表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
A.C.T アクト:謎の大学サークルに依頼した件について  作者:
Case1-失踪した女子大学生の件について
4/12

真実-宮崎優香編・最終回

挿絵(By みてみん)

↑咲白さん



「もう、宮崎優香さん、亡くなってますよね?」


「……は?」


「何を言ってるんですか?」


咲白さんの言葉を疑った。

だが、彼女がふざけていないのは分かる。真っ直ぐに突きつける眼差し――睨みを効かせた視線は、俺の隣に座る古谷隆へと向けられていた。


「え? そうなのか?」


黙り込む隆。頬を伝う汗は、暑さのせいではない。


「なんで亡くなったと思うんですか?」


隆は平然とした声で返す。

やはり咲白さんのハッタリか――少なくとも、隆の横顔からは嘘をついているようには見えなかった。

それでも、咲白の強張った表情は変わらない。


そのとき、隣で静かに座っていた辻晴人が口を開く。


「聞いたんですよ。写真部の武田裕二さんに。古谷隆さんに口止めされていないかどうか。そしたら、この通り……写真部の武田さんは知ってるのに、友人の高梨さんには話していなかったわけです」


――あいつが!?

俺の中で描いていた冷静さは、一気に揺らぎ始める。


「どういうことです?」


「私、宮崎優香さんの母親に会って、初めて彼女が亡くなったと聞かされました。依頼を受けたとき、亡くなってるはずの宮崎優香さんを探すように言われていたので……古谷さんか高梨さん、どちらかが嘘をついてると思ったんです」


次の瞬間、隆は立ち上がった。

椅子が大きな音を立てて倒れる。


「江、こんな奴らの話を聞く必要はない。もう行くぞ」


隆は俺の二の腕をつかむが、咲白さんが声を張り上げて引き止める。


「まだ話は終わってません!!! 何があったのか、本当のことを高梨さんに伝えたらどうですか?」


その言葉を皮切りに、隆の本性が見え始める。

俺の目に映る彼の瞳には、生気がなかった。震える口元――


「隆……?」


俺がそう声をかけたとき、あの頃の隆はもういなかった。

鋭く筋を入れた剣幕には、憎しみが募っている。


「お前のせいだ……」


「え?」


「お前のせいだよ!!!」



*  *  *


あの日起きたことだ。

俺(古谷隆)を含む他の連中らは気づかなかった――江が、どれだけ抱えていたのかを。

ワイワイ盛り上がる打ち上げの大学生たち。

テーブルにはポテト、唐揚げ、野菜などの大皿が並び、みんなジョッキで酒を飲み干していた。


次第に声が大きくなる中、思い切り机を叩く江に、視線を向けた。


「お前らさ、何もわかってないよな。全部、全部俺にやらせて……“頑張ってる”“頑張れ”の繰り返し……もううんざりなんだよ……」


そう言って席を立ち、その場を後にする。

――あいつに、頼りすぎていたんだ。


居酒屋の扉が閉まる音と同時に、白杖を持って席から立ち上がる宮崎さん。


「江、待って――」


「お、おい! 宮崎さん!!」


「ごめんね、江!!」


彼女の横顔は儚げで、瞳には涙がにじんでいた。


「宮崎さん!! まだ彼はこの近くにいる。探しに行こう!!」


冷えた風が頬をかすめる夜。

俺たちは必死に江を探した。居酒屋からかなり離れても、それらしき姿は見つからない。


「すいません!!」


時々、彼女に呼ばれ振り返る。

白杖を握ったまま駆け足で走る彼女――だが、足元の段差に気づかず、大きく地面へ倒れ込んだ。


「宮崎さん!!!」


急いで駆け寄る。手の傷を見て、無理をさせすぎたと自責の念に駆られる。


「私のことはいいので、江を探してください!!」


「でも……」


「私は大丈夫ですから」


焦点は合わないはずなのに、優しい笑顔が目に映った。

その強い言葉を信じ、俺が立ち上がろうとしたとき――視界に、江の後ろ姿が飛び込んできた。


「江……」


「え?」


宮崎さんも白杖を握り直し、崩れた姿勢を起こす。


「江!!!」


その声に、信号を渡ろうとしていた江の足が止まる。だが、それはほんの数秒。

再び歩き出す背中を見て、宮崎さんは大きく一歩踏み出し、駆け出した。走り出していたんだ。


もちろん、それが危険だとは分かっていた。

だが全速力で追いかける彼女を見て、俺は動けなかった。


手を伸ばした瞬間――大きな衝突音が響いた。


「宮崎さん!!!!!!」


視線の先には、血だまりの中で横たわる彼女。

軽自動車の運転手はパニックになる。

江はその場に佇んだまま、命が消えていく光景を受け入れられずにいた。


「おい!! 江!!」


そのまま江は膝から崩れ、地面に頭を打ちつけて倒れた。

何度も名前を呼んだが、気絶していて、それ以上の反応はなかった。


――つまり江。お前は、宮崎の命を奪った罪悪感で、一部の記憶を強制的に失っていたんだ。


*  *  *


そのことを江の前で話した今――

あの時と同じように固まった表情が、俺の目に焼きつく。


「なんで本当のこと、話さなかった?」


「……彼女を止められなかったこと……責められるのが怖かったんだ。だけど、よく考えたらお前のせいだよ。お前が宮崎を見捨てなければ!!!」


俺は勢いよく、江の胸ぐらをつかんだ。


「古谷さん!! 古谷さん!! おい!!!」


もう止められない。何度も拳を振り上げ、顔面に全力で殴り入れる。

だがすぐにサークルの仲間に押さえつけられ、身動きが取れなくなる。


そのとき突然、江は高らかに発狂し始めた。

喫茶店中の視線が一斉に向けられ、現場は混乱状態となった。



*  *  *


どれくらいの時間が経ったのか覚えていない。

混乱の中、どこかで生きてると思っていた彼女はもういない。

携帯を開くと、優香と寄り添う写真が目に入る。

これは大学の文化祭のとき、俺(高梨江)が彼女への気持ちに気づき始めた頃の写真だ。


絶望を背負っているはずの彼女――それでも真っ直ぐに生き続ける彼女が、俺は好きだった。


思い出すたび、込み上げる涙は止まらない。


「体調の方はいかがですか?」


優しく声をかけてくる咲白さん。

彼女の手には紅茶のペットボトルがあったが、反応する気力もなかった。


彼女は静かに、隣のブランコに腰掛ける。

夕方まで聞こえていた子どもの声は午後5時を境に消え、今は静寂と遊具だけが残っている。


「あの……私の話を聞いてもらえますか? 聞き流すだけでも構いません」


了承も待たず、彼女は話し始めた。


「私、見た目の通り……元々バンドやってたんですよ。ある人とバンドを組むことになって……その人をタケルとしましょう。

音楽やってる人たちって、有名になりたい気持ちが強いじゃないですか。私はただ音楽を楽しみたいだけだったから、よく否定されました。でも、私の音を理解してくれたのは彼だけだったんです。だから、自分を殺さずに生きられた。


でも……タケルは音楽を反対される家庭で育っていて、父親にバレてしまった。その日以来、姿を見せなくなった。そして……」


彼女の声色は低く、変わり果てた。


「交通事故で亡くなりました……」


ふと、隣に座る彼女の横顔を見る。

俺と同じように、悲しみに暮れる涙が流れていた。


「タケルは父親から逃げることに精一杯だったんです……私はそれを知ってたのに、何もできなかった……」


鼻をすすり、顔を上げる咲白さん。


「だからこういった人を少しでも助けたい。だからこのサークルに入ったんです。Aid 、 Care、 Team。

手を差し伸べ、誰かの心を救うチーム。それがA.C.Tなんです。もう過去は変えられない。でも今を変えられる人はいる。私は、高梨さんのこれからを変えていきたいんです……」


だが俺は、自分のこととなると心にシャッターを閉ざしてしまう。

彼女から逃げるように、ブランコから立ち上がる。


「俺にとって……彼女が全てだったんです。もう、変えられませんよ……」と投げ捨てた言葉で、その場を後にした。



*  *  *


数日後、俺は宮崎優香の母親の自宅を訪れた。

何度か家の前まで送ったことはあったが、母親との面識はなく、彼女の遺骨を目にした時に初めてお会いした。


「……あなたが江さんなんですね……」


「顔を出すのが遅くなり、申し訳ありません」


「いいのよ。高梨さんも、心の整理が必要だったでしょう?」


「……なんか変な人、来ませんでした? 優香さんのことを聞きにくる……咲白って人が」


「ああ!! いたわね、そんな人……」


「あいつ、俺の知り合いで……なんか勝手なことをしてたみたいです。そのことも謝りたくて。迷惑かけませんでしたか?」


「迷惑? そんなこと、ひとつもなかったわ」


優香の母親はゆっくりと首を振った。


「むしろ……あの人に救われたの。咲白さんは励ますでも責めるでもなく、ただ隣に座って、私の話を最後まで聞いてくれた。何も飾らず、ありのままの私を見てくれて……それが、どれだけ心を軽くしてくれたか。


“あなたが大事に思う人を、私も大事に思いたい”――そう言われたときね、ずっと押し込めていた想いがあふれたの。あの瞬間、私は一人じゃないって、本気で思えたの」


彼女の目には温かい涙がにじんでいた。


「だから、もう逃げない。娘の分まで生きる。それが、あの人がくれた救いに応えることだから」


胸が熱くなるのを抑えられなかった。


「……あいつ、本当に人を救ったんですね」


「あなたも、彼女に助けられたんじゃないですか?」


優香の母親に聞かれた時


「え、いや特に何も……むしろ散らかしていっただけ」


と答えたが――いや、違う。


咲白さんは俺に真実を教えてくれた。あの後も、ずっと気にかけてくれていた。

あの日以来、死ぬことを考えていたはずなのに……その考えは消えていた。


死んでからじゃ遅い。何かが起きてからでは遅い。

悲劇を止められない存在なんて無意味だと思っていた。

でも違う。悲劇が起きたとしても、変えられるものはある。変えられる心はある。


それがA.C.Tなのだとしたら――もっと知りたい。


そう思えば思うほど、俺はA.C.Tの部室へ駆け込んでいた。

勢いよく扉を開けると、そこには辻晴人と咲白杏奈さんが、きょとんとした顔で俺を見ていた。


「咲白さん……





あなたが誰かを救いたいと思ったように、俺も誰かを救いたい。A.C.Tに、所属してもいいかな?」

いかがでしたでしょうか?

宮崎優香編・最終回。第三者で救いを与えられる人がいたとしたら?それはこれからを変えてくれるかもしれない。それを皆さんにお伝えしたくてこの作品づくりを始めました。


もし心に残るものがありましたら、引き続き読んでいただけると嬉しいです。

次回を更新するとしたら、A.C.Tが本当に人を救うのか? まだ謎に包まれたサークルの実態を高梨江が暴いていきます。

今後も乞うご期待!!一応、土日を目標に更新予定!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ