あたしと山ちゃんの関係
あたしの良いところは、この楽天的でさっぱりした性格だ、と、いつも千紗は思っている。運動音痴なのに、運動選手のような立派な体格を持ち、その体格のせいか、歩けばどすどすと象か恐竜のように歩くことしかできず、立ち振る舞いも、どういうわけか年頃の女の子らしさに欠けてしまうけれど、でも、この楽天的でさっぱりした性格は、なかなか捨てがたい美点だと、けっこう心の中では誇りに思っていたところがある。
しかし最近、この、千紗にとっての最大の売りであるところの『さっぱりした性格』というやつが、どうもぐらついている。本当のあたしは、けっこうねちねちした暗いヤツなのではないかと思えることが多いのだ。
そのことを気に病むと、ますます『さっぱりした性格』が遠のいていきそうなので、ちょっとでもねちねちの芽が伸びてきたら、足で踏んづけて処分するようにしているのだけれど、処分したそばからむくむくと顔を出し、千紗の心を支配しようとするので、実は、それを密かに悩んでいた。
さて、昨日の放課後のことだ。山田奈緒が、千紗のところに来て、こう言った。
「ゴンちゃん、あたし、今日、用事があるから先に帰って」
千紗と奈緒は、クラスは別だが、何か用事でもない限り、学校の行き帰りはほとんど一緒だ。それは、家が近いというのもあるけれど、たぶん、それだけではない。つまりそれは、なんというか、少なくとも千紗にとって奈緒は、特別に心を許せる、いやそれ以上の友達だからだ。あまりにも特別すぎて、その自分の気持ちを、未だに照れ臭くて奈緒に伝えられないくらいなのだ。
学校の行き帰り、二人は夢中でおしゃべりをする。いくらしゃべっても種は尽きず、一時間以上も、往来に立ったまましゃべり続けることもよくある。二人は、自分が話したいことは何でも話したが、相手にそれを求めないところが、とてもよく似ていた。そして、それぞれが学校で誰と仲良くしようと、その事で、つまらない焼き餅を焼いたりしないところも、とてもよく似ていた。
たとえ、一番の悩みを自分以外の友達に相談したとしても、それで本人の心が軽くなるのなら、ちっとも構わない。けれど、もし自分を必要としてくれるなら、その時は、いつ何時だってはせ参じ、全力で力になるつもりだ。
だからこそ、自分に用事が出来たら、終わるまで待ってもらってまで一緒には帰らない、というのが、これまた二人の共通した考え方だった。
「何? 用事って」
千紗は奈緒に尋ねた。
「これから、文化祭でやる劇の背景を、係のみんなと描くんだ。今、荒木君たちが先生からお金もらって、模造紙を買いに行ってるの。まぁ、今日のところは下書きくらいしか出来ないと思うけど」
「山ちゃんのクラス、そんなところまで話が進んでるんだ」
「そうだよ。ゴンちゃんのクラスは? 何やるのか、決めた?」
「うちはまだ。決めるの、明日だもん」
「そうなんだ。じゃあ、やっぱり今日は、一緒に帰れそうにないね」
「そうだね。じゃ、また明日ね」
「うん、じゃまたね」
千紗は、去ってゆく奈緒に軽く手を振ると、さっさと帰り支度を始めた。その時、後ろから声をかけられた。
「ねぇ、佐藤さん。ちょっと相談があるんだけど」