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◆◇◆◇◆


「まぁ当たり前だよな」


 次期領主ゴートン・アーロンは山の様な書類の中から出て来た『アーバレスト家の紋入り封筒』を手に取ると中身を一瞥し、返事を書きしな、ゴミ箱へと放った


 それは神託の儀から数日が経った日の事であり、ゴートンにとっては予想の範疇だったのである。ゴートンにとってそんな当たり前とも取れる報告をわざわざ送って来やがったことに少し怒りつつ、送り主が送り主だけあって苦笑した


 束の間の私事を済ませ、最も頭を悩ませている問題に両手でこめかみを押さえていた


「新しい化け物」


 ここ最近増えつつある新たな化け物の対処により、書類仕事に『討伐』と行ったり来たりの大忙しとなっていた


「ゴートン様」


「何だ、今は…」


「領地内に『腐ったブラッドウルフ』が…」


「場所は?」


「北の小川に…」


 ゴートンはそこまで聞くと、徐に真後ろの窓を開けると、窓枠を力の限り重くっそ蹴り跳び出した


◆◇◆◇◆


 鳥の囀り、気持ちの良い風、辺り一面に広がる草木の絶景の中。ここに1匹のクソッタレ畜生がいる


 自分が腐っていることも知らず、音を頼りに態々化け物の領域からアーロン領までやってくるとその汚らしい口で小川の水を飲もうとした。その瞬間


「去ね」


 静かな着地と同時に片手に持っていたペンを力の限り振り抜いたゴートン。垂れようとする涎と血液の一滴に至るまで【極】【神剣使い】であるゴートンの一撃を諸に食らった畜生はその肉体を強制浄化された


 チリすら残らない一撃に辺りの雑木林が突風に煽られたが如く慌ただしく前後左右に揺れるとやがて何事もなかったかの様に凪いで見せた


「クソクソクソ、また徹夜確定か…」


 ゴートンは苛立ちのあまり大声で叫び散らかした。如何にゴートンが優秀だとしても【極】【スキル】を持っていたとしても彼は『人の子』であり、『ひとり』である


「ふっふっふ。いっそのことこの地を

 更地にでもしてやろうか?」


 眠気、やる気、根気の限界に達していたゴートンが誰もが聞いたら卒倒しそうなことを独り言で呟いていた。不気味な笑い声が辺りにこだまするなか


 ひとしきり笑ったゴートンは『スン』となり


「帰ろ」


 自分の屋敷へと帰るのだった


◆◇◆◇◆


 千鳥足で到着したゴートンは扉を開けて屋敷の中へと入った


「私を待たせるとは」


 何処か偉そうな身なりの男がそこにいた。お久しゅうと言われたところで現在のゴートンでは何が何やらと言った様子だった


「どなたですか?」


「…アーバレスト家から使いとして参りました」


「あぁ、破談の件ですね。こちらにどうぞ」


 霞む視界に見知らぬ来客、眠気の往復ビンタによりゴートンは淡々と接客を始めた。本来ならば使用人などが対応をする茶や菓子、応接間の準備などの準備を終えると静かに席に座って茶菓子を食べ始めた


 もうメチャクチャである


◆◇◆◇◆


「失礼ですがアーロン様

 最後にお休みになられたのは…」


「つまらん話をしに来たのなら帰れ

 俺は忙しいんだ」


 ただならぬ雰囲気、もりもりと菓子を食べるゴートンは『ただ』使いのものを睨んでいるのにも関わらず空間自体が身震いを起こしたかの様に震え出し、窓硝子にヒビが入り、床には亀裂と大凡普通ではない様子を見せていた


 使いのものは自分の非礼を詫び本題に入った


「り、両家での話し合いをしまして

 縁談の件なのですが」


「解消だろう、わかっている

 それだけなら、足労感謝、出口はあちらだ」


「喜ばしいことに

 アノス様ではなくゴートン様との

 縁談に…」


 ゴートンはそこまで聞くと菓子を持ち上げていた手を止め、茶を一口飲んだ


「アノス兄さんではなく、俺に?」


「はい、我々の協議の結果」


「俺に?」


「え?あ、は…」


 使いのものの言葉を待たずに空中で静止していた手が消えたと同時に壁にめり込む菓子、耳元を通った菓子により抉れた抉れた耳たぶから血が滴り落ちる


「いッ!!!?」


「おい」


「え?」


 音もなく割れたティーカップ


「ひとつハッキリさせておこう」


【極】【神剣使い】───その剣撃は山をも更地に還す。しかし、極に達した者はその一撃を自在に操り自身が悪と決めた『標的』のみを灰燼に帰す。代を経るごとに神剣とは名ばかりに【武芸百般】にその力は宿る。その『拳』にさえも


 静かに足を組んだゴートン


『貴様らのくだらん政治ごっこに

 付き合うつもりは毛頭ない』


「ごっこ!?」


『俺は忙しいんだ

 血税で歩けないほど肥え太る暇があったら

 兵でも派遣しろよ、穀潰しめが』


「ッ…」


「フィフシャ、客人がお帰りだ」


「はい」


 何処からともなく現れたメイドが使いのものを摘み上げると部屋から出ていった


「…」


 人ひとりいなくなった部屋の中で両目をつぶった。肥え太った醜い肉塊がいなくなりゴートンは大きく息を吸い、深くため息をつくと誰にいうでもなく独り言を言った


「アノス兄さんが追放されたと

 何処からか聞いたティナの姉君から

 即手紙が届いた、それも何通もだ」


 ゴートンは苦笑しながらゴミ箱の中に捨てた手紙を眺めて、微笑んだ


「皆一様に

『ティナとアノスの幸せを願う』内容ばかりな」


 ゴートンは独り言を終えるとその場で仮眠を取った。夢の中には何もなかったものの、とても幸せな時間を過ごしたのだった

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