて
逆に今代の弱点や至らない点を知っていると言うことはその部分がそのまま弱みになる。まさかそれを踏まえて決闘を挑んだのであればあまりに姑息だ
「アノス」
◆◇◆◇◆
「出てきたぞ」
剥き出しの刀身と共にアノスが闘技場へと入ってきた、その面持ちは緊張気味でありつつ、勝つと言う意思が堂々たる歩き姿から感じられる
「アレが水銀等級」
「バカ、そっちは鉄等級だ」
「え?」
「何と言う禍々しい魔力を
帯びていることか」
普段手持ちで使うアンブラ・ディアボリカのマントをアウターに着けアノスは中央へと歩み寄る
◆◇◆◇◆
「…」
聞いていた話だと闘技場では飲食片手に一喜一憂する場なのだと聞いていたものの、思いの外静まり返っていた。聞こえるのは囁き声や賭け事の予想など別段楽しげな雰囲気は感じられなかった
「どうだアノス、今の気分は」
「問題ありません」
できることはやってきた。武器の整備、防具の新調、満足のいく休息、覚悟は全てしてきた
◆◇◆◇◆
牙が伸びている
反抗的な態度を取るだけの経験を積んできたのは足運びからでも分かる。しかし、剣術が『アーロン』である限り俺が負けることはない
「口だけは一丁前だな?」
「はい、何としてでも勝たせていただきます
父上」
◆◇◆◇◆
「…」
他の剣術であれば善戦できるがアーロンの剣を使うとなれば熟練度の差がモロに出るだろう。しかし、どうだろう他の剣術で勝てたとて
認めて貰えるとはとても思えない。ならば僕の『剣』で父上を超えなければならないそう思う
「僕の成長をこの試合で見せます」
「威勢だけはいいな、引き攣った笑顔だ」
◆◇◆◇◆
「では、行くぞ!」
合図はない、あるのは互いの覚悟のみ
「…」
先に仕掛けたのはイバシルだった
圧倒的な力量差を持って
続く技への精神を削らんとする一撃
「牙鉄」
「…」
鋭く放たれた剣先は観客ですら見失う速さを持って放たれた───【剛腕】の威力そのままに放たれた一撃がアノスに迫る
しかし、アノスはそれを寸出で避けると剣の間合いを詰めて鍔迫り合いへともつれ込む
「ほぉ避けたか、確かに成長はしている様だな」
「…」
相手の力量を過小評価していたイバシルが称賛と嘲りを持ってアノスに言葉を使い高圧的に攻めの姿勢を崩さなかった
一方、アノスは相手の【スキル】や『力量』を大雑把ながら把握しようとしていた。いくら身内であったとて情報はないに等しく───知っていることは『アーロン』という共通点のみ
「横尾・林」
鍔迫り合いの最中、イバシルの【剛腕】による薙ぎ払いにて鍔迫り合いは解かれた。もろに受ければ骨折必至の一撃にアノスは身を飛ばすことでこれを否した
「どうだアノス、降参か?」
◆◇◆◇◆
「どうだアノス、降参か?」
「…」
何で技名を叫んでるんだろう?ティナと違って父上は魔法なんて使えないだろうし、技名を叫んだところで相手に技を教え回避の隙を与えるのに
まさか『ブラフ』?
「ハッハッハ!どうしたアノス
来ないのなら俺からまた行くぞ!」
父上が近寄り様、降剣を放ってきた
「…」
どう攻めたものか
何度も見せられる隙は囮か───でなければ技名を教えてくる意味がない。分かりやすく誘導されているのは侮られているということか、僕は取るにたらない相手と思っているからなのか
降剣後に晒す背中、振り返りこちらを見る父上の余裕のある顔は打ってこいということか
なら、これに応えよう
横剣───身を捩り、一足による踏み込みしな、肩で突っ込み吹き飛ばしからの横薙ぎによる一撃を放つが後転により避けられてしまった
「ッグ!?」
「…ダメか」
肩は入った。しかし、本命が避けられては意味がない。どうしようか
◆◇◆◇◆
「ッグ!?」
俺は吹き飛ばされていた。油断していたわけではない───視界から消えたと思ったら目で捉えられない踏み込みによる突進で吹き飛ばされたのだ
「…」
アノスが何か言っている様だが聞き取れない。耳鳴りがする、身体が気持ち悪い浮遊感に包まれる
◆◇◆◇◆
昇剣───レッドトレントを打ち倒した一撃を放つが父上には悠々と避けられた。寸出のところで身を捩られた
反撃がくる。咄嗟に『アンブラ・ディアボリカ』で身を包み、来るであろう衝撃に備えた
しかし、待てど暮らせど攻撃が来る気配がない。僕は防御を解かずに素早く後退りし距離を取ってから相手を確認する
「あれ?」
父上は剣を杖代わりに膝をついていた




