S.C.A.T.訓練施設&再会
三人は舗装された山道を歩きだして道が二股に分岐している場所に出た。そのうち一つは通行不可の大きな柵の様な遮断機が下りていて、『軍事機密につき』と小さく青い文字で書かれた下に『通行不可』と書かれた赤い文字と交通標識と大きく書かれた看板が柵の様な所に取り付けられていた。
「どっちに進むの?」
茉衣が透に聞くと、彼はケータイを取り出して目的地までの地図を確認すると、遮断機が下りている道を指し示した。
「ホント?」
美香は確認を取るように聞くと彼は無言で頷き先に進む。美香も続くように透に続くが、一瞬困惑したような表情を浮かべる茉衣だったが、どんどん先に進んで行ってしまう二人を見て急いで後を追い奥へと進んで行った。
最初は舗装されてゆがみなどがなかったが、だんだんと道が荒れ始めさらに奥へと進むと舗装された道がなくなり代わりに土が見える悪路になって行った。
透達は無言のままさらに奥へと進むと不意に透が立ち止まった。
「アレだ」
呟くように言う透だが目の前にあるのはただの雑木林。軍事施設どころか家の一軒もないただの森の中だった。一つ大きな違いと言えば土を抉ったようになっている五メートルほどの高さがある崖だった。
「アレって、どれよ」
美香は不思議そうに問いかけると、透は再び指で指し示すと崖の下に一人誰かが立っているのが見えた。
透達はその人物に近づいてみると、国防軍の軍服を着た二十代後半の女性であることが分かった。
「訓練生の合格者の方ですね」
女性が静かに凛とした声で三人に言う。
「えっと」
いきなり問われてどういっていいのかわからに美香と茉衣に対して、透は冷静に返答する。
「そうですけど、あなたは?」
「『ただ』の案内係です」
女性軍人は透の問いかけにニッコリとほほ笑む。
透は『ただ』という言葉が妙に強調した言い方だったことに少し違和感を覚えた。
「『ただ』……ですか」
「えぇ、『ただ』の案内係です。何か問題でも?」
「いえ、なんでもありません」
透はこれ以上言っても軽くあしらわれることになるだろうと思いそれ以上は何も言わなかった。
「この奥は軍事施設なので、一応確認させてもらいます。受験票と合格証、それと同意書を見せてください」
三人は各々のバッグから言われたものを彼女に見せる。
女性軍人はそれを受け取り、偽造や不備がないか確認する。
「確認しました。それでは、私についてきて下さい」
女性軍人はクルリと背を向けると、何かし始める。
カタカタという音がなり終わると、崖だったものがゆっくりと沈み始め、一分もしないうちにトンネルができていた。
女性軍人は何食わぬ顔で先導にして進むこと数分。トンネルから出てすぐに目の前に二重のフェンスで周りを取り囲んだ施設が現れた。
そのフェンスの一部にコンクリートで固めてある監視小屋まで歩いて行くと、一度敬礼をして、
「S.C.A.T.候補生三名お連れした。確認を」
女性軍人はさっき渡した書類を監視小屋の人に見せると、
「確認した。中に入ってよし!!」
と声高く言う。監視小屋の人も敬礼をすると女性軍人も続いて敬礼をした」
フェンスのドアが開くと、女性軍人は敷地の中に入って行き三人もその後を続いて行く。
時折聞こえる、銃声や重機の軋み音が聞こえる中、一つの建物の中へと入って行った。
中はまるで学校の授業中の様な静けさがあった。
案内された部屋は教室の一室の様で、デジタルボード(黒板をデジタル化させタッチ機能やパソコンからの画像を映し出すことができる)や、PC一体型の机とやはり学校の教室と変わりがない。
「適当なところに座って」
若干堅苦しさが消えた女性軍人は三人に座るように指示した。
三人が座ったのを確認すると、
「改めて、よく来てくれた。私は、陸軍第211特別潜入部隊所属 中村 薫中尉である。
S.C.A.T.について説明しよう。」
中尉は一度、彼らを見る。
「S.C.A.T.とは、
Special.
Children.
Assist.
Team.
の略だ。が、実際は『Assist』を『Assault』になのだ」
「急襲部隊」
ぽつりとつぶやくように言った茉衣、中尉は彼女の声が聞こえたのか一度頷き、
「そうだ。急襲部隊が本当の名前だ。
なぜ名前が変わっているのか?
それは、敵側による攻撃を防ぐためのものと一般市民を巻き込まない為の救命処置だ。
表向きは災害救助部隊だ。実際にこれを行う場合もあるが、部隊の実質も目的はテロリストたちの撲滅だ。われわれはテロリスト撲滅のため集められたのだ」
中尉はもういちど彼たちを見る。さほど驚いていないことには彼女も驚いていない。このことは受験を受ける前の説明で一度説明を受けていたからだ。そのための同意書でもあったのだから。
「さて、S.C.A.T.には第一から第四部隊までわけられ、さらに班によってさらに細分化されている……」
中尉は時折、説明をとめて質問があるかどうか確認しながら説明を続けた。
その後の内容は各部隊の主な目的や施設の説明、カリキュラムの概要の説明をした。途中、関係者の一人が彼女に大きめな封筒を渡すといった場面もあったが、そのほかは何の問題なく説明が続いた。
少し詳しく言うなら、
第一部隊はほぼすべての任務を遂行する部隊であり、他の部隊より出動回数が最も多い部隊。
第二部隊は、爆弾処理を主軸とした任務と第一部隊のバックアップ。
第三部隊は、潜入捜査を主軸とした情報収集。
そして、第四部隊は事後処理と第二、第三部隊の後方支援などであった。
それに加えて、各部隊が合同で行う救助もその中に当てはまっているそうだ。
「……以上が、カリキュラムの概要だ」
説明が終わるとさっき、渡された茶封筒からカードを三人に配った。
透はカードを見ると、透明なプラスティックに十数桁の番号が書かれてあり、その下にローマ字で書かれた名前が彫られていた。
「このカードは、君たちのIDだ。これは、カリキュラムや試験の時に出欠を確認するもので君たちの部屋の鍵にもなっている。くれぐれも失くさないように」
確認するようにもう一度、カードを見つめる。
「今日は、ここまでだ。寮まで案内する」
中尉の案内で、寮まで歩く。
寮は入ってきた門(正門なのだが)から、右奥にある七階建て建物で、外壁は白く塗装されていた。
寮の中は一階を丸々ロビーとして使っていて、そこから地階と地上階の階段があった。
中尉と透たち三人は端の部屋に案内されると、ドアに取り付けられた挿入式のカードリーダーにIDカードを指す。
カチャリとういう解錠する音が聞こえ、ドアを開ける。
中尉が先に部屋に入り、その後を続くように三人も入った。
部屋の中は、家具が対称的な配置になっていて、手前から小さめのクローゼット、収納式の二段ベッド、机が二つという順に置かれ、部屋の真ん中には小さいテーブルがチョコンと置いてあった。さらに、大きな窓の奥にはバルコニーまでもがあった。
「今日から、君たちの部屋だ。ゆっくりと身体を休めて、明日に備えること。それからこの部屋にもう一人入ることになるから期待して待っていろ。以上だ」
中尉はそういうと部屋から出て行ってしまった。
「とりあえず、場所でも決めない?」
取り残された、三人は適当な場所に荷物を置いてから美香が言った。
「でも、もう一人来るんだろ? だったら、もう少し待ってからでも遅くないと思うよ」
「うっ、そうだった」
言っているそばから忘れている……というか聞いてない美香に透は内心ため息をついた。
「でも、どんな人だろ?」
「怖い人だったらいやだな」
美香がどんな人か想像している端で、茉衣はそんなことを呟いた。
「まぁ、どんな人が来るにせよ、これからしばらくは一緒に暮らす仲間だ。向こうもそう絡んでくるとは思わないし、仲良くやって行こう」
透は茉衣を元気づけるように彼女の頭をなでる。
彼女は照れ臭そうに頬を赤らめて、コクリと頷きニッコリとほほ笑んだ。
その瞬間、フラッシュバックの様に、小さい女の子の笑顔が透の脳裏から呼び起された。
まさかな……
透はもう諦めかけていた少女が出てきたことの驚きと戸惑いの表情を浮かべた。
「 ? どうしたの?」
「えっ? いや、なんでもないよ」
不思議そうに透の顔を見る茉衣に透は彼女の頭から手を離した。
「もしかして……」
何やらニヤニヤしながら透と茉衣を見ている美香は何かもったいぶったような口調で言うと、
「な、ちが」
「そ、そうだよ。お姉ちゃん」
慌てて言う二人だが、今にも笑いそうな顔をする美香は、
「私は、まだ何も言ってないけど」
挙げ足を取る。
「あぅ……」
茉衣は何とも言えない声を出し、透は何とも罰が悪そうな顔をした。
耐えきれなくなった美香は、大きな声をあげて、笑い始めてしまった。
「ごめん、ごめん。なんかまだほんの数時間しか立てないのに茉衣がこうも仲良くなるからさ。少しいじめたくなっちゃっただけ」
ようやく落ち着いたところで美香は目じりに水の粒をためながら言った。
「だからって、俺をだしにするな」
透は呆れたような口調で言う。
「そうだよ。お姉ちゃん」
茉衣も呆れた表情だったが口調に少し棘が入っているようにその時の透は感じた。
「だから、ごめんって……あっ」
その時、部屋のドアが開く。
透達は、ドアに注目する。
入ってきたのはさっきの中尉と、もう一人男の子だった。
その男の子を見た瞬間、
「圭介」
驚きとともに大きな声で叫んでいた。
「ほう、知り合いか。まぁ、いい。私はこれで失礼する」
中尉はそう言って部屋から立ち去って行った。
「……よう」
中尉が出て行ったあと、彼の第一声はそれだった。
透は一瞬脱力しそうなほど力が抜けたがその場で耐える。なにせ、今朝まで、彼と一緒の孤児院で寝食を共にしていたのでまさか、こんなところまで来ていたとは知り由もしなかった。
「『よう』じゃねぇよ」
透はゆっくりと圭介の所まで歩みより肩を組もうとするようにスルッと首に腕を巻きつけると一気に締めつけた。
「イデデデデ、死ぬ、死ぬ~」
圭介の顔がみるみる血の気が失せ青くなっていくのがわかり、このままでは本当に死んでしまうと思った美香と茉衣は急いで引き離そうとしたのだが、透の腕は見事に首のまわりに絡みついてなかなか外せない。
一分程の格闘の末、透が力を緩ませることで引き離すことに成功した。
「で、なんでお前がいるのさ?」
ようやく落ち着いたが透は圭介に疑問と一緒に殺気もぶつけた。
「実はな、透……俺は」
圭介はいきなり恥ずかしそうな表情を浮かべる。
「「「俺は?」」」
つられて三人同時に聞いた。
「……すきなんだ」
圭介は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに言う。唖然としか言いようもうないこの場と、冷たい風が台風の様に吹く雰囲気に言葉も出なかった。
「バナナが」
普段の口調に戻った瞬間。透はいきなり彼にラリアットを決め綺麗に入りその場に倒れた。
「イヤー、びっくりしたよ。ただのボケをかましたのにラリアットで帰ってくるとは想定外だったな」
彼の目が一瞬本気のだった様な思いつつ、再度聞く。
「もう一度だけ聞く。今度ボケかましたら……わかっているよな。ケ・イ・ス・ケ・くん」
満面の笑みを浮かべながら青筋を立て黒いオーラを出しながら言い放つ。
「ハイ、ボクモシケンヲウケテゴウカクシテココニキマイシタ」
いつもは見せない彼の怒気に圧倒され棒読みで言う圭介。
美香と茉衣は、透を怒らせないとその時堅く誓う。
「わかった」
若干黒いオーラが残っているが、それだけ聞いて引き下がる透。
「ね、ねぇ、一応、問題は解決したみたいですけど、この子は?」
「あぁ、こいつは――
美香が少し改まったような透は彼に会う前の、つまりは普通の状態に戻っていた。
「俺は、高橋 圭介。よろしく。 それにしても君、かわ、すいません」
普通に自己紹介した後、後半は透に睨みつけられたことにより阻止ができた。
「私は原田美香。この子は私の妹の茉衣」
「茉衣です。よろしくね」
二人は圭介と握手をした。
その後、透達四人はベッドなどを決めた後、他愛のない話題で花を咲かせながら荷物の整理をしていた。
「ねぇ、私たち施設の場所とかわからないから、ちょっと探検してみない?」
話題がなくなりかけたころ、不意に茉衣が言った。
「おっ、いいね。俺は賛成」
圭介は意気揚々と言う。
「私もいいよ」
「俺も」
美香と透も賛成し、整理が一段落したら行くことになった。