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「アノスとの思い出?」
「はい、見た感じとても親しげなので」
「う〜ん、どう話したらいいものか」
そう言ったティナさんの視線の先はやや明後日の方向を眺めていた
「そんなに気になる?」
「とても気になります」
「それじゃあ」
ティナさんをちらりと見ると彼女はとても微妙な顔をしていた
「私達が銅になったら話そうかな」
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とは言ったものの私は話すか否か決めかねていた。正直に話すにしても聞いていて楽しい話ではない
生まれた時から【寵愛】を持ち、親しい友人はおろか友人すら作れなかった。必然的に勉学に割く時間は増えて行き尚のこと人を遠ざける原因になった
そんな私にある時『縁談』が持ち込まれた
次女である私にしてみれば『捨てられる』のだと思った。【スキル】とは違い【寵愛】は何かと爪弾きにされていることを身をもって体感しているのだからそう思うのも当然だった
そして、顔合わせの時───普通の成人男性の隣に不気味な存在が人の形をして立っていた。きっちりとした齢にそぐわないアノスを不気味に思った、今にしてみれば次期領主の地位を与えられる存在なのだから齢ではなく地位に則している身振りだと感心すら覚える
しかし、当時はそんなアノスを嫌厭していた
それが私を無視する奴らと同じ選択をとっているとはつゆ知らず
家族のために、領のために生きる面倒くささを知ったのはある軍に入るきっかけになった事件の起きた後だった
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それは貴族階級が一堂に会する催し物、領主会議───『次世代』と『その剣もしくは盾、筆』となる家族を交えての会談。親が口々に話す期待に応えること、あまりにも身勝手な夢の数々
腹立たしい一方で父の言う『期待』は私にではなく、姉に向けられていることに不快感を受け姉から遠ざかる様にその場を後にした
私には領主になることの何が偉いのか、重要なのか、分からなかった。その重みさえ
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「ティナさん?」
「え?何?」
「ボーッとしてたので心配になって」
「あぁ〜ちょっと昔のことを思い出しててね」
全く変な感じだ。望んでたけど、望んでない今の状況、次期領主になろうとしていたアノスが夢破れ、自由を謳歌できる立場になろうと、責務に追われ、戦い以外を知らないままに軍へと身を落としかねない。何とも肯定し難いものだ
「どうすれば」
結局のところ、私はどこまでも身勝手なのだろう。すべては自分自身のためアノスのためといいつつ彼のあり方を考えてしまっている
「…」
手の内にある一振りの大剣に映る自分を眺め『ため息』を漏らす。こうして夢を追いかけれる立場に彼が居ようとも直接的な言葉を選べずにいる。私にはそう言うことしか出来ない、守りたいものを手元に置き閉ざす、変化を拒む『氷相』それが私だ




