「もしも私が国民的アイドルグループのメンバーだったら起こす不祥事についてテレビ局と交渉するわ」
「もしも私が数十年前に一世を風靡した国民的アイドルグループのメンバーだったら」
「そういう妄想は中学2年生までで卒業するルールなんですけど、
もしかして受験勉強に全力割きすぎて中学留年されてますか?」
「起こす不祥事についてテレビ局と交渉する」
「またなんか始まりましたね」
「最近アイドルや芸能人の不祥事が多すぎないかな」
「興味ないのでいちいちチェックしてませんが、
たまに外でテレビ見るとほぼ確実に不祥事のニュースで、
まだやってるのかと驚いたら別の人で2 度驚くことがままあります」
「あわせてテレビ業界の最悪な裏事情が暴露されまくるし、
ほんとにテレビ局ってどうしようもなかったんだなぁ、
ってのが世間の反応だと思うんだけど」
「違うんですか?」
「私はそれがテレビ業界の手のひらの上だと思うのよ」
「流れ変わりましたね」
「気付いたのは同じテレビの備蓄米放出ニュースね」
「一見すると無関係ですが」
「不思議なのよね。みんな米を出せって怒ってるけど、
そんなにみんな普段から米を買って食べてたかなって」
「確かに。普通にパンやパスタで済ませてますよね」
「こんなにみんな米大好きなら、そもそも減反政策やってないのよ」
「今回も声の大きい一部の人が怒ってるだけなのがみんな怒ってるように見えるっていう見え方の罠でしょうか」
「それが違うのよ。今回は全員怒ってる。
でも、普段米を食べない人も怒ってる」
「どういうことですか?」
「みんなね、米中毒なんじゃないの。正義中毒なの」
「あー……」
「この米不足の原因ってただの冷夏なんだけど、
原因がJAの中抜きとか、国の減反政策とか、
問屋の価格操作とか、外国人転売ヤーとか言われてるじゃない。
ただの冷夏なのに」
「大事なことは2回言う」
「冷夏には怒れない。
でもそれ以外がちゃんと怒れる悪党なのよね」
「でもこれらの悪党って存在しなくて、
存在していてもそこが原因で米不足に繋がる割合って1%にも届かないんですよね」
「そうね。それでも犯人を想像して、
怒りに燃える闘志で巨大な敵に正義の怒りをぶつけるのは中学2年生の妄想より遥かに楽しいのよ」
「井荻麟に怒られますよ」
「井荻麟つながりで言うなら、
実はプラモの転売ヤーすら私達の妄想の中にしかいない存在で、
BANDAIがフェラーリの市場希少性戦略を真似てる可能性を疑いつつあるわ」
「なんだか最近、転売ヤーが大損してますってニュースしか見ないんですよね」
「つまり、許せない悪党を捏造して盛り上がると楽しいし、
もしもその犯人は本当にいて裁きが下るシーンが撮れたら、
拍手喝采大満足で視聴率も購買数もシビルドン登りなの」
「……あっ!」
「そう、芸能人は悪役を演じている。
そもそも彼らの仕事は?」
「演技……!」
「人気絶頂のアイドルや芸人ならまだしも、
不祥事が出るのは過去の人ばかり。
そのまま昔の栄光に浸りながら最低限の稼ぎをだらだら続けるより、
最後に一発当ててからその稼ぎで投資をはじめた方が良い」
「確かに……!」
「それに、もしも私が国民的アイドルグループのメンバーだったら」
「あ、突然中学2年生に戻りました」
「笑顔の仮面を被ることに疲れて1週間以内に失踪する」
「中学2年生とは思えないリアルさ!」
「芸能界の椅子取りゲームやクソファンの対応。
芸能人とは歌や演技でカネを稼ぐ商売ではなく、
莫大なストレス負荷でカネを稼ぐ商売なの」
「そりゃ君は完璧で究極のアイドルです」
「でも当然気軽に失踪なんて事務所が許さない。
そんな中、事務所も納得の上で
芸能人本人もテレビ局も視聴者も全員が幸せになれる引退方法は?」
「不祥事です!」
「と考えて、不祥事を起こすとテレビ局からいくら貰えるのかなって気になったのよ。
不祥事叩きの番組制作コストとニュースの話題席巻率を考えるに、
予算が減りに減ってるらしい令和のテレビ業界でも最低1億は出すと思うのよね」
「結果的に儲けが出て全員幸せになれる社会ハックなので、
本当のような気がしますね」
「まぁ陰謀論なんだけどね」
「陰謀論ですね」
「でも、存在しない悪党を捏造して正義の怒りを煽るよりも、
見えてる悪党を削除してどうしようもない虚無を煽る方が、
愚かな民衆には似合いの結末だと思うから、
この陰謀論拡散したいわね」
「すごい、誰も得しません」