シュガー
「さて。それじゃあ、次は誰がやる?」
エリザは、ジーナに顔を向けるが、ジーナは目を逸らす。仕方なく次は姫を見る。
「あれはヤバいって。うちの探知が危険だって警鐘をならしてるし・・・」
姫は、ぶつぶつと呟いていてエリザの視線には気が付かない。仮に気づいていても、絶対に参加しないだろうが。
「じゃあ、もう一度あたしがやる。今度は、油断しないよ」
コハクが、汚名返上とばかりに名乗りを上げる。
「あなた、さっきも結構本気――」
「油断、です! リナリア様、もう一度あたしにチャンスを!」
「別にいいですわよ。ただし、神獣化は無しですわ。あれは、あなたの体にも負担がかかるのだから、命のかかっていない試合でまで使っていい技ではありませんわよ?」
「分かりました。それに、今度のはどう見ても人間からほとんど魔力を受け取っていませんよね? つまり、今までで一番弱いって事です。だから、大丈夫です!」
「カチ―ン。私、今度の蟻兵には自信がありますよ? そうだ、特別に名前をつけちゃいます。クロ。あなたは今からクロです」
クイーンアントは、蟻兵に名前を付ける。これによって、蟻兵に愛着がわき、クイーンアントとのつながりが強くなる。つながりが強くなれば、その分強さも増す。
「それと、お兄さん。この試合に勝ったら、私に名前をつけてもらえませんか? 私だけ、名前を呼ばれないのは不公平だと思っていました」
クイーンアント自体も、クイーンアントが名前ではなく種族名だと理解していた。名前のあるなしに最初は興味が無かったが、名前を付けるという行為が、自身も蟻兵に名前を付けた事により特別なものだと感じるようになった。
「えっ、僕が? なぜ?」
「そうです。私が、お兄さんに名前を付けて欲しいから、です。それなら、頑張れますし」
「別にいいけど・・・本当に良いの?」
「はい!」
クイーンアントは、やる気をみなぎらせて試合に臨む。戦うのはクロだが、クイーンアントのやる気がクロにも伝わる。
「準備はもういいのか? あたしは、いつでもいいぜ」
コハクは油断なく構える。
「それじゃあ、試合開始!」
リナリアの試合開始の合図があったが、数秒経ってもクロが動く様子は無い。油断せず、相手の動きをしっかりと見ているコハクは、本当に動く気のないクロを見て自分から仕掛けようかと考えた。
「来ないのか? それなら、あたしか――」
「それまで!」
コハクが動き出そうとした瞬間、すでにクロの双剣が、クロスされた状態でコハクの首を挟んでいた。あまりの決着の早さに、タケルは呆然と姫に話しかける。
「えっと、姫・・・さん? 今の見えた?」
「姫と呼んでいいよ。うちには、クロが動き出す瞬間は見えたけど、次に見えた時にはもう今の状態だったよ。やっぱり、やらなくて正解だった。どう見ても、私より強いよ、あれ」
「そうなんだ・・・」
エリザとリナリア、そしてジーナは、クロの実力をある程度把握していたため、当然の結果だと思っている。
「勝ちました! それじゃあ、お兄さん。私に名前を付けてください!」
「分かったよ。約束だしね。それじゃあ・・・蟻と言えば飴・・・? いや、砂糖? それなら、シュガー。シュガーでどうかな?」
「シュガーですか? 響きがいいですね。分かりました、私の名前は今、この瞬間からシュガーです!」
クイーンアントは、シュガーという名前が貰えたことに大喜びする。そして、いつもなら魔力へ戻すはずの蟻兵も、クロだけはそのまま残した。本来、魔力を戻さなくても、新しく産むことができるのだから、当然である。
「ちょっと待った!」
一瞬で負けて、呆然としていたコハクが、待ったをかけた。
シュガー イメージイラスト
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