アラクネVSリアム中佐
基地の中は阿鼻叫喚であった。スモールスパイダーはスモールとはついているが、それでも地球で最大の蜘蛛くらいはある。つまり、見た目が20~30センチくらいの蜘蛛が地面、天井に関わらずそこたら中に居る状態は、見る者を混乱に陥らせるのも分かるだろう。
「ぎゃあああー、蜘蛛、蜘蛛だー!」
「ひぃぃ、足の踏み場がねぇ!」
「こっちくるな!」
さすがに基地内では発砲していないものの、鈍器として叩きつけたりしている。しかし、スモールスパイダーであってもゴブリン並みには強いため、その程度ではダメージを受けない。今回は基地内を調べることが目的のため兵士に攻撃していないが、目的が殲滅なら普通の兵士はすでに全滅しているだろう。
「―――見つけたわ。スモールスパイダーが入れない場所を発見よ」
「じゃあ、そこに行きましょう。先導をお願いします」
「この糸の場所へ向かって」
アラクネは糸を先に飛ばして場所を示す。ジーナはその糸に沿って走る。本当なら、目的地が分かれば破壊するなり透過するなりして直線的にいけるのだが、場所が分からない今は曲がりくねった基地内を普通に走るしかない。
「ここね」
糸の場所に着くと、スモールスパイダーが扉から一定の距離を置いて集まっていた。どうやら、扉には近づくことが出来ないようだ。
「どこかを中心に、魔物が入れないように障壁が張られていますね。でも、この程度なら問題ないでしょう」
ジーナが障壁に触れると、パリンという音が聞こえそうな感じで割れる。
「案内ご苦労様」
アラクネは、スモールスパイダーを消す。探査の終わった現状では、歩く邪魔になるだけなので。扉を開けると、地下へ続く道があった。階段を降りると、そこはただ広い広場のような場所だった。
「? これは、訓練場かしら?」
「その通りだ、侵入者諸君」
暗かった訓練場に明かりが照らされる。そして、奥の扉から一人の男性が入ってきた。
「ここは、俺の訓練場だ。わざわざ、俺に殺されに来たのか?」
「あれが、アサシンスパイダーを殺した人間でしょうか?」
「どうかしら? なんか、思ったよりも普通ね。見た感じで言うなら、あれにアサシンスパイダーを倒す事は無理じゃないかしら」
「貴様ら、あれとは何だあれとは!」
ジーナとアラクネは今となっては慣れた日本語で話しているのだが、どうやらリアム中佐にも日本語は分かる様だ。だからと言って、今更魔界共通語に変える事は無いが。
「侵入者風情が。お前達は今、ここに閉じ込められたという事が分からんのか?」
リアム中佐がそう言うと、ジーナたちが入ってきた階段の前を分厚い鉄の扉が封鎖する。
「あの程度で、私を封じ込められるとでも? 私、普通にあれなら透過できますよ」
「え、ちょっと。私は無理よ? まあ、あの程度なら私でも壊せるかしら」
「・・・お前ら、何者だ?」
リアム中佐には、人間の見た目を取っているジーナとアラクネは人間に見えていた。しかし、話の内容から人間ではないと思い始める。
「はあ? 分かってなかったの? じゃあ、自己紹介してあげるわ。私はアラクネ。この基地に忍び込ませたアサシンスパイダーを殺したのはあなた?」
「話せる魔物だったのか・・・。アサシンスパイダーとは1メートルくらいの巨大な蜘蛛か? だったら、殺したのは俺だ。なかなか強かったぞ?」
アサシンスパイダーはBランク上位の魔物ではあるが、それは隠密や毒、奇襲を含めての強さなので、正面からぶつかりあえばBランク下位くらいの戦闘力しかない。
「そう。なら、その仇を取らせてもらっても?」
「蜘蛛が仲間だったのか? だったら、仲間の元へお前も送ってやるよ」
リアム中佐は、人間にしては遥かに素早くアラクネとの間を詰める。そして、Cランク魔物の素材で作った大剣をアラクネに振り下ろす。アラクネは、その大剣を人差し指一本で止た。
「・・・この程度? よくこの程度でアサシンスパイダーを倒せたものね」
「化物か!? まさか、Bランク以上の魔物だというのか」
人間であるリアム中佐には、アラクネやジーナの魔力を感じ取ることが出来ず、強さを測ることは出来ないため、見た目相応だと舐めていた。
「ジーナ、こいつは私が倒しても?」
「別に構いませんよ。私は、もう少し内部を調べますので、お好きにどうぞ」
ジーナはそう言うと、無防備にリアム中佐の横を通り、奥へと進む。だが、リアム中佐はアラクネに隙を見せるわけにはいかない。
「ま、待て貴様! うおぉぉぉ!」
リアム中佐は、今出せる全力で大剣を真横に持って振り回す。ジーナとアラクネを一度に攻撃できるように。だが、その剣はジーナを素通りし、アラクネの胴体にぶつかって止まる。
「ちょっと! 透過するならするって言って欲しいわ! てっきり、ジーナが止めると思って無防備に受けちゃったじゃ無いの!」
無防備にとはいうが、魔障壁があるので普通に無傷のアラクネだったが、当たった事自体に腹を立てたようだ。
「この程度、見てから避ければよかったじゃないですか。油断しないようにお願いしますね」
「くっ・・・分かったわよ! この怒りは、こいつで晴らすから!」
リアム中佐は、不可思議な力で剣を回避したジーナを黙って見送るしか無かった。




