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A.C.T アクト:謎の大学サークルに依頼した件について  作者:
Case3 痣をもつ中学生の件について

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12/17

俺(高梨江)は、今日サークル休むことにした。

せっかくの夏休み初日は楽しみたい。それに、今回の依頼解決に貢献した一人と、自画自賛することで正当化した。


「最高だああああああああ!!!!」


叫びながらかき込む幸福の味。だがその余韻を壊すかのように、日常の不便が顔を出す。

──トイレットペーパーが切れた。

仕方なく、朝食を終えた俺は近所のスーパーへと買い物に出かけた。

蝉の声が絶え間なく響く夏の通り。木陰が心地よいはずなのに、背中に妙な気配を感じた。

そのときだった。


「すいません」


背後から低くかけられた声に振り返ると、そこには30代半ばと思しき男が立っていた。

髪はボサボサで、髭の剃り残しが口元に影を落とす。服こそ清潔感はあるようで、着崩れしたようにヨレている。

何よりニヤニヤする口元が不気味だ。


「何ですか?」


「私、赤崎マガジンの十川大輝そがわたいきと言います。この1ヶ月で起きている折り鶴連続強盗殺人事件について、お伺いしたいんです」


名刺を受ける時に合う視線は、どこか真剣な眼差し。だが口角はニヤニヤが止まらない様子。


「実はね、今若い子に聞き回ってるんですよ〜。どうやらこの連続殺人事件の黒幕、大学生の可能性が出てきたんですよ!!」


「は?」


「何か知りません?」


声が震えていた。それは恐怖ではなく、楽しんでいる者の声だ。いかにも怪しい。

すぐにでも、こいつと距離を取りたい。


「何も知らないです」と投げやりな言葉を返す。

俺は、彼から感じる不審なオーラから逃れるよう、1、2歩踏み出した。


「あなた〜、茜森あかねもり大学の学生さんですよね〜」


その言葉を聞いて、足元がすくむ。なんで・・・なんで・・・


「なんで知ってる?」


ゆっくり振り返る俺の視線。十川はさらに口角を上げていた。まるで獲物をとらえた狩人のような目つき。

そう見えてしまった瞬間、獲物である子鹿のように、俺の足元がすくむ。


「え? だってこないだ闇バイトの事件絡みで、一緒に行動してたでしょ? 斎藤ルカさんと」


そこまで知ってる?常に俺の背中をつけてた? 


「まさか…」


「犯人探しの行方を掴めるかな〜って思った時に、あなたを見たんですよ」


「もしかして、大学まで警察が来たのも?」


「獲物に逃げられたら、取材もできませんからね、事前に連絡しときました」


俺の中で渦巻く感情は様々だ。お前のせいで、斎藤ルカの大切な時間が奪われたこと。だがずっとつけられていたことに気づけなかった衝撃、そして得体の知れない存在に対する恐怖。それらの感情が一緒に混在している。


「まあ、折り鶴連続強盗殺人事件の黒幕に近づけなかったですがね!!」と言い、男は一本のタバコを取り出す。



「それで…連続殺人事件の黒幕が大学生っていうのは?」


「知りたいですか?」


俺はすぐに答えられなかった。本当はこんな奴なんかに頼りたくない。だが、何かを握ってるのは事実だ。それなりの証拠があって、俺に揺さぶりをかけているはず。


「じゃあ、1つお願いしても?」


「なんだ?」


「大学内の情報を集めてもらえますか?」と言い。名刺を突き出す。


白く、固い厚紙に刻まれた”赤崎マガジン・ジャーナリスト・十川大輝”の文字。右端には電話番号とメールアドレスが記載されていた。


俺は恐る恐る、名刺を受け取る。


「ではでは〜!!熱中症に気をつけて〜」


低く感情の抜け落ちた声だけを残し、ゆっくりと背を向けていく。

足音がひとつ、またひとつと遠ざかっていく中、蝉の声がじわじわと耳に満ちてくる。

ふと我に返ると、額を伝う汗が首筋を這い、火照った体がようやく自分のものとして戻ってくる。


*  *  *

茜森大学にて。

ざわめきと人の話し声が波のように広がり、時折、遠くの厨房から食器がぶつかる音がかすかに響く。

広い空間の中、俺(杉田圭太)の胸のざわめきはなかなか静まらない。


「そんなにショックだった?」


ふと視線を上げると、すぐ隣の席から妹が顔を覗かせる。

周囲の喧騒にかき消されそうなその声が、意外にも耳に届いた。


「いや、信用すぎた俺がバカだったなって…これで時間を無駄にするなんて」


俺が呟くと、彼女は隣の席に腰を下ろし、真っ直ぐに俺の目を見据えた。


「あのさ、学生たちは、あなたの目的のために動いてるわけじゃない」


深いため息が、俺の胸を締め付けるように響いた。


「分かってる」


「何より、彼女たちのことを心配すべきじゃない?」


「そんなことしなくても、あいつらなりのけじめの付け方があるんだ」


以前の依頼の話をすればだ。以前の依頼の関係者、大学にも医学に関する講演会で訪れていた男性が、廊下を淡々と歩く姿が視界に映る。 あの日お目にかかったより、痩せ細く、弱々しく見える。 あれが、斎藤ルカの親父さんかと思いながら、目で追い続ける。


「とにかく、しばらくはあいつらのこと監視しろよ」


「アンタがやりなさいよ」


「俺は、俺でやることがあるの」


「それはそれ、これはこれ。ほんと自分勝手な顧問だな」


俺たち兄妹の会話は、四十、五十を過ぎても変わらない。

いつもどこか偉そうに振る舞う俺に対して、妹の不満が募る。そんな時、俺のポケットが揺れ、携帯電話が震えた。

急いで携帯を手に取り、耳に近づける。相手は、大学時代からの後輩だ。今は、中学校の教師をしているとか言っていた。


「おう!! 間宮!!、久しぶりだな〜」


「先輩、久しぶりです!!」


「何だ?なんか初々しい感じだな」


ハハ、と愛想笑いがこだまする食堂のざわめきに紛れる。

用件を尋ねると、言葉を詰まらせながら切り出した。


「あの〜ご相談がありまして」


「相談?何か?」


「実は・・・」


声が遠慮がちに小さくなる。沈黙が食堂の広がりのようにゆったりと流れた。


「問題?いじめとか、そういうことか?」


「いや、ちょっと違うんです。ある生徒が・・・家庭の問題かとも思ったんですが、本人は何も話してくれなくて・・・」


俺は唸った。なるほど、そういう話か。

だが、なぜ俺に相談が来るのか。


「それで、俺にどうしろと?」


「先輩、確か……大学のとき、臨床心理のゼミに入ってましたよね? その関係で、今もカウンセリングの仕事もしてるって……風の噂で聞いて」


思わず言葉を閉じる。

昔のよしみだけでない、今の俺の領域に踏み込んだ話だった。


「……間宮。お前なあ、俺は遊び相手じゃないぞ」


「すみません。でも、本当に困ってて……正直どうしたらいいか……」


「中学校にもカウンセリング室とか、あるだろ?」


「正直お手上げなんですよ」


電話越しでも、後輩の声の切実さが伝わる。

しばらくの沈黙。俺は深いため息を吐き、言った。


「……少し考えさせてくれ」


*  *  *


私(杉田真央)は、学生課のスタッフとして、どうしても気になって、再び部室を訪ねていた。


「A.C.T」と書かれた名札が貼られたそのドアには、年季の入ったサビがわずかに残っている。誰もが足早に通り過ぎるような、そんな雰囲気を漂わせていた。

ドアの向こうから、大人の低い声と、聞き慣れた部長の声がかすかに聞こえてくる。会話の終わり際だろうか、静けさの中に微かなやりとりが混じる。


「ありがとうございました……」


その声と同時に、ギィ……とドアがゆっくりと開いた。

顔をのぞかせたのは、さっき食堂で見かけた男性――以前、医学に関する講演に来てくれた齋藤さんだった。私に気づくと、少し驚いたように目を見開き、すぐに控えめなお辞儀をしてその場を後にする。

開いたドアの奥から、視線を感じた。


静かにそちらへと目を向けると――


「あ、真央さん。何か忘れ物ですか?」


部長、咲白さんの声だった。


「いや……ちょっと様子を見に来ただけ」


他愛のない会話をしながら、私は一歩、また一歩と部室の中へ足を踏み入れる。

すると――


「わあっ!! いたの!?」


ドアの陰から、まるで幽霊のように辻さんのシルエットが浮かび上がる。その存在感に、思わず肩を震わせた。


「いますよ」と辻さんは淡々と答える。

「とは言え、これで無事に最後の依頼も終わったので、約束通り……ですね」

その台詞回しは、まるで映画のワンシーンのようにキマっている。いつもの無表情に少しだけ誇らしげな空気を纏わせていた。


「……もしかして、監視?」


鋭い眼差しを向けたのは咲白さんだった。どこか疑うような声色。


「いや……ちょっと気になっただけ」


「何がです?」


問い返され、私は口を開こうとして……結局、首を横に振る。


「……ごめん。なんでもない」


咲白さんが、わずかに眉間に皺を寄せる。部室のドアが閉まり、途端に私の声だけが静かに反響した。


「それで、二人は夏休み、どうするの?」と言う問いに、「特に予定は、ありません」と返す辻さん。


「私は〜、中学校のボランティアに参加するつもりです!」

と、咲白さん。どこか誇らしげだ。


「ボランティアマニアめ」


辻さんがポツリと呟いたその一言に――


「うるさい、死ね!!」


即座に返された毒舌。とても人助けをする人の口から出る言葉とは思えない。だが、偏見かもしれないが、毛先だけ派手な金色に染めた彼女には、そうした罵声すらどこか似合っている気がしてしまう。



「ああ〜、夏休みに中学校で英語を教えるボランティアってやつ?」


「はいっ!!」


ん? 中学校? 中学……?


その瞬間、私はある“名案”を思いついた。


*  *  *


大学の講義を終えた兄の背中を追って、私は駆け足で階段を降りる。

夕焼けがキャンパスの建物を茜色に染める中、その背中に向かって声をかけた。


「ねえ、ちょっと提案があるの」


足を止めた兄――圭太が振り向く。その顔に私のアイデアをぶつけた瞬間、見る間に青ざめた。


「……何言ってるんだ!! A.C.Tは活動停止したばっかりだぞ!!」


まるで傷口を抉られたかのような反応だった。


「でも、犯人を見つけたいんでしょ? だったら……これは、サークルを復帰させるチャンスでもあるはず!」


「……お前な」


圭太は顔をしかめ、苛立ちを押し殺した声で言う。


「その悩みを解決したからって、サークルが元に戻るわけじゃないんだよ」


「やってみなきゃ分からないでしょ! こういう時こそ、A.C.Tの本領発揮ってやつじゃん!」


私の勢いに押され、圭太は黙り込む。やがて、顔を覆うように両手で頭を抱えた。


「……あいつらが本気でやる気あるかどうか、だよ。生半可な気持ちで首突っ込まれたら、正直……困る」


その言葉の端に、兄なりの責任と迷いが滲んでいた。


*  *  *

(咲白杏奈)

夕暮れ時、窓から差し込む夕陽が部屋のカーテンを透けて照らしている。


パソコンの通知音が静けさを破った。

A.C.Tの顧問――杉田圭太教授からのメールだった。

開くと、「話したいことがある」とだけ書かれていた。添付されたビデオ通話のリンクをクリックする。

オンラインルームには、すでに辻くん、高梨江くん、そして今日部室を覗きに来ていた学生課スタッフの杉田真央さん、そして教授――杉田啓太の姿があった。

教授の表情はいつにも増して堅い。いや、もともとそんなに柔らかくはないか。


「……休み中に呼び出して悪い。だが、今すぐ話しておきたいことがある」


その声色は、いつもの落ち着いたものよりも一段深く、重かった。

知り合いの中学生教師の話によれば――

青谷中学校で、ひとりの男子生徒が気にかかっているという。

腕や首元に痣の跡が多く見られ、どう見ても不自然な数。しかし、教師もスクールカウンセラーも何度か面談を試みたが、本人は終始笑顔で「何もありません」とかわしてしまう。


「そこでだ。お前ら……この夏、青谷中にボランティア行くんだよな?」


「私は行きます」


辻くんは「行かねぇけど……」と言い残し、

高梨くんは、「俺は行きますよ!!」らしい。


その明るさに、少しだけ場の空気が緩む。

教授は頷いた。


「……じゃあ、“お前たちの出番”ってわけだな」


「え? でも……活動停止中のはずでは?」


そう問うと、教授は眉をひそめ、低く言い放った。


「お前ら……また活動したくないのか? 信頼回復すべきだろ?」


「別に悪いことは……」


「顧問に相談せずに、匿ってただろ!!!!」


私の些細な言葉も逃さず、怒鳴りつける。何も言い返せず、ただ口を尖らせるしかない。


「とにかく、お前らなら、話を聞けるかもしれない。協力してくれないか?」


私がそれに、なんと答えたかは言うまでも無い。








不定期の更新になりますが、温かく待っていただけると嬉しいです。

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