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「どうしてあんな化け物が居たんだ?」
消えていくサイクロプスを見ながら僕は首を傾げる
D級───専門の討伐隊が必要になる場合の多い脅威度、人間を積極的に襲い来る習性、戦闘能力も非常に高く、自ら集落や街に向かい襲撃をするなど狡猾性を見せる
僕は剣を納めラントさんの元に走り出す
「でも一先ず、討伐完了」
「ロン!ロン!」
◆◇◆◇◆
「ロン、起きて!起きてよ」
いざ、死を目の前にすると死への恐怖より、こいつの泣き顔がチラついて気が気ではない。ラント、お前は生き続けてくれ
「ラントさん、こっちに」
「いや!離して!ロンはまだ生きてるの」
その声はシルビアか、そうだそいつを連れて逃げろ、命あっての物種だ。死に急ぐことはねぇ
「アノスさん、後はお願いします」
「分かりました」
ラントの声が遠のいていく、あぁ、最後は見知らぬ野郎に見送られるなんてな、ざまぁねぇ
「【デバッグ】」
◆◇◆◇◆
「っはぁ!!?」
「落ち着いてくださいロンさん
まだ腕が治ってません」
「これは回復魔法か?」
何とか意識の回復まで漕ぎつけた、流石前衛とその装備、致命傷を避けていたのが不幸中の幸いと言ったところだ
僕もデバッグ後の回復魔法で最初にする臓器回復を他人でやるなんて暴挙に出たくなかったから良かった
「そうです」
「何でだ?」
「んとですね」
非常に不味い状況なのは明白だ。通路の先から無数に伸びてきている黒い糸の奔流、悠長に構えていたら全滅すらもあり得る。そうなれば迷宮から化け物が溢れて街に被害が及ぶ。それを防ぐには
「どうした?」
「手助けをして欲しいからですね」
黒い糸とは別に肌で感じる謎の威圧感に顔を顰める。どうにも普通の迷宮とは違うようで僕の手に余る気がする
「生憎と装備の性能は当てにならんぞ
あの一撃で『致命回避』が切れてる」
「僕が頼みたいのはそこじゃないです」
「?」
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「お前の鞄なんなんだ?」
「家族からの贈り物です」
「いや、そうじゃねぇよ」
外見と中身が多少違うだけの背負い鞄だ。僕のは中身に応じて大きさが変わる中身を大雑把にでも確認できるため重宝している鞄だ
「僕のお古ですがぜひ使ってください
ないよりはマシだと思いますので」
アーロンの剣を学んでからはお守りとして残していたので家を出る時に持ってきた物だが役立ってくれるだろうか
「…」
「どうしました?」
「お前、何で俺を助けた」
「え?それは」
「そっちじゃねぇ、俺は何をすればいいんだって
たく」
「あぁあ、そうでした」
やっぱり集団での作戦実行は慣れないな
「ロンさんには攻撃を惹きつけて貰いたいんです」
◆◇◆◇◆
「受けたはいいが」
正直不安だ。今も響いてくる地響きはフォードのモンスターの物だろう…今からでも遅くない、撤退を───そう思い前を見た時、俺の決意が固まった
『御伽噺の絵』───後衛でありながら、前衛の役割を果たすことのできるあり得ざる存在
それが目の前にいる。後衛、裏方───今までの戦い方なら加えて剣を腰に据えたのを見るに前衛でもあるのだろう
『半端者の象徴』───馬鹿の考える最強の形を前にいつもなら笑い飛ばすところだったがその『陶器等級』の若造の背中は頼もしさそのものだった
◆◇◆◇◆
「お願いします」
「【アテンドシーカー】『闘気』」
僕の背中を押す様に叫んだその声に合わせて、踏み込んだ。僕の目に映る糸の奔流目掛けて走り出す
◆◇◆◇◆
「【アテンドシーカー】『闘気』」
前進を続ける一波に【スキル】の影響が入った
小人の様な見た目のそれらは弓や布製の投石器、石を構えるとその中心で指揮を取る化け物の指揮の元、攻撃を開始した
◆◇◆◇◆
「…」
降り注ぐ攻撃が放物線を描く───知恵をつけた化け物の浅知恵、欠陥まみれの作戦を実行により、死角と安全地帯を晒すことになっていた
「『ストーン』」
突っ込んでくる化け物に投石を放ちつつ、続く片手で斬り伏せる。帯状に広がるフォードの群れを否しつつ、魔力を込め始める
「『ファイヤベール』」
一瞬の隙を狙って一面を覆い尽くし進行を防ぐ火の海を通路に展開する
そんな中、視界の外から飛んでくる『一筋の光』に───身を捩り、あれが頭目で間違いないと分かり走り出す
群れの中で最も賢いであろう個体、赤い糸の先で薄ら笑いを浮かべる火の向こうのウィザードゴブリン───C級の化け物がまたも呪文を準備し始めた
「『エアロスラスト』」
火の海を通路の奥へと伸ばし、僕の通り道も同時に作り出した不可視の斬撃は化け物にぶつけるが、本命であるウィザードゴブリンには届かず、肉壁になったゴブリンが庇う形で不発に終わった
「【光弾】」
「『ウォーターベール』」
ウィザードゴブリンが準備を終え、またもや一筋の光を飛ばしてきた。飛翔してくる一筋の光
それ攻撃に対して空中に水の膜の壁を作り出した。光の迫る中、水膜に触れた光弾の起動があちらこちらに軌道を反らせ、接近してくる僕にかすり傷のみを残した
僕は屈み込み、ウィザードゴブリンは焦りからか薄ら笑いに翳りが見えた瞬間
◆◇◆◇◆
ウィザードゴブリンの視界が真っ赤に染まる、同胞を刺し貫き、己の頭に受けた金属の感触と熱、飛んできたのは有象無象の放つ低品質な攻撃ではなくラントの手放した槍により致命傷を受けた
「ギギギ」
命令を出そうとするも動かない口では何ともできず、作戦の要を失った集団、統率の乱れが生まれたフォードの群れに足元を包む火の粉と熱が化け物共を覆った
「『レイズストーム』」
集団を巻き込み上がる火柱が天井に当たると大きく広がり通路全体を包み込み化け物どもを光の粒子へと連続的に変えていった
◆◇◆◇◆
「マジか」
盾を構えていた数分間、視界を遮っていたせいで何が起こったか定かではないものの、目の前に広がる光景を見れば『一掃』が完了したことだけは分かった
「助かりました」
「お、おう」
肩で息を切らしながらそう言うアノスに俺は何とも言えない気分になった
◆◇◆◇◆
「分かった。ここに現れるモンスターは
今までの敵とは格が違うみたいだ
とにかく気をつけろ」
「ありがとうございます」
フォードの一波は凌いだ。後は核を潰せば良いだけになり、ロンさんを撤退させることにした。僕だけだったら押し寄せる波の対処で精一杯だったと思うと『パーティー』の利点を再確認できた
「帰ったら相談したいことが」
「…嫌味か?」
「いえ?パーティーの件で」
「…そうか」
◆◇◆◇◆
「さてと」
ロンさんたちが街に戻って救援やら、破壊許可を受けてくれることを祈るばかりだが
「壊さないと」
僕も僕でやるべきことをしよう。剣の刃こぼれを確認しながら地面に突き刺さった槍を引き抜く、化け物の使っていた弓も無いよりマシなので回収する
「複数の化け物が出てくるとなるとなぁ」
通路を埋め尽くさんと居た化け物の素材を集めていく、細い通路だったものの遠距離が放物線を描けるほどには高い天井を眺める
「迷宮を改造したのか?」
色々と不可解な状況が入り混じる現状に眉を顰める。奥に進むと不快な気配が徐々に色濃くなっていった
体感では何時間も進んだ気がした。格下の化け物との戦い、致命傷にならなければ勝てる戦いの連続戦闘
「中に何がいるんだ?」
今感じているのはそんな生優しい物じゃなかった。戦えば生きて帰れないかもしれない。そう感じる存在が扉の先にいると言う確信があった
下った通路の先、そこにはぶち破られた門───中心に穴の空いた鉄の大扉にドス黒い糸の奔流が溢れ出してきている空間に僕は進んでいった




