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『リバレー領』に向けた歩みは順調そのものだった。林が終わり見通しの良い開けた道に出ると警戒もまた緩やかに解けていった
というのも僕の目に映る景色には敵に当たるモノからの『意識』が【可視化】されているおかげで無駄に気を張る必要がないのも一つの要因だった
「アノスの役割は…」
ティナは僕が冒険者になるに当たっての役割を考えてくれていた。クラウンスパイダーとの戦いでこの【スキル】の弱点が分かった
それは味方への攻撃は予見できないところだ
「ティナ」
「ん?どうしたのアノス?」
僕は思い切って言った
「僕は後衛の役割に着こうと思う」
「え?急にどうしたの?」
「クラウンスパイダーとの戦いで
分かったことなんだけど」
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「なるほど」
アノスはいつぞや話していた『糸』について話してくれた。確かにと思う節がなくもないため納得せざるを得なかった
「となると前衛が欲しいわね」
「他の人に頼むのじゃダメ?」
「ダメじゃないけど」
何と説明しようか、アノスの魔法はどれも手数が売りのモノばかりで前衛としては一撃重い物で戦況を有利に進めたい現代戦では好ましく思われない
金銭で雇った仲間との不和が生じる可能性も考えるとやはり前衛が好ましいのだが───不安そうにするアノスが口を開こうとするのに先んじて私は言った
「モノは試し…ね」
「?」
今ない不安を考えるよりも先に試してみることにした。埃を被っている私の【スキル】も使ってあげなければ腕が鈍るというモノ
アノスの戦い方を見ていたら───軍にいた頃、考えもしなかった『剣が振るえる魔法使い』どっちつかずの半端者の代名詞たるそんな形も悪くはないと不思議と思えてきた
私はいつも触媒として使っているある物の『名』を口にした
『消え入りそうな声で唱えた』
「【氷◾️相◾️】」
何もない虚空を掴みその名を告げる。掴んだ動作から腰へと手を動かし目を閉じる───あたかも剣がある様に振る舞う
◆◇◆◇◆
「え!?」
僕はティナが何をしているのか理解できずに眺めていると、虚空を掴んでいた筈の手のひらから氷柱が徐々に伸びて行き、剣の形へと変形すると不恰好な剣が腰に据えられた
ティナはそれを抜剣すると両手で天高く掲げ、地面へと突き立てると氷塊に過ぎなかった氷柱の中から恐らくは大剣が姿を現した
え?知らなかった
「ティナって『寵愛』持ちだったの!?」
「あれ?見せたことなかった?」
「…」
ティナが一旦手放した柄に見覚えがあり剣の柄を掴み徐に引き抜いた。すると先程は地面に深々と刺さっていたがために見えなかった大剣が青空の元に姿を現した
「あ!久しぶりに見た」
「でしょ?」
僕はそれを眺めているとふと思い出した
「うん、あの時は確か直剣だったけど」
幼い頃に見た剣に似ている。刀身は刃の部分が透明、剣の腹は金色と芸術品を思わせる直剣、太陽と氷山の様な見た目だったため、今の大剣とは似ても似つかない見た目に困惑したのだった
件の大剣は刀身が不透明で、剣の腹は太陽の光を反射する黒曜石の様な見た目をしていた
不思議な物だ、魔法による武器の錬成とは違う『寵愛』───万物に与えられる【スキル】とは違い選ばれたものにしか発言しない特殊な『何か』
これを
『神からの贈り物』と教会が定め『寵愛』
【スキル】同様名前を呼ぶことで使える代物である
ティナは清々したと言わんばかりに首元の銀の装飾を外すと大剣を水平に構え、『氷相』を虚空へとしまった
「それじゃ、リバレー領に向かいましょ」
「?うん」
この時、何故彼女がこの行動を取ったのか後になって知ったのだが指輪の時といい、ティナのこの思いっきりの良過ぎる韜晦っぷりには驚かされるばかりだ




