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 虫の音が響く林の内、乾いた木や枝の爆ぜる音が不規則に静寂を啄む、陽の落ちた今、3人が囲む焚き火だけが林を照らす確かな灯りだった


「それにしても外れスキルねぇ」


 焚き火を囲む最中、思い出したようにティナが呟いた


「急にどうしたの?」


 僕は魚の鱗をナイフの背で剥がしながらそれに相槌をした。火の向こうのティナの表情は見えなかったもののその声色が明らかな不機嫌さを物語っていた


「いや、そもそも外れって何?

 女神様が言ったわけじゃないのにさ

 そんなスキルを授けるとは

 到底思えないのよね」


 ティナは徐に枝を拾い上げた。葉のすっかり枯れ良く燃えそうな枝だ。ティナはそれの節を整え、大まかに削り上げると見事に串をこさえ、魚を突き刺し火に近づけた


「こんな大変な時に」


「でも、使えなかったのは事実だから」


◆◇◆◇◆


「アノスのその【デバック】ってのも

 きっと何かの役に立つスキルよ、必ず」


「だと良いな」


 アノスの表情が柔らかくなった。それでもやっぱり気を抜けば翳りを見せる。最大の悩みであるスキルをどうにかしない事には晴れそうにない


 それでも何か気を逸らせる話題があれば良いのだけれど───正直、子供にこんな顔をさせるのは耐えられない…それに


 私は手頃な枝を拾い上げ、形を整え木剣を作りアノスに向けて放った


「せっかくだし、久しぶりにやろう」


 こてんとアノスが首をかしげた

 可愛いな、何だその反応


 やっぱり私は…


「打ち込み、やろ?」


◆◇◆◇◆


 僕に木剣を渡したティナが構えた


「手加減は?」


「お願いします」


 投げ渡された木剣を握りティナに打ち込む、甲高い音が林に響き渡る。打ち込む悉くが合わされる、握り込みから脱力、剣の扱いの一挙手一投足に至るまでティナの所作は丁寧だ


 打ち込む一撃は軽々といなされ、僕もティナの一撃に合わせる。手加減されて漸く互角か。うわつき、僕が隙を見せてしまった一瞬でティナの刺突が僕の胸を捉えた


『僕は咄嗟に後転し、衝撃を受けつついなした』


◆◇◆◇◆


 私は放つ一撃をアノスの利き腕の付け根に向けて放つ、こんな状態でのひとり旅は許容できない、これはエゴだ。自覚はある、けど


「アノス、何を惚けているの?」


 見す見す人を下に送るなら心を鬼にしよう


 私は手加減をするべきだったのだろうか、本人の希望だから手を抜くべきなのだろうか、徐々に手加減を緩める私をアノスは軽蔑するだろうか


「はは、ティナは強いな」


「…」


 いなされた?いや、確かに捉えた筈だ。本来なら肉と骨の付け根を断ち、剣の道から離れるきっかけになる一撃を与えた筈だ。だった


 何事もなかった様に立ち上がった彼の身体にはその様な不調は確認できなかった。手元が狂ったのだろうか


「ねえ、アノス」


「うん?」


「本気でやっていい?」


 返事は待たない『魔力』により強化を施した刺突を放った。狙うは利き腕


◆◇◆◇◆


「え!?」


『気のせいじゃない、ティナは僕の腕を狙っている』という嫌な勘が働いて身体を捻って回避をする


 ティナの刺突が空を貫くと同時に剣の腹が僕に向かって振り抜かれる───彼女が扱う剣術の型が僕に浴びせられる


「ティナ、ちょっと!」


『一絶閃』


『アーバレストの剣』───彼女が扱う剣術の一閃が地面から天に目掛けて振り上げられた。僕は


『前に見たそれに剣に身体を預け、体重を加えた一撃で相殺した』


「ティナ!」


「!?」


◆◇◆◇◆


 変な違和感が拭えない、何だろうこの───いなされている感覚は?さっきの一撃も確実に入った気がしたのに相殺された


「ティナ、ごめん、バテた」


「え、えぇ」


 彼に手渡した剣が返され、私の作戦は失敗に終わった。僅かに残る『魔力』の気配、薄く木剣に張り巡らされたそれは神業の所業だった


 武器をダメにしないように立ち回り、引き分けに終わらされた。これはアノスの実力?それとも『スキル』のお陰?


 私は考えつつも良く火の通った魚をアノスと分けて食べた。いずれにしろ、実力がある者を引き留める、諦めさせるのは骨が折れるだろう


 私にできるのは彼をひとりにしないことだろう。私はそう決意した

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