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核の内から現れたそれは『不気味』その一言に尽きる見た目をしていた
宗教画で見る『死』を形容した見た目───ボロボロの布を身に纏い、布の内には黒いモヤが掛かっており全体像を把握するにしても大雑把にしか分からなかった
黒いモヤは空中を両手で掴むと何かを引き抜く動作をした後、モヤが両手を伝って『何か』に纏わりつくと武器が現れた
「『寵愛』?」
細かな差異がありつつもその武器の取り出し方は『寵愛』だった───化け物が呼び出した武器は稲刈りに使う農具に似た形状をしていた。槍にも非常によく似た形状がある、刺すのではなく、薙ぐもしくは引くことで攻撃をする
『何だあれ?』
◇◆◇◆◇
『解析』
『武器・鎌』『不快感』『浮遊』
『ボロボロの衣服』『黒いモヤ』より
『条件合致』
名称:アンブラ・ディアボリカ
万年前に活動していた旧神の作品
永遠に続く生命にさえ
絶対的な死を齎す役割を与えられた存在
混沌の時代の終わりを境に
活動が記録されていない
◇◆◇◆◇
「何だ!?」
突如頭の中に流れ込んできた情報に困惑する
「アンブラ・ディアボリカ?」
そんな名前の化け物聞いたことがない、そして似たような化け物とも戦ったことなんてない。それでもやるしかない
攻めあぐねる理由のひとつ、あの武器だ
『寵愛』はティナの所持している『氷相』同様特殊な能力を持っている筈だ。肌を焼くかの様な威圧感ただの鎌とは考えられない
『あの寵愛はなんだ?』
◇◆◇◆◇
『解析』
『アンブラ・ディアボリカ』『武器・鎌』
『条件合致』
名称:終幕の誘い
旧神の作品を象徴する一振り
傷つけたものを弱らせ永遠の眠りへと誘う鎌
攻撃を受けた対象は苦痛なく
永遠の眠りに誘われる
『昏倒』を受け
致命傷受けた場合
全身に伝播した『昏倒』により
『蘇生不可能状態』───『崩壊』を受ける
◇◆◇◆◇
「また」
先程から頭に流れ込んでくる情報、この有無を言わせない変化に身に覚えがあり、僕は呟いた
「【デバッグ】」
◇◆◇◆◇
【錬磨】【デバッグ】───基本的なスキルを繰り返し精度を高めている段階
発生中の効果
【情報精査】【弱点克服】【意識可視化】
【逆引き・解析】
【錬磨】から【習熟】まで
成長曲線からの逆算により【1週間】を要する
『報告』
【逆引き・解析】を行い
『アンブラ・ディアボリカ』に関する情報を
『2件』閲覧しました
◇◆◇◆◇
「なるほどね」
【スキル】が成長していた
成長のきっかけが相も変わらず分からないものの、成長のおかげで未知の敵に対する情報の有利が取れることは有り難い、何も知らずに突っ込んでいたならあの鎌で即死していただろう
「!?」
ある違和感を受け、咄嗟に身を捩る。空中に散らばる僕の髪の毛───先程まで首があった位置に鎌の薙ぎが通過していた
「速っ!」
化け物の攻撃には必ずと言っていいほど『赤い糸』による予知が発動していたにも関わらず、目の前にいる敵からはそれが一切伸びてこなかった
違う───僕が見るよりも速く鎌の一撃が飛んできていた。咄嗟に身を捩って回避できたからいいものの事前に知ってなければ武器で防いでいたと思うと恐ろしい
「…」
鎌の一撃を避けた後隙に剣を2、3度叩き込むも手応えは今ひとつだった。当たっているがとてつもなく硬いというより攻撃に合わせて舞うように否されていた
「どうすれば」
◆◇◆◇◆
アンブラ・ディアボリカは空中浮遊による機動力の有利だけではなく、変幻自在の軌道を描く鎌の猛攻を仕掛けてくる。そして
「っ!」
予兆が見切り辛い隙狩り───ボロ布の内側に目の様な2つの光が灯った瞬間、その延長線上に光線が走り、当たった部分を抉る様に直進する
小賢しい化け物、動きが単調ながら攻めるに攻められずこちらの息が上がり始めた
「…」
何より厄介なのが鎌の一撃で地形が削り取られ、地面の凹凸が生まれ、行動に余計な体力を奪われている点だ
「不味いな」
攻撃に転じた所で決定打にならず隙を晒す。しかし、防いでばかりではいずれ体力が尽きる。ここはひとつ捨て身で核を破壊するしかない
「生き埋めになるだろうけど」
僕は『あるもの』を取り出すと鞄をできる限り遠くに放った。少しでも攻撃を避けられるかもしれないからだ
◆◇◆◇◆
その身ひとつになったアノスが両手に『糸縄』『投石器』を構えた。身を屈め静かに呼吸を整える
静かに留まる『それ』もまた鎌を構えるとほぼ地面と水平に身を屈めているアノスを眼前に収めた
青白い松明がゆらゆらと揺れる。アノスの呼吸音が僅かに響くだけの静寂空間───そんな静寂を破ったのはアンブラ・ディアボリカからだった
眼前に収めていたアノス目掛けて放った一対の牽制、アノスはその攻撃を交わすと左右に揺さぶりを掛けつつ走り出した
地面の隆起を足裏で扱い半3次元的に相手を撹乱する───空間にブレが残る程の高速回避行動
刹那の攻防───アンブラ・ディアボリカが鎌を放った先、アノス目掛けて鎌が振り下ろされる
「ッ!」
鼻の寸出で鎌が宙を薙いだ───アノスは鞄から伸びる『糸縄』を手放し地面を叩いた鎌を踏みつけ様、上を抜け、核へと一直線に走り出す
続く攻防、変幻自在の鎌の軌道が背後から迫る───アノスの腰を捉えた回避困難な軌道の一振りにアノスは避ける素振りすらしなかった
自ら縮めた距離、直撃必至となる一撃に対するアノスの覚悟の表れだった
◆◇◆◇◆
「ッ!」
腰に強い衝撃が走り地面を転げる。裂けた服の間から地面に散らばる『元家紋入りの指輪』がバラバラと音を立てた
「はぁ…はぁ」
息も絶え絶え───這いずり祭壇を背にして肩で息をする。ここからはある種の賭けだが相手が化け物なら間違いなくやる
この化け物に知恵があるなら負ける───そうこう考えているうちに『それ』は僕の目の前まで来ると鎌を振り上げた
そして僕は、その賭けに勝った
「よし」
『投石器』の張力により僕の身体は引っ張られ鎌の一撃をアンブラ・ディアボリカの真下を通り抜ける形で回避した
鎌の軌道が変わるから知恵を持っていると身構えてたけど杞憂だった
僕を引っ張っていた投石器が途中で千切れ、床を転がり止まる僕の身体、疲労と痛みで身動きが一つも取れなくなるが僕の勝ちには変わらなかった
避けた鎌が引き裂いたのは『祭壇』───いくら強いといえども存在の要である核を一度失えば迷宮の長である限りその消滅からは逃れられない
アンブラ・ディアボリカの身体が光の粒子となっていく最中、迷宮もまたその形を保てなくなり始めていた
「不味いな…」
崩れ行く迷宮を前に疲労困憊の身体では一直線であろうとも脱出は不可能だった。踏ん張ろうと鞄に這い寄り力を加えるも震えるばかりでどうにもできなかった
「ティナ、ごめんね」




