10
「スライムだ」
「スライムだね」
僕は鞘付きの剣を取り出し、スライムへと向かう。その時漂う糸の色が黒から赤へと変色し、僕の目の前に伸びてきた
『何か来る』
僕は赤い糸を手で払いのけ視界を確保しようとした時、手の甲が何か柔らかい物に触れたことが感じられた
「うわっ!」
顔のすぐそば、耳を掠める寸出の位置でスライムが横切ったのが見え、次の瞬間にはスライムは氷塊に包まれ地面に転がっていた
「ボーパルスライムだったかぁ」
『ボーパルスライム』───群体を成す通常のスライムから変異した個体、同種にはアシッド、スノー、カモフラージュなどがある
見た目こそ変化が乏しいものの通常個体がAに対し、こちらは単体でもBとその脅威度は確実に上昇している
ボーパルは跳躍力、瞬発力、弾力の向上が確認されており通常個体に対して通用する攻撃の殆どに耐性を有する様に変異している
ティナがスライムを氷でしめていた
◆◇◆◇◆
「よく分かったね」
ボーパルスライムは急所を的確に狙ってくる化け物だが、その見た目が判別し辛い、見た目と速さにより初見で見抜くのは至難の業な筈
しかし、アノスはそれを手で否した、跳んでくるのが分かっていた様にスライムの側面を手の甲で逸らしスライムは空中で無防備になった。私はそれを氷結させるだけでよかった
「ありがとうティナ」
「う、うん」
◆◇◆◇◆
街道の側に木々が増えてきた。視界の確保が難しくなり始め僕は剣の柄に常に手を置く様になった。それというのも先程から黒い糸がそこかしこに張り巡らされていた
僕に伸びてくる糸は一本も無いものの、何とも不気味な光景に警戒せざるを得ない状況になっていると不意に低く唸る音が聞こえてきた
「ホーネットの羽音がするね」
「え、あ、確かに」
黒い糸の正体はホーネットから伸びていたものだった。縄張り意識の高い昆虫だし、刺激しなければ問題はないだろう
「アノス」
「ホーネットハニーを取るのには時間が掛かる
からまたいつか」
「そんなぁ」
◆◇◆◇◆
時間稼ぎも無駄か、根っこに染みついた領主の役割に準じるその姿勢は病的とも言える。あの男は周りの人間が全部駒にでも見えてるに違いない
「『ファイアボール』」
「アノス!?」
「『ウォーターベール』どうしたのティナ?」
それにこの子ときたら
「アノス、チームで動いている時はまず
何をするのかをチームに教えて」
「ごめん」
「次は気をつけて」
時折見せる単独行動の癖が強い───アーロン家の精鋭は集団行動にあまり向いていない節がある。それは隊列を成す時の弱点である役割の欠点を単身に注ぎ込むことで最少小隊とする力業の弊害だ
「ティナ」
「何?」
「ありがとう」
「どう致しまして」
あの男にあの女がついたことで病的なまでの『最少小隊』に多少の緩和が成された
あの女───アノスの母親のおかげだろう
◆◇◆◇◆
「そう言えばアノスはギルド登録には
何の役割を登録するの?」
「どういうこと?」
やっぱりか、と目頭をつまみ、話を始める
「アノス、あのね」
『冒険者』───依頼の報酬や様々な素材を売買することで生計を立てる集団が軒を連ねる場所である
ギルドと呼ばれる自警団的なことから危険な化け物を倒すに至るまで多岐にわたる仕事を扱っており、その特性上木端の集まりになり易い
現に小競り合いや喧嘩が絶えない建物内ではそれぞれが役割を持ってことに当たることで軋轢を最小限に済ませているのだ
「アノスは他人に剣を預けられる?」
「僕の剣を?」
「そう、あなたの剣を」
「素手で戦うのは骨が折れるね」
「何を想定してるのよ」
例え話が通用しない
「アノス、ギルドは身体よ」
「身体?」
「そう、組合は脳、私達は手足
それぞれの役割があるの」
「なるほど」
「手は道具を扱う様に
足も歩くことでそれぞれの役割をしてるの」
アノスの経歴を考えると没落貴族みたいだ。それなら魔法に専念させれば良さそうに感じるが
「改めて考えると難しいわね」
アノスの戦い方は『魔法』と『剣士』の両極端に位置する役割、前衛と後衛を担うのは衝突を招き兼ねない
「いっそ非戦闘員」
アノスが気まずそうにした。実力がないため後方に下げられる案が出たと思われたのだろうか
実際はその逆だ。何でもできるが故───前にも後ろにも裏方にも回しづらい、これが高階位ならいざ知らず、ぽっと出の人間ができると言っても信じて貰えるとは思えない
「ネックはスキルね」
「やっぱり…」
「違う違う」
【デバッグ】───術書にも記されていない不明、不発スキル、役割を分担する際にもこれの名前を出していれば先ず間違いない
大雑把に分けたとしても
【鑑定】なら裏方で通せる
【盾術】なら前衛に
【法術】なら後衛と悩まず動けるのだが
「無難に前衛かな」
ティナは引きつった笑みを浮かべた
「いっそ新しい役割を登録するのも」
◆◇◆◇◆
そんな調子で街道を突き進み、辺りの雰囲気が一変したのを感じた。クラウンスパイダーの縄張りに入った様だった。数人の兵士がモンスターの監視に付いており、緊張した空気が流れている中、僕は見張りの兵士に声をかけた




