新たな敵
「ありがとう、助かったよ、シュガー」
「どういたしまして、お兄さん」
頭を潰されたクイーンスパイダーは、魔石と蜘蛛糸を残して消える。その魔石をエリザが拾う。
「これでミッションクリアね。スモールスパイダーは、クイーンスパイダーが死ねば一緒に死ぬわ。ただ、進化した個体はそのまま残るから、それが居ないか確かめないと被害が出るわね」
「クイーンスパイダーの戦力は、すべてここに集まっていたみたいだから大丈夫だよ、お姉ちゃん」
「それじゃあ、外に・・・? 何かが近づいてくる!」
エリザは、外へ出るために出口に向かっていたが、この場に向かう強大な魔力量を感じて危機感を募らせる。高速でこの場に向かう魔力を、視認しようとエリザとジーナは高い場所へと登った。
「あれはまさか、エンペラースライム? あの巨体で、どうやってこの世界に来れたのかしら」
「多分、核だけ次元の割れ目に吸い込まれたとかじゃないかな?」
外の海に、全長40メートル程の巨大な液体が海面に浮いていた。その体内には、巨大な魔石=核があった。エリザは、降りてタケルとシュガーに説明する。
「この場所に、エンペラースライムが近づいているわ。危険だから、逃げるわよ」
「ここに来ている人達はどうするの?」
「残念だけど、自力で逃げてもらうしか無いわね。運が良ければ生き残れるわ。エンペラースライムは、Sランクの魔物の中では珍しく、本能だけで生きている魔物よ。別名グラトニースライムといって、魔力を含むものは何でも取り込もうとするの。当然、取り込まれたものはすぐに消化され、吸収されるわ」
「エリザでも倒せないの?」
「今は難しいわね。体表が数十メートルもあって、核を攻撃する事は難しいわ。魔道具があれば別なのだけれど」
エンペラースライムは、中心に核を持っている場合、強力な消化液である体の中を攻撃しなければならない。当然、普通のものであれば即座に溶かされるし、魔法を使っても核まで届かない。倒すのであれば、地道に体表を炎や氷で削っていくか、溶かされない魔道具で核を狙うしかない。今は、どちらを行う時間も無かった。
「お兄さんが望むなら、私は戦います。行け、クロ」
女性につけていたミニクロは、お役御免になったため、戻ってきていた。そのクロの大きさを戻し、エンペラースライムに攻撃させる。クロは、エンペラースライムに向かってパンチを繰り出すが、その体の中に囚われてしまう。クロは、まるで液体のりの中のように粘度の高い体液から逃げ出すことが出来なくなっていた。その強靭な甲殻によって、すぐに溶かされることは無いが、徐々に甲殻が溶かされていくのが分かる。
「そんな! 私のクロが!」
「だから言ったのよ。近接戦闘を主体とする魔物では相性が悪いの。恐らく、エンペラースライムは、人間狙いじゃなくて魔力だまりが目的だと思われるから、逃げれば追いかけて来ないはずよ」
「・・・嫌です。私がクロを助けます」
「無理よ。あなたもクロ同様に、体内に囚われていつか吸収されてしまうわよ」
「それでも、構いません。お兄さんと私の子を、見殺しになんて出来ない!」
シュガーはそう言うと、エンペラースライムに向かって走り出す。タケルは、それを無視する事が出来ずにシュガーに叫ぶ。
「ダメだよ! シュガーまで同じ事になったら、僕は・・・! だから、僕も手伝う!」
タケルは、炎を生み出し、エンペラースライムに向かって攻撃する。それは、エンペラースライムの体表に、少しだけ煙を立てて消える。Sランクの魔物に対して、あまりにも弱い攻撃だった。
「無駄だってば、お兄ちゃん。私やお姉ちゃんでも無理なのに」
「無理でも、シュガーがやるなら僕もやる」
「はぁ・・・分かったわ。あれを私に貸しなさい」
「あれ?」
「あれよ」
エリザはそう言って、タケルから魔道具を奪う。それは、メデューサの魔道具だ。タケルが使っても、拳大の部分を石化する事しか出来ないため、タケルにとってはあまり使う事のないものだ。
エリザは、その魔道具を使ってエンペラースライムの体表を石化させる。魔力を込め、数メートルの範囲を石化するが、それはぱらぱらと玉ねぎの皮が剥けるだけの様にはがれていく。
「ジーナ、手伝って貰えるかしら? それと、シュガーも」
「分かったよ、お姉ちゃん」
「私に出来ることなら、何でもやります」
3人の魔力を込め、再びエンペラースライムの体表を石化させる。今度は、クロの居る付近すべてを石化させることが出来た。エンペラースライムの4分の1ほどの体液を石化させ、クロを救出する事ができたのだった。




