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◆◇◆◇◆


「何だその縄」


「あぁ、応援の意味も込めて買ったんだが

 中々良いものでよ」


 冒険者の間で酒の肴になっている話がある


「嵩張らない上に丈夫なんだよ」


 時たま現れる物売りの存在である。手作りした雑貨を不定期に持ち込み手頃な価格と情報で交換してくれるというものだ


「へぇ」


「お礼って安く売ってくれたが

 申し訳なくなるぜ」


「そいつが情弱だっただけだろ」


「かも知れないが感じがいいんだよ」


「何だそれ」


「物売りといえば、最近緊急依頼減ったな」


 物売りの噂と緊急依頼の減少は同時期に始まったため、夜の酒場に活気が戻ると同時にリバレー領内───領内では真やかにある二人組のおかげだという話が出回ったのだ


「子供2人がクラウンスパイダーをねぇ…」


「嘘じゃねぇって」


 兵士と冒険者の夜の宴は今日も続く


◇◆◇◆◇


 街まで移動した疲れと取り調べの所為で疲労はピークに達していた。今日は休もうとティナの提案にアノスは賛成し、2人で宿へと向かった


「すみません、部屋取りたいんですが」


「現在ひとり部屋しか

 空きがございませんが宜しいですか?」


「…」


 ティナが失念していたのは宿の埋まり具合だった。夜間営業が過剰なように見えた街並みもこれでは戦力不足と言って差し支えないだろう


 言ってしまえば今回一部屋でも空いていたのは一重に奇跡と言える出来事である


 受付では申し訳なさそうに

 従業員そう言われ


 ティナはアノスの方を見やるも別段気にしている様子はなく


「お願いします」


「後で追加のお布団をお持ちします」


◇◆◇◆◇


「意外と広いわね」


 ティナが不安そうに部屋に入ってくる。話を聞くに部屋数が足りないためひとり用の大部屋を借りたとのことだった


「ごめん」


「ん?」


 街並みを観察していると僕達と同じように今夜の宿を見つけるのに苦労している団体が何人も確認できた。不意にひとりがこちらを見上げると黒い糸が伸びて来たため窓辺から逃げるように離れる


「屋根があるだけで十分だよ」


「そ、そう」


 野営の準備も考えたけどティナのおかげで雨風が凌げる場所と良い眺めが確保できた。高いというのは虫などの侵入も少ない香を焚くにしても最低限で済むし、万が一奇襲されても対応できる


「ありがとう」


「どうも」


◆◇◆◇◆


 僕たちの案内された部屋は、宿屋の4階の小さな部屋だ。小さな部屋というのも2人で使うにはという点だ。ひとりで使う分には申し分ない広さが確保されている


 懸念点は数多にあるがひとり部屋ということは置かれたベッドはたったの1つだけだということにティナは頬を紅潮させる


「アノス、寝床なんだけど」


「僕はこっちで眠るよ」


 ティナがこれ幸いと添い寝をしようとしたがアノスは宿が用意した毛布と鞄から取り出した寝袋で就寝準備を始めていた


「アノス?」


「ん?」


「一緒に寝ないの?」


「どうして?」


「どうしてって」


 ティナはまたも失念していた。アノスにとって、というよりアーロンの就寝とは『油断の時間』である。3度の日没を目撃すれば判断が鈍る───寝なければ行動に支障を受けるが就寝中は無防備を晒す


「早めの就寝と早めの起床は大切だよ」


 となれば短時間で必要十分の就寝を心掛ける。それがアーロンの就寝である


「兵士かよ」


 欠伸混じりにティナが言った


◆◇◆◇◆


「一緒に寝ようよ」


 く、あの男の教育はことごとく私を邪魔する


「どうして?」


「それが安全だからよ」


 いつまでも邪魔されるだけではない


「どうして?」


「よく考えてみなさい

 一緒に寝れば死角がなくなるのよ!」


 嘘は言ってないわよ


「床を背中に視界を確保すれば」


「いいからはよ来い」


「はい」


◆◇◆◇◆


「狭くない?大丈夫?」


「全然、アノスってあったかい」


「これじゃあ武器が」


「魔法があるから大丈夫、大丈夫」


 そう言って僕を抱きしめるティナの身体は昔と変わらず少し冷たい印象を受ける


 耳元で聞こえるティナの声に柔らかみが混ざり始め、互いを抱き寄せる姿勢はなるほど、体温の保持には最適だ。一緒の布団の中にいるお陰で寒さはそれほど気にならなくなった


「ティナ」


「しのごの言わない…早く寝るわよ」


 ティナに言われるがまま目を閉じる。心臓の音が伝わってくる。一定のリズムで『トクントクン』と伝わってくる感覚は不思議と眠りを誘ってくる


 人と一緒に眠るのはいつぶりだろうか


「アノス」


「何?」


「呼んでみただけ」


「…」


 その呟きを最後にティナの寝息が聞こえ始めた。僕もそれに続いて眠りについた。音が聞こえれば起きれるように、起きれたら武器が取れるように、武器を取れれば視界が確保できるように努めていた時に比べ、遥かに頼りない状況なのだが


「なんか、安心する」


 浅く長いため息のあと、無防備もいいところだが不思議と僕もすんなり睡眠に移行できたのを知るのは次の日の朝日を顔に受けた時だった

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