旅の始まり
この物語は1話が少し長めですが、4話完結です。
宜しくお願いします。
この世界には、スキルという能力があり、人間であれば皆、何かのスキルを有している。
人々の生活に役立つ一次産業のスキル、製造・生産にかかわるスキル、力や技のスキル、魔法スキルなど種類は様々である。
スキルにはランクがあり、基本的には生まれた時点で決定しており、成長する事は稀である。
ランクには、鉄、銅、銀、金の4段階がある。
例えば、錬金スキル銅ランクのようなものだ。
スキルのチェックは5歳時に、教会で行われるが、それ以前に発現している子供も多くいる。
「エリザー遠くまで行ってはだめよー、魔物が出るからね」
「うん」
肩まで伸びたオリーブグリーンの髪の毛をなびかせ、走り出した。
人々は、それらスキルをうまく使いこなし、共同で生活を行っていた。
しかしエリザは、昔から一人で遊んでいた。
コミュ障なため、誰とも会話が出来なかった、のもあるが、知能が高かったため、同年代とは遊べなかったということも理由であった。
その為、せっかく白磁の様な肌も、美しい金色の瞳も髪の毛で隠されていた。
エリザは森へ行くと、火遊び、水遊び、氷遊び、土遊び、木遊びで遊んでいた。
「えーと、火遊び」
ぼぼぼー
「あったかいー」
エリザの掌から炎が出現し、それを集めた落ち葉につけて遊んでいた。
「水遊び」
じゃじゃじゃー
エリザの掌から水が出現し、火を消した。
「これで火を消す。大丈夫」
「木遊び」
すると、木の蔓が伸びてきて、蔓のブランコが完成した。
「あれ?何かいる?」
「スライムかぁ」
「氷遊び」
スライムが凍った。
「可愛いけど、魔物なんだよね。きみ」
「きみの形の人形も作ろうかな」
エリザは、もう一度「木遊び」というと、掌に乗る程度の大きさのスライムの形をした木製の人形をこしらえた。指で木の表面を撫でるとエリザの思った様に形が変わってゆく。
そして、それを家に持って帰った。
「また、人形を作ったの?どんどん増えちゃってるじゃない。ちゃんと捨ててね」
「エリザ、あなたももうすぐ5歳になるわ、教会に祝福を授かりにいかないとね」
祝福を授かるとは、スキルを授かるという意味であるが、実際に教会が授けるわけではなく、そのチェックをするだけである。
------☆ エリザ5歳の日
「エリザ・シュタイン、5歳おめでとう。さっそく祝福を授けよう。さあ、この石に手を乗せなさい」
エリザは司祭の前に置いてあった台の前まで歩み出た。
司祭の前には、赤いクロスが敷かれた台がある。その上にエリザの顔と同じくらいの大きさの青い石が乗っていた。
エリザの身長では届かないので、用意されていた踏み台に乗り、その青い石に手を当てた。
青い石が光り出すと、司祭の顔から笑顔が消え、何やら難しそうな表情へと変わった。
「遊ぶ?」
「これはなんだ?」
「そして。。。ランクなしぃ???」
「これは何かの間違いか?」
「エリザよ、一度手を離し、もう一度手を乗せなさい」
ピカー
「ふむ、同じか」
「司祭様、どうなさったのでしょうか?」
「シュタインさん、残念ながらスキルは【遊ぶ】、ランク無しという結果でした」
「な、何かの間違いでしょ、もう一回、もう一回お願いします」
父親も母親ももう一度見て欲しいと懇願した。
「既に2度やりました。これ以上は無意味です」
「ご両親、少し待っていて下さい」
・・・・
この村では、皆がそれぞれの役割を持って生きていた。そのため【遊ぶ】などというスキルは、人々が共生しているこの村ではあってはならない、役立たずのスキルであった。
「ご両親、ちとこちらへ」
少し、と言われたはずだが、数時間待たされた両親は、緊張気味に司祭の話を聞いた。
「【遊ぶ】というスキルですが、色々と過去の文献を調べましたが同じスキルを持った者がいた記録は見当たりませんでした。似た様なものとして【遊戯】【遊芸】はありますがこれらは、踊りなどの芸事が得意なスキルであり、日常生活では役に立たないスキルの様です。まあお二人はお若いので、まだ次を頑張ってください」
エリザの両親は、ショックで言葉を発する事が出来なかった。
母のニーナは、しばらく寝込んでしまった。
エリザは、最悪のスキルな上にランクなし。本来ランクがないという事なんぞありえない。
両親は、エリザをどうしたものか悩んだが、それからエリザを奴隷のように扱うことで、気持ちを紛らわせた。
冬であろうと、深い雪道を水汲みに何往復もさせたり、深夜までの重労働かと思えば、早朝にたたき起こし、飯の支度から道具の手入れ、家畜の世話など、5歳のエリザには耐えられないような作業の多さであった。
出来なければ、食事抜き、むち打ち。
それはあたかも死んでも良いと言わんがばかりの内容であった。
いやむしろ死んでほしいと思っているに違いなかった。
エリザのスキル、そしてランク無しについては、既に村全員が知っていた。
それゆえ、周りもエリザの扱いを見て見ぬふりをしていた。
そのような環境でエリザは3年間頑張った。
エリザは【遊ぶ】時間もないほど働いた。
髪の毛は3年間伸び放題。手入れなんかするはずもなく、土埃で軋んでいた。エリザの身体は、不足した食事でがりがりに痩せ、むち打ちの傷も治らず、限界でボロボロになっていた。
そんなエリザを見て、村人はますますエリザから遠ざかった。
そしてある時、ニーナが妊娠した。
ニーナも父エルスも、今度こそは、と喜んだ。
▼あんなエリザがいなくなっても誰も何とも思わない▼
ある夜、エリザは眠れず起き上がると、キッチンから光が漏れているのが見えた。
何やら話し声が聞こえるので、エリザは隠れる様に音を立てず、絶対に見つかるまいと思いながら、そーっと近づいてみた。
「…いらないな」
「もう子供はお腹の子供だけでいいわ」
「ああ、あいつガリガリに痩せてきたし、いつ死んでも、村の人達も怪しまないだろ」
「あなたやるなら早くしてよ、もうあの髪の毛とか気持ち悪くて、見るもの嫌なの」
「分かったよ、すぐに殺すよ」
エリザはその内容を聞いて、家から逃げることを決意した。
エリザは、そーっと部屋へ戻ると、静かに服を着替え、静かに部屋の物を手当たり次第に袋に詰め、それを肩にかけると、ゆっくり窓を開けて、そっと窓から降りた。
そしてエリザは走った。必死で逃げた。
エリザは森の入り口まで逃げてきて、もう東トロ村へは戻るまいと誓った。
両親もその方がいいはず。
エリザはそう言い聞かすと、そのまま森の中へ歩き出した。
しかし夜に森の奥に入ることはとても危険であった。その為、エリザは、森の入り口付近で一夜を明かすことにした。
しかし、なにか音がする。
その方向を見ると、松明を持った誰かが探しに来ている様だった。
エリザは森深くに入り、逃げた。
••••
キャオーン、ガオーン
があー、 があー
「ひっ!」
「なに~この声?怖いよ~」
エリザは自分にスキルがある事を何年かぶりに思い出した。
「火遊び」
そういうと、落ちていた木の枝に火をつけ森の中を歩いた。
しかし火はすぐに消える。
『光があればいいのに』
「光遊びってできないのかな?」
そういって掌を広げると、掌から小さな光の玉が出て、ふわっと浮かび上がると、エリザの周りをクルクルと回り出した。
「なにこれ綺麗」
目の前がうっすらと明るくなり、気分も明るくなってきた。
ガルル
動物の唸り声が聞こえた。
10mほど先に何かいた。
2つの小さく赤く光る玉が見える。
エリザは、踵を返すと、急いで逃げた。
しかし走ってくる音が聞こえる。
相手は追いかけてくるようである。
エリザは「木遊び」「木遊び」「木遊び」「木遊び」というと、木の蔓がにょきにょきと伸び相手を邪魔してエリザに近づけなくなった。
エリザはその隙に一目散に逃げた。
光の玉はまだ自分にくっついてくる。
エリザが走り続けると、水の流れる音が聞こえてきた。
「川だ」
川は小さく、幅は10から15m、深さは20cmというところであった。
エリザは枝を拾い集め河原まで降りて行くと、火を焚き、石に座って夜空を眺めた。
『親が自分を殺そうだなんて、酷すぎる。今までの扱いは酷かったが、やはり死んでも良いと思っていたんだろうか?また子供を授かったので、私は要らなくなったんだろうか?』
エリザは考え疲れ、そのまま寝てしまった。
起きると朝になっていた。
自分は河原で寝ていたことに、昨日の事が夢ではなく現実であった事を改めて悟った。
エリザは、お腹がすいたので、川にいる魚を獲ることを考えた。
「でも、どうやって獲ったらいいんだろう?」
魚を獲るのは父の役目であり、魚を獲っている父の姿は見たことがあったが、エリザはやったことが無かった。
エリザは裸足になると川へ入り、魚を見つけると手づかみをしてみた。
「えい」
ひゅー
魚は手から滑り出てしまい、全く捕まえられない。
エリザは、父がやっていた事をよくよく思い出してみることにした。
そして川の一部を堰き止めて、そこに魚を集めるてみた。
「よいしょ、よいしょ」
すると、堰き止めたところに魚がたまっているではないか。
『よし、今度こそ』
そう思って魚を掴みに行ったが、やはり一匹もつかめなかった。
エリザは、水の中で水遊びをするとどうなるか?と思った。
『よし、魚の周りに水の玉を作ってみよう』
エリザは、そおっと水の中に手を入れて、魚の傍まで手をのばすと、「水遊び」を発動した。
すると、魚の周りの水だけが流れが無くなり玉の様になった。
エリザはそれを持ち上げると、それは見事に持ち上がり、川から取り出すことが出来た。
エリザは川から上がり、それを持って河原まで歩いてくると、「水遊び」を解除した。
「やったー♪1匹獲ったー!」
エリザはその後、同じ方法で5匹の魚を獲ることが出来た。
「よしよし、これを火であぶって食べようっと」
エリザは、小枝を集めて【火遊び】を発動した。
エリザは、満腹になると、少し落ち着いて考えることが出来るようになった。
『急いで出てきてしまったけど、これからどうしようか?誰かに見つかったら家に送り返されるかもしれない。それと、女の子だと襲われる可能性があるので、男の子の振りをしないといけない。能力についても、役立たずである事がばれないようにしないと。それに、どこかに住む場所も見つけないと生きていけない。大変だ。。。。』
「よし、先ずは名前を変えよう。男っぽい名前」
「うーん、エリザだからエリザックとか?いやいやエリザが残ったら拙いよね。アーク、イース、レイン。。。レインがいいかな?」
「よし、”僕”は今からレインだ。苗字は、まあいいか」
「髪の毛も切りたいけど。。。」
レインは髪の毛を触りながら暫し河原を眺めて考えていたが、急に立ち上がると、レインは河原の石を投げつけ砕くと鋭い破片を利用して腰まであった髪の毛を何とか肩くらいになる様に切り、細い木の蔓を【木遊び】で柔らかくして、一つに結んだ。
「これで誰かに見つかっても、誰かに会っても誤魔化せるかな?」
「とにかく川を下って行こう」
レインは川沿いを下流に向かって歩いて行った。
・・・・
『何かいる』
レインは、魔力を感じる事が出来た。
「あれは熊?だけど大きい」
「見つからないうちに、逃げよう」
レインは、ゆっくり、ゆっくりと後ずさりすると、森の中に入って行った。
ずさささぁ
「ふー危なかった」
しかし周りが変だった。
何かうごめいている。
「ス、スライムゥ?」
そこには、木の幹や枝、地面にも数えきれないほどのスライムがいた。
「きゃー」
レインは悲鳴を上げながらその場から走って逃げだした。
レインは、水遊びで掌に水をためると、それをゴクゴクと飲んで、自分を落ち着かせた。
「森の中はやっぱり怖い。どうすればいいの?」
その時、一匹の白い鹿が現れた。
「白い鹿?綺麗」
レインが見とれていると、白い鹿は首を振り、まるでついてこいと言っている様であった。
レインがその鹿について行くと、街道が見えてきた。
レインは、鹿に一礼すると、鹿も首を下げ、森の中へ消えていった。
レインの遠い記憶が蘇ってきた。
レインがまだ3歳くらいの頃、森の近くで遊んでいた時に、一匹の白い鹿の子供が森から出てきた。
レインは、鹿に水を与えたり、色々な遊びを一緒にやったことがあった。
「あの時の鹿さんだったのかな?」
「レインはなんだかうれしくなって、街道を歩き始めた」
・・・・
『誰か来た』
レインは、人の気配を感じると、森に逃げ込んだ。
カポカポカポカポ
『馬車だ』
窓から女の子の顔が見えた。
『貴族の子だろうな?』
女の子もこっちを見た。
『まずい』
レインは、木の陰に隠れた。
しかし馬車は止まることなくそのまま見えなくなってしまった。
レインは、その馬車を追うようにその方向へ歩いて行った。
・・・・
レインがしばらく歩いていると、
『また、誰かいる。人?魔物?』
レインは、恐る恐る現場へ近づくと、緑色の小人の様な魔物が、馬車を漁っていた。
そして、1匹が女の子に近づいていた。
従者は、馬車が倒れたときに投げ出されたのであろうか、道端に倒れている。
相手は、3匹。
レインは、近くにあった棒切れを持って緑色の小人に近づくと、思いっきりその頭を叩いた。
「えい」
ポコ
しかし全く効かない。
小人は、女の子からレインに視線を移し
「ギー」
とひと鳴きすると、残りの2匹も集まってきた。
そして3匹が一斉に棍棒を振りかざしてレインを襲って来た。
レインが「土遊び」を発動すると、3匹の目の前に穴が出現し、小人達は足を取られ、転んだ。
そのうちの1匹がレインのそばまで転がってきた。レインはその小人の顔に「氷遊び」を仕掛けると、小人の顔の半分くらいが氷に覆われた。
そして小人の服には、「火遊び」で火を付けた。
小人たちは、突然の事に恐れをなし、慌てて逃げて行ってしまった。
女の子は、唖然としてそれを見届けていた。
レインは、道に倒れていた従者へ声をかけ、体をゆすった。
「大丈夫ですかぁ?大丈夫ですかぁ?」
すると従者はうつらうつら目を開け、
「お嬢様」
と叫んだ。
「私は大丈夫。無事よ」
女の子が従者に歩み寄った。
「よかった」
「もしかして、あなたが助けてくださったんですか?」
従者はレインに体を向き直して聞いた。
すると女の子が答えた。
「そうよ、その子が助けてくれた。ゴブリン3匹を追い払ってくれたわ」
「そうですか。それは、ありがとうございます」
「それであなたは、冒険者ですか?それにしては若すぎるようですが?」
「。。。。ぼ、ぼくはレイン。旅をしている者です」
「そうですか。私は、こちらミレーユ・アウシュビッツ伯爵令嬢の従者をしております。アルベルト・リンデと申します。」
リンデは、年のころは60歳くらいで、やせ型、白髪頭に白髪の口髭。丸眼鏡をかけた優しそうな感じのお爺さんであった。
ミレーユは、ピンク色のドレインに、縦巻きくるくるで金色の髪の毛。目は青く、唇もピンク色に輝いていた。
「すみませんが、ちょっと馬車を起こすのを手伝ってもらえませんか?お嬢様もご一緒に」 アルベルトが二人にお願いした。
「仕方ないわね」
「せーのー、よいしょ」
ドッスン
「馬も一匹は戻ってきてくれましたので、これで何とかトロ町まで戻りましょう」
「それでレイン様、あなたはどこへ行くつもりで?」
「あてのない旅でしたので、この街道の行った先の町へ行こうと思っておりました」
「おー、それでは、お助けいただいたお礼もしなくてはなりません。町までお乗りください」
「そうですか、それは助かります」
レインは、馬車に乗り込んだ。
『そんなこと言っちゃったけど、もしかして、直ぐにバレそうな感じもするし、やめた方が良かったかな?令嬢が目の前にいて気まずい』
「あなた、ご年齢は?」
「じゅ10歳です」
「えーうそー、どう見ても私と同じくらいにしか見えないけど?」
「そ、そうですか。た確かにたまに年下に見られます」
「それであの、お嬢様はおいくつで?」
「私は、7歳よ」 『一歳だけ私が上なのね』
「それでレイン」『いきなり呼び捨て、さすが伯爵令嬢』
「はい」
「あなたどこから来たの?」
「それは~遠くからですぅ、はい」
「言いたくないのね?」
「お嬢様、人には色々と事情がおありなんですよ」アルベルトが口を挟んだ。
「ふん、信用できないわ」
「しかし、助けて頂いたのは、まぎれもない事実ですよ」
「それにしても、よくゴブリンを追い払えましたなぁ」
「運が良かっただけすよ。なんだか急にいなくなりました」
「嘘よ、嘘。私見てたもん」
「ゴブリンが転んだと思ったら顔が氷で覆われて、ゴブリンの服に火が付いたの」
「ほー、そのような事だったんですか」
「でも、お嬢様、そのようなスキルは、この世にございません。きっと女神さまのお慈悲の賜物かと思いますぞ」
「そうね。どうやったかは知らないけど、私は騙せないわよ」
「はは。。。」 レインは苦笑いしてごまかした。
馬車は順調に進み、昼頃にはトロ町へ到着した。
「かいもーん」
従者が叫ぶと、大扉の横にある扉から兵士が出てきて、馬車の中を確認した。
「1人、なじみのない者が乗っておられるが、如何された?」
「彼は、私どもの新しい従者でレインと申します」
「そうですか。承知しました。門を開けよ」
ガラガラガラー
大きな門が開いて馬車が町へ入って行った。
馬車はそのままトロ町にあるアウシュビッツ家の 別邸へ向かった。
『このままでは、まずそう。この馬車を降りないと』
しかし馬車は屋敷へ到着してしまった。
『うわ、なにこれ?庭?その向こうにあるのがお屋敷。これ家なの?』
レインは、屋敷に見とれすぎて、逃げることなどすっかり忘れてしまっていた。
そして屋敷の門が開き、馬車はスーと庭に入って行った。
「それにしても、あなた、だいぶ図々しいわね。本当にここまで来てしまうなんて」
「お嬢様、それは失礼ですよ、お呼びしてるのは我々です」
「ふん」
『そうか、やっぱり途中で降りるのが正解だったんだぁ』
「さあ、到着しましたよ、レイン様」
ミレーユに続いて、レインが馬車から降りた。
近くで見ると、また凄い屋敷であった。
壁は白く、柱は太く高く、屋根は空と同じ青。窓ガラスは綺麗に磨かれていて、一体何枚あるのか数えきれない。
屋敷の入り口の階段を上がると、白く大きな扉を潜った。すると赤いじゅうたんが敷き詰められており、両脇に並んだメイドたちが一斉にお辞儀をした。
その真ん中をミレーユは進んだ。
アルベルトが、レインの腰を押すので、それにつれられて一緒について行った。
「さあ、レイン様はこちらへ」
レインが通された部屋は、長いテーブルがあり、数えきれないほどの椅子が置いてあった。
「こちらにお掛けになって、お待ちください」
「はい」
レインはドキドキしながら暫く待っていると、アルベルトが小さな箱を持ってやってきた。
さあ、これがあなたへのお礼です。
アルベルトが箱を開けると、そこには、銅貨や銀貨が詰まっていた。
「こ、これお金ですよね?いくらあるのか知りませんが、こんなに貰えませんよ」
「あのですね、レイン様。これは、私からの気持ちです。私もだいぶ長く生きてきました。あなたの様な子供も何人か見ています。どこから来たか分かりませんが、だいぶ苦労したんでしょう。これをあなたの旅の足しにでもしてください。お金はあった方がいい」
「あ、ありがとうございます」
「それと、これを持っていきなさい。どこかで役に立つから」
レインは、短剣をもらった。その短剣の束には、アウシュビッツ家の紋章が入っていた。そして紋章の裏には、青い石がはめ込まれていた。
「これはなんですか?」
「当家の紋章が入った短剣です。そしてこれは、女神の加護が施された石ですよ」
レインの瞳に涙があふれて来た。
「あなたと出会った街道は、危険な街道です。本来、あそこをあなたの様な子供が一人であそこまで来れるはずはないのです。あなたには、既に女神の加護があるか、何か秘密があるか、またはその両方でしょう。けど、加護はあればあるだけ越したことはないですよ」と言って、アルベルトはにっこりと笑った。
「それでこれからどうしますか?あなたをここにおいてあげることもできますが」
レインは涙を拭くと、
「僕は、今は自分の楽園を作りたいと思っています。人々から遠く離れて。。。」
「そうですか。世の中には、貴方の敵になる人もいれば、味方になってくれる人もいます。そのことは忘れないでくださいね」
レインは頷いた。
「それでは、屋敷の外までお送りしましょう」
・・・・
「リンデさん、本当にありがとうございました」
「いつか僕の楽園が出来たら、来てくださいね。最初のお客様としてお迎えします」
「それは楽しみだ。それまで生きていられたら伺いますよ」
レインは深々と一礼すると、町へ消えていった。
・・・・
レインは市場まで戻ると、リンデからもらったお金を使って、リンゴを1つ買った。
リンゴは、1個2ギル。銅貨1枚で支払うと、鉄貨8枚が戻ってきた。
鉄貨は1枚1ギルという事になる。
レインは、リンゴを食べながら町中を歩いていた。
すると、魚屋が見えてきた。
レインは魚屋に行くと、先日川で獲った魚と同じ魚が売っていた。
魚は、マース1匹10ギルと書いてあった。
そして、干物は、15ギルと書いてある。
干物であれば、あのつらい3年間に作ったので、作り方は知っていた。
「あのぉ、ここから近い川ってどうやって行けばいいでしょうか?」
「なんだ、お前、まさか魚を獲りに行こうってんじゃないだろうな?」
「獲りに行くつもりです」
「お前の様な小僧が捕まえられるわけないだろう?」
「それはやってみない事には分かりませんよ」
「あーん?よし、じゃあやってみろ。持ってきたら買ってやる。買値は売値の半分だが、いいか?」
「わかりました」
「よし、川はこの町の西門から出ると近い。西門から出た道をまっすぐ行くだけだ」
「わかりました。行ってきます」
「おい、手ぶらでいくのか?」
「道具屋さんはどこでしょうか?」
「まったく、西門の傍にあるよ。そこで準備して行け」
「ありがとうございます」
・・・・ 西門
「おい、小僧、どこへいく」
「川まで魚を獲りに」
「おい、おい、川にたどり着くころには、夕方だぞ」
「じゃあ、急いで行ってきます」
「本当に行くのか?じゃあ、夜に小僧が戻ってくると引継ぎしとくから、気を付けて行けよ」
15分ほど走ると川にたどり着いた
「ここか」
川幅は少し広がっていたが、同じような手法が取れた。
レインは、川の一部を堰き止め、そこに魚を誘導した。そして水遊びで魚を獲った。
1時間ほどで、15匹獲ることができた。
「よし大漁だ」
「今日はこのくらいにしよう」
レインは急いで町に帰った。
日は落ちて、辺りは暗くなってきていた。
町の門が見えてきた。
「よかった。魔物とも遭遇しなかった」
「かいもーん」
「お?お前か、夕方から魚を獲りに行った小僧って」
「それで、魚は獲れたのか?」
「はい、これだけ」
「え?夕方から行ったんだよな?」
「おい、こいつスゲーぞ」
「どれどれ」
兵士たちが集まってきて漁の成果をほめだした。
「お前スゲーな。どうやって獲った?」
「それは僕の秘密ですよ。マネされたらおしまいです」
「そりゃそうだな。でも大したもんだぜ」
「新鮮なうちに魚屋に持っていきな」
「ありがとうございます」
レインは走って魚屋まで行くと、店はまだ開いていて、客もいた。
「行ってきました」
「おーお前、それで獲れたのか?」
「はい、これだけですけど」
「え?この短時間で?」
「一体どうやったんだよ?」
「それは秘密ですよ」
「ひい、ふう、みい。。。。」
「15匹か。分かった。約束通り買い取るぞ。しかも新鮮だな」
「あんた、それ頂戴。新鮮でしょ」
買い物に来ていたご婦人に早速買い求めた。
「へい、少々お待ちを」
・・・・
「はいよ、マース15匹150ギルだ。また頼むぜ」
「まいどぉ」レインは気分が昂った。
「宿、宿、どこだろう」
レインは宿を見つけるために町を彷徨った。
「ここ?宿って書いてある」
コンコン
「すみません。ここ宿ですよね?」
「そうだが?どうした坊主」
「あの泊まりたいんですけど」
「金は持ってるのか?」
「少しだけ持ってます」
「なら、一番安い部屋でいいな」
「はい、お願いします」
「1泊で100ギルだが、あるか?」
チャリ
「100ギルあります」
「よし、ちゃんとあるな」
「部屋はすぐそこだ。階段の横。鍵はこれだ」
「20ギルで朝飯も付けられるがどうする?」
「大丈夫です」
「わかった。それじゃ。ごゆっくり」
・・・・ 翌朝
「よし、今日は天気もいいので、干物に挑戦だ」
レインは西門に到着すると、昨晩と同じ、当直明けの兵士がいた。
「またお前、川に行くのか?」
「はい」
「気を付けてなー」
レインは昨日の場所に行くと、既に魚がたまっていた。
レインは魚を10匹ほど引き上げると、リンデからもらった短剣を使って、魚をさばきだした。
「まず、腹を切って、内臓を出して、きれいに洗って、鱗獲って三枚におろして、、塩水につけてっと」
そして、用意してあった、竹ひごで編んだ台の上の乗せ、日光に当てた。
これを3回ほど繰り返し、午前中が終わった。
「髪の毛切り忘れてたな」
そういうと、レインは、髪の毛を切り始めた。
「鏡ないし、分からないけど、まあいいか」
「あと洗濯もしとかないと」
レインは、着ている服を脱ぐと、川で洗濯を始めた。ついでに自分も入り、体も洗った。
一週間ぶりの水浴びだった。
髪の毛は素のオリーブグリーンになり、砂埃で煤けたシャツも白さを取り戻した。
「あの部屋、絶対に虫がいる。かゆくてたまらない」
「今日は、もう少しいい部屋に変えてもらおう」
夕方になり、干物が出来上がった。
午後には、漁を行い、20匹獲ることができた。
西門に戻ると、兵士が出てきて、
「今日はどうだった?」
と聞いてきた。
「今日は、干物も作ったんですよ」
「ほんとか?見せてみろ」
「これです」
「おー、凄いなお前」
「あれ?髪の毛も切ったのか?」
「ええ、河原で、ざっくりと」
そんな会話をして西門をあとにすると、魚屋へ到着した。
「おお、坊主。また今日も持ってきたか」
「はい、今日は干物も持ってきました」
「え?ほんと?」
「これなんですけど」
「ほえー、お前、これ良くできてるな」
「家でこればっかり作ってましたんで」
「お前、腕いいな。漁業のスキル持ってるのか?」
「いえ、全然持ってないですよ」
「大したもんだぜ。これは」
「よし、今日も全部買うぞ。えーと、干物が30に、マースが20ね。合計で325ギルだ。いいか?」
「はい、ありがとうございます」
・・・・ 翌日
「今日も行くのか、精が出るな。そういえば、お前の名前を聞いてなかったな」
「僕はレインっていいます」
『ボク?』 「俺はアキツだ」
「俺はシャック」
「アキツが自警団の隊長で、俺が副隊長だ。よろしくな」
「よろしくお願いします」
「気を付けてな。。。」
・・・・
「おーい、レイン」
「あ、アキツ隊長さん」
「どうだ、けっこう。。。おースゲーな、こうやって干してるのか」
「大したもんだな、お前」
「干物づくりは得意なんですよ」
「東トロ村では、干物づくりが有名だからな」
「!!!」
『やはりそうか』
「レイン、まあ、色々あって大変だっただろうが、気を落とすな。俺達もついている。」
「。。。。」
「お前も、家族がいなくなって、ここまで来たんだろ?」
「なんのことですか?」
「あれ?違ったのか?いや、東トロ村で、この前スタンピードが発生して、村が壊滅状態になったんだが。。。」
「え?!」
「そうだったんですか。。。」
「やっぱりお前、東トロ村から来たんだろ?」
「。。。。」
「僕は何のために村から出てきたのか分からなくなってしまいました」
「お前は、スタンピード前に村から出てきていたのか?」
「はい、色々ありまして」
「これからどうすんだ?この町に留まるか?」
「いえ、僕は自分の楽園を作りたいと思って旅をしているんです」
「ここは楽園にはならないのか?」
「。。。。」
「だいたい、お前は何歳だ?」
「じゅ10歳です」
「嘘つけ、そんな体で10歳のわけないだろ。良くても7歳だ」
「。。。。」
「あのな、10歳でも何歳でもいいけど、その若さで楽園を作る旅ってなんだよ」
「僕は、もうあんな生活には戻りたくないし、人間と関わるのはごめんなんです」
「今だって関わっているじゃないか」
「それは赤の他人ですから」
「そりゃそうだが、まあ、少しは人間を信じてみろ」
「じゃあ、この辺もたまに魔物が出るから、気を付けろよ」
「あ、それとな、もし何か問題があったら、自警団にこれを見せろ。この町以外に行ったとしてもだ」
「なんですかこれ?」
「身分証明書だ。一応お前のを作った。持っておけ」
「あ、ありがとうございます」
------☆
こうして、トロ町での生活が3か月ほど続いた。
少し肌寒くなってきたある日、レインが川で魚をとっていると、
「おい、お前ここで毎日魚を獲っているらしいが?」
声の方向をみると、子供たちが5人立っていた。
「なんだい君たち?」
「お前、子供のくせに、商売してるって話じゃねーか」
「僕にはお金がないから、働いているんだよ。邪魔しないでくれるかい」
ドカッ
「何すんだよ。売り物だぞ」
「お前生意気なんだよ、このよそ者が」
この子供達は、競合の魚屋の息子とその取り巻きであった。
毎日50匹を超える新鮮なマースや干物を卸しているのが、子供だと聞き、邪魔しにやってきたのだった。
バキバキ ぐちゃぐちゃ
「ちょっとやめてくれ」
しかし、実際は8歳の女の子でしかないレインの細腕では、男の子にかなうはずもなく、竹の台がぐちゃぐちゃにされてしまった。
レインは、3年前の自分を思い出しながら、とぼとぼと町へ戻っていった。
やっぱり、私がいくら何をやっても結局はダメなんだ。
ここはやはり私のいる場所なんてなかった。
「おい、レイン、今日はどうだった?」
「おい、レイン。。。?」
「アキツ、どうした?」
「いや、レインが全く元気も生気もなくてな」
「今日の釣果は?あれ無しか?」
「おい、レイン、何があった!魔物にでも襲われたか!?」
「いえ、違います。もう帰ります」
「。。。。。」
「おい、さっきのガキども、川の方から帰ってきてたよな?」
「ああ、ちょっと川に行ってみてくる」
アキツ隊長が川に行くと、魚が散乱していて、荒らされたことが一目瞭然であった。
・・・・
「あの、クソガキどもめ!」
・・・・
「おい、テレンス」
「へい、これはこれは、アキツ隊長」
「お前の子供はどこにいる」
「えーと、あ、あそこに」
「あいつか」
「やべっ」
だだっ
「うちのガキが何かしでかしましたか?」
「ああ、とんでもない事をしでかした」
テレンスは青ざめた。
「お前、最近売上が下がってるのか?」
「ええ、オイストの野郎のところが新鮮な魚と干物を仕入れてるらしくって、そっちに客を奪われてるんでさ」
「なるほどな。お前の子供が、その仕入れ業者を襲撃して、商売をできなくしたんだよ。大した親思いの子供だな」
「やろ、まさか、なんてことしやがって」
「テレンス、いいか、子供と言えど、人の商売を邪魔して、生活を奪ったら、重罪だぞ」
「へい。すいやせん」
「このことは、自警団で問題にする。沙汰を待っていろ」
・・・・ そして日が落ちると、
レインは、西門近くの町の外壁に子供が一人ようやく通れるような穴があるのを知っていたので、その穴を通り抜け、町を出た。
レインは、久しぶりに「光遊び」で、暗い夜道に光を照らした。
以前よりも少し明るくなっているように感じた。
『それにしても、なんだか以前よりも、魔物の数が多く感じる。気を付けないと』
レインは、トロ村にいた3か月間で、世の中の事を勉強した。
この国には、大小45の町や村があるが、主要な町村は次の通りである。
まず、このトロ村の西には、西トロ村があり、その先には、エントス町、リエントス町、そして王都に繋がっていた。
王都から北へ向かうと、ラルエス町、レルエス町、来たレルエス村、王都の西には、リベル町、西リベル村、サルベルト町、エルサルベルト町があり、南には、アトラス村、南アトラス村、北センジュ村、センジュ町となっていた。
そして、各町には、自警団と冒険者ギルドが設置されており、第一次産業、第二次産業のスキル以外のスキルを持っている場合、冒険者として登録が可能であった。
村には、その規模に応じ、冒険者ギルドが設置されている場合がある。
そして、町や村の間は、街道で繋がれている。
街道の途中にも、茶屋や宿はあるが、規模が小さく、冒険者のたまり場の様になっていた。
この街道沿いにも、そのような場所があるはず。
「今日は月が綺麗だな」
「そうか、今日は満月だから明るく感じたんだ。目が慣れてくると、自分の光が要らないくらい明るいや」
「ん?何か来る。凄い速さ」
レインは、木の影に隠れた。
すると、馬が凄いスピードで駆け抜けていった。
『今のアキツ隊長だったように見えたけど。何か問題でもあったのかな?』
・・・・ 数時間前 自警団
「テレンスのところの話ですが、あそこの子供が、別の子供を襲いましてね、その子の商売を台無しにしてしまったんですよ、団長、どうします?」
「またあのガキか、このままでは碌な大人になれないな。しばらくうちで預かって、精神を鍛えるか?」
「まあ、そうなるでしょうね」
「で、その襲われた子供ってのは?」
「レインって子供なんですがね、どうやら東トロ村から来たみたいなんですよ」
「何?なんで無事なんだ?」
「それが、何かのっぴきならない事情でスタンピードの前に村を出てきたらしいんです」
「それは無理筋だろ、あそこからここまで子供の足だけで来れる確率は、相当低いぞ」
「ええ、まあ運が良かったんでしょうかね」
「で、なんでテレンスのガキに襲われたんだ?」
「あの子は、魚を獲るのが上手くて、オイストのところに卸してたんですよ、それをテレンスがぼやいたかなんかしたんでしょうね。それを聞いた息子が、レインを襲ったという流れです」
「それで、その子は今どこにいるんだ?ロメンの宿です」
「ちょっと連れてきてくれるか?」
「もう6時ですよ?」
「ちょっと話を聞くだけだ」
「わかりました」
・・・・
「ロメン、あの子はいるか?」
「アキツ隊長、あの子ってレインですかい?」
「さっき出かけましたよ」
「そうか、飯でも食いに行ったかな?部屋は何番」
「2階の真ん中、5番の部屋ですよ」
スタスタスタスタ
アキツは2階へ上がり、5番の部屋の扉を叩いた。
トントントン
当然返事がない。
鍵は開いていた。
ガチャ
アキツは、テーブルに紙が置いてあるのを見つけた。
アキツ隊長さん、
レインです。
身分証明書をくれてありがとうございました。
隊長は、この世で私に優しくしてくれた二人目の人です。
本当にありがとう。
でも私はこの町に居られそうにありません。
ごめんなさい。
いつの日かまたこの町に戻ってこられそうなら自警団に立ち寄りたいです。
それでは、
ダダ
ドドドド
「あれ、アキツ隊長?」
「どうしたんだろう急に飛び出して」
「レイン、お前は、この町にいていいんだよ。あのスタンピードは酷かったらしい。恐らくお前の親も生き残っていないだろう。だから女の子が、そんな小さな体で、旅をつづける必要はない」
・・・・ 西門
「開けてくれ!」
「あれ、隊長どこへ?」
「町の外の出て帰ってこない人がいるのでその調査だ。早く開けてくれ」
『たぶん王都方面へ向かっているはずだ』
「やー」 アキツは馬を走らせた。
アキツは、30分ほどで、西トロ村の門まで到達した。
「畜生、こっちじゃなかったか」
「あれ?アキツ隊長?どうしたんですか?」
「おーサイラス」
「ちょっと人探しをしててな、7-10歳くらいの男の子なんだが、ここに来たら教えてくれ」
「こんな夜に来るんですか?わからんが、もし来たら明日でもいいから教えてくれ」
「分かりました」
・・・・
その頃、レインは森に入っていた。
また白い鹿がレインの前に現れて、レインをどこかに呼んでいる様であった。
森は暗かったので、レインは光遊びで光を出すと、光はレインの周りを回り始めた。今回は2つの玉が出てきた。
それを見た白い鹿は笑ったように見えた。
鹿について行くと、洞窟にたどり着いた。
「鹿さん、ここ洞窟だけど、大丈夫かな?」
白い鹿はまたにっこり笑ったように見えた。
洞窟を進んでいくと、そこには、足の太ももに大きな傷をつけた、巨大な鹿が横たわっていた。
「大丈夫?今薬を塗ってあげる」
白い鹿は、レインの袖を噛むと、大きな鹿へ触るなと言っている様だった。
「触っちゃいけないの?それなのに、なんで私をここに呼んだの?」
「この鹿さんを助けろってことでしょ?」
鹿は頷いた。
「じゃあ、薬を塗るわよ?」
鹿は首を振った。
「あなた、私の言葉が分かるの?」
鹿は頷いた。
「すごい。こんな事ってあるのかしら」
「じゃあ、私のいう事に答えてね」
鹿は笑って頷いた。
「私が出来る事と言えば、スキルを使う事くらい。そのスキルを使って欲しいの?」
鹿は頷いた。
「どのスキルだろう?水遊び?」
鹿は首を振った。
「火遊び?」
鹿は首を振った。
「土遊び?」
鹿は首を振った。
「木遊び?」
鹿は首を振った。
「残りは、光遊び?」
鹿は首を振った。
「他にないわよ」
鹿は首を振った。
「もしかして、私は他にもできることがあるの?」
鹿は頷いた。
「なんだろう?」
「水、火、土、木、光の他?目の前には怪我の鹿」
「もしかして治癒?」
鹿は頷いた。
「無理無理。やったことないよ。私のスキルは【遊ぶ】よ。治癒なんて遊びは無いわよ」
「。。。。もしかして、お医者さんごっごっていう事かな?」
鹿は頷いた。
「ちょっと、それは恥ずかしい。。。けどやってみるわ」
「はい、じゃあ、お薬塗りますよぉー。ぬりぬりぬりぬり。 それで、、、、いたいのいたいの飛んでいけ~」
すると、鹿の傷口がみるみる閉じ、血が止まった。
「ええ、うそでしょ?」
そういうと、レインは意識を失って倒れてしまった。
一気に魔力を使ってしまったため、魔力欠乏に陥ってしまったのであった。
・・・・
レインが目を覚ますと、そこには、鹿のお腹の上だった。
レインが治療した鹿は元気を取り戻し、レインが起きるのを待っていた。
鹿は、レインをぺろぺろと舐め始めた。
「くすぐったいよ。分かったわ」
「でも、助かってよかった」
「それにしても、なんであなたは、自分でも知らない能力を知っていたのかしら。言葉も分かるみたいだし、本当に不思議ね」
白い鹿はまた笑った。
「じゃあ、私は行くわね。また街道まで案内してくれる?」
鹿は頷いた。
レインは大きな鹿に手を振ると、洞窟を出て白い鹿と街道まで歩いて行った。
「ところで、あなたは、本当に鹿?」
鹿は首を振った。
「魔物?」
鹿は頷いた。
「そういえば、鹿に比べて筋肉が硬そうだし、出っ張りも多い感じがする」
「それにしても。賢い魔物もいるのね」
「ありがとう、ここで大丈夫よ」
「それじゃまたね」
鹿は頷いた。
・・・・
レインが街道を歩いて行くと、町の外壁が見えてきたが、門の上には、エントスと書いてあった。
どうやら、西トロ村は飛び越してしまっていたようであった。
エントスの入り口につくと、当然自警団員に声をかけられた。
「君は、一人かね?」
「はい」
「身分証を見せて」
『身分証か、アキツ隊長からもらったやつでいいか』
「これで良いですか?」
「これは。。。」
「何か問題でも?」
「いや、身元引受人がアキツ隊長になっているが、どういう関係だ?」
「え?あの、身寄りのない私を保護してくれたというか、そんな感じです」
「そうなのか、さすがアキツ隊長だ。やっぱりあの人は一味違うんだよな」
「そんなに凄い隊長さんなんですか?」
「まあ、別にとんでもない魔物を倒すとかそういうことじゃなく、人が嫌がる事とかを率先してやって、それを誇る事もなく、当然のようにやって、当然のように帰っていく。それが王様の依頼だろうが、子供の依頼だろうが分け隔てなくな。そこら辺のミーハーのガキどもにはアキツ隊長の良さは分からないだろうな」
「へーそうだったんですね」
「おかげで、未だに独身ってことらしいが」
「おっと、余計な事を言ってしまったようだな」
「身分証はこれでいいが、10歳か、ずいぶんと小さく見えるが、まあいいだろう、宿はどうする?」
「どこかいいところありますか?」
「そうだな、飯屋とくっ付いてる面倒見のいい婆の店があるが、どうだ?」
「そういうところはちょっと。。。」
「そうか、もう少し静かなところがいいんだな」
「はい」
「そしたら、ベリーズの宿だな」
「ベリーズは、変な詮索もしないし、口も堅いし、いいかもな」
「そこがいいです。場所を教えて頂いてもいいですか?」
・・・・ ベリーズの宿
「ここね」
少し古びた宿であったが、石造りのがっしりとした建物であった。
階段を上り、扉を開けると、
チリーン
と音が鳴った。
「はいよぉ」
ワインレッドの薄いセーターと丸メガネが目立つ小太りの中年女性が出てきた。
「あの、門番のガベスさんから紹介されてきたのですが」
「そうかい、そうかい。ようこそ」
「何泊するね」
「とりあえず、1週間くらい」
「じゃあ1400ギルだが、あるかい?」
「はい、大丈夫です」
「あと、近くに川はありますか?」
「川?何しに行くんだい?」
「魚を獲って、それを売ってお金にしたいんです」
「なるほどねぇ」
「北門を出て、1時間くらい歩いて行くと、川はあるけど、結構大きい川だよ」
「わかりました。とりあえず明日行ってみます」
「いやいや、その道は少し危険なんだよ。Dランク程度の魔物が出てくるから気を付けないとだめだよ」
「Dランクって何ですか?」
「そうか、あんた冒険者って感じじゃないものね」
「あのね、魔物にはランクがあって、SからEまであるんだよ。Sなんてめったにいるもんじゃないけど、一番恐ろしいのは、ドラゴンだね。それから、Aランクで有名どころは、牛の化け物のミノタウルスとか、熊の魔物のブラッディベア、鹿の魔物のレブルディア、Bランクはオーガ、サラマンダーとかマージスパイダーが有名だね。Cランクはオークあたりだろうね。Dランクは、ホブゴブリンとかで、Eはゴブリンとかスライムだね」
「詳しいんですね」
「私も昔は冒険者だったのさ」
「強い魔物と戦うなんて、怖くて、僕にはできませんけど、Dランクくらいなら大丈夫そうです」
「本当かい?まあ自己責任で頑張りな。野垂れ死んでも責任は取らないからね」
「はい」
・・・・ 翌日
「それでは行ってきます」
「本当かい?」
「はい、大丈夫だと思います。行ってきます」
チリーン
「本当に行っちまったよ。大丈夫かね。一応自警団には言っておいてやるか。あーめんどくさい」
・・・・
「あれ?ベリーズさん、珍しいですね。こんなところへ」
「ああ、まあね。あのさ、うちに泊まってるお客なんだけど、北の街道を通って、川に行ったんだよ」
「それが?」
「歳は7,8歳くらいかな、男の子なんだけど、魚を獲るって言ってさ」
「8歳で北の街道ですか、それは危険ですね」
「だろ、だから来たんだよ」
「おしえてあげたんですか?」
「当たり前だろ、Dランクが出るって言ってあげたさ。だけどあの子余裕の顔なんだよ」
「あの子は冒険者でもない、ただ旅してるだけだから分かってないんだよ」
「そうですか、直ぐに馬を回します」
「ありがとよ」
「あーめんどくさい」
・・・・ 北の街道
「誰か来る?馬かな」
パカラパカラパカラ
「君か?ベリーズさんのところに泊まっているという子は?」
「あれ?ホブゴブリンじゃないか?」
するとホブゴブリンは魔石に変化した。
「倒したのか?」
「ええ、まあ」
「どうやって」
「短剣でズバっと」
「やるな、君。その若さで大したもんだ。心配無用だったな」
「じゃましたな。それでは頑張ってくれ」
「ふー危なかった。能力がバレるところだった」
レインは、トロ町での漁に水遊びを多用したり、鹿の魔物を助けたりしたことで、能力が向上していた。
レインはホブゴブリンが出てくると、ホブゴブリンを土遊びで転ばせて、顔面を水遊びで覆った。
レインは、多少離れた位置でも水の塊を保持できるようになっていた。
ホブゴブリンは、必死で水を顔から取ろうとするが、出来るはずもなく、30秒ほどで窒息してしまったのであった。
「初めて自分で倒して手にしたけど、これが魔石か。一応持っておこう」
その後は、魔物も出てこず、無事川に到着した。
「これは、確かに広いな。それに草が多すぎて水の近くまで行けないや」
「これではいつもの仕掛けは仕掛けられないな」
レインは、竹細工で大きな網を作ると、川の傍まで行ける場所を探し、網を川に沈めた。
そして、しばらく待って川から網を引き揚げてみた。
「だめだ。重たすぎて上がらない。それに川の流れが速すぎる」
レインは諦めて上流を目指すこととした。
1時間ほど歩くと、少し流れが細く、緩やかになり、石が多くなってきた。
「ここらへんなら大丈夫そうだ」
レインは、いつものように石を動かし、堰き止めると、魚を集めた
「よしきた。これだよ」
「今日は時間がないし、少し寒いから干物は無理だな」
レインは、20匹ほど魚を獲って帰る事にした。
途中にまたホブゴブリンに出くわしたが、最初と同じ方法で対処し、問題にはならなかった。
・・・・ エントス町北門
夕方になり、エントス町に戻ってきた。
「小僧、釣ってきたか?」
「ええ、まあ」
「何匹いるんだ?」
「20匹です」
「そんなにか?お前やるな」
「魚屋さんはどこですか?」
「すぐそこさ」
「ありがとうございます」
・・・・ 魚屋
「あのーこちらで、魚を買い取って頂けますか?」
「なんだよやぶからぼうに」
「さきほど、北門を出て川まで行って、マースを取ってきたんですが、見て頂けないかと思いまして」
「お前が魚を?まあ、見せてみろ」
レインがバックから魚を取り出すと、
「これは。。。」
「ずいぶんと新鮮じゃねーか。20匹はいるな?」
「おー、全部買い取るぞ。100ギルでいいか?」
と、店主は興奮気味に言った。
「はい、ありがとうございます」
「あの、干物もできますけど?」
「本当か、助かる。冒険者は干物が好きなんだよ」
「干物だと、倍で買い取るぞ」
「倍ですか、頑張ります」
・・・・ ベリーズの宿
「あんた、戻ってきたかい」
「大丈夫だったのかい?」
「大丈夫ですよ」
「魔物は出たのかい?」
「はい、出ましたけど。大丈夫でした」
「ええ?」
「自警団のやつ、ちゃんと行ったのか?」
「着ましたよ。それで僕がホブゴブリンを倒したのを見て、帰っていきました」
「あんたやるね。そんな風に見えないけど」
「まあ、あれ以上の魔物は無理ですけど」
「それで、魚は?」
「はい、20匹取れました」
「それも凄いね。あんたを見直したよ」
「でも、これから寒くなるからね。魚も獲りづらくなるんじゃないか?」
「やっぱりそうですか」
「そうだ、ホブゴブリンを倒したなら、魔石に変わったろ?」
「はい、これですか?」
「そうそう、これだよ」
「これが?」
「あんたね、これをお金にできるんだよ」
「そうなんですか?」
「あたりまえだろ、冒険者がどうやって食っていってると思ってるんだよ」
「あのね、この魔石は色んなエネルギー源なんだよ。だから価値があるの」
「へー。これでいくらくらいになるんですかね?」
「Dランクだからね。1個で50ギルくらいにはなるかな?」
「そんなになるんですか?魚より儲かるじゃないですか?」
「まあそうだけど、命懸けだからね、それだけ価値があるんだからしかたないだろ」
「それで、どこでお金がもらえるんですか?」
「ギルドだね。だけど冒険者登録が必要だよ」
「冒険者登録ですか。。。」
「じゃあ僕にはこれは要らないので、この宿に寄付しますね」
『何か事情がありそうだねぇ』
・・・・
「結構寒くなってきたなぁ」
「でも漁は続けないと、お金が無くなっちゃう」
レインはホブゴブリンを倒しながらいつもの川へ向かった。
川へ着くと、枝を組み合わせて、河原に小屋を作った。
風が吹けば飛んでしまいそうな小屋ではあったが、蔓を石に結び付けたりして、なんとか安定させた。
「よし、これなら冬でも快適に作業が出来そうだ!」
そして、小屋の中で火を焚き、干物を作る事にした。
川の水はかなり冷たくなってきていたが、昔を考えればなんてことはなかった。
・・・・ そして数週間後
そしていよいよ真冬を迎えた。
「今日は雪が良く降るなぁ」
「あっ!小屋。。。大丈夫かな?」
レインは、雪の重みで小屋がつぶれていないか心配になり、見に行くことにした。
・・・・ 北門
「おいレイン、今日も行くのか?」
「はい」
「まあ、魔物も今日は寝てるだろうけど、気を付けてな」
・・・・ 2時間後、北門
「おい、ブラッディベアが出たらしいぞ」
「うそだろ?冬眠中のはずじゃないのか?」
「ああ、北の森で猟師が弓で鹿を捕えたんだが、ブラッディベアが横取りして行ったらしいんだよ」
「北の森。。。?」
「おい、レインがやばいんじゃないか?」
・・・・
レインは、遠目に小屋の屋根を見た。
「やっと着いた」
「つぶれてなかった。大丈夫そう。。。。」
『何かいる。かなり大きな気配』
レインは恐る恐る小屋に近づいてみた。
すると何か大きな影が動いているのが見えた。
グラグラ、ガタガタ
小屋が揺れて屋根の雪がドサっと落ちた。
次の瞬間、小屋がバキバキィと壊れ、その隙間からブラッディベアの顔が見えた。
目が赤く光っており、あまりの恐ろしさに目を逸らすことが出来なかった。
するとブラッディベアもレインを見つけ、グァーーーと叫び、小屋を壊して走って向かって来た。
レインは、土遊びでは、10m程の距離であれば、能力を出せる様になっていた。
しかし限界の距離では、小さな穴しかあけられない。
レインはブラッディベアが追ってこれないよう、自分から5mくらいの距離の道に、ブラッディベアの半身が入るくらいの穴を、全力の土遊びの能力を使って、あけた。
「ううぅ」
レインの魔力では、これが限界であった。
ブラッディベアは、穴に落ちたが、直ぐに穴から出てレインを追ってきた。
レインは、「木遊び」で蔓を伸ばすと、自分の前に防御壁を作った。
これは少し効果があったが、ブラッディベアは蔓をバキバキと切り裂き、レインに近寄ってくる。
レインは、次に「氷遊び」を使った。
周囲の気温が低いため、瞬時に蔓を凍らせて固めることができ、蔓の強度を増したのであった。
これは、ブラッディベアでもなかなか前に進めなくなり、イライラしていた。
しかし、レインの魔力は限界に近づいていた。
ブラッディベアは、防御壁に何度も体当たりして、レインに向け突進してきた。
レインは、更に「木遊び」で防御壁を強化し、一目散に逃げた。
バキバキという音とともに、防御壁が破られそうになった。
しかし焦り過ぎてレインは雪で転んで前に進めないでいた。
ブラッディベアは、まだ防御壁の蔓に絡まっていた。
それを見たレインは、勇気を出してもう一度ブラッディベアに近づくと、「火遊び」を出しブラッディベアの毛に火を付けた。
するとブラッディベアの身体が燃え出した。
ブラッディベアは、防御壁から離れグォーグォーと叫び、雪の中にゴロゴロと転がり、火を消した。
するとブラッディベアは目を真っ赤にして、怒ってバキバキと防御壁を破っている。
レインの魔力はもうほとんど尽きていた。
レインは、必死に逃げた。
とうとう街道まで出て来ることが出来たが、そこで力尽き、うつぶせに倒れこんでしまった。
『もうここでおしまいか』
レインは、目を瞑り、今までの事を思い出していた。
「リンデさん、アキツ隊長、私に優しくしてくれた二人。ありがとう」
ブラッディベアは、防御壁の蔓を全て切り裂き、レインを追って来た。
ブラッディベアはレインを見て、よだれをたらしていた。
そして、その爪がレインの身体を引き裂こうとした瞬間。
ドカーン
という物凄い音がした。
レインは目を開けて、背中越しに見ると、大きな鹿のお尻が見えた。
レインはあっけに取られて、頭が真っ白になっていた。
「し、鹿?なんで?」
鹿の足の間から、ブラッディベアが倒れているのが見えた。
ブラッディベアはフラフラと立ち上がると、鹿に向かって来た。
鹿は角で応戦。
ブラッディベアは鹿の角を掴むと、鹿を振り回そうとした。しかし、雪で足元が不安定なため、力が入らない。
ブラッディベアは、鹿の角から手を離すと、鹿の顔に目掛けて爪を突き立てた。
しかし角が邪魔をして、鹿の顔を攻撃できない。
鹿はお構いなしに角を突き立てると、ブラッディベアの左目に角が入り、ブラッディベアの視界を奪った。
ブラッディベアは、分が悪いと思ったのか、じりじりと離れると、逃げて行ってしまった。
「はぁー助かった。。。?」
「鹿さん、助けてくれたの?ありがとう」
よく見ると、鹿がもう一頭いた。
「周りが白いから気が付かなかったよ。助けに来てくれたの?」
白い鹿は笑って頷いた。
ドドドドドドド
「誰か人が来る?」
鹿たちは森へ走っていった。
「おーい、レイン、レインぅー、大丈夫かぁー」
「クライフさん、来てくれたんですか?」
「今のレブルディアじゃないか?」
「鹿ですか?」
「ああ、鹿みたいな魔物だよ」
「僕がブラッディベアに襲われているのを、助けてくれたんです」
「魔物が人間を助けるなんてこと、あるわけないだろ」
「そうかもしれませんが、僕がブラッディベアに襲われていたところを、鹿がやってきて、ブラッディベアと鹿の戦いになったのは、事実ですよ」
「なるほど、ブラッディベアとレブルディアが敵対関係だったかもしれないな」
「まあ、お前は運が良かったな」
「今日のところは一旦帰ろう」
「はい、そうします」
「後ろに乗れ」
・・・・
パカパカパカパカ
「それにしても、クライフさん、助けに来てくれてありがとうございました」
「いやー何かあったら、俺達の責任だからな」
クライフはなぜか赤くなって照れた。
「ですが、あの魔物たちは、Aランクですよね?クライフさんなら討伐できるんですか?」
「いいや、俺一人でどうこうできる相手じゃあねぇ」
「ええ?じゃあ、僕を助けに来てくれたのに、どうやって戦うつもりだったんですか?」
「隙を作って逃げるつもりだった。それくらいなら俺にもできるよ」
「そうなんですか。。。もしブラッディベアを討伐するとしたら、どうしたらいいんですか?」
「そうだな、Aランク冒険者チームが必要だな」
「Aランク冒険者チームですか?」
「ああ、Aランク以上の冒険者が3人以上いれば、Aランク冒険者チームと呼ばれる」
「クライフさんはAランクなんですか?」
「俺は、まだそこまでは行ってない。Bランクだ」
「凄いじゃないですか。あと一つですね」
「まあそうだが、そんなに簡単じゃねーんだよ」
「俺のスキルは、豪剣士なんだが、ランクは銀なんだ。このランクは死ぬまで変わらない」
「冒険者ランクAになるには、スキルランクも普通は金が必要なんだよ。スキルランクを上げられない俺にとっては、自力で技を磨くしかないんだが、これが大変でな。金と銀の差はいかんともしがたい」
「そうすると、ドラゴンとかって、どうやって討伐するんですか?」
「ドラゴンかぁ。あれは並みの冒険者が討伐するとかそういうもんじゃないな。俺は聞いた事しかないが、ドラゴンスレイヤーっていう人がいる。その人がいるSランクパーティーなら出来るだろうな。あとは国の軍隊がだろうな」
「そういや、レインのスキルって何なんだ?」
「え?僕ですか、、、、ぎょ、漁業です」
「そうだよな、その歳であれだけの漁が出来るんだから、漁業だよな。すまんすまん」
「だけど、小屋が壊されたってことだが、あんな場所に小屋を作ってたのか?」
「はい、冬場でも干物が作れるように、小屋を作って、その中で火を焚いていました」
「スゲーなーお前は、その歳で色んな事が出来るんだな」
「Aランクの魔物に出くわしても無傷で生きてるし、やっぱり女神さまの加護のおかげかな?」
「そんなもんですかね?あまり感じたことはありませんが。。。」
「まあな、東トロ村みたいなこともあるしな、あれは女神の加護も何もないぜ」
「そんなに酷かったんですか?」
「俺は実際に見たわけではないが、ゴブリンのスタンピードは、ゴブリンエンペラーがいるんだよ。こいつはAランクだ。こいつが主導して、ゴブリンメイジやジェネラルらを生み出し、そいつらが更にネズミか蟻のように大量のゴブリンを生産して、それがゴブリンの津波となる。これがゴブリンのスタンピードだ」
「どうやってそれが収まるんです?」
「村や町が破壊しつくされて、エンペラーが満足すればだろうな」
「今もそのエンペラーはいるんですよね?」
「ああ、だが討伐依頼が出てるから、いずれ討伐されるだろうな」
「この町は大丈夫なんですか?」
「絶対に大丈夫とは言えないな。ただ、この町は、Aランク冒険者が多いからな。そんじょそこらのAランクモンスターにはやられないよ。だが、町から出るときは気を付けないといけないな」
「分かりました」
「まあ、今回は、はぐれたブラッディベアだから気を付けようもないけどな」
「はぐれ者ですか。。。」
・・・・
それからしばらくレインは宿から出ず、漁にはいかなかった。
レインは魚屋に謝りに出かけた。
「あのぉ」
「おお、お前、最近どうしてた?心配したんだぞ」
「ごめんなさい。ちょっと小屋を壊されちゃって、干物が作れないんです」
「そうだったのか。それよりも、お前さんが無事でよかったよ」
「干物は出来るときで良いよ。今は冒険者の連中の動きもそれほどないしな」
「そうですか。。。少し暖かくなったら、また漁にでますので、そしたら、また持ってきます」
「ああ、待ってるよ」
レインは次に道具屋に向かった。
「おお久しぶりだの、坊主」
「こんにちは」
「あの、薬草について教えて欲しいのですが。。。」
「薬草をどうしたいんだ?」
「僕は普段、川で魚を獲って生活していたんですが、冬場はちょっと難しくなっちゃって、薬草でも取ってみようかと思ったんです」
「そうか、薬草取はギルドにお願いしているんだが、まあ、いいだろ。冬場は雪に埋もれて発見するのが難しいが、だいじょうぶか?」
「やってみます」
「そうか、それじゃあ、これと同じ草を持ってきてくれ。これは、ふしみ草とって、怪我の回復薬の原料になる」
「北門を出た直ぐの森の入り口付近を探してみてくれ。葉の部分に特徴があって、ここが一部分白くなっているだろ?これが特徴だ。比較的見つけやすい草だ。1㎏で100ギルってところだ」
「わかりました。やってみます」
・・・・ 森の入り口
森の入り口付近では、雪は足首くらいまで積もっていた。
しかし、森の中に入ると、入り口付近よりも少ない雪しか積もっていなかった。
雪はフカフカで、手で払っても簡単に地面が見えるほどだった。
「葉っぱが丸くて、真ん中が白いやつっと」
「これ?かな?」
「一応持って行こう」
レインは、次に来るときには、雪を払うために箒を持ってこようと思った。
今回は仕方なく、水遊びを使ってみた。
「水遊び」
じゃじゃじゃじゃじゃ
「お、いい感じで溶ける」
「よし、また見つけた。少し慣れてきたかな」
しかし、溶かしたところから、直ぐに氷はじめ、取るのに手間取ってしまう。
「水遊びと、火遊びを同時にできたりしないかな?」
「水遊び、火遊び」
すると、水の中で火が灯り始めた。
「なんか不思議だな、一体どうなっているんだろう?」
「お?なんか温かくなってきてる」
「自分で出してる火は熱くないのになんでだろう?」
レインは、お湯を雪に垂らすと、雪がパーっと溶けていった。
「やっぱり水の時より取りやすくなった」
「よし、この調子でやって行こう」
レインは、3時間ほど採取したが、これ以上は寒いと思い町の道具屋に戻る事にした。
・・・・ 道具屋
「おー坊主、ずぶ濡れじゃないか」
「ずっと採取してたのか?」
「はい」
「お前、こんな寒さの中、死んじまうぞ」
「ちょっとまっとれ」
店主は、奥から布きれをもってくると、
「これで拭いとけ」 と言った。
「ありがとうございます」
レインは体を拭き、
「それで、これだけ取ってきましたが、どうでしょうか?」 と言って、袋に入れてある薬草を見せた。
「ええ?こんなにか?」
「重さは量ってませんけど分からないので、とりあえず持ってきました」
「綺麗に洗ってもいるようだし、全部問題ないようだな。ちょっとまってろ、今量るからな」
店主は袋を奥に持っていき、しばらくすると戻ってきた。
「5.5kgだった。ただ、根っこは要らないから、5kgとさせてもらうぞ」
「500ギルになるが、良いか?」
「はい、ありがとうございます」
「今は冬場で、なかなか手に入らないが、あと50kgあると助かる。それが終わったら別の薬草もたのみたいのだが、どうだ?」
「はい、出来るだけ頑張ります」
「じゃあ、また明日な」
「はい」
レインは、冬場の新しい仕事を得ることが出来てうれしかった。
それから、約1週間でふしみ草50kgを集めることが出来た。
「これでふしみ草は、当面大丈夫になったぞ。レイン、ありがとな、じゃあ次は、けばえ草を頼む」
「けばえ草ですか、どんな感じですか?」
「これだ」
「茶色い草ですか。そういえば、ふしみ草を採取してるときに、少し見かけましたよ」
「そう、それだ。だが、これはもう少しじめじめした場所に生えてるんだよ」
「だから少し森の奥に入らなきゃいけない。どうだ?少し危険だが、その分報酬も良いぞ」
「今の時期は余り魔物も出ないみたいだし、門から直ぐの森なので、大丈夫だと思います」
「よし頼んだ。報酬は、1kgで300ギルだ」
「え?そんなにもらえるんですか?」
「ああ、わしも飲んでるからな?」
「え?オニキスさん、どこか具合でも悪いんですか?」
「ここじゃ、ここ」
オニキスは自分の頭を指さした。
「少し毛が生えておるだろ?」
「はあ?」
「だから、毛が生える薬だよ、髪の毛」
「そうなんですかぁ」
「そんなデカい声をださんでも、恥ずかしい」
「だって、そんなに生えてないじゃないですか」
「これは、男はみんな欲しがる薬だから、もっと必要なんだよ」
「そういうものなんですねぇ」
・・・・
「けばえ草、けばえ草っと。これこれ」
雪はまだまだ降り続いている。
『何かいるわね?』
ぴょん、ぴょん、ぴょん
「あ、うさぎだった?かわいい」
すると、ウサギの顔が恐ろしい顔に変わり、
ぎゃぎゃぎゃぎゃ ぐぁ
と変な声を出しながら、襲って来た。
「なになに、このうさぎ、やっぱり魔物だったの?」
レインは、飛び掛かってくるウサギを手で払うと同時に、掌に火遊びを出して、ウサギに火を放った。
ウサギは雪に埋もれたので、火はすぐに消えたが、ウサギは火に驚いたようで、ぴょんぴょんと逃げていった。
「驚いた。あんなかわいい顔して、急に牙をむいてくるなんて」
「でも、この火を飛ばせたりできると、魔物に攻撃できるんだけどなぁ」
「火遊び。飛べ」
「ダメだよね、やっぱり」
「そういえば、水遊びは少し遠くに出せるようになったから、火も飛ばせなくても、遠くに出せるのかな?」
「火遊び」
レインは、足元の雪の上に火をともすイメージをしてみた。
すると、思った場所に火が出てきた。
「わーすごい、すごい。こんなこと出来ちゃった」
どこら辺までできるんだろ?
どうやら、遠くなるほど火の勢いが弱いのが分かった。今は5mほど先で火がみえなくなるほど小さくなっている。
「あ、けばえ草とらないと」
・・・・
「戻りましたぁー」
「おお、レイン、戻ってきたか」
「どうだった?」
「こんな感じです」
「おお、やったな」
「ちょっとまってろ」
「根っこも含め4kgある。これだけ取るのは大変だっただろう?」
「少し森の奥まで入る必要がありましたけどね」
「魔物はいたのか?」
「うさぎの魔物が出てきました」
「Dランクの暴れうさぎだな。けがはなかったか?」
「大丈夫です。動きは早かったですけど、振り払ったら逃げていきました」
「そんな簡単に逃げてかないだろう?まあ無事ならよかった」
「じゃあ、1200ギルだ」
「あれ?根っこは?」
「こいつは、根っこも含めるんだよ」
「ほんとうですか。ありがとうございます」
「ありがとうは、こっちの言う事だ」
そういうとオニキスは自分の広いおでこをぴしゃっと叩いた。
そして、凡そ1か月間にわたり、けばえ草の採取を行い、200㎏程度の収穫となった。
けばえ草のおかげで、レインの懐はかなり温かくなった。
オニキスの店は、育毛薬が安く手に入るという事で、大評判になっている。
しかし、これが問題を引き起こしていた。
・・・・ エントス町 冒険者ギルド
「最近、けばえ草の依頼が無くなったな?」
「確かにそうだな」
「そういえば、オニキスの店で、育毛薬が安く売られてたけど、けばえ草をどこから仕入れてるんだろうな?」
「ちょっと聞いてくるよ」
・・・・
「おーす、オニキス」
「ああ、ミカルスの旦那、お元気で?」
「なんとかやってるよ」
「それで、今日は何かお探しで?」
「ああ、ちょっと最近気になりだしてな?ここ」
オニキスは、自分の頭を指さした。
「それでしたら、いつもより、安くていいのがありますよ」
「いくらだ?」
「1本1000ギルです」
「本当か、安いな。いつもの半分じゃねーか。なんでこんなに安くなるんだ?」
「それは企業秘密ですよ」
「だけど、お前、ギルドは1kgで800ギルで卸してるだろ?」
「うっ」
「オニキス、お前、変な事やってねーだろーな?」
「な、な何をおっしゃるんですか」
するとそこにレインが戻ってきた。
「オニキスさん、戻りました」
『やべー』
『しっしっ、帰れー。頼む、帰ってくれー』
オニキスは、レインに対し、必死で顔アピールをしている。
「オニキスさん、お客さんだったんですか?」
「おー坊主、オニキスの知り合いか?」
「知り合いというか」
オニキスの顔が歪んで、顔がテカテカしている。
「オニキスさん?。。。。」
レインは、オニキスの表情を見て、ミカルスに襲われていると勘違いした。
「あなた、強盗か、泥棒ですね?」
「自警団呼びますよ」
「おいおい、何言ってるんだよ。俺はギルド職員だ」
「え、本当なんですか?オニキスさん」
うん、うん
オニキスは、ひきつりながら頷いた。
「で、お前はなんなんだ?」
「僕は、レインです」
「そうか、レイン。俺の用事が終わったら、お前の番だから待っててくれ」
「で、オニキス、どこから仕入れているんだい?この育毛薬の原料のけばえ草は?」
『終わったぁ~』 オニキスの顔色が絶望の色に変わっていた。
「え?けばえ草なら森に行けば沢山生えているじゃないですか?誰でも取れますよね?」
「あのな坊主、お前は、少し待ってろ」
「オニキス、他の道具屋は、未だに2000で売っているんだけど、半額はやり過ぎだろ?」
「すみません、森に生えている物を自分で採取して薬にして売ったらダメなんでしょうか?」
「あのな坊主、お前は関係ない。それとな一応ルールがあるんだよ。そうやって商売を一人で独占するような奴は、ダメなの」
「そうですか。じゃあ、僕が皆さんの分も取ってきますよ」
「坊主、何のことだ?」
「けばえ草です」
「坊主、ひょっとして、お前、けばえ草を取ってるのか?」
「はい、ここにありますよ」
「どれ、見せてみろ」
「なにぃー、こんなにあるのか?」
「おい、オニキス、お前、ガキに森に入らせたうえ、市場より安く買ってたな?」
「ちょっと、やめてください。オニキスさんは何も悪くないですよ」
「オニキス、お前、こんな純粋な子供を騙して、許せんぞ」
オニキスはすっかりうなだれ、何も言い返せない状態であった。
「坊主、レインか、お前な、こいつに騙されてたんだよ」
「僕が騙されてた?」
「ああ。で、お前はいくらでこの草を買い取ってもらってたんだ?」
「1kgあたり300ギルです」
「ギルドなら、600で買い取る」
「でも安くなって、皆さんが使いやすくなれば、その方が良くありませんか?」
「お前の言うのももっともだが、安くなればいいってもんじゃないんだよ」
「オニキス、悪いが、このまま自警団まで一緒に行ってもらえるか?」
「分かりました」
オニキスは涙目で答えた。
「オニキスさん、今日の分は、腐らない様に外に置いておきますね。それと今日は、僕が自分の勝手でやったことなので、お金はいりませんから」
『レイン、もうやめてくれ~』
「オニキス、お前、本当に罪深いやつだな、許せんぞ」
「それ以上はやめてください」
オニキスを捕らえようとするミカルスに対し、レインは怒りを覚えていた。
「お前も、早く大人になる事だ」 ミカルスは呆れて言った。
「。。。。」
レインは、店から出ると、オニキスが連れていかれるところを見送った。
『また私が余計な事をしたから迷惑をかけてしまった。いつもそうだ。調子に乗ると必ず悪い事が起こる。なんでだろう。やはり女神なんているはずない。オニキスさんは私を助けてくれたのに、なんで捕まえるのよ』
レインは、この町にも自分の居場所はないと思うようになった。
=レインは、この町を出ていく決心を固めた=
・・・・ エントス町 自警団
「おーす」
「ああ、ミカルスさん、どうしました?」
「おお、クライフ、こいつを頼むわ」
「え?オニキスさんじゃないですか。どうしたんですか?」
「こいつは、ガキに森に行かせて、けばえ草を取らせていたんだよ。そしてそれをギルドの買値よりも安ーく買って、育毛薬を安ーく売って、ボロ儲けしていたんだ」
「オニキスさん、噓でしょ?それって、まさかレインですか?」
「おー知ってたのか。さっき店に来てたぜ、その小僧」
「レインは、以前川で漁をしてたんですが、ブラッディベアに小屋を壊されて漁ができなくなったんですよ。それで仕方なく薬草取ることを思いついたんでしょうね」
「そうか、なかなかの苦労人なんだな、あの若さで」
「そんな苦労人を騙すとは、ますます許せんぞ」
ひぃ
「ミカルスさん、後はこちらで引き取りますので」
「ああ、頼んだ」
・・・・ 翌朝 宿屋
「おはようございまーす」
「今日も森か?気をつけなよー」
「はい、いつもありがとうございます。それから、これをどうぞ」
「なんだい?」
「僕そういうの得意なんですよ。いつもお世話になってる、お礼です」
レインは、木遊びで作った鹿の人形をプレゼントした。
「自分で作ったのかい?凄い上手いじゃないか?これで食っていけそうだけど」
「そこまでじゃないですよ。それじゃあ」
「ああ、行っといで」
ベリーズさんへ
何も言わずに出ていく事になってしまって、ごめんなさい。
僕がいるとやっぱり迷惑をかけることになりそうですので、
この町から出ていく事にします。
ベリーズさんにはお世話になったのに、あんな人形だけで
すみませんが、僕の気持ちです。
いろいろ、ありがとうございました。
あと、クラフトさんに会う事があれば、助けてくれたこと
感謝してますと、伝えてくれると嬉しいです。
・・・・ 北門
「行ってきまーす」
「おい、レインじゃないか、どこに行くんだ?」
「ちょっと川まで、小屋がどうなっているか見てきます」
「そうか、なら気をつけてな」
「はい、今日はクラフトさんはいないんですね?」
「あいつは非番なんだよ」
「そうですか、それじゃ行ってきます」
『クラフトさんが非番なのは知ってます』
レインの目から涙がこぼれた。
・・・・
レインが北門から出てしばらく歩いていると、
『あれ?何かいる。。。。あの子かな?』
森の中から白い鹿が現れた。
「きみ、ひさしぶりね」
鹿は笑って頷いた。
「なんか、私の事待ってたみたいね?」
鹿は頷いた。
「えっ?本当に?なんで?って言ってもしゃべれないもんね」
「じゃあ、どこかに連れて行ってくれるの?」
鹿は首を横に振った。
「じゃあ、一緒に行きたいの?」
鹿は頷いた。
「えーすごい。でもあなた魔物でしょ?町には入れないわよ。それでもいいの?」
鹿は頷いた。
「人に見られてもダメよ。討伐されちゃうから」
鹿は頷いた。
「そしたら、名前が必要ね」
鹿は頷いた。
「どういう名前がいいかしら?」
「可愛い名前?」
鹿は首を横に振った。
「かっこいい名前?」
鹿は頷いた。
「あなたオス?」
鹿は首を横に振った。
「じゃあメスなの?」
鹿は首を横に振った。
「オスでもメスでもないのか」
鹿は頷いた。
「不思議ね」
「じゃあ、あなた名前は、カクでどうかしら?」
鹿は頷いた。
「じゃあ、カク、よろしくね」
そういって、レインはカクの顔を撫でた。
笑ってカクは頷いた。
「それで、カクは、レブルディアって呼ばれている魔物なの?」
カクは頷いた。
「私の事を助けてくれた大きなレブルディアと同じ?」
カクは頷いて、首を横に振った。
「あれ?今までと違う」
「もしかして、レブルディアだけど、違う種類ってこと?」
カクは頷いた。
「へー不思議」
「それと、カクに聞きたい事があったの」
カクは目をパチクリさせた。
「ふふ、かわいい」
「あのね、以前、私の治癒スキルを知ってたでしょ?私が知らなかったのに。それで私のスキルだけど、まだ他にもあるの?」
カクは頷いた。
「へーまだあるんだ。あと1つ?」
カクは首を横に振った。
「あと2つ?」
カクは首を横に振った。
「あと3つ?」
カクは首を横に振った。
「そんなにあるの?」
カクは首を横に振った。
「え?ちがうのか。もしかして、いくつかあるけど、わからないってこと?」
カクは頷いた。
「そうか、今後増えるかもしれないってことか」
カクは頷いた。
「ヘー面白いー」
「カクと話が出来て良かった」
レインはカクの首に抱き着いた。
カクは笑った。
「そういえば、カクは何を食べるの?」
「肉?」
カクは首を横に振った。
「草?」
カクは首を横に振った。
「何も食べないの?」
カクは頷いて、首を横に振った。
「人間の食べるようなものは食べないってことかな?」
カクは頷いた。
「もしかして、魔力とか?」
カクは頷いた。
「えー、私の魔力も食べるの?」
カクは首を横に振った。
「魔物の魔力?」
カクは首を横に振った。
「えー他に魔力があるものってなんだろう?ちょっと想像ができない。でもそういえば魔力ってどこから来てるんだろう?」
カクは笑った。
するとカクがレインの首を引っ張り、何かぶるぶる言っている。
「カク?どうしたの?」
するとカクは膝まづいた。
「ひょっとして、乗って欲しいの?」
カクは頷いた。
「えーほんと、楽しそう」
レインが乗るとカクは起き上がり、ゆっくりと歩き出した。
「カク、私重たくない?」
カクは首を横に振った。
「そうよね。レブルディアだもんね」
カクは頷いた。
・・・・
はらはらと降る雪の中をカクに乗って2時間くらいたったであろうか、一軒の家が見えてきた。
レインはカクから降りると、カクを森に隠し、家の前まで来た。
レインは横目で家を見ると、「茶屋」と見えた。
レインは、ここで休息が取れると思い、茶屋の扉を開けた。
ガラガラ
すると、中には、数人の男がいた。
レインは、『やばい』 と思ったが、出ていくのも変だと思い、そのまま店に入る事にした。
「はい、いらっしゃい」
店の奥から声が聞こえてきた。
老婆がやってきて、
「好きなところ座りな」
と言った。
「で、なんにするね?」
「あの、何があるんでしょうか?」
「あーそうだね。あんたみたいな子供の来るところじゃないからね。ここは」
「ここは、酒が専門だけど、お茶位ならあるよ」
「じゃあ、お茶をお願いします」
「菓子の団子もあるよ?」
「じゃあ、お願いします」
「おい、小僧」
「はい」
緊張で声がうわずってしまった。
「そんなにビビんなよ」
「お前ここで何してんだ?」
「ぼ、僕は旅をしてます」
「旅だぁ?その歳で?」
「お前、どっから来た?」
「。。。」
「はい、お茶と菓子だよ」
「こらガキども、お前ら、子供をいじめて喜んでるのかい?みっともないからおやめ」
「ガキはねえだろ?ヨネさん」
「私からすりゃガキさ。お前らが生まれた時から知ってんだからね」
「この子のなりを見りゃ何となく事情がありそうなのは分からないかい?一応お前らも冒険者になったんだろ?こんなところで昼から飲んだくれている様じゃロクな冒険者になれないよ」
「ちえ、酒が不味くなっちまった。今日は帰るか」
「また来るよぉ」
「いいから仕事しな」
「けー、ヨネさんにはかなわね〜」
ガラガラ
バン
「はぁ、アイツらももう少し成長してくれりゃ良いんだけどねぇ」
「騒がせてすまなかったねえ」
「いえ、僕が来てご迷惑をおかけしたみたいで、ごめんなさい」
「あんたが謝る話じゃないよ」
「まあ色々事情がありそうだから詮索はしないけど」
「でも子供には、この道を通る事は勧められないけどねぇ。魔物が出やすい道だから気をつけないと」
「ありがとうございます。私はエントス村の方から来ましたが、特に魔物には会ってません。でもそういう事でしたら、このお店も危ないんじゃないんですか?」
「そうなんだけど、何故かこの店だけは襲われた事が無いんだよ。以前はこの通りにも何軒か店があったんだけどね。他は、みんな魔物に酷くやられちまって」
「へえ不思議ですね。女神様の加護というものでしょうか?」
「さあてね。私は信心深い方じゃないし、女神様も私なんか助けても、何もいい事はないだろうにさ」
「それで、あんたはどこに向かって旅を?」
「とりあえず、この街道の先を目指してます」
「そうかい。この先は道が3つに分かれるよ。このまま北に向かう道、それと東、または西に向かう道だ」
「まあやっぱり、あんたの様な年端の行かない子供を、本来ならこの街道を行かしたくないんだけどねぇ。だけど、ここまで無事で来られているってのも不思議だ。あんたにこそ女神の加護があるんじゃないかい?」
「。。。。」
「ご馳走様でした。おいくらですか?」
「いいよ。私の奢りさ」
「いえ、これでも僕、自分で稼げるんですよ!」
「そうかい、じゃあ頂いとくか。2ギルね」
「はい、2ギルです。ご馳走様でした」
「気が向いたらまた来ておくれ。あんたの旅の話は面白いかも知れないからね」
「はい、ありがとうございます」
ガラガラ
外は雪が上がり、雲の隙間から青空が見えた。
しばらく歩くと、カクが戻ってきた。
「一緒に歩きましょ」
「そういえば、カクは何歳なのかな?」
「私が小さい時に、カクも小さかったから、同じ歳くらい?」
カクは頷いた。
「そうなんだ。嬉しい」
カクは笑った。
「でもカクって賢いのね。何でも知ってるね」
カクは頷いた。
「本当かな?今見栄を張ったんじゃない?」
カクは笑った。
「ふふ」
レインはカクの首を撫でた。
「ここが分かれ道か。。。」
『東に行くと戻っちゃうから西に行こう』
「カク、西に行くけどいい?」
カクは頷いた。
「西はリーメンスって書いてある」
しばらく西へ歩くとカクがレインを引っ張るので森に入った。
「あ、誰か来るわね?」
「かなりの人数だわ」
ガラガラガラガラ
「馬車?」
「兵士という感じではないわね?冒険者の一団かしら?」
「とにかく隠れていた方が良さそう」
・・・・
「行ったみたい?」
カクが不思議そうにレインを見ていた。
「カクどうしたの?」
カクは首を横に振った。
「さあ、行きましょう」
1時間ほどカクに乗っていたら、町の外壁が見えてきた。
「カク、町に入るから、しばらく会えないかも。あー寂しい」
そう言いながらカクの首を何度も撫でた。
カクもレインをペロペロ舐めた。
「落ち着いたら、すぐに会いに来るからね」
カクは頷いた。
評価、ご感想などお願い致します。