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A.C.T アクト:謎の大学サークルに依頼した件について  作者:
Case5 電車事故の件について

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23/23

一転

Case5のイメージソング

OneRepublic - Beautiful Colors

https://www.youtube.com/watch?v=Bzp3JAI-Q9E


折り鶴連続強盗殺人事件の真犯人が明かされる章に(したい!!)です。


湯気が天井へと立ちのぼり、白く濁った空気がゆっくりと店内を満たしていく。

視界が曇る。世界に薄い膜が張られたみたいだった。

頬に触れる空気はじっとりと重く、肌に浮かぶそれが汗なのか、それとも湿気なのか分からない。

気づけば、シャツの繊維の奥まで熱気が染み込み、逃げ場を失ったように体へ貼りついていた。


そんな中で、不意に軽い声が落ちてきた。


「なあ、君たち頼むもの決まった?」


十川ジャーナリストがひょいと身を乗り出し、こちらを覗き込む。

彼の真隣の近さに、反射的に背筋がわずかに強張る。


「まだです……」


「なーに、早くしてー。じゃあ、豚骨ラーメン、バリカタの麺で、ニンニク増して」


空気を読まないというより、空気を動かそうとしているような調子だ。

十川ジャーナリストに続くように、星野さん、辻と、注文が途切れずに重なっていく。


「鷹野!!ほら、頼めって!!」


呼ばれた彼は、店の奥――壁際の一番遠い席にいる。

薄暗さに沈むようなその場所で、ほんの一瞬だけ表情が緩んだ。


「じゃあ、醤油ラーメン、小」


カウンターに並ぶ、学生とジャーナリスト。

不自然な組み合わせでも、この場が崩れないのは、十川さんが無理やり均衡を保っているからだと、なんとなくわかる。親代わり――そんな言葉が、ふと頭をよぎった。


「暗いな〜最近の学生は、豆腐メンタルすぎますね〜」


星野さんは、

「さっきまで、敵対してた相手ですよ。『はいそうですか』とはなりませんよ。お互い酷いことしてきたんです」

に対して、

「みんな何かしら酷いことしてる」

と返す十川。


誰も、すぐには返せなかった。

ただ、視線だけが揺れる。

言葉を探しているのか、もう諦めているのか――沈黙だけが長く伸びていく。

その空気を、鋭く裂いた。


「部長さん!!この空気どうにかしてよ!!」


え……あ……わたし……


遅れて理解する。

自分が、この場で何かをしなければいけない立場だということを。

けれど、思考はどこか鈍いままだった。

教授が亡くなってから数日。時間は進んでいるのに、気持ちだけが、数時間前のようだ。

でも、私がサークル内部を改革すると宣言した以上、ここは……


「そうですね……えっと……じゃあこのあとみんなでゲームセンターに行きませんか?」


言った瞬間、空気が止まる。


「は?」「え?」


辻の視線は鬼瓦みたいに固く、鷹野の目は冷たく沈んでいる。

高梨くんと星野さんが、ぽかんと目を丸くしていた。

それでも――

その提案は、完全な的外れではなかった。


*  *  *


「よっしゃあ!!ストライク!!」


乾いた金属音が、ゲームセンターの喧騒を突き抜ける。

さっきまでの重たい空気とは違う、軽く跳ねるような音だった。


「ほら!!どうよ??」


振り返る十川ジャーナリストは、無邪気に笑っている。


「高梨くんすご!!」


その隣で、高梨くんが次々とボールを捉えていく。

軌道を読み、振り抜く打球は、綺麗にストライクゾーンへ収まっていく。

自然と、高梨に視線が集まる一方、誰も十川ジャーナリスト見ていない。


「高梨くん、野球部だったの?」


「まあ、そんなとこ」


軽い。けれど、その動きには確かな積み重ねが見えた。

ゲームが終わり、彼らが戻ってくる頃には、空気は少しだけ柔らぐ。

負けじと、辻と鷹野がバットを握る。


ヒュン!!ヒュン!!


鋭い音だけが、空を切る。

当たらない。でも、その不器用さが、逆に場を和ませていた。


*  *  *


ほんの数時間。

カラオケルームは、熱気、アルコール、外れた音程で満ちていた。

空になったグラスがテーブルに転がり、ソファでは十川ジャーナリストが完全に潰れている。

その中心で、私はマイクを握っていた。


「みんな忘れてるんじゃない?私がロックバンドのボーカルだってこと!!」


アルコールが、思考のブレーキを外している。

男性陣の歌は、正直、耳に優しくなかった。

その反動で、胸の奥に溜まっていた何かが、一気に弾ける。

スマホをテーブルに置く。

音量は最大。

エレキギターのイントロが、空気を切り裂く。

もう、周りなんてどうでもいい。

溜め込んだ感情も、言えなかった言葉も、全部まとめて吐き出すように――声を張り上げる。


「じゃあ聴けよ、私たちバンドのオリジナル曲!!」


喉が焼けるような感覚。

それすら、心地いい。

そして――


「マーモットは私の心臓!!マーモットは私の心臓!!」


その瞬間、周囲が一点に収束する。

笑われてもいい。引かれてもいい。

そんなこと、どうでもいい。

私は、ただ叫ぶ。

マーモットしか勝たんのだ!!!


*  *  *


ガチャリ!!


「え?ちょ!!なんで!!びっくりした〜」


「は?なんでこっちに帰ってきた?」


気分が高ぶっていた影響で、なんか家で一人になりたくない。でもサークルメンバーに迷惑かけたくない。

同じ都内に住む実家へと帰ってきてしまったのだ。本当に勢いだけ。


玄関の先に見えるのは、キッチンから顔を出した母親の驚いた姿。

廊下を通る兄貴の姿。


「もう帰ってこないじゃなかったの?」


「実の娘が帰ってきて悪い?」


「そんなことはないよ!!」


嫌味にも聞こえる母親の言葉だが、表情は嬉しそうに、口角の上がり具合が目に映る。


母親の反応を見る限り、兄貴には感謝すべきだね。

以前の斎藤ルカの件で、兄貴にはお世話になった。あの後、警察が大学に乗り込む事態となり、私は事情聴取を受けた。だが斎藤ルカさんは私たちを庇ったことで、報道に名前が載らなかった。


兄貴は母親には心配させないように、『私が事件に巻き込まれたこと』、その話題を話さなかったことが、母親の笑顔からよく伝わる。


何事のなかったかのように、

「んかすごい疲れちゃって、一人でこれ以上かかえこむと死にそう」


そのまま、勢いで年季の入ったソファにダイブしょうとしたとき


「わ!!!!え!!!!」


ソファに座り込んでいた金髪の女性が振り返る。

肌は白く、水色の瞳さえ光沢のように光る。

瞳のぱっちりした大きさ、鼻の高さ、骨格が綺麗な顔ラインを保つ。


「外国人?」


「前に連絡したじゃない!!あんたの部屋空いたままだともったいないから、ホームステイする留学生に明け渡そうと思って!」


母は、スッと切り替えて、英語で流暢に話した。


「This is my daughter. Anna」


母と私を行き来する視線と説明で状況を把握した外国人。


「あ!!は…はじめま…して。私、エヴァです」


私は機転を利かせて、

「Nice to meet you!! I'm Anna Sakishiro. I can speak English,so if you want, talk to me」

と返答する。


「ありがとう。でも……ここ、日本。だから、日本語、はなす」


「えらいわね!!そういうところ、杏奈にも見習ってほしいわ」


「は?それってどういう意味?」


母親は私の質問に答えず、料理をしている。時間的に明日の朝ご飯を用意しているのだろう。


「腹減ってるなら、冷蔵庫にある残り物食べる?」


「食べる!!」


「はいはい……じゃあ温めるね!!」


あれ?珍しい。いつもは『自分でしなさい』の口癖がない。潔く冷蔵庫からタッパを取り出し、器におかずを乗せる動きに移る。

私もつい、そんな家庭の暖かさに甘えたくて、エヴァと同じソファにそっと座り込む。


「エヴァさんは、日本に来てからどのくらいいるの?」


「えっと……」


「ああ、ゆっくりでいいよ」


「1か月……」


「へ〜そうなんだ?日本はどう?慣れそう?」


「楽しい!!」


「そう、よかった!!あ!!連絡先交換しない?時間があったらさ、いろんな場所に案内するよ!!」

と同時並行で携帯電話を取り出す。


エヴァはこくりと頷き、携帯電話を取り出す。

バーコードを読み取り合い、友達追加をタッチ。


何気ない会話を二人で続ける一方、部屋の隅ではテレビがつけっぱなしになっていた。

さっきまで流れていた、明るい笑い声が飛び交うバラエティ番組。どこか遠くの世界の出来事みたいに、その音だけが部屋に軽く跳ねている。

エヴァはその音に合わせるように、小さく笑みを浮かべていた。ぎこちないけれど、場に馴染もうとしているのがわかる笑い方だった。


――そのとき。

番組が切り替わる。

軽快な音が途切れ、低い電子音が鳴った。


『速報です――』


アナウンサーの落ち着いた声が、急に部屋の空気を引き締める。


『本日午後、都内で電車の接触事故が発生し――』


その瞬間だった。

隣にいたエヴァの肩が、ぴくりと揺れた。

最初はほんの小さな反応。聞き間違いかと思うほどの、わずかな震え。

でも、次の瞬間にははっきりと呼吸が、浅くなる。


「……エヴァ?」


声をかけると、彼女はゆっくりとこちらを向く。

けれど、視線が合っていない。焦点が定まらず、どこか遠くを見ている。

テレビの音が、やけに大きく感じる。


『現場では――』


「エヴァ、大丈夫?」


もう一度声をかける。

彼女の呼吸がさらに速くなる。

胸が上下するたびに、空気をうまく取り込めていないのが分かる。


「……っ、……っ」


声にならない音。

喉が締め付けられているみたいに、うまく言葉が出てこない。

そのまま、彼女の身体が小さく前屈みになる。


「杏奈!!テレビ消して!!」


キッチンから母親の声が飛ぶ。

慌ててリモコンを掴んで電源を切る。

画面が暗くなった瞬間、部屋の音が一気に引いていく。

それでも、エヴァの呼吸は落ち着かない。


「大丈夫、大丈夫……」


自分でも驚くくらいぎこちない声で、繰り返す。


*  *  *


しばらくして。

エヴァを部屋で休ませたあと、廊下で兄貴に呼び止められる。


「ホームステイの依頼があった時に、エヴァの母親から発作症状を聞いたことがあって」


「そういうこと早く言ってよ、でもこの都内なんて、電車だらけでしょ?今までどうやって?」


「それがな、来日最初は全然大丈夫だったんだけど、最近また発症したらしい」


ソファで震えていたあの姿が、どうしても頭から離れなかった。

――何かを抱えてる。

そして、それは多分。

見えているより、ずっと深い。


*  *  *


「あ、もしもし?十川さん」


夜気を含んだ風が、公園のブランコをわずかに揺らしていた。

街灯の光が地面にまだらな影を落とし、その中で私はスマホを耳に押し当てる。


「何?何か忘れ物とか?」


軽い調子の声。けれど、その奥にある“聞く姿勢”は変わらない。

私はベンチに腰掛ける。冷えた木の感触が、妙に現実を強く意識させた。


「あの……杉田教授の電車事故、知ってますよね?」


「知ってると言っても、君たちと大して情報量は変わらないけどね〜」


「本当に事故だと思います?」


一拍、間が空く。

風が強く吹き、木々がざわめいた。


「んん、それは話を聞いてからじゃないとね、妹さんだっけ?」


「そ、そうですよね……」


「ただ!!」


急に声のトーンが上がる。

思わず背筋が伸びる。


「事故なら偶然にしても上手すぎる」


その一言が、胸の奥に重く沈む。


「……」


言い返せない。というより、同じ違和感を抱えていたからだ。


「部長さんなら、どうするの?」


問いかけられる。逃げ道のない問い。

街灯の光が、手元を照らす。震えている指先が、やけに鮮明に見えた。


*   *  *


数日後。

8月も中旬に入りつつある。


「みんな、呼んでごめんね!!今日もさ、A.C.Tの力を借りたいの!!」


目の前には、鷹野先輩、辻、星野さん、高梨くんがテーブルを囲うように並んでいる。

私の手で……いや、私たちの手で終わらせる。だって、折り鶴連続強盗殺人事件の全貌が見えてきた。そんな気がしたから。








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