クイーンアント
ユグドラシルの幹を通じて魔物を探していたリナリアは、異変を感じていた。
「おかしいわね。すでに探知を終えたはずの場所に、新しい魔力反応があるなんて……」
リナリアの探知は、ユグドラシルが根を張った場所に強い魔力が近づくと反応する。強い魔物は、濃い魔素を求めるため、必然的にユグドラシルの根(龍脈のようなもの)に集まってくるので、新しい魔力反応がある事自体はおかしくはない。
「というか、異常にユグドラシルの魔素を吸収したという事かしら?」
実際、その場所ではユグドラシルから発生した魔素が溜まり、一時的に濃くなっていた。その魔素をすべて吸収すれば納得できるが、魔界であってもあり得たことは無かった。
「新種の……魔物?」
魔力だまりから新しい魔物が発生する事はまれにある。今回もそうなのかと、リナリアはそこを次の目的地とすることに決めた。
一方、現地では。
「一体、私に何が起こったの?」
地下鉄の構内で一匹の魔物が自分の手を見つめている。その魔物は、小柄な少女の様だが、その全身は黒い甲殻で覆われ、頭には触角があった。
「えっ……頭に何か流れ込んでくる……クイーンアント? これが、私の名前?」
クイーンアントの本能が、自らの事を教えてくれる。クイーンアントは、偶然にもユグドラシルの魔素を受けて変異したただの女王アリであった。濃い魔素から偶然生まれるはずの魔物が、女王アリを器としてしまった珍しい現象であり、リナリアは知らないが、魔界でもごく少数ではあるが事例はあった。そして、すべからくそれらの魔物は、通常発生する魔物よりも強い。事実、ただのアリであった女王アリは、Aランクである女王の名を冠したクイーンアントとして新たな生を受けた。
「うぅ、まずは現状を把握しないと……」
知性を得て、言語を理解できるようになったクイーンアントは、駅に居る人間たちの会話から、様々な知識を吸収するが、あまりの多さに頭を痛める。ほとんどが雑談であるため、重要な情報も少ないが、日本語を理解するには役に立った。クイーンアントは、しばらく身を潜めてそれらの会話を聞く。
情報の中には、他の魔物たちが起こした事件や事故のニュースなども混じっていた。
「私、人間に見つかったら殺される?」
クイーンアントは、自衛隊が魔物退治をしたというニュース……正確には魔物ではなくただの魔界の動物であったのだが……を聞いて、自分も見つかったら殺されるのではないかと恐怖する。実際は、Aランク魔物であるクイーンアントに自衛隊のいかなる武器によっても殺すことは不可能であるが、彼女はそれをまだ知らない。
「兵士を作らなきゃ……」
クイーンアントは、自らの手足となる兵士を産むことができる。彼女は本能に従って兵士を作ろうとした。しかし、女王アリの時と違うのは、まだ相手となるオスアリである蟻人を見つけていないことだった。
「よし、オスを探す!」
クイーンアントは、まずはお相手である蟻人を見つけるため、人間に見つからないように行動するのだった。




