山道
透は電車を乗り継ぎ、関東北部にある赤城山行きのバスに乗っていた。
平日の朝とういうだけあって満員とまでは行かないがそれなりに人が乗り込んでいく。
透は1番後ろの席に座り荷物を膝の上に置く。そして、窓の縁に肘を置き駅から段々と緑が増えていくのを眺めていた。
幾つかのバス停を越えた頃、少女が2人バスに乗りこむ。
1人は焦茶の髪をポニーテールでまとめ、透とほぼ同じ身長の少女。
もう1人は紺の髪をショートカットにし、ポニーテールの少女より少し小さめの女の子。
そんな2人は透の席の前の席に座り談笑始めた。
バスに揺られる間、2人が透の事をチラチラと見ていたが透は相変わらず窓の外を見ていた
山の中腹にある駐車場のバス停でバスは終点になり、透は荷物を持って降りた。
外は空気が冷たく霧が出ていた。とはいえ、まったく見えないほどではなく150mの山頂がうっすらと見えるか見えな程の濃さなのでさほど気にする人もいない。
「えーと、確かこの道を行ったあたりだったな」
透はポケットからケータイを取り出し、呟き歩き出した。
その後ろではこっそりとみていた少女たちが透の後をゆっくりと着いて行くのだった。
10分ほど登った辺りから透は背中に視線を感じていた。
透はさりげなくケータイの地図アプリを見るふりをしながら、さりげなく後ろを見ると少女たちが急いで木の陰に隠れるのを見流さなかった。そしてあること思いつきニヤリと口を緩ませると何事も無かったかのように再び歩き出す。
少し歩くと二人の姿が林で隠れるのを見計らい、透は勢いよく走り山道を走った。
少女たちは透がいなくなったことで一瞬、顔を見合わせたが、すぐに透の後を追う。が、カーブを曲がっても透の姿はどこにも見当たらなかった。
「あれー? あの子さっきまで居たのに」
ポニーテールの少女は不思議な顔をしながらあたりを見渡すがそこには彼女たち以外いなかった。
「どうしよう? もしかして……遭難!?」
真面目そうな口調で言っているが、顔は破顔していた。
「まったく……それで、これからどうする?」
ショートカットの女の子は呆れたような顔をしていた。
「うーん。どうしようかね」
「あんたら、何してんの?」
少女たちはいきなり後ろで声をかけられ振り返った。
「え? あっ」
声をかけたのは透だった。そして気付いたのはショートカットの少女で、もう1人は口をパクパクさせながら透がいるところと反対の道を交互に指していた。
「……もしかして、気付かれてました?」
気まずそうな声を出しながらゆっくりと話すショートカットの女の子に対し、透はニッコリとほほ笑んで頷く。ショートカットの女の子の方がまったく驚きもせずにただ単に樹まず疎な声を出していることに透は気づくが、その時の透はそういうところにはあまり関心はしていたなかった。
「バスに乗った時から俺の事ちらちら見てたけど、まさか後を付けられるとは思わなかったよ」
「あ、アハハハハハ」
ショートカットの少女は明らかな乾いた笑い方になり、透もつられてクスクスと笑ってしまった。
「ま、まぁ、ついてきた理由はなんとなく分かるけど、こそこそと人の後を付けるのはあまり良くないな」
透は咳払いをした後そういうと、ショートカットの女の子は頭を下げてから、口早に話す。
「ごめんなさい。実は私もこの馬鹿なお姉ちゃんも地図を忘れてきちゃったみたいで、あなたを見て、後を付いていけば同じ場所に行けると思って」
「謝らなくていいよ」
透はニッコリと笑い彼女の肩を軽く叩いた。
「でも、君の姉に馬鹿はないんじゃないかな?」
透が歩き出すと、彼女たちも付いてくるのを確認してから言う。
「そうよ。馬鹿はないじゃない」
ポニーテールの少女も彼の言葉に便乗して言うと、
「いえ、馬鹿です。私より頭悪いしちょいちょい変なことに首を突っ込むしドジだし――」
透は苦笑いを浮かべていた。ショートカットの少女は延々と姉への悪口やらなんやらでどんどん小さくなっていく姉がだんだん小さくなっていくような感じがしてきた。
そろそろ、彼女を止めないと大変なことになるかなと思った透は、
「ちょ、ちょっとストップ。君の姉への不満が多いのはわかったがあれを見てごらん」
透はポニーテールの少女を見ると、今にも泣きそうな顔をしてこちらを見つめていた。
「いいんです。あれで、いつもの事ですから」
いつもかいと突っ込みを入れたいところをなんとか押さえ、なんとか話題を変えようと思案して、
「そ、そういえば自己紹介まだだったね」
透の苦し紛れに出した答えがこれだった。
「そうでした。私は原田美香。今年で14よ」
いつの間にか泣きそうな顔から元に戻っているポニーテールの少女、美香が言う。
「私はこの馬鹿の妹で茉衣よ。今年で13。よろしくね」
ショートカットの少女、茉衣が満面な笑顔を見せると、透はドキッとし昔見知った女の子が浮かんだが、まさかなと思いなおした。何年も探したその女の子がこんな簡単に近くにいることがあり得ないと思えたからだ。
「俺は加藤透、今年で14になる」
透が言うと何度目になるかわからないがまた驚いた顔をして
「「14」」
と声をそろえて驚いたように言う。
「もっと上の人かと思ってた。」
茉衣が言うと美香も頷く。
「みんなそういうよ」
透は苦笑いを浮かべる。確かに同年代の人と比べると顔立ちが大人っぽく見える。そのことは透もはっきりと自覚していた。
「そっか。私と同じ歳か」
と美香は呟くが2人に気づいていなかった。