表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/4

出会いがあれば別れがくる

この物語は1話が少し長めですが、4話完結です。

宜しくお願いします。

 レインは、門の前に行くと「かいもーん」と叫んだ。


「はーい」


 若い男の声が聞こえた。


 すると大きな門の横の小さな扉から、衛兵が出てきた。


「あれ?びっくりした。お嬢様の声と間違えちゃったよ」


「君だったのか」


「町に入るんだね?」


「はい」


「身分証明書を見せて」


「これです」


「保証人にアキツ隊長?」


「へー」


「やっぱり有名なんですか?」


「そうだね。僕は会った事無いけど、先輩たちからその名前はよく聞かされるよ」


『隊長さんにお手紙を書かないと』


「君みたいな子供の一人旅は推奨されてないから、本来保護者が必要だからね。でも、アキツ隊長が保証人だから、よしっと」


「僕はタリス16歳、レインは10歳なんだな。よろしくな。町で分からないことがあれば、僕に聞いてくれ」


「おーおー泣き虫タリスがいっぱしな事言うようになったな」


 別の衛兵が出てきてタリスをからかい出した。


「昔の事を言うな。今は違う」


「生意気を言うな。剣の腕も大した事無いくせに」


「毎日練習してる。絶対に強くなってやる」


「お前にゃ無理だ。鉄だしな」


「くっ」


「あ、ごめんよ、変なところを見せちゃって。もう行っていいよ」


 レインはお辞儀をすると町に入って行った。


 夕方近くになってきていたので、町には買い物で人が沢山出ていた。


 商店が沢山並んでいて、活気に溢れていた。


「おーい僕、今日の夕飯は肉にしないか?安くしとくぞ」


「いやいや新鮮な魚の方がいいだろ?」


「おい、こっちが先に声かけてんだ」


「知るか」


「坊主、買ってけー」


「あ、ぼ僕ちょっと先を急ぎますので」


 レインは逃げるようにして商店の並ぶ通りを後にした。


 そしてすぐ目の前に、ちょっと古ぼけた木造の宿屋があった。少し不安もあったが、夕方なので仕方ないとそこに入ってみる事にした。


 ギーィ


「いらっしゃい」


『あれ?若い女性だ。しっかり隠れた服だけど、む、胸が大きい。これは俗に言う色っぽいという事なんでは無いだろうか?』


「部屋なら空いてるよ」


「あ、はい。とりあえず一泊でお願いします」


「150ギルね」


「はい、これ150です」


「まいどぉ」


「鍵はこれね。部屋は奥の3番を使って」


 朝は、ダイナーで6時半から食べられるからね。宿泊者は無料よ」


「えーほんと、嬉しい」


「でしょう?」

 うんうん

「あんた可愛いわね」


 ドキ


「大丈夫、とって食ったりしないわよ」

「私はデイジー、よろしくね」


「僕はレインって言います。10歳です」


「そう、年齢は聞いてないけど別にぃ。そんなに警戒されると逆に意識しちゃうじゃない」


 デイジーがレインの頭を撫で、ほっぺたを撫でた。


 ドキィ


「そ、それじゃ僕、部屋に行きますので、部屋に」


 レインはカチコチになりながら部屋に向かった。


「3番、3番と。ここね」


 ガチャリ

 バタン


「何だったんだ、あの人、ブラッディベアと会った時より緊張した」


 部屋にコップがあったので、水遊びと火遊びでお湯を作り、注いで飲み干すと、少し落ち着いた。


「でも、ここでもお金を稼がないとな」

「今持ってるお金は、98,330ギルか」

「楽園を作るには、お金は一体いくら必要なんだろうか?」

「でもこれ以上のお金を持つと重たいし、どうすればいいだろう?」


 ・・・・ 翌朝 ダイナー


「デイジーさん、凄いですね。朝から食べきれないくらいです」


「でしょう?うちの名物よ。見ての通り冒険者が多いからねぇ。みんな腹を空かしてるのよ」

「食べきれなかったら、弁当にするけど」


「ありがとうございます」


 しかし、あまりの美味しさにレインは全て食べ切ってしまった。


「レイン、無理しなくってよかったのに」


「いえ、あまりの美味しさに食べてしまいました。それで、こちらに、もう1週間お願いしても良いですか?」


「ええ大丈夫よ」


「じゃお昼に戻ってきて、お金を払います」


「ふふ」


 レインは街を見て回った。


 すると、大きな建物が目に入ってきた。

 建物の周囲を周ると、入り口が見えてきた。

 入り口には闘技場と書かれていた。


「坊主、今日はやってないぞ」


「あ、いえ、僕は初めてこの町に来たので町の中を見学してたんですけど、闘技場ってなんですか?」


「坊主、この町は闘技場の町なんだよ、世界でも有数の闘技場だ。みんなここで強くなって、一番になるために来てる」


「それは、剣の闘いなんですか?」


「そう、それと魔法ね」


「魔法ですか?」


「次はいつですか?」


「1週間後だ。予め入場券が必要だぞ」


「どこで買うんですか?」


「当日の券なら、ここにくれば買えるが、売り切れになる場合が殆どだ。事前に買うなら、ギルドか、宿屋だな」


「デイジーさんのところでも買えますかね」


「坊主はデイジーの所に泊まってるのか?」


「はい」


「じゃあ問題なく買えるぞ」


「やった」


「はははは」

 そう笑って髭面の厳つい人はレインの頭をクシャっと撫で去っていった。


 ・・・・


「デイジーさん、チケット買いたいんですけど」


「チケット?闘技場かい?」


「はい、見てみたいんです」


「へー冒険者でもないのに?」


「はい、どんな風に闘うのか、と思いまして」


「いいよ。だけど高いよ」


「いくらですか?」


「安い場所でも500だね。まともに見るなら1000は必要だね」


「じゃあ1000にします」


「あんた金は大丈夫かい?」


「まだ少しは大丈夫です」


「分かったよ。次の開催でいいんだね?じゃあこれね」


「それと、もう一つ相談なんですが、僕も商店を出す事って出来ますか?」


「???何の商売で?」


「魚の干物を売りたいと思ってるんですけど?」


「魚?ここからは海も川も遠いよ?」


「え?川も遠いのですか?それは困ったな」


「そしたら、木の人形とか売りたいです」


「あんた人形作れるの?」

「はい。こんな感じです」


 レインは以前作ったスライムの人形を見せた。


「これスライム?」


「可愛いねぇ」


「どうでしょうか?」


「面白いかもねしれないわねぇ」

「そしたら、この人形を持って商業ギルドに行くといいよ」


 ・・・・ 商業ギルド


「これを売りたいと?」


「はい」


「確かに、魔物の人形なんて見た事ないから面白いかもね」

「いいわ、許可しましょう」


「ありがとうございます」


「じゃあ、許可証を交付するので、この用紙に必要な事を書いて、明日の朝、もう一度来てね」


 ・・・・ 町の外の森


 レインは、森に人形を作りにやってきた。


 するとカクがどこからともなく現れた。


「カク、会いたかったぁ」

 レインはカクに抱き着いた。


「私ね、木の人形を作りに森まで来たの」


 レインは、森に落ちている木の枝や葉などを拾い集めた。


 そして、近くにあった切り株をテーブル代わりにすると、「木遊び」のスキルを使い、それらを組み合わせるなどして、今まで遭遇した魔物の人形を作り始めた、


 ゴブリン、ホブゴブリン、レッドウルフ、ウサキ、ブラッディベア、レブルディア、スライムをそれぞれ2体ずつ作った。


 しかし、まだスキルレベルが低いのか、細かい部分は短剣での修正が必要であった。


「こんなもんかな。どおこれ?カクに似てるでしょ?」


 カクはにっこり笑った。


「それにしても、カクがレブルディアだからかな?魔物の気配はするけど、近寄ってこないね。安心して作業ができるわ。ありがとうカク」


 カクは頷いて笑った。


 ・・・・ 


 レインはようやく陽が傾いてきていたことに気づいた。


「もうこんな時間だった。わたし町に戻るね。カクまた来るわね」


 レインは宿に戻ると、デイジーに作品を見せた。


「レイン、これゴブリンだろ?細い草とか葉っぱであいつらの着てるものに似させてるのか?器用なもんだなぁ」


 デイジーはしきりに感心していた。


「木工スキルの連中は確かに上手いんだが、精密に作る事に特化しているからな、こういうものを作っても、みな同じになって、まったく面白味がない。それに比べ、レインのは、ゴブリンのくせに少し可愛くも見えてしまう。不思議だ。これは、意見が分かれそうだが、私はレインの木工細工の方が好きだし、面白いと思うぞ」


「デイジーさん、ありがとうございます」


 翌日、朝早くからレインは商業ギルドへ向かった。


「おはようございます」


「ああ、レイン君ね」


「あっ、昨日受付してくれた。えっと。。。」


「ミレイよ、ミレイ。よろしくね」


「宜しくお願いします。ミレイさん」


「こちらこそ、宜しく。それで、君の許可証を作ったわ。これね」


 レインは初めて見る許可証に感動と緊張で、文字が目に入ってこなかった。


「あ、あの、なんて書いてあるんでしょうか」

「ふふ。ここに書いてある内容は、単純な事よ。ここにあなたの名前でしょ、それと、ここに許可しますって書いてあるの。それで、最後にここの商業ギルドのマスターの名前とサインが入っているのよ。それとこの裏には、約束事が書いてあるので、後で読んでおいてね」

「そして、出店に係る費用についてだけど、まず、保証金で、5万ギル。それと毎月1000ギル。売り上げの3%を商業ギルドに収めてもらうわよ」


「分かりました。大丈夫です」

「それで、僕はどうやってお店を出したらよいのでしょうか?」

「屋台みたいのを誰かにお願いして、作ってもらった方がよいですか?」

「それとも、地面に布を引いていた方もいたので、そんな感じでも良いのでしょうか?」


「そうよね。いいわ。ここの受付業務が落ち着いたら、一緒に行ってあげる。少しだけ待ってて」


「あ、ありがとうございます。ご迷惑をかけてすみません」


「いいわよ。これも仕事よ」


 ・・・・


「さあ、行きましょう」


 二人は、屋台の並ぶエリアに向かった。


「ここはね、マーケットって呼ばれてるの。この町のマーケットは、ここと、闘技場の裏に同じ規模でもう一つあるの。こっちのマーケットは、西マーケットで、むこうは東マーケットよ。両方とも私たちで管理しているから、好きな方に出店していいけど、東側は、どちらかと言えば冒険者向けが多いので、あなたの場合は、一般家庭向けが多い、この西マーケットの方がいいと思うのだけれど、どうかしら?」


「はい、こちら側で大丈夫です」


「そう、そうしたら、西マーケットの顔役のコンドさんに、あなたの事を紹介するわね」


「ここよ、コンドさんは、肉屋をやっているわ」


「コンドさん、忙しいところすみません」


「おー、ミレイさん、どうしたね?」


「こちらはレインといいまして、今日から店を開くことになりましたので、その挨拶に付き添ってきました」


「はい、レインと言います。よろしくお願い致します」


「レイン君か。で、君は何を売るんだい?」


「はい、これを売ってみようかと思っているんですが。。。」


 レインは、ゴブリンの木工細工を見せた。


「ほほー、ゴブリンかい?これは凄い。面白い」


「そ、そうですか?」


「ああ、見たことが無いよ。こんなの。じゃあ、ミレイさん、アクセサリーを売ってる、リースの横に少しスペースがあるから、あそこがいいかもしれない」


「わかりました。そこに連れて行きます。それじゃあ」


「ああ、レイン君、がんばりな」

レインはコンドにお辞儀をすると、ミレイについて行った。


 一連のやり取りを見ていた男が、レインとミレイの後をつけてきた。


「レイン君、ここよ」


「リース、今日からこのスペースで商売をやるレイン君だ。よろしく頼む」


「あ?ここ?」


 リースは金髪のツンツン頭で、首、手の甲には入れ墨が入っており、顔のあちこちにピアスがつけられていた。


 リースは、屋台を持っておらず、雛段の様なものをこしらえ、そこに自作のアクセサリーを置いていた。


「凄い、かっこいい」

 レインはアクセサリーを見て思わずつぶやいた。


「おっ?お前、分かるのか?俺の芸術が」


「ちょっと、レイン君、君の作っている物から考えると、彼のアクセサリーをかっこいいと評するとは、全くの想定外だったけど、お近づきのしるしとして言っているだけでしょ?」


「え?そうなのお前?」


「ち、違いますよ。このどくろ目なんて、僕の心を見透かしている様な目じゃないですか。凄い表現力ですよ」


「だ、だろう?やっぱりお前は分かってるな。よし、俺になんでも聞け。先輩として教えてやるぞ」


『レイン君やるな。リースを簡単に手なずけるとは』


「それじゃあ、お互いの紹介も済んだし、私はこれで失礼するわ。じゃリース、ちゃんと面倒を見てあげてね」


「わーた、わーた。じゃあな」


 レインはミレイに一礼すると、ミレイは商業ギルドへ戻っていった。


 レインは、地面に茶色い布を敷き、そこに袋から木工細工を取り出して置き始めた。


「おい、お前、レイン、木工細工を売るのに、茶色い布を敷いてどうすんだよ。同じ色で木工細工がみえねーじゃねーか」

「これ貸してやるから、今日はこの紺色の布を茶色の布の上に敷いて、その上に商品を乗せろ」


「あ、確かにそうですね。ありがとうございます」


「それから、台くらいは用意した方がいいぞ」


「そ、そうですね。そうします」


 レインが、そう言いながら残りの木工細工をカバンから取り出して並べていた。


「あのう、お店、開いてます?」


「あ、はい、今開店したばかりです」


「これください」


「え?」


「これ、ください」


 その男は、ゴブリンの木工細工を指さした。


「これですよね?本当に買ってくれるんですか?」


「はい、もちろん」


「なんで?」


「さっき肉屋で見せてたじゃないですか?それを見て、ビビッときて、欲しくなったんです」


「このゴブリンの顔、憎たらしくもあるのに、なぜか可愛げもある。こんなゴブリンは見たことが無いのに、なぜかこんなゴブリンもいるのかもしれないと思っちゃうんですよ」

「それに、他のも凄い。僕は実物は見たことないけど、この片目のブラッディベアの恐ろしい表情も凄いし、あの恐ろしいと評判のレブルディアなのに異常なかわいらしさを表現している。あなたは天才ですか?」


「はい?僕はその、全く、えっと、今日初めて人前で売るわけでして、そんなことを言われましても、何といって良いやら」


「おいレイン、値段はいくらなんだよ」


「あっ、考えて無かった。いくらにしたらいいでしょう?」


「バカかお前、客の前でいくらにしたらいいでしょうなんて聞くな」


「す、すいません」


「今の持ち合わせは、1000ギルしかないんですけど、このゴブリンを1000ギルで買わせてもらってもいいでしょうか?」


「1000ギル??これを?」


「あ、お気を悪くされたら、謝ります。ただ、僕の家は少し遠いいので、お金を取に行っている間に、誰かに買われてしまう可能性があるとおもって、出来れば今買わせて頂ければと思ったのですが。だめでしょうか?そりゃ、こんな素晴らしいゴブリンの人形を1000ギルなんかで。。。。」


「お、おーレイン早く貰っとけ。何やってんだよ。じゃあ、俺が人形を包んでやるから、お前は金をもらっとけ」


「は、はい」


「ありがとうございます。初めてのお客様で、僕うれしいです」


「じゃあ、1000ギルで良いですか?」


「はい、ありがとうございます」


「お客さん、これね。包んだから、これで持って帰って」


「やったー、ゴブ人形ゲットォ」


 ざわざわざわ


「あの人形が1000ギルですって」


「あれ何?人形?」


「鹿かわいいじゃない」


「こっちの人形はいくらなの?」


「それはな、2000ギルだ」

「ちょっとリースさん、勝手に」


「ばか、あれが1000なら、これは当然2000だ」


 ・・・・


「ふぅ」


「全部売れちゃった…」


「お前、やるな」


「いえ、リースさんのおかげです。あの、お礼をさせてください」


「バカいえ、こっちこそお前にあやかって、結構売り上げが上がったぜ」


「さて、今日は店じまいだ。一緒に飯でも食いに行くか?」


「あ、はい」


 ・・・・ 飯処 シトロエ


「空いてるかい」


「お、リースじゃねーか。好きなところ座りな」


「じゃあ、ここいらいするか」


「レインも座りな」


「はい」


 ちょこん


「なに、かしこまってんだよ。ここはそんな店じゃねーぜ」


「なにぃ?どんな店じゃねーって?」


「はは、けなしたわけじゃねーって。今日は結構売れたから、たらふく飯を食いに来たぜ」


「そりゃ、景気のいい事で。それに、連れで来るとはよ、珍しいな」


「ああ、こいつのおかげで商売繁盛だったからな」


「レイン、ベスの料理は格別うまい。たらふく食えよ」


「はい」


「うまい事いいやがって。じゃあまってな。今適当に作ってやるから」


 ・・・・


「おいしいです。この魚」


「これはマースだ」


「え?これがマース?僕が食べたときは、こんなに美味しくなかったけど」


「当たり前だろ、ベスのスキルは、料理、ランクは金だからな」


「そんなランクの人って、お城とかで働くんじゃないんですか?」


「ああ、ベスも働いていたらしいぜ。だが、まあ、合わなかったんだろうな。人には夫々向き不向きってのがあるんだよ」


「何を格好つけてやがる。お前みたいな若造に何がわかる」


「聞いてたのか?」


「俺の地獄耳をなめてもらっちゃあこまるぜ」


「ははは」


「ベス、果実酒くれ~」 ベスは別の客のところへ向かっていった。


「まあ、そういう事だ」リースがニカッと笑いながら言った。


「ところで、リースさんのスキルって、あの様な細工を作るためのスキルなんですか?」


「まあな。だが俺のランクは銀なんだよ。だから売るためには工夫が必要なんだ」


「へー僕は好きです、あのアクセサリー。明日じっくりみさせて欲しいです。あ、ダメか」


「なにがダメなんだ?」


「今日全部売れちゃったんで、明日売るものが無いんですよ。だから作りに行かないと」


「なるほど、それは仕方ないな。じゃあ明日は準備日だな」


「そうなりますね。開店直後に休むなんて、ちょっと恥ずかしいですが。。。。」


「バカいえ、売れ残った方が恥ずかしいだろ」


「ははは」


 ・・・・ 翌朝


「ふぁーあ、良く寝たな。ちょっと寝坊した」


「よし森に行くか」


「おはようございます。デイジーさん。ちょっと森に行ってきます」


「気を付けなさいねぇ。それと、これを持っていきなさい」


「え、なんですか?」


「ご飯よ、ご飯」


「そんな悪いですよ」


「だって、朝ご飯食べてないでしょ」


「ちょっと寝坊しちゃったんで」


「だからとっておいたのよ。持っていきなさい」


「あ、ありがとうございます」


「何泣きそうな顔してんの?」


「何でもないです。行ってきます」


「ふふ、若いのに遠慮がちね」


 レインが森の近くまでやってきた。


「あれ?今日はカクがいないな?どうしたんだろう」


 レインは、カクの魔力を探してみた。


「結構広げたけど、いないな?」

「今日は魔物が点在しているし、気を付けないと。それと人もいるな。。。冒険者かな?」


 レインは、森の中を歩き、何本か良さそうな木を見つけた。

 そして、大木の根をテーブル代わりに、人形を作りだした。

 レインは人形作りに集中した。

 集中のあまり、周りが見えなくなっているレインは、魔物のかっこうの餌食だった。

 案の定、サーベルウルフが臭いを嗅ぎつけやってきた。

 作業に集中しているレインは全く気が付かなかった。

 レインは更に集中度を増している。

 無防備なレインを見て、サーベルウルフが飛びかかってきた。


 だが、サーベルウルフは、レインを見失ったかの様にきょろきょろしだした。

 暫くすると、不思議そうにレインから離れていった。


 レインは集中力を高め、ある種ゾーン状態で木遊びを使っていたため、魔物からはレインが木と一体化しているように見えていた。


 そして、レインは、会心の作を作り上げた。


「出来た!これはカクそっくりに出来たぞ」

「ふふ、可愛いね」

「これはちょっと売りたくないなぁ」


 その後、レインは5体の人形を作って、町に戻った。


「いらっしゃい。なにをお探しかな?」


「あの、紺色の布とちょっとした台が欲しいんですけど」


「布と台ねぇ」


「これなんかどうかな」


「いいですね。じゃあ、これください」


「はいよ。でも、どうやって持って帰る?荷車とかあるの?」


「いや、持ってないです。でも、そういえば商店の皆さんとか、どうしてるんだろう?」


「お前、もしかしてその若さで店でもやってるのか?」


「はい」


「そうか、店の連中は、マジックバッグを使ってる場合が多いぞ」


「マジックバッグ?なんですかそれ」


「おいおい、マジックバッグ知らないのか?」


「ちょっと待ってな」


 店主は店の奥に引っ込むと、古めかしいバッグを持ってきた。


「これが、マジックバッグだ」


「これをみんな使ってるんですか?見た目は普通の革のバッグと同じに見えますけど」


「そうだな。見た目は普通のバッグだが、こことここに魔石が入っていて、その魔石には、次元収納魔法が施されているんだよ」


「本当だ。確かにこの端っこに何か入ってますね」

 触ってみるとごつごつしていた。


「それで、これを使うと何ができるんですか?」


「こういう、大物を入れられるんだよ」


「え?このバッグに、こんな大きなものが?」


「いいか、見てろ」

 店主が床に置いてあったツボをマジックバッグの口に当てると、ツボはスーっと吸い込まれていった。

「これがマジックバッグだよ」


「えー、凄い。どんな大きい物でも入るんですか?」


「そりゃ限度ってもんはあるが、お金さえ出せば、家だって入るマジックバッグも買えるかもな」


「家がバッグの中に?」


「ああ、だがそんなマジックバッグは、世の中にいくつもない。それに超高価だ」

「こいつの中の広さは、だいたい縦横高さで、それぞれ2mくらいのものまで収納できる。だから、今日買った様なものは、十分に入るぜ」


「そうなんですか。おいくらですか?」


「こいつは、30000ギルだ」


「やっぱり高いんですね。でもあった方がいいか。。。」

「じゃあ、マジックバッグも買います。全部でおいくらですか?」


「全部で、30150ギルだ」


「じゃあ、これで」


「はいよ、確かに」


「それとな、坊主、いまお前のバッグから金が見えたが、結構持ってるだろ。危ないから銀行か、商業ギルドに預けておけ」


「ぎんこう、ですか?」


「お前、何にも知らないんだな」


「銀行って書いてるところに行って、「お金を預けたい」って言ったら、やってくれるから、聞いてみな。まあ、店やってるくらいなら、今後の事も考えて商業ギルドの方がいいかもしれないけどな」

「あとな、マジックバッグも、それ自身が貴重だから、出来るだけ見せないように、肌身離さず持ってろよ」


「分かりました。色々ありがとうございます」


 ・・・・ 商業ギルド


「こんにちは」


「あ、レイン君、今日はお店出してないの?」


「はい、昨日全部売れちゃって、今日は森に行って人形を作っていたんです」


「それは、凄いはね。でもまだ寒いから無理しちゃだめよ」


「はい、ありがとうございます」


「それで、今日はどうしたの?」


「お金を預かってもらう事は出来るんですか?」


「ああ、もちろん。商業ギルドに預けてもらえれば、どこの国の商業ギルドに行ってもお金を引き出すことが出来るし、各種保険なんかも色々あって、お得よ」


「へー、じゃあお願いします」


「いくら預ける?」


「とりあえず、5万預けます」


「大丈夫?保証金でも5万預かってるから、お金なくならない?」


「引き出す時は、どうすればいいんですか?」


「商業ギルドのカードを持ってきてもらえれば、引き出しできるけど、手数料が1ギルだけ発生してしまうわ」


「じゃあ、5万預けます」


「分かったわ」


 商業ギルドをあとにしたレインは、陽も傾いてきたが、西マーケットに向かった。


「リースさん、昨日はありがとうございました」


「おお、レイン、今日は準備日だろ、終わったのか?」


「はい、5体だけ作れました」

「そうか、5体じゃ、明日売り切れるな、多分」


「え?」


「評判を聞きつけた連中が、お前の店がどうなったかって、聞きに来てよ。何人くらいいたかな?たぶん7‐8人はいたと思うぞ。あの昨日の最初の客なんて、朝一で来てたぞ」


「そうなんですか!」


「だからな、お前、もう少し金額をあげた方がいいぞ」


「そんな、僕の作るものなんて、そんな高く売れるわけないですよぉ」


「バカだなぁ、お前は。お前が思う価値と、客が思う価値は違うんだよ。お前の作品が欲しい客は、いくらでも金を出すぞ。だから、この手の商売は面白いんだよ」


「そんなもんですかね」


「新しいの見せてみろ」


「これです」


「。。。。」


「お前、一体なんなんだ」


「お前の木工細工のランクって金か?」


「いえ、そんな事はありませんが。。。」


「俺は木工細工の素人だが、そんな俺でさえ、明らかに昨日売ったものよりも、レベルが高いのは分かるぞ」


「これは、1000や2000で売ったら、バカだな」


「最低でも5000だ。或いは。。。。」


「あるいは?」


「オークションっていう手段もあるな」


「オークション?」


「ああ、価値が高い物は、欲しい奴らに競わせるんだよ」


「そんな、あこぎな」


「あこぎってなんだ?」


「ずうずうしく欲深いってことです」


「難しい言葉知ってんな。まあ、あれだ、お前は言葉は知ってても、商売の事はまるで分かってねえ」


「オークションは、全く普通の事だ」


「昨日は、10体、明日は5体しかないだろ?で、欲しいやつの方が多い」


「どう考えても高く売れるだろ」


「いえ、5000も頂ければ、僕は満足ですよ」


「お前な、いいか、じゃお前の作品が、別のところで50000で売られてたら、どう思う?」


「それは・・・」


「だろ、だからみんなが欲しがるものは、オークションがいいんだよ」


「まあ、俺に任せろって」


 カツカツカツカツ

 リースは、板切れにチョークで何やら書きだした。


 “明日、正午より、レインの新作人形のオークションをやるぞ。欲しいやつは集まれ!”


「これをだな、ここに置いておく」

 リースは、チョークで書いた板切れを、レインの店の前に看板の様に置いた。


「まあ、明日を楽しみに待ってろ、レイン」


 ・・・・翌朝 宿屋のダイナー


「どうしたのレイン?」


「良く寝れなくって」


「若いときは、良く寝て、よく食べないと、大きくなれないわよ」


「はい。まあ僕はそんなに強くならなくともいいんですけどね、はは。。。」


「そう?」


「今日は、オークションなんですよ」


「オークション?」


「はい。僕の出店してる隣の店のリースさんが、勝手に僕の商品をオークションで売るって言いだして、看板まで作って。。。」


「だから、緊張して寝れなかったんです」


「なーなんだ。そんな事なの?」


「そんな事って。。。まあ、確かに大したことではないですけど」


「でも、緊張するってことは、高く売れてくれればいいって考えてるからでしょ?」


「いえ、金額については、預けてるお金が少しずつでも増えればそれでいいかな、というくらいでして、どちらかというと、どういう評価をされるのか?という方が心配なんです」


「まあ、だいたい何とかなるわよぉ、そんなのは。おりこうさん」


 そういってデイジーは、レインの頭を撫でた。


 正午前 西マーケット


「ざわざわざわざわ」


「今日はなんか混んでるなぁ。ちょっと裏から入ろうっと」


「ああ、リースさん、おはようございます」


「お、レイン、見て見ろ、客」


「げっ、何ですかこれ」


「みんな、お前の作品を待ってるんだよ」


 そこには野次馬を含め50人近くが集まっていた。


「えー、ちょっと、困りますよ、こんなにたくさん人がいるって思ってなかったしぃ」


「しかたねーなぁもう」


 リースが、布を敷き、台を用意した。


「あー、皆さん、お待たせしました。これより、レインの新作のオークションを開催します。今日は5体の予定ですからね。お見逃しなく。」


「さあ、レインさん、最初の品を出してください」


 レインは、マジックバッグを見えないように布で隠し、そこから一体目を取り出した。

 すると、歓声が上がった。


「うわーきれい」


「なんだこれ?本当に木彫りか?」


「生きてるのかと思った」


「さあ、お立合い、この鹿さん、ただの鹿さんじゃぁございません。出会ったら生きて帰ってこられない。それはそれは恐ろしい魔物、レブルディア。そんな見たこともないレブルディアをまるで生きているかのように表現したこの作品。見てください、この目。光ってますよ。そしてこの足。今にも蹴り出しそうです。さあ、先ずは5000ギルから行きましょう。はいどうぞ」


「1万」


「おーいきなり1万」


「1万5千」


「1万8千」


「2万」


「2万でました。さあ、ございませんか?」


「はい、決定。2万頂きますね」


「はい、これはあなたの物ですよ」


「やったー」


「はい、次の作品です」


「2体目も、同じくレブルディアです。これは先ほどとは違い、可愛いです。あんな恐ろしい魔物をここまで可愛く繊細に作るとは、凄い」


「さあ、これも1万から行きましょう」


 ・・・・・・・・・・・・・


「全部売り切ったな」


「はい」


「最後が、10万にまでなるとは、驚きました」


「ちょっと怖いです」


「そうだな。直ぐに金を預けに行こう」

「俺も店を終わらして、一緒に行くから待ってろ」


「すみません」


 二人が商業ギルドへ向かって歩いていると、後ろからついてくる5人組がいた。


 5人は、二人を取り囲むと、刃物をちらつかせ人気のないところへ連れ込んだ。


「お前等、ずいぶんと派手にやってたな」


「だから何だってんだ?」


「俺達にもよう、少し分けてくれって言ってんだよ」


「自分で稼げや、アホが」


「だと、こらぁ」


「アホめ」


 ドカ、バフ、バシ


 リースは、あっという間に5人を伸してしまった。


「あの、リースさん?」


「相手は刃物を持った5人ですが、なんで素手のリースさんが勝っちゃったんですか?」


「ああ、まあ俺も以前は冒険者をやっててな、少しは腕に覚えがあるってだけだ」


「それにしても素早い動きに見えたんですけど」


「まあな、そこそこ強いチームだったんでな」


「へー凄いですね」


「まあ、そんな事より、さっさと、預けに行くぞ」


「あの、今日こそはお礼をさせてください」


「そうだな、じゃあ、夕飯をおごってくれ」


「はい」


 ・・・・ 商業ギルド


「お金を預けに来ました」


「あら、リースも一緒?」


「俺は、預けるほど儲けてない」


「それでレインは今日はいくら預けるの?」


「30万」


「さ、30万?」


「今日一日の稼ぎが、30万だったって事?」


「ミレイ、声がでかいって」


「ご、ごめんなさい。余りにびっくりしてしまって」


 ・・・・ シトロエ


「今日も来たか」


「ああ、今日は、こいつの奢りだ」


「お前も、いよいよ子供に泣きつくようになったのか?」


「バカ言っちゃいけね〜。今日は俺のおかげで大儲け出来たんだから、まあ晩飯を奢ってもらうくらいは悪くねえ」


「その通りです」


「でもまた商品が全部無くなっちゃたので、作りに行かないと」


「そうだな。でもよ、価値を維持するために、作りすぎちゃダメだぜ」


「そういうもんですかね」


「ああ、既に数ヶ月分も儲けたから暫く作品作りに集中して、もっと良いのを作れ」


「。。。。はい」


 4日後 闘技場開催日


 昨晩は宿が満室になり、夜中までガヤガヤしていた。


「おはようございます。デイジーさん」


「おはようレイン」


「やっぱり人が多いですね」


「ああ、今日は特にね」


「?」


「今日はトーナメント戦の初日で、色んな剣闘士が出るのよ」


「面白そうな組み合わせってあったりします?」


「そうね、今日は1回戦、2回戦だから、何を見ても面白いけど、注目は剣士ではレイモンド、魔道士はエクレールね。前回の準優勝者よ」


「そうですか。楽しみです」


「私も後で見に行くつもりよ」


「宿は大丈夫なんですか?」


「その時はもう誰もいなくなるから、大丈夫」


「凄い人気なんですね」


「そうよ」


 ・・・・ 闘技場


「紳士淑女のみなみなさま、それでは第2563回、剣士、魔導士若手最強トーナメントを開催致します」


 うおぉーーーー


「!!!」 歓声に驚くレイン


「総合司会は、例年通り、私、ボイス・キカセールが務めさせて頂きます。ご存じの通り、この最強トーナメントは、最強の冒険者チームへの登竜門。一度優勝すると出られません。今年は誰が優勝するのか。昨年の準優勝者である剣士レイモンド、魔導士エクレール。この二人は注目です。果たして彼ら二人の優勝を阻止する物は現れるのか、非常に楽しみなトーナメントです。それでは、実況にマイクを渡しましょう。実況のコエオ・アワーセルさんお願いします」


「はい、実況のアワーセルでーす。今回初めて実況を務めさせて頂きます。そして、解説には、あの生ける伝説であるSS級冒険者であり、ドラゴンスレイヤーとして名高い、ガイル・ゴールドウィンさんにいらしていただいております」


 うぉーーーー


「凄い歓声です。ゴールドウィンさん、如何ですか、会場の雰囲気は」


「いつも通りだ」


「ありがとうございます。いつも通りの熱気、やる気、元気に包まれた、ものすごい雰囲気ということです」


「それでは、剣士1回戦、グレード・ムダ vs タイナマイト・キット戦がまもなくはじまります」


 レインは、初めて剣士や魔導士の戦いを見て、心ゆくまで楽しんだ。


 そして、一つのアイデアが浮かんだ。


 レインは、この数日でいくつか商品を作ったが、昨日の闘技場での戦いをみて、闘技場で戦っている剣闘士を題材としたものが作れないかと思った。


 更にそれを木遊びではなく、土遊びでやったらどうなるか?あるいは石遊びってできるのか?など考えた。


 翌日、レインは森へ出かけた。


『ここ数日は、カクが直ぐに来てくれる。この前はどこに行っていたのだろう?』


「カク、わたしね。昨日闘技場で剣闘士の戦いを見たの。それで、今日は木工細工じゃなく、土とか、石でできないかと思ったの、どう思う?」


 カクは、意味不明のようで、きょとんとしていた。


「そうよね。カクに聞いてもしかたないわね」

「先ずは、やってみるわ」


 レインは、粘土を探し始めた。しばらく森を彷徨うと、洞窟を発見した。


「カク、こんな洞窟あったかしら?」


 カクは首を横に振った。


「カク、この中は危ない?」


 カクは首を横に振った。


「そうよね。私も特に魔物の魔力とかは感じないから、大丈夫だと思う。行ってみようかしら」


 二人は洞窟の中に入って行った。


 レインは「光遊び」で洞窟内を明るく照らした。


「カク、壁が赤いわ。なにで出来てるんだろう?」

 レインは、赤い壁を触るとグニュッとした感覚。それは粘土だった。


「あ、これ粘土だ」

「向こうは黄色いけど、粘土かな?」


「すごい、ここも粘土だ。全部粘土なのかな?」

「ここなら集中して出来そう」


「レインは、粘土を掘り出すと、昨日の剣闘士を思い出して、「土遊び」で剣闘士を作り出した」


 レインは細かい修正を施しながら、3時間ほどで1体が出来た。


「これはね。昨日見たタイナマイト・キットよ。彼は剣を使わないで素手で戦う戦士職なんだけど、なかなかかっこよかったの。それで作ってみたの」


 カクはにっこりと笑った。


 翌日、レインは数日ぶりにマーケットに顔をだした。


「おはようございます。リースさん」


「お、レイン久しぶりだな。作品を作ってきたのか?」


「はい、いくつか」


「見せてみろ。10体か。。。あれ?これなんだ?」


「これは、粘土で作った、剣闘士です。この前闘技場で剣闘士を見たんですが、かっこよくって。それで粘土で作ってみたんですよ」


「お前、やっぱりスゲー才能だな。木工細工だけじゃなく、粘土細工まで」


「要領は同じですよ」


「そんなもんかね?」


「さすがに金属はリースさんの様には作れませんし」


「おいやめてくれよこっち側に来るのは。お前にやられたら、それこそ商売あがったりだよ」


「あ、あの、店開けますか?今日は?」


「あ、最初のお客さん。また来てくれたんですか?」


「はい、この前のオークションでは買いそびれたので、今日はお金を持ってきました」


「今日はオークションの予定はありません。金額は考えてきました」


 そういってレインは商品を並べた。


「これとこれが、5万、こちらかが7万。。。。」


「そして、これが新作です。これは8万にしようと思っています」


「おー凄い、この粘土細工。これが8万ですか。。。。」


「高いですか?」


「いえ、そんなことは無いのですが、これタイナマイト・キットですよね」


「よくわかりましたね」


「僕はグレード・ムダのファンなんですよ」


「そうだったんですか。それは。。。失礼しました」


「グレード・ムダがあれば即買いでした」


「ん?」


「どうしました、リースさん」


「あれ?あんた、もしかして?」


「いや、グレード・ムダはさ、化粧してたろ?だから分からなかったけど、こいつムダじゃねぇか?」 とリースは小声でレインに伝えた。


「ええ?」


「あなたムダさんなんですか?」


「は?いえ、いえ、いえ、な、なにを、言っているんですか。ぼ、僕は、普通の、の、農民ですよ、いやだなぁ~」


「この焦り方は普通じゃない」リースは疑った眼差しを向けた。


「いや、いや、そ、それでは、失礼しまーす」

 そういって、ムダは帰って行った。


 数分後、頭と顔を布で隠したムダが戻ってきた。


「いらっしゃいませ」


「よかった。まだ残ってた」

「あの、このブラッディベアの人形をください」


「7万になりますが、宜しいですか?」


「はい、これ、7万です」


「ありがとうございました」


 ムダは、ブラッディベアを手にして、喜んでいた。

 ムダは更に

「あのぉ、それで、今度は、サーベルウルフの実物大の人形を作ってもらえませんか?」

「もし20万くらいで買わせてもらえるなら、お願いしたいんですけど」

 と顔を近づけながら少し小声で話をした。


「ええ?そんなに高くですか?」


「はい、お願いできればありがたいです」


「ちょっと考えてみます」


「それと、タイマイト・キットの場合、技を仕掛けているときの姿の方が、人気が出ると思います」


「そうなんですか。ありがとうございます」


 そして、夕方になるまでタイナマイト・キットの粘土細工だけが売れ残った。


「3時間かけて作ったのに、全然売れなかった」


「まあ、値段もあるんじゃねーか」


「結構な自信作だったので8万で売ろうと思ったんですけど、ムダさんが言っていた通り、好き嫌いがあるんですかね」


「キットさんの技ってどんなのでしたかね?早すぎて僕には見えないんですよ」


「あれだよ、爆弾スープレックス」


「どんなやつですか?」


 すらすらすらすら


「こんな感じだ」


「リースさん、絵が上手ですね」


「まあな、これもスキルの恩恵だ」


「へー、それで腕っぷしも強いなんて凄いですね」


「お前でも鍛えれば、ある程度は強くなれるよ。ただ、闘技場に出るとか、そこまでは無理だな」


「リースさんでも闘技場で勝つのは無理なんですか?」


「まあ、いいところ一回戦だろう」


「じゃあ、あのゴールドウィンっていう人は、どれだけ強いんですか?」


「そりゃおめードラゴンスレイヤーだからな、この世で一番だろうよ」


「でも、リースさんも、強いチームに入っていたんですよね?」


「そこそこな、そこそこ」


「へー、あんまり聞かない方がよさそうですね」


「そうだな、人間長く生きれば、ほじくられたくない話もあるってもんよ」


「リースさん、若いじゃないですか」


 ・・・・


「カク、今日はカクにお願いがあるの」


 カクは嬉しそうに笑って頷いた。


「ふふ。あのね、サーベルウルフを探して欲しいの。やっつけちゃだめよ」

「サーベルウルフの人形を作りたいから、サーベルウルフの動きを見たいの」


 カクは頷くと、何やら顔を上に向け魔力を探している様だった。


 カクが「こっちだ」とばかりに歩き出すので、レインはそれについて行った。


 カクについて行くと、サーベルウルフがいた。

 カクはサーベルウルフの前に出て行った。


「カクが行くと逃げちゃうよ」 レインは小声でいった。


「。。。。あれ?でもカクの魔力が小さくなった・・・?」


「もしかして、カクって魔力の調整が出来るの?」


 サーベルウルフは、カクが自分より魔力が小さいと思い、侮ってカクへ襲い掛かった。

 カクはそれを難なくひらりとかわす。


「カクの動きが綺麗すぎる」

「だめだめ、今日はサーベルウルフを見に来たんだから。きっとカクが私にサーベルウルフの動きを見せるためにやってくれているのに」


 そして、しばらく見ていると、レインは、サーベルウルフの動きを近くで見たくて、少しずつ自然と体が前に出てしまっていた。


 サーベルウルフは、レインを見つけると、レインに向かって突進してきた。


 それを見たカクは、瞬間移動でもしたのかというくらい早く動き、サーベルウルフの横に来たかと思うと、サーベルウルフの腹を角で一突きし、高々と放り投げた。


 サーベルウルフは、地面にたたきつけられて、そのまま起き上がれなくなり、魔石に変わってしまった。


「カク、ありがとう。サーベルウルフを見たくて、思わず前に出ちゃった。ごめんね」


 カクは、レインの傍まで来て顔を近づけた。


 レインは、カクの顔に自分の頬を付けて、カクの頬を撫でた。


 レインは、サーベルウルフの魔石をマジックバッグに入れると、こんどは、サーベルウルフを原寸大で作れるような木がないか、探した。


 しかし、適当な木が見つからない。


 レインは宿へ戻り、デイジーに、材木屋の場所について聞いた。


 すると、材木屋は、東マーケット付近だという事であったので、東マーケットへ行ってみることにした。


 しかし東マーケットは、冒険者多いという事であり危険かもと考え、お金とマジックバッグを商業ギルドの一時保管に預け、以前の古いバッグと少しのお金だけを持って出かけた。


 レインは、初めて東マーケットに来た。


 東マーケットは、武器や防具、それに関連したアクセサリー、冒険に必要な物資などの店が多く、冒険者が多くいた。


 レインは、少しビビりながらマーケットを歩くと、冒険者からじろじろと見られた。


 そしてしばらくマーケット内を進んで行くと、一軒の木工屋があった。

 

 目当ての材木屋ではないが、立ち寄ってみようと思い、木工屋の扉を開けると、いくつもの装飾品が目に飛び込んできた。


 その装飾は、どれも精密で綺麗だった。


 しかし木工屋の装飾は、主に家に飾るものや、身に着けるものであり、レインの様に魔物や人を形どったものは無かった。


「綺麗ですねぇ」

 レインは思わずそう言いながら、木工屋に声をかけた。


 木工屋は、きれいな模様の入った白いニットの帽子をかぶり、眼鏡に弘髭をたくわえた50歳くらいの男だった。


「分かるかい?」


「僕の作るものとは全く違いますが、本当に細部にわたって精密で綺麗です」


「君も木工をやるのかい?」


「少しだけですが」


「へえ、何か作品は持っているかい?」


 レインはマジックバッグは持っていなかったので、たまたまバッグに入れていたスライムの木工細工を見せた。


「こ、これは。。。」


「きみ、これはなにを作ったんだい?」


「これは魔物で、スライムですよ」


「これがスライム?」


「ひょっとして、君が、西のマーケットで噂になっている木工細工師かい?」


「え?噂になっている木工細工師?何のことでしょうか?」


「違うのか」


「最近、西のマーケットに、魔物を題材にした木工細工を販売して荒稼ぎしている奴がいるって聞いたんだよ」


『あ、私の事ですよね?それって。それにしても荒稼ぎって。。。。』


「そ、そうなんですね」


「僕は、材木屋さんを探しに来たんですよ。ちょっと大きめなものを作りたくて」


「材木屋なら、すぐそこだよ」


「あ、ありがとうございます。それじゃ失礼します」


 ・・・・


 カラーン


「こんにちは」


「はい、いらっしゃい」


『熊?』


「ん?子供?あれ、お父さんか、お母さんは一緒じゃないのかい?」


「すみません。僕が材木を探してまして」


「そうだったのか、それはごめんごめん」


「それでどんな材木を探してるって?」


「2mx1.5mx1.5mくらいの木材です」


「何に使うの?」


「人形作りなんですけど」


「どんな人形だい?」


 レインは、スライムの人形を見せた。


「これは、魔物かい?」


「そうです。スライムです」


「ずいぶんかわいいじゃないか。魔物なのに」


「作るのは別の魔物ですけど、実物大になります」


「なるほど、そしたらヒノキで良いかな。掘りやすいしな」


「ただ、今日は、言われた大きさの木材はないんだよ。そうだな、3-4日時間をもらえれば用意できると思うが、どうだ?」


「はい、それでいくらくらいでしょうか?」


「そうだな、3000ギルってところかな」


「わかりました。じゃあ4日後にまた来ます」


 ・・・・ 


「リーメンス様」


「なんだ?」


「こちらですが、如何思われますか?」


「レブルディアか?美しいな。良く特徴をとらえている。よほどよく観察したと見えるな」


「はい、私もそのように思いました」


「。。。なるほど、これほど精密にレブルディアの特徴をとらえるには、それだけ観察しなければならない。しかし、あのレブルディアをここまで観察できるはずがないと、そういうことだな」


「はい、その通りでございます」


「これを作ったのは誰だ?」


「西のマーケットで子供が販売していたとの事です」


「子供にこれが作れるわけがなかろう。正体を隠したい誰かの仕業だ」

「その子供を見張って、素性を洗え」


「は」


 ・・・・ 木材が届く日


「東のマーケットまで行ってきます」


「大丈夫?」


「はい、この前も行ってみたら、大丈夫だったので、問題無いと思います」


「そう、気を付けてね」


 ・・・・ 材木屋


「こんにちは」


「おお、坊主、出来上がってるぞ。そこにおいてある」


「これですか。ありがとうございます」


「それじゃあ、3000でよかったですか?」


「意外と安く仕入れられたんで、2800でいいよ」


「そうですか、助かります」


「そしたら、200ギル分、別の木材も買わせてください」


「そうかい、ありがとうよ」


 レインは、マジックバッグに木材を入れると、森へ向かった。


 ・・・・


「カク?」


『また、カクの魔力がない』


「あ、カクいたの?」


「魔力がみえなかったけど、どうしたの?」


「なにかあったの?」


 カクは首を横に振った。


「大丈夫ならいいけど」


「今日は、サーベルウルフの実物大の木工品を作るわ」


「今までこんなに大きなものを作ったことが無いけど、できるかしら?」


 レインは、集中すると「木遊び」を発動した。


 先日見たサーベルウルフを思い浮かべ、手に魔力を纏わせると、大きな材木が、みるみるとサーベルウルフの形になっていった。


「これはサーベルウルフが私に襲い掛かる瞬間ね」


「あれが一番怖くって、印象に残っていたので形にしてみたの、どうかしら」


 カクは、あまりの出来栄えに、本物のサーベルウルフと間違えている様だった。


「もう少し修正しないとね。ここからが少し時間がかかりそうよ」


 レインは、毛並みや、牙の雰囲気など、魔力纏わせた指や爪で細かな部分を修正していった。


「とりあえず、今日はここまで。もう暗くなってきたし」


「後は、部屋に戻ってもできるから、部屋でやろうかな」


 レインは、作品をマジックバッグにしまい、カクと別れると、宿に戻ってきた。


 そしてまた作品作りに没頭した。


 翌朝、レインの作品作りはまだ続いていた。


 トントン

「レイン、いるの?」


「はい、います」


「朝ご飯どうする?」


「もうそんな時間でした?」


「今7時半だけど」


「本当だ。食べに行きます」


 がちゃ


「レイン、大丈夫?」

「昨日からやり続けてるの?」

 そういってデイジーはレインの頭を撫でた。


「はい、夢中になっちゃって」


「へーどんなの?」


 デイジーが部屋を覗き込んだ。


「うわっ」

「びっくりしたー」

「これ作り物?よね」


「そうです。実物大で作ってくれって頼まれたので、やってみたんです」


「すごいわね、レイン、ものすごい才能よ?」


「ありがとうございます」


「じゃあご飯、食べちゃてね」


 デイジーは、二度見してもなお、本物に見えてしまう作品に驚嘆した。


 レインは朝食を食べ、仮眠したのち、昼過ぎに久しぶりにマーケットに向かった。


「おーレイン、久しぶりだな」


「はい、リースさん、お久しぶりです」


「そういえば、ムダのやつ、毎日来て、まだかまだかって言ってたぜ。例の実物大の作品はどんな具合だ?」


「ほぼ完成です」


「そうか、で、今日は手ぶらなのか?」


「いえ、実物大を作りながら、気分転換に作った商品がいくつかあるので、それを持ってきました」


「ムダさんは、いつも何時頃に来るんですか?」


「そうだな、まちまちだよ。今日はまだ来てないから、ぼちぼち来るかもしれないぞ」


 噂をしていたらムダがやってきた。


「おいでなすったぞ」


「あ、ムダさん、こんにちは」


「ちょっと、僕はそんな名前じゃありませんよ」


「ロキシーと呼んでください。それでレインさん、例の依頼の品は出来てるんでしょうか?」


「もう少しで完成ですよ。いつどうやってお渡ししたらいいですか?」


「そしたら、この住所のところまで持ってきてもらっても良いですか?」


「わかりました」


 一連のやり取りが終わり、ロキシー(ムダ)が並べられている作品を見ていると、


「ちょっと、きみ」


 突然レインが見知らぬ男に話帰られた


「はい?」


「この作品は誰が作っているのですか?」


「私ですが?」


「本当ですか?」


「はい、それが」


「では、少しお話を聞かせてもらえませんか?」


「なんの話を聞きたいって?」リースが不審に思い、話に割って入ってきた。


「あなたには関係のない話ですよ」


「関係は大ありだ。こいつは俺の弟子だ」


「は?」レインはいきなり弟子と言われあっけにとられた。


「弟子の事を師匠が聞くのは当たり前だろ」


「そしたら、この木工品は、あなたが作ったんですか?」


「それは、こいつの作品だが、師匠は俺だ」


「そうですか、では引っ込んでいてください」


「だから、何の用事だって聞いてんだよ」


「君、今から来て欲しいところがあるんですが」

 見知らぬ男はリースを無視してレインの手を取った。


「どこに連れて行くつもりだ?ああ?」

 リースが、レインを掴んでいる手を振りほどこうとしたとき、


 ドカァ

 グボォ

 ガシャーン

 リースが腹を殴られ吹っ飛ばされ、自分の店の棚に突っ込んだ。


 ゴホゴホ


『え、あんなに強いリースさんなのに』


「ちょっと、何するんですか?酷いじゃないですか?」


「まあ、ゴミ掃除だ。気にするな」

 見知らぬ男は悪びれるでもなく言い放った。


「さあ、お前は私と一緒に」

 と男が再びレインの手を掴もうとした瞬間、ムダがその男の手を掴み、男を投げ飛ばした。


 しかし、男はくるっと回転すると、何事も無かったかのように身なりを整えると、男は、ムダへ攻撃しだした。


 ムダは男の攻撃をかわし、肩を男の胸にぶつけると、男は吹っ飛んだ。


 男はあきらめずムダを殴るが、ムダは手首をつかみ男を投げ飛ばした。


 すると、ようやく男は諦め、去っていった。


「レイン、大丈夫か?」


「ムダさん、ありがとうございます。あ、ロキシーさん」

「リースさん、大丈夫ですか?」


「ああ、なんとかな」


「やっぱりあんた強えーな。さすがだぜ」


「なにを言っているんだい、君は」


「まあいいが。それにしても、あいつ、恐らく領主の従者だな」


「領主の従者?リースさん、なんで分かるんですか?」

「それに、なんでそんな人が僕の事を?」


「あいつらの着ている物を見りゃ分かるよ。理由の方は全く分からないが、お前の木工細工に何かあるのかな?」


 レインが木工細工に目を移すと、すっかり壊されてしまっていた。


「あいつ、こんな芸術作品を壊すとは、全く許せん」 ムダは怒り心頭であった。


「領主に狙われてるとなると、ちょっとレインの身が危険だな」


「レインさん、僕の家に来ないかい?僕なら君を守る事が出来るよ」


「そんなご迷惑をお掛けできませんよ」

「でも、あのぉロキシーさん、それで、申し訳ないんですけど、今からお届けに行っても良いですか?」


「え?でも物がないですよね?」


「実は持ってきているんですよ」


「そうなんですか?でもまだ完成していないと言ってませんでしたか?」


「実は、残っているのは、目の部分だけですので、ロキシーさんの家で完成させますよ」


「じゃあ、是非お願いします」


「リースさん、僕のせいで迷惑をかけてごめんなさい」


「何言ってる。全く問題ない」

「それよりもお前の作品が台無しにされたことの方が問題だし、お前を狙ってあんなのをよこしやがるとは、とんでもねーやつだ」


「じゃあ、ちょっと行ってきます」


「ああ、気を付けてな」


 ・・・・ マーケットから15分ほど歩いたところにムダの家があった。


「ここが僕の家ですよ」


「大きな家ですね。剣闘士は儲かるんですか?」


「いや、僕は冒険者で儲けているんだよ」


「剣士職でランクは金だからね」


「そうすると、この前のキット戦は、どうして?」


「キットはね、高速移動が得意でね。僕はあそこまでの高速移動にはついて行けないんだよ」


「だから、相性が悪かったね」


「そういうもんなんですね。ただ、さっきのムダさんが肩でドーンとぶつかって敵を吹っ飛ばしたのはかっこよかったです。今度粘土細工を作るときは、あれを作ろうかと思いました」


「ほんとかい?それは嬉しいな」


 二人は居間に到着した。


「それで、ご依頼の商品ですが、ここに出しても良いですか?」


「うん、頼むよ」


「これが、ご依頼の作品ですよ」


 バーン!


「うぁ、す、すごい、すごい、すごい、すごい。凄すぎる」


「ちょっと、あと目の部分だけやらしてください」

 レインは目に指をあてると、さっと一撫でした。


「おー、今どうやったの?一気に魂が吹き込まれた感じがする」


「これは凄い」

「本当にありがとう」


「いえいえ、そんなに言われましても、恥ずかしいですよ」


「あいつら、この君の才能に気づいて、君を囲おうとでもしてるのかな?」

「もし、君さえよければ、ここにいてもいいんだけど?どうだろう」


「そこまでご迷惑をかけられませんし、あれだけやられれば、しばらく来ないと思いますので、大丈夫ですよ」


「そうかな、心配だよ」


「それじゃ、僕はこれで失礼しますね」


「あ、お金」

「はい、これが約束の20万。そして、これが僕の今の感動した気持ちの分」


「え?いや、いいですよ。お約束の分だけもらえれば、それで結構です」


「いや、僕はそこそこ稼いでるから、大丈夫だし、もっといい作品を作ってもらいたいから、その足しにしてくれ」


「そうですか?ではありがたく、頂いておきます」

 レインは、二つの袋をもらった。

「それじゃあ、失礼します」


 レインは、ムダの家から出ると、魔力探知を行ったが、周囲にはムダの魔力以外見当たらなかった。


 ムダはレインが商業ギルドに入るまであとをつけ、その後家に戻っていった。


『ムダさん、ありがとうございます』


 レインは商業ギルドに入ると、ムダからもらったお金を預けることにした。


「レイン君またお金を預けに来たの?」


「稼ぎまくってるわね」


「で、いくら?」


「まず、これが20万入ってて、もう一袋ありまして、これが。。。ちょっとムダさんこんなに?」

「レイン君、いくらあるのよ」


「ちょっと、数えます」


「いいわ、一緒に数えましょ」


「1,2…100」


「全部で、120万ね」


「何を売ったのかしら?」


「も、木工細工です」


「どんな木工細工作ったのよ」


「サーベルウルフの実物大です」


「へー実物大か。それは好きな人にとっては、そうとう価値がありそうね」

「芸術にはお金は関係ないか」

「しかし、あなたがここにきて1か月も経ってないけど、ここまで稼いだ人はいたかしら?」


「じゃあ、僕はちょっとマーケットによって、それで帰ります」


「そういえば、マーケットで騒ぎがあったって?」


「はい。リースさんが少し怪我をしたかと思いますので、ちょっと様子を見に行こうかと思いまして」


「そうだったの?ちょっと私も行くわ」


 ・・・・


「リースさん、大丈夫ですか」


「おーレインお帰り。俺は大丈夫だぜ。店もすっかり元通りにした」


「ムダの奴は喜んでたか?」


「はい、とっても喜んでくれました」


「リース、大丈夫だったの?誰にやられたのよ」


「お前には関係ねー」


「関係ないわけないでしょ、マーケットで起きた問題よ」


「お前な、領主に逆らえるわけねーだろ」」


「え?リーメンス様ともめたの?」


「俺がそう思っただけだ」


「あんたの感は当たるからね。そうなんだ、一応ギルマスに報告は上げておく」


「じゃあ、私は先に戻るわね」


「それで、リースさん」


「どうした?」


「ぼく、この町から出て行こうと思っています」


「なに?。。。」


「そうか、まあ、そういう気持ちになるのも分からなくはない」


「今までも旅をしてきてますので、その続きです」


「ただ、今までは、逃げるように旅をしてきたのですが、リースさんはなんというか、僕には兄弟はいないんですけど、本当の兄さんみたいな感じだったので、ちゃんと挨拶はしないといけないと思って」


 そういうと、レインの金色の目から涙があふれ出てきた。


「ばか、泣くなおめぇ、うっうぅ」


 リースはレインを引き寄せ、涙を流すものかと上を向いたが、止めることはできなかった。


 そしてレインは宿へ戻り、デイジーにスライムの木工品を渡し、デイジーにお礼を言うと、町から去っていった。




評価、ご感想などお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ