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野営中、月の下で剣を振る
最近アーロンの剣を使っていないため剣先が鈍らないか心配になってのことだ。しかし、振ってみて気がつく、そんな心配は杞憂だったことに
「寧ろ剣が手に馴染む?」
一振り、一振りに力が籠る───無闇矢鱈な一撃ではなく、有効打となり得る程の一振りが幾度となく虚空を穿った
「これも【デバッグ】の効果か…」
研鑽の日々が虚しくなる程の急成長に少し寂しさを覚える。しかし、これで化け物への攻撃に問題がないことが分かっただけ安心できるというものだ
「アノスぅ?」
「え?」
ティナに睨まれた。僕は何か変なことをしているのだろうか?
「どうしたの?ティナ」
「…まぁいいわ」
ティナの呆れた微笑みの意図が汲み取れず頭を傾げる。もしかするともっとやるべきことがあるんじゃないかと考え、数刻前のティナのあの行動に僕は自分の行動を改めた
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「…」
とは言ったもののどうしたものかと考える。後衛としての役割をこなす場合僕の使える武器は『魔法』が一番に挙げられる
「でも、違うんだよな」
『魔力、威力が足りてない』
「そうなんだよな」
僕が薄々感じていた弱点を【デバッグ】が的確に教えてくる。僕は魔法が使える───それは『使える』だけで本職の魔法使いには遠く及ばない
「何かないかな」
弓や自動弓など一通り扱えるものの手元には生憎とその手のものは持って来ていない。僕の足りない威力の補助を求めて鞄の中を改めた。食料品や日用雑貨の他に少し懐かしいものが出て来た
「ボーパルスライムか」
単体でB級以上になった化け物からは、しばしば特殊なものが手に入る。ボーパルスライムもその一種で彼らの進化の証である『ボーパルスライムの皮膜』───ボーパルスライムの攻撃性の要であるあの瞬発力と防御性の弾力は皮膜によるものである
ティナがしめてくれた『それ』は奇妙なことにかなり伸びるものの決まって元の形になった、どれだけ伸ばそうとも決まってスライムの形に戻った
「だからって『何の役に立つんだ?』」
手持ち無沙汰な僕はひとしきり皮膜を伸ばして遊んでいた時ふと
「このままだと長いな」
剣を抜き、皮膜を裂いた。手頃な大きさに裁断していくと予備までできたのは喜ばしいことだ
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「『ストーン』」
アノスは手頃な石を生み出すと『投石器』に包み、それを勢いよく回し然るべきタイミングで弾き出した
爆ぜる様な音と共に弾き出された石は決して遅くない速さで飛翔すると、その先で木にめり込み、樹皮を叩き割り、幹に僅かな傷を残した
「良くてB級には通用するかな」
手で振り回すだけで、そのまま射出した時と遜色のない一撃が繰り出せた。自然のものと活用できれば魔力の温存は問題ない
「残る課題は威力か」
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昔、父上と狩りに出た時に教えられた生き残る術を思い出しての工作だったが思いがけず上手くいったのが嬉しくなった
「懐かしいな」
父上が教えてくれた狩の方法、枝の先に止まる鳥を撃ち落とすにはと徐に脱いだ服で石を包んだ時は何事かと思った次の瞬間、鳥は地面に落ちていた衝撃
「物知りな人だった」
気がつけば父上との狩はめっきりなくなり、ひとりで狩りをするのが日課になった。その頃からだろうか?増えた使用人との交流が始まったのは
「また昔みたいに戻れたらいいな」
モンスターの素材から、生み出した新たな武器を前に僕は永遠の思い出に耽りつつ眠気がやって来たため、魔力の回復と思考の整理も含めて眠りについた
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「…」
昨日の剣術鍛錬から何があったのかと目頭を押さえる
「おはようティナ」
「うん、おはよう、うん」
アノスが変なものを作っていた
見れば分かる『ボーパルの皮膜』だ。伸縮性は利用した『スリング』だ。問題はそこではない
『瑠璃等級』【ストーンバレッド】───礫を召喚し射出する基礎的な魔法、人体に裂傷を与える威力も出すことのできるが専ら牽制としての側面が強い
速射性、連射性ではやや劣るものの威力は遜色ない上に命中精度は明らかに勝っていた
「まるで斥候ね」
変な着地の仕方をしたものの『様になっている』のでこれ以上何も言わないことにした。後衛であったとしても自分の身が守れるだけで前衛の負担がグッと減るのだから
「喜ばしいことなのに」
奇妙奇天烈摩訶不思議───なぜその発想に至ったのかまるで意味が分からない。そこが不思議と可愛いところでもあるのだが何とも言えない気持ちに空を仰ぎ見た。雲が流れるいい日和だった
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「アノス?」
「どうしたの?」
「何やってるの」
アノスの突飛な行動は別に不思議ではない、あっちにふらふら、こっちにふらふらと子供の時から何をするにも短時間で終わらせ、手業の素早い子だった
縁日に連れて行こうものなら出禁になることもあったのが懐かしい。しかし、明らかに昨日の夜から何故か物作りに傾倒しているのである
「何を作ってるの?」
「クラウンスパイダーの糸でちょっとね」
「そんなの何処で」
「駐屯地の兵士の人に貰ってね」
C級の素材は確かに売れるけどもなんで物を寄越してんだあいつら
「クラウンスパイダーの糸なんて何に使う…」
相変わらず手先が器用だなと関心を覚える。目で確認できないほどの極細の糸を手で集めて一纏めにすると見る見る内に丈夫な綱ができていた
「そんなの何に使うの?」
「探索かな、先っぽにつけるもので色々使えるよ」
アノスがめちゃ嬉しそうで誇らしそうだった




