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「アノス・アーロン様のスキルは
【デバッグ】です」
目の前に居る神父が戸惑いつつもそう言った
『神託の儀』───女神様から授かる特殊な力【スキル】を授かる神聖な儀式。満12歳の少年・少女を集めて、最も女神様に近い場所、教会でスキルを授かる神聖な儀式だ
授かることで経歴に関係なく【スキル】に見合った経験や技術、知識を身に宿すことになる。たとえ宿屋の娘であったとしても【剣姫】になった暁には徴兵されることになる
スキルとはそれ程までに生活を超えて人生に絡みついて離れない存在なのだ
僕───アノス・アーロンはアーロン家の長男だ。今受けている神託の儀で
【次期領主に相応しいスキル】を
望まれていた存在だった。益々激化する化け物との戦争に求められている戦いに役立つスキルだ
それなのに…
◆◇◆◇◆
「やはり男たるもの、剣を扱えないとな
アノスよ【剣聖】を必ずや授かるのだぞ?」
「何を言ってるんですか?
これからの時代は魔法です
【知識の真髄】ですよ」
僕の両親は僕がどんなスキルを授かるか楽しそうに話していた。有用なスキルを手にすることを疑っても居なかった。それは僕も同じだった
それなのに
◆◇◆◇◆
「デバッグ?それは一体どんな
スキルなんですか?」
僕は聞いたこともないそんな【スキル】に首を傾げた
「申し訳ございません
聞いたこともないスキルです
術書にも載っていないスキルですので」
目を泳がせ言葉に詰まり、濁す神父
「す、スキルを発動してみます」
嫌な汗が額からこめかみ、頬を撫でた。聞いたことのないスキル───術書にも載っていないとあって嫌な予感にしどろもどろになる
そんな嫌な予感を振り払う様に僕は
「【デバッグ】」
祈る様に呟いた
種類によって発動条件の異なるスキルだが大抵は『スキル名の発声』でスキルそれ自体が何かしらの反応を示してくれる
「これはどう言うことだ?」
祈る思いも虚しく、何も…起こらなかった
「アーロン家の長男は
スキルを授からなかったのか?」
「なんじゃそりゃ?
アーロンの家系に限ってそんな」
「間違いない
久々に見るが───外れスキルだ」
僕の耳に届く声が徐々に不快で、批判的な内容に変わっていくのが聞こえた。化け物との戦いの最前線に立ってきたアーロン家
今も激化する戦火、その次期領主となるはずの長男が、よりにもよって外れスキルを手にしたという衝撃、絶望は瞬く間に聖堂に広がっていった
僕は儀式を見守っている両親を見ることができなかった。きっと失望している。何もできないスキルを手に入れた僕は今までがどうであれゴミも同然だ
「兄さん、終わったら退いてください」
茫然自失とする僕を他所に弟が神託の儀に挑んだ
◆◇◆◇◆
「ゴートン・アーロン様のスキルは
【極】【神剣使い】…です」
神父が祈りを終え弟のスキルを確認した時、興奮のあまり息を呑みひれ伏した。いや僕を含めて皆がひれ伏した
それは【階位】の位を持った世界に数人と居ない【スキル】持ちが目の前に現れたからだ
『スキル階位』───スキルは本来使い続けることで【階位】を上げていく、しかし極稀に階位自体を付与されたスキルを授かることがある
僕の弟が手に入れたのは【極】
階位の中でもその中でも実質的な最上位のものだった
「ゴートン!おまえはアーロン家の誇りだ!」
父上が叫びながらゴートンに駆け寄った
「母上、僕は…」
母上は何も言わず、僕の傍を抜けるとゴートンの元に向かい優しく微笑んだ。嘘だと、言って欲しい
外れスキルを授かった僕のことなんて、もう
『存在すらしてない扱い』だなんて
◆◇◆◇◆
「外れスキル持ちなどアーロン家の恥さらしだ!
すぐに出ていけ!」
家に帰るなり、父上は僕にそう叫んだ
窓硝子を大きく揺らす大声、怒声
「その通りだ…
兄さんの代わりに俺がこの家を継ぐ」
さらには弟のゴートンは『心底呆れた』という『冷たい』表情で僕を眺めて、そんなことを言った
心臓が張り裂けそうだ
こんな所に長く居てはいけない
父上に進言する間もなく突き放された僕は
自室に向かい荷物をまとめた
◆◇◆◇◆
「これまで、お世話になりました」
出発の時、今まで僕に支えてくれていた使用人は皆顔を伏せ、何も返事をしてくれなかった
もう僕は存在していないんだ
手に掛けたドアノブを握り締めると今まで過ごしてきた記憶───アーロン家の名に恥じない人間になろうと身につけた教養も、血反吐を吐くような思いで磨いてきた剣の腕。視界に映る僕の腕に残る鍛錬の傷と共に思い出された
やけに重く、回らないドアノブを前に視界が歪む、それでも力を込めてドアノブを回した
僕はここにいてはいけない存在なんだ
僕、アノスはアーロン家を追放された
読んで下さりありがとうございます
「面白かった、楽しかった」
「続きが気になる」
と少しでも思ってくださる内容に
仕上げれる様、精進して参ります