30
◆◇◆◇◆
『いやはやまさか、古の神擬きを倒すなんてね』
瓦礫の山を陽気に進む人影ありけり
淀みを掻き分け人を探すと
件の探し人見つけるにいたる
『そんで息があるなんて驚きだよ』
「…」
アノスは目だけで人影を捉える
瓦礫の中、土の重みの下に居たアノス
そんなアノスに
人影は被っていた帽子を脱ぐと
帽子の中から『賢者の嘲笑』という
俗にいう『賢者の石』を取り出し
探し人に振りかけた
『死に瀕した生命さえ回帰させる掘りだしもんだ
有り難く思いなよ』
◆◇◆◇◆
賢者の石───錬成や錬金で使えば素材の代替ができる上、砕いて振りかければ傷の処置にも使える消耗品の中でも群を抜いて希少で高価な物を僕に使うなんて
「何が目的なんだ?」
『御礼は?』
「…ありがとうございます」
『うん、素直』
「馬鹿にしてんのか?」
『話が逸れるな、本題に移ろう』
「ッ!こいつ」
◆◇◆◇◆
人影は帽子を器用に回すと深く被り直した。身体の痺れが強いせいで攻撃できそうにないのが歯痒い
『育ち過ぎた迷宮から旧神の作品が
息を吹き返す』
「作品って、あいつみたいな?」
『場所によってはもう壊滅してるかもな』
「お前達は何なんだ」
強引にでも身体を持ち上げ手を伸ばそうとする。剣も槍も近くにある。取れさえすれば
『回復に専念しな、賢者の〜だって万能じゃない』
「だったら答えろ化け物が」
『ん〜、あんな出来損ないと比べられると
少し腹立つな…
兎に角◾️◾️◾️君はもっと強くなりな
あれを真正面から倒せるくらいに』
「何を」
『報酬はここまで選別に
『こいつ』は置いてくからさ?それじゃ』
僕が瞬いた次の瞬間には人影の姿はあの時同様掻き消えていた
化け物を『出来損ない』と呼んだあいつ自身は結局何者か分からず終いだった
◆◇◆◇◆
「ボロ布だけか」
アンブラ・ディアボリカの残骸の近くに行き物色をするも手に入った物はあれが身に纏っていたであろう布切れだけだった
非常に硬い上に伸縮性は皆無ときた斬ることはできず貫くこともできない不思議な一枚布を鞄の中に詰め込み、歩き出す
「…」
『賢者の石』───学術書や錬成術で見たことのある正体不明の石、一般の市場には出回らず迷宮から稀に出土し競売でのみ扱われる希少鉱石
「偽物ってわけじゃないだろうし」
僕の疲労や傷は元通りになっておりこれが偽物ではないことが分かる
僕は恐る恐る手を伸ばしそれを手に取る『ストーン』と比べかなり小ぶり───手のひらに収まる大きさなのにも関わらず重さは比にならないほど重い
「これが賢者の石かぁ」
不思議と気持ちが昂る、父上に褒められた時と似ているが身体が軽くなった気分になる
「これも賢者の石の効果なのかな?」
鞄の中に忍ばせ、街へと向かう。足裏に感じる瓦礫や土の感触の中で考える
真偽は定かではないものの『あいつ』の言ったことが本当なら世界各地でフォードが発生している可能性が高い、そうなれば領域間機能が停止し、交通や物流が途絶えてしまう
「領域侵攻が来る」
化け物の領域が広がればそれだけ劣勢に立たされる。もっともあいつが本当のことを言っているかは分からない。それでも見す見す流すにしては被害規模が洒落にならない
「アーロン領域は大丈夫として」
その他の大都市、領域では迷宮をリバレー領同様に管理している可能性が高い、アーバレスト領は大丈夫だろうか
「【デバッグ】」
◇◆◇◆◇
【習熟】【デバッグ】───問題なくスキルを扱える領域、ひとつの到達地点
発生中の効果
【情報精査】【弱点克服】【意識可視化】
【逆引き・解析】【予測】
【習熟】から【精通】まで
『作品』『討伐』を要する
◇◆◇◆◇
「崩落から身を守れたのはこれのおかげか」
頭に流れ込んでくる情報により迷宮崩落時に無事だった理由を再確認した。落ちてくる瓦礫を寸出で交わし、致命傷を避け、回復魔法の範疇に収めたのを見るに【予測】はその名の通りなのだろう
それにしても階位の要件が更新されたのは喜ばしいことだが何が何でも無茶振りが過ぎると思う
◆◇◆◇◆
「…」
『現実味が湧かない出来事が続くことで果たして軍を目指すことは正しいことなのだろうかと自問自答が頭の中を駆け巡る
軍に所属すれば戦地に赴くことができるがしかし規律に縛られ自由はない、集団で動くことが前提となる』
「でも軍に入らないと戦地に赴くことができない」
『冒険者でも指折に入れば或いは入らなくとも』
「領所属になりさえすれば」
『銀や水銀を目指すべき』
「なれるかな」
『ならなければならない』
◆◇◆◇◆
「アノス!!」
「あ、ロンさ…」
僕が街に着くとロンさんと街の兵士達が向かって来ているのが見えた、手を振り僕がいることを示そうとしたその時
兵士に囲まれた
「?」
「やめろ!アノスは悪くねぇ」
『僕は咄嗟に剣を抜いた』
「アノスもやめてくれ」
事態が飲み込めない
「どうしたんですか、ロンさん」
「実は迷宮の破壊は容認できないって」
そうか
「僕は重罪人ってことですね」
剣を納める、抵抗すればそれだけ立場が危うくなる。僕は両手を前に出し投降の意思を示すと兵士の包囲を退かして隊長格がやってきた。装飾は金───冒険者でも『引退者』の類だ
下卑た表情を浮かべているのに何処となく腹が立った
「アノス・アーロンだな」
「はい」
「貴様のことは調べた、領域追放者め
他領域の破壊が目的か?」
「違います」
「では迷宮破壊とは何事か?」
「フォードが発生しました」
「話は聞いているが俄には信じ難いな
ギルド管轄の元、管理されている筈
迷宮の破壊はやめて頂きたい」
「それは無理でした」
「何?」
僕は鞄の中からアンブラ・ディアボリカの布切れと『賢者の石』を取り出した
「これを」
周りの人間が卒倒する中、隊長格の人間だけが僕が差し出した物品を見て苦悶な表情を浮かべていた
『逆賊を引っ捕える簡単な仕事が消え
迷宮破壊の合理性を示す物品を
取り出したのだから無理もなかった』
◆◇◆◇◆
留置所ではなくいつぞやのギルドの一室に呼び出されることになった




