「聞きなさい。独裁者の私が1年でこの国のGDPを30%向上させる方法を」
「もしも私がこの国の独裁者になったら」
「はいストップ、ストップ。
まず最初に私のお話を3つ聞いて下さい」
「いいわよ」
「1つに、妄想が楽しいのはおおいに共感できるんですが、
せめて朝起きたらステ最強で
自分を無条件に溺愛する美少女と同棲していたらとかにしてください」
「今の私じゃない」
「…………」
「なによ顔真っ赤にして」
「~~~~っ! 2つに!
その妄想は革命家としてお約束の妄想で、
今どきの日本でそんなこと考えてるのは外山恒一くらいです!
まじで政治犯で刑務所に送られますよ!」
「最近刑務所暮らしも楽になったらしいから、
どうせ何もするつもりないし別にいいかなって」
「私が許しません!」
「あらうれしい。許さないでくれるのね」
「~~~~っ!!」
「今日はかわいいじゃない」
「3つに! お姉様が考えることですから
どうせ民族浄化とか意図的な差別階級構築とか、
ディスティニープランとか人類補完計画ですよね!?
間違いなく全体にとって大きな利だとしても、
一部に不幸を押し付ける政策はクソだし
思考実験すら許されないんですよ!」
「なるほど。なら聞きなさい。
独裁者の私が1年でこの国のGDPを30%向上させる方法を」
「いいでしょう。しかしこれ以上ダメだと判断した時点で
音声入力のマイクを切って、
即座に投稿ボタンを押して終了した上で、
なろうのログインパスワード変更して
後からの修正もできなくしますからね!」
「構わないわ。じゃ、言うわね」
「SNSを禁止するわ」
「…………」
「SNSを禁止するわ。武力弾圧も厭わない」
「…………」
「どうしたの?」
「いや……その……ぐぅの音も出ない完璧な正論なんですが、
その独裁者のお姉様が3日後に暴徒に殺されるとこまで見えて
何も言えなくなりましたね」
「もうちょっとアンテナ広げてるなら誰でも知ってるんだけどね。
SNSの社会及び人間個人の脳に与えてるデバフの量がヤバいのよ」
「まぁ……はい……」
「通知を気にしてちらちらスマホ確認するから仕事に集中できない。
アルゴリスムが反社会的思想や陰謀論や差別思想を強化する。
アインシュタインは予言を間違えたわね。
世界を滅ぼすのは核兵器じゃない。SNSよ」
「世界は滅ぼすは言い過ぎでも、SNSが社会悪なのは間違いない事実なんですよね。
実際、旧Facebookの社内レポートでも同じ報告が上がってる」
「でも、運営側としてはそういう御立派な倫理観で
大国の国家予算規模の利益をゼロにするなんて愚行、
株式会社である以上絶対にできない。
その収益となっている広告を出している他の企業にしても、
絶大な効果が認められている以上差し止めることができない。
そしてなにより、SNSに依存した現代人にSNS断ちを求めるのは
本当の意味で麻薬断ち以上の絶望的なストレスを要求する。
そんなSNSを作った人たちは、
純粋に世界を便利に楽しくできると考えていたのだから、
真にどこにも悪人が居ない、勝手に開いたパンドラの箱。
だからもう、独裁者になって暗殺覚悟で武力弾圧する以外に
SNSを止めることはできないのよ」
「……なんだかこれ以上の悪の独裁者の有効活用が
歴史を見ても存在しない気がしてきました。
お姉様、演説の練習しませんか?」
「私こないだ無性にファミチキが食べたくてファミマ行ったら、
ファミチキのファの音が喉から出ずに諦めて帰ってきたわ」
「後でファミチキ買ってきます」
「ただ、一部の有識者の間では共通見解として広まっているということは
別の可能性でこの世界の終わりから逃げ出すことができるのよ」
「どうすればいいんですか?」
「SNSを断つべきだと気付いた人だけで集まって国家を作るの」
「うわー……」
「共産主義はもうオワコン。
資本主義VS共産主義の時代は終わりよ。
これからはSNS容認VS禁止で世界が割れるの」
「うわー……うわー……
なんかあまりにもリアルすぎる未来予想図で
何も言えないんですよ……」
「ただ、その場合問題があってね。
まず、新しい国を作る土地がないわ」
「そうですね。北海道以下の人口密度の土地はちょこちょこありますけど、
それでも数十平方kmに1人は生活してるわけで、
それを強制退去とかさせたらもうジャクソン政権アメリカなんですよね」
「涙の道は繰り返してはいけないわね」
「南極はどうでしょうか?」
「悪くないわね。
ただ、アメリカと中国が許さないわ」
「となると電子空間?」
「SNSのない国を電子空間内に作るのは流石にどうかしてない?」
「ぐぬぬ……」
「と、ここまで考えてね。
あ、これ私だけの妄想じゃない、
もう始まってるわ、と気付いたのよ」
「えっ!? いや、マジですか!?」
「マジよ。そう考えるとすべてに辻褄があうの」
「うわーっ! どこの誰がどうやるつもりなんですか!?」
「イーロン・マスクよ。
SNSのない国は、火星に出来るの」
「あああああああああああああ!!
マスクなら絶対そういうことするぅぅぅぅうううう!!」
「正直スペースXの理念ってよくわかんないのよね。
宇宙からの資源収集でも、地球環境の改善でもなく、
ただ火星移住計画が先にある。
じゃぁ何故わざわざ火星に住むのか。
居住性最悪の火星に向かう最初の移住者達はどんな人達なのか。
そう考えた時、これがマスクの真意じゃないかと気付いたのよ。
Twitterの買収も布石よ。
マスクでもXを消滅させることはできない。
たとえ消しても別のXが出てくるだけだからね。
だから自分の手に落とした上で、
最終的にSNS禁止の火星で唯一SNSアカウントを持つ王になり、
SNS上にSNS禁止によるメリットを堂々と拡散する。
これがマスクの最終計画なの」
「お姉様、これ多分小説のネタにした方がいいですよ。
なろうとかじゃなくて普通に文芸雑誌に寄稿する方で」
「なんかそんな気がしてきたわ。
まぁ私が散歩中に15分で考えたような話だし、
同じこと考えてる人なんてごろごろいそうだけどね。
私もそういう無意味な倫理的善を訴えるより、
生成AIでエロイラスト作ってエロ小説書いてたいわ」
「いや頑張りましょうよお姉様。
手始めにその小説のためにXアカウント作って宣伝ポストしませんか?」
「どうしようもない矛盾を感じるわね。
私はTwitter断ちで禁断症状に苦しんだ半年を繰り返したくないから嫌よ」