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A.C.T アクト:謎の大学サークルに依頼した件について  作者:
Case2 友人の秘密の件について
7/12

決断

え、いきなり俺主体って言われても何も知らないよ?

何度も辻さんに視線でSOSを送るが、無視。淡々と書類を揃え、準備を進めている。


「ちょっと待ってください」


PC画面に映される表の中から、依頼者「星野舞」の名前を見つけ出す。クリックすると、詳細が浮かび上がった。

――依頼内容は、友人・斎藤ルカの生活実態を調べてほしい、というもの。


「その・・・この依頼内容はどういうことでしょうか?」


星野さんは少し戸惑いながらも口を開いた。


「はい、その・・・友人とは、美術系のサークルで知り合って仲良くなったんですけど、気になる点がいくつかあって。例えば、大学の講義には出ていないとか、バイトを4、5個掛け持ちしているとか・・・いかにも大学生活を疎かにしている部分があるんです。そう言うとこでお互い距離感があるのは、すご嫌なんです」


タイプ音を響かせながら証言を記録する隣の辻さん。話すペースを伺いながら、また口開く星野さん。


「あと、もう一つ気になることがあって・・・その学生証を見せるタイミングで、いつも動揺するんです」

「学生証? 何か見せられないことがある?」


星野さんは小さく頷いた。


――講義に出ていない、バイトを掛け持ち……授業料? いや、でも。


「もしかしたら・・・」


辻さんが、突然言葉を挟む。


「・・・その友人、正式な大学生じゃないかもしれないです」


「え!?」「え!!」


俺と星野は同時に声を上げていた。


*  *  *


依頼人からさらに具体的な情報を聞き出し、知人リストや関係性を整理していく。

状況を把握した俺たちは、星野さんを見送った。


部室には辻さんと二人きり。


そのとき、不意に腕を掴まれた。ぐっと力強く引き寄せられる。


「何ですか!?」


「憶測だけど聞いてほしい。さっき、警察手帳をつけた刑事らしき人物が何人か大学構内にいた」


耳打ちする声量で、とんでも無い情報を突きつけてくる。


「は!? 何言ってんですか!?」


「星野の話を聞いて何か思わなかった?」


「何をです?」


「おそらく、友人・斎藤ルカさんは正式な大学生じゃない。もし不正的な入学だとしたら、警察が動いているのも辻褄が合う。それか……掛け持ちしているバイトが……やばいものだったりして」


「それは、これから調べないと。勝手に人のことを決めつけるなんてできません!!!」


鋭く、叱責を込めた声を突きつける。

嬉しそうにしていた辻さんの表情は、一瞬にしていつものポーカーフェイスに戻る。


「つまんねえな!!」


「事件に発展させたいんですか? 辻さんは」


「じゃあ、お前はどうやってこの件を調査する?」


辻さんは吐き捨てるように言い、視線を奥の個室へ向けた。

そこには見慣れない縦長のダンボールが、壁際に置かれていた。


「そういえば、そのダンボール何ですか?前なかったですよね?」


いきなりダンボールを蹴り上げる辻さん。

ドンッ!

比例して、中で蠢くように揺れる段ボール。


「うわああああああ!!!」


込み上げてくる恐怖に、情けない、腑抜けた俺の声が響く。


「うるさい、マーモットか、お前は!!!」


「いや、何か動きましたよ!!!」


辻はニヤリと笑い、余裕の表情で俺を見下ろしたあと――声を張り上げる。


「出てこいよ!!!」


しばらくの静寂。

次の瞬間、段ボールがごそりと揺れ、恐る恐る手が伸びてくる。


「の、呪いだ!!!」と声を荒げたが、出てきたのは、メンズの服装に、キャップを深く被った黒髪ショートヘアの女性だった。年はおそらく俺と同じ大学生だろう。



いや、待て。星野さんに見せてもらった友人の顔写真と似てる。この人が・・・斎藤ルカさん!!!


「辻さん、ここにいるって知ってたんですか? いつから?」


「トイレから戻るとき、人の気配を感じた。でもまさかあなただったとは」


辻さんが、確認するように鋭い眼差しを向ける。

斎藤さんも負けまいと睨み返す目つきをしている。


「・・・私が斎藤ルカだったら、どうするって言うんだよ?」


「話が早い。俺たちの会話は聞こえてたはずだ。俺が話していた警察との関連、推論は合ってるのか?」


一歩歩み寄る晴人。

ルカは黙り込む。唇が小刻みに震え、本心を話すか迷っているのが見て取れた。


「なあ、俺たちは人助けサークルだ。何かあれば相談に乗る」


考え込む様子の斎藤さん。


「じゃあ、ここから私を逃す手伝いをしてくれ。お前らの言うとおり、私、警察に追われてる」


部屋の空気が一瞬にして張りつめる。

俺は凍りついた。

警察に追われている女。その逃亡を手助けする――?

そんなことをすれば、俺たちまで犯罪者だ。


辻さんがゆっくり振り返る。


「高梨さん、どうする?」


どうする? 本当に。

斎藤さんを警察に差し出せば、それで終わる。

だが、彼女の表情には言葉以上の事情が滲んでいた。


「と、とにかく警察と話をすべきでは?」


「そんなの絶対嫌!!!」


白い額に深くシワを刻み、ルカが怒声を浴びせる。


「相手は警察ですよ? 俺たち素人が手助けして、逃げられるようなもんじゃない!!」


「頼む。今は捕まるわけにはいかないんだよ!!!この通りだ!! 頼む!!!」


深々と頭を下げる斎藤さん。


ドンドンドン――。

突然、部室の扉が連続して叩かれる。


「すいません!! 誰かいますか!?」


声は一見穏やかだが、妙な圧がある。

警察か、それとも大学の職員か。


「とにかく斎藤さんはダンボールの中に隠れて!! 辻さんは知らない風を装ってください!!」


焦燥で滲む汗。辻は小さく頷いた。

斎藤さんが再び段ボールに潜り込むのを確認して、俺は深呼吸をしながら扉を開けた。


ゆっくり開けると、扉の向こうには中年男性が3人。


「何でしょう?」


「少し、斎藤ルカさんのことで話がしたいんだけど、いいかな?」


「あ、はい・・・」


前に立つのは穏やかそうに笑う男。だが、その後ろに控える二人の鋭い目つき――一おそらく。


3人の男性が押し寄せて入ってくる部室。今は段ボールに隠れている斎藤さんを含んで6人がこの部屋に入っている。暑い夏の上に、むさ苦しい空気感が流れ込んでくる。


重い扉が閉まると、後ろの大人たちが一声上げた。


「いきなり入ってきてすいません、実は私たちこういう者です」


二人が警察手帳を開く。

本物の警察だった。

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