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冒険者ギルドの一室で仮眠を取る。身体が回復したとて戦闘直後に帰還からの包囲、からの軟禁と大凡気の休まる状況を経ていなかった
早く休みたい
「俄には信じられない話ですね」
「そですね」
取り調べに来ていた受付嬢さんも苦笑いを浮かべていた
「ですがこの布と賢者の石がある以上
信じざるを得ないですが」
「そですね」
俄には信じがたい話、それもそうだ
ギルド管轄のB・蝙蝠洞窟で最大E級の化け物が勢揃いを果たし、それをパッと見、無傷で『陶器等級』の冒険者が帰って来て報告しているなんて、僕でも信じられない
それでも証言、物的証拠が上がっているせいで処罰に踏み込めないのだからタチが悪いことこの上ない
「何なんですかね、この状況」
「私が聞きたい位です」
受付嬢は度々席を外すと何かを言い争う声を上げ、そのまま戻ってくるのを繰り返していた。取り調べがひと段落した辺りで僕は切り込んだ
「受付嬢さん、他領域でも迷宮を
管理してる場所はありますか?」
「え?はい、ございますが」
「その領域各位への注意勧告はできますか?」
「ギルド間での情報共有は可能ですが」
◆◇◆◇◆
「アノスさんこちらを」
取り調べが終わり一旦の解放が叶った。夜も近いので早く帰りたいところであるが呼び止められたので振り返るとそこには『アンブラ・ディアボリカの布』と『賢者の石』が置いてあった
「こちらはアノスさんに所有権がございます」
「分かりました」
「それで賢者の石の方なんですが
売却の意思などは?」
「今のところありません」
「分かりました」
賢者の石の有用性は身をもって体験済みだ。最低限の取引額で一等地に豪邸を建てれる程の査定には驚いたがこれを手放すのは惜しいと判断して売却は保留にした
しかし、それ以上に気になったのが
「こちらの布はいいんですか?」
「そちらは大変魅力的な魔力を有していますが
加工は愚か他の魔力を反発する性質を
有しております故、査定不可となっております」
扱ってないって、この布も災難だなとそう思った
◆◇◆◇◆
ギルドを出ると酒場の人間がこちらを見て何やら話しているのが聞こえてくる。声を潜めているが【スキル】の影響で丸聞こえだ
『またあいつ、受付嬢さんに呼び出されてるぞ』
『迷宮を壊したんだってよ』
『忙しさから今度は仕事がなくなるなんてな』
幸い険悪な雰囲気ではないのでホッと胸を撫で下ろす
『トレントが暴れ出したらしい』
『もうそろそろあれの時期か』
『闘技場で大儲けするんだ』
その一方で血の気の多い話もチラホラ耳に入ってくる。トレントといえばA〜C、自生している種類もいる植物モンスターでも稀有な存在なのだが、あれが暴れ出しているとは穏やかではないな
「ラントが金になったってよ」
「マジか」
「あぁロンと身を固めるってよ」
そのまた一方で『引退』の話や『結婚』などの浮かれた話も聞こえてくるもので情報が渋滞している
「早く帰ろ」
『アノス様はどちらに…』
「?」
ふと聞こえた聞き覚えのある声に振り返る。しかし、賑やかな酒場の中で特定個人の声の出所を探るのは不可能に近かった
◆◇◆◇◆
アノスが出ていった酒場の一角にてロンが婚約祝いの席で酔いを回していた
「なあ、ロン。ラントは何で引退なんて」
「俺がヘマしちまったからだよ」
「かぁ!お熱いね」
酒とつまみが回る中、酒飲みの一人がロンの肩を組んで『蜂蜜酒』をグイっと飲み干した
「それでシルビアはどうすんだよ」
パーティーの解散とあって残るメンバーの行き先を心配する声が上がる
「何なら俺のとこに来てもらっても」
「心配いらねぇ、アノスのとこ行くってよ」
「アノス?誰だそりゃ」
「ほら、あれだよ六花の」
「んだ?追放者って話だろ?大丈夫か?」
「あぁ、あいつは世間様が言うほど
カスじゃねぇよ」
アノスの話題───アノスの本名、アノス・アーロンが街の至る所で上がっていた。兵士に取り囲まれ、凄まじい魔力で圧倒しただの、兵士をひとり殺しただの噂が飛び交う始末
「はっ、老害めが何が追放者だ
あいつこそ大した活躍してないくせに
ふんぞり返ってるだけじゃねぇか」
「なぁロン、そのアノスってのは
どんな奴なんだ?」
「んぁ?聞きたいか?」
「おうおう、話せよ大男」
樽ジョッキを持ち上げ『麦酒』をぐいっと一杯ひっかけたロンが上機嫌で立ち上がり話を始めた
「聞いて驚くなよ?本当に凄かったんだ!」
「ロンが話すぞ!」
「また、ラントとの惚気か?」
「ちげぇよ!小さな英雄譚だ」
「英雄譚!かぁ大きく出たな」
◆◇◆◇◆
その者、地図と鞄で身を固め、両手に剣と杖を持っていた、胸には『陶器』をぶら下げた大間抜けだった
◆◇◆◇◆
「そんな奴が英雄?
白昼夢でも見たんじゃねぇか?」
「うるせえ、黙って聞け」
◆◇◆◇◆
そう、最初こそは俺もそう思った。こんな奴は女神様から愛されただけの偽物だってな、ところが聞くに女神様からはとことん嫌われていた
からかい試すもしなる木が如く交わし、世渡り上手かと俺は嘲笑った
◆◇◆◇◆
「そんでそんで?」
◆◇◆◇◆
だが違った俺のからかいを子供の戯れと一蹴できるだけの実力を持っていたに過ぎなかった
幾千も広がる敵を前に盾を構えるだけしかできない俺とは違い、敵陣に突っ込み掻き乱し、仲間が逃げるだけの時間を稼ぐどころか積み上がる屍の上で剣に魔法を振るい続けるその姿まさに英雄そのもの
◆◇◆◇◆
「魔法剣士?そんな馬鹿がいるもんか」
「そうだ聖騎士ならいざ知らず陶器だろ?
信じられるわけねぇよ」
「はぁ?お前ら俺が嘘ついてるって?」
興味津々の冒険者たちが酒を飲み交わす───これを耳にした者が後に『夜の宴と英雄譚』『武芸百般』として街に広まることになる
その後ロンがラントに首根っこを掴まれて連れていかれて酒場を後にするのは言うまでもない
◆◇◆◇◆
「おかえりアノス、どうだった?」
「うん、疲れた」
宿屋の自室に入るとティナがアノスを出迎えた。疲労困憊のアノスの服を着替えさせ、ベッドに寝かせるとアノスは直ぐに眠りについた
「遊び疲れたあの頃みたい」
静かに寝息を立てるアノスを傍にティナも眠りについたのだった




