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◆◇◆◇◆


「殆どの店がしまってる」


「…」


 街を歩く私たちの目に入ってくるのは賑わいとは真逆の寂しい街並みだった。小腹を満たせそうな施設がよもや冒険者ギルドだけとは事態は相当に深刻のようだ


「へぇ、夜間営業に限るか」


「なるほどね

 ギルドの登録を先に済ませておきましょ」


◆◇◆◇◆


 やや小腹が空いたので脇道に何度か逸れたもののその悉くが『夜間の営業のみ』となっており、仕方なく冒険者ギルドに入った


「わぁ」


 外の廃墟通りな街の雰囲気とは相反して冒険者ギルド内は賑やかな様子を見せていた。お昼が近いとはいえビールを浴びる程飲む茹で蛸の様な男の首元を見れば鉄の装飾品が見られた


「アノス」


 ティナに連れられギルドの中心へと向かっていく、外周をぐるりと囲む様に商業施設が立ち並び、その中心にギルド本部が設けられている造りに感嘆の声が漏れる


 なるほど、ギルド内で何もかもが揃うため昼間の内は客入りが不安定なのだろう。賑わいを見せる場所からの客引きは難しい上に見ればかなり安い値がつけられていた


◆◇◆◇◆


「みっともない」


 依頼掲示板の前には、すでに多くの冒険者が押しかけている、その誰もが陶器、もしくは鉄の装飾品、新品も同然なのが分かる


 昼間だというのに、酒を浴びるように飲みながら、顔を真っ赤にしている冒険者の姿は何処か寂しさを持っている。登録だけ済ませるのもありか


 私はカウンターに進むと、受付嬢に向かって話しかける


「すみません

 冒険者として登録をさせて下さい」


「かしこまりました」


 これだけ冒険者がいる朝っぱらだというのに対応しているのはたったひとり、受ける側が不足している可能性が高い、泥舟に乗っている気分だ


◆◇◆◇◆


「この街には冒険者が多いんですね」


「そうですね

 狂暴化した化け物に対抗するべく

 条件を緩和させて頂いております」


 いくつか質問と世間話をしつつ、書類の手続きが始まった


「今後はリバレー領を拠点に冒険者として

 活動されるつもりですか?」


「そうなります」


「今ですと他領域への警護も斡旋しておりますが

 問題ございませんか?」


『警護』───領域間を移動するのは危険がつきまとう天候、疫病、化け物など。それらに対する安全策として天候は雲を読み、薬を設け、化け物には戦力を充てる。危険がつきまとうものの依頼によっては金銭以外のコネが手に入ることもある


「…それは」


「問題ありません」


「アノス?」


「え?」


 僕の言葉にティナが睨みを効かせる。化け物の領域間の移動は危険がつきものだがそれ以上に功績になる。受けない手はないと思ったのだが失敗の様だ


「かしこまりました」


◆◇◆◇◆


 質問が終わり

 受付嬢は水晶をカウンターに置いた


「最後に冒険者ランクを決めたいと思います

 こちらの水晶に、手をかざして頂きます」


「分かりました」


 なんだろう?鉱山からそのまま掘り出された様な見た目の不透明なそれを前に僕が興味をそそられているとティナが最初に触れた


 水晶の透明度が上がっていくと水晶はやがて内側に青と紫色の模様を浮かび上がらせ、不気味ながら美しい模様に変化した


『氷相』───水晶の中には剣の柄の模様が刻まれていた。役割を決める時に見せて貰った大剣の柄にとても似ていた


「…ありがとうございます

 再登録でよろしいですか?」


「いえ、別途での【スキル】での登録を」


 そう言ってティナは銀の装飾を受付嬢に見せていた。受付嬢は少し目を見開いた後、何かに目を通すと陶器の装飾品を取り出し、銀の装飾品と共にティナに返した


「ありがとうございます」


「えぇ」


◆◇◆◇◆


「お待たせ致しました」


「お願いします」


「登録は初めてですか?」


「そうですね」


 この忙しい時期に若い新規登録の冒険者ということは【スキル】が良かったから登録に来たとかだろう


 そういう短絡な思考が冒険者としての寿命を縮めていることを自覚して欲しいものだ。全く


「あの」


「おほん、すみません」


 いかん、いかん。受付嬢としての職務に準じなければそこで飲んだくれてる奴らと同じだ


 カウンターから水晶を取り出し、六花の魔法使いの付き人らしき人の前に差し出す


「ギルド登録にはスキル以外にはあるんですか?」


「はい、ございますよ」


 今日日珍しい質問だ。能力測定中は離れることができないため暇つぶしがてらにその話題にのった


「先ずスキル登録というのは」


◆◇◆◇◆


 ギルドの登録で大切なのは実力と

 もうひとつある


 その中でも実力は昨今の世の中では担保され易い部類であるといえる。それは女神様より賜る【スキル】のせいである


『スキル登録』───儀式により賜った【スキル】を元にギルドに登録をする方式。【階位】の上昇と共に昇格ができることや、手続きが簡易的に済むため、登録の中でも面倒のない一般的な方法


◆◇◆◇◆


「となっています」


「なるほど、その他は何かあるんですか」


「え?はい、ございますよ」


◆◇◆◇◆


『等身大登録』───ひと世代前の登録方法


 スキルではなく総称『アーツ』───所謂実戦経験や知識、貢献に基づいた登録方法


 スキルとは違い規定値が求められ、昇格には試験への参加が必須となる。試験にも筆記や実力測定、面接など双方の面倒を強いられる


◆◇◆◇◆


「主にこの2つが登録方法になります

 近年では等身大登録をされたのは

 それこそ六花の魔法使い様だけですね」


「では僕も等身大登録をお願いします」


「…よろしいのですか?」


 驚いた。てっきり【スキル】で登録するものだとばかり思い込んでいた


「お恥ずかしい話、僕の【スキル】は

 どちらにもつけない性質でして」


 目の前で自重気味に笑う少年に興味が湧いた

 人畜無害な見た目ながら何処か漂う鋭さは

 不思議と人の目を引いていた


 良くも悪くも


◆◇◆◇◆


「それではこちらを」


 受付嬢は陶器の装飾品をアノスに手渡した


「等身大登録とのことですので月の満ち欠けに

 一度こちらから強制依頼をさせて頂きます」


「分かりました」


 受付嬢は不気味に笑うもののアノスはそれに淡々と返事をすると依頼掲示板の元へと行ってしまった


 受付嬢は目を丸くした。というのも『強制依頼』とは階級に属する者にその階級すれすれの依頼を勝手に斡旋されることであり、大抵の人はこれを嫌う


 受付嬢は『警護』といい『等身大登録』、『強制依頼』に嫌な顔ひとつしない少年を不思議に思った


「案外、あんなのが鉛等級になったりしてね」


 等身大登録の最初の試験のための準備を始めた受付嬢はアノスを優しく見守りながら仕事に戻った


◆◇◆◇◆


 私たちが冒険者ライセンスを受け取って手軽な仕事を受けようとした直後、割り込む形で男がカウンターに倒れ込んできた。注意しようとしたものの危機迫る雰囲気に一歩退いた


 軍でもこういうことはよくあることで

 大抵良くない枕詞が挟まる


「た、大変だ!」


 ほらね


「林道から馬が帰ってきた!」


「…早過ぎますね」


 険しい顔をする受付嬢は深くため息をついた


「嫌な予感はしていましたが致し方ありません」


 自体が飲み込めないながら、周囲のただならない雰囲気をギルド全体が放っていた

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