「何故人は死に憧れるのかしら」
「何故人は死に憧れるのかしら」
「今日はいきなり暗いですよお姉様。
もうそういうこと考えないって言ったじゃないですか。
結局どれだけ合理的な結論だとしても、
人は自殺を選ぶべきじゃないんですよ。
大丈夫です、私がいっしょにいますから……」
「あぁ、ごめんなさい。
そういう話じゃないよ。
ごめんなさいね、心配させちゃって」
「うぅ……ならいいんですけど、
ならどういう話なんですか?」
「いやね。今や自殺は良くないってのは
追い込まれるとこまで追い込まれた人間以外
万人の共通理解としてあると思うのよ。
たとえそれが倫理観が言わせているにしても、
それでも人は自殺から目をそらすし、
盲目的に否定しようとする生き物じゃない」
「そうですね。そういうものだと思います」
「じゃぁどうして無理心中系の物語って、
人の心を打つのかしら。
それを今回スティルインラブのシナリオの評判聞いて思ったのよね」
「あー、最近話題になってましたね」
「私もちょっと無理して引きに行ってシナリオ読んだんだけどね。
いろんな解釈がありますよと言われてるけど、
あのエンディングは誰がどう考えても無理心中してて、
そうじゃないんだ説はもはや唱えてる人の願望でしかないわ。
あの描写の数々から無理心中でないと本気で言うなら
日本の国語教育は完全敗北してるわ」
「わりととっくに完全敗北してる気がしますけどね。
ごんぎつねとかで」
「元々想い人同士の無理心中は何故か民衆の心を掴むもので、
特に明治大正の文豪が無理心中モノを書きまくったせいで
大衆の間で無理心中がブーム化して、
当時の文芸界隈がプチ弾圧された歴史があるくらいなのよ」
「プチ弾圧とかかわいい言葉使っても
エグみが全然変わらない話題ですね」
「そこからも定期的に無理心中モノってのは出るんだけど、
ほぼ確実に無理心中モノは賛否両論浴びつつも
結局は大勢の心を掴んで離さないのよ。
最初の劇場版のエヴァなんかもやってることは
ゲンドウとユイさんの無理心中よね」
「世界全部巻き込んでの無理心中は、
そこからセカイ系とか呼ばれて大流行しましたね」
「で、そんなエヴァにしても今回のスティルインラブにしても
昨今のコンプライアンスの厳しさもあって
直接的な無理心中描写は書かないのがお約束になってるのね。
それが結局国語力がわからないと無理心中だと理解できない形になってるんだけど、
理解できないでもできないなりに心が動いたり、
なんとなく理解できてしまう故に猛烈に否定したりするあたり、
結局やっぱりみんな無理心中が大好きなんだなって」
「こればかりは結果的にそうなってるとしか言えないですねぇ」
「問題はこれが日本人独自の気風なのか、
人類共通の集合的無意識なのかなのよね」
「わりとどっちもありえると思うんですよねぇ。
日本以外で無理心中が受けない理由には
宗教的倫理観の強さがあると思うんですけど、
逆に言えば宗教的倫理観で縛る必要があったということこそ
人類が意識の根源で無理心中に憧れてる証拠な気もするんです。
あ、日本人が無理心中大好き民族なのは今更ですね」
「結局人の好き嫌いなんて明確な数字としては判断できないし、
それが『人は無理心中が好きか』どうかなんて社会倫理的にNGなテーマだと
そもそも調査することがNGになってしまう。
ならどうすればこの謎に答えが出せると思う?」
「無理心中を扱う作品が世界全体で公開されて、
それがどう評価されるか、とかですか?」
「そういうこと」
「でもコンプラ地獄のハリウッドじゃ
絶対そんなの作れないですよね」
「そうね。ヨーロッパも宗教倫理的にNGだし、
インドや日本の映画産業は世界全体への波及力がない。
日本のアニメ文化は斜陽化しつつあるとか言われても
結局まだまだ世界最強なんだけど、
それはそれでまだまだサブカルチャーなオタク文化だし、
その評価だけで人類全体の答えとするのは
前提となる母体が偏りすぎてるのよ」
「統計の罠ですねぇ」
「そこでウマ娘のスティルインラブが無理心中をやったというのが、
個人的に今ものすごく熱いのよね」
「あー、最近グローバルのリリースから
インドネシア競馬公式まで動き出して
世界全土の競馬産業が揺れつつありますもんね」
「凄いわよね、Cygames。
ただのゲーム会社じゃないわよもう。
任天堂とセガとCygamesの影響力とやってることは
もはや小さな国家レベルだと思うわ」
「1つ経済学におけるアルゼンチンみたいなのが混ざってますね」
「で、グローバル版でも2年後にスティルインラブがリリースされてしまうんだけど、
そこで世界がどう反応するのか、今から物凄く楽しみでね。
こりゃもうあと2年は死ねないわ」
「冗談でもそういうこと言うのやめてくださいって」
「ただね。実はウマ娘のグローバル版に関して言うと、
それより楽しみなキャラのリリースがどんどん近付いてるのよ」
「ほほう。誰でしょうか。
アヤベさん? アストンマーチャンをよろしくお願いします?」
「ファインモーションよ。
このシナリオ、国外に輸出しちゃダメでしょ」
「……ノーコメントです」




