リムジン
「あたしの準備はいつでもオッケーだぜ!」
忘れていたことをバレないように、コハクにやんわりと出発を告げたエリザとリナリア。コハクは普通に着の身着のままの獣人の為、幸い出発準備というものが無く、問題なく出発できるようだった。
「それは良かったわ。ある程度近づけば、コハクの鼻で敵の居場所も分かるでしょうし。きちんと役に立ってくるのよ? コハク」
「分かっていますって!」
コハクは、やる気満々で拳をぶつけて気合を見せる。だが、リナリアはそういう時こそ空回りしそうで怖いと思っているが。
「近くまでは秘書に送らせるわ」
「そうなの? 普通に、自転車で行くつもりだったんだけど、助かるわね」
「少しでも、体力を温存しておくと良いわ。特に、人間にとってはあなたの普通についていけないこともあると思うし」
「そうね。分かったわ」
エリザは、タケルを見てリナリアの言う通りだと思った。
「おねーちゃん、私は飛んでいった方が早いと思うよ?」
「いいえ、今回は一緒に行きましょう。あなたが先についたら、私達の到着までにすべて終わっていそうだもの」
ジーナの実力なら、オーガキングであってもそれほど苦労することなく倒すであろう確信がエリザにはあった。それでは面白くないし、何よりコハクの出番も、タケルの魔物観察も出来ない。
しばらくすると、リムジンが到着する。運転手はエルフの秘書だ。
「すごい……。僕、こういう車に乗るのは初めてだよ」
「そうなの? 確かに、こんなに長い車が道路を走っているのを見た事は無いわね」
「あたしは、何でもいいけどな!」
「飲み物も、ちょっとした食べ物もあるから好きに使っていいですわよ。それでは、いってらっしゃい」
リナリアは、リムジンを見送る。そして、新たな目標が居ないかユグドラシルに確認に行くのであった。
「すごい! 座りごこちがすごくいいよ! まるで、高級ソファーみたい!」
タケルは、子供のように初めてのリムジンに興奮している。
「確かに、ものすごく柔らかいわね。私も、こういうのは初めてね」
「魔界には、柔らかいものなんで、あんまりなかったもんねー」
妹キャラを演じるジーナは、年相応に見えるように座席をぽんぽんと叩き、幼さを演出する。
「あたしは、何でもいいけどな!」
そういうコハクも、初めてのたびに興奮しているのがゆらゆらとご機嫌そうに揺れる尻尾で分かった。
「冷蔵庫には……うわっ、高級そうなワインが入ってる。けど、僕はお酒は飲まないし、エリザは?」
「赤ワインなら嗜む程度には。けれど、これから戦いに行くのに酔う訳には行かないでしょう」
「それもそうだね」
実際は、多少酔った程度でオーガキングに負けるエリザではないが、エリザも特に好んでワインを飲むわけでは無いのでわざわざ酔う必要は無いと判断する。ジーナは、ジーッと飲みたそうにワインを見るが、ロープレ中の為、幼女がアルコールを飲むのは不味いと判断して我慢する。コハクも、酒には興味なかった。
「もうすぐ、目的地ね」
エリザがそう言うと、コハクは窓を少し開け、外の匂いを嗅ぐ。排気ガスの臭いに、コハクは顔を歪める。
「やっぱり、この世界の臭いって独特だな。オーガの臭いも少しするから、もう少し近づいたら戦闘に入りそうだぜ?」
「それなら、先に降りましょう。この車に傷をつけたら、文句を言われそうですし」
車に傷がつくというエリザの言葉に、秘書エルフはびくりと体を震わせる。怒った時のリナリアは、エルフ達にとっては恐怖以外の何物でも無かった。
「それでは、このあたりで停めましょう。今、寄せますので」
秘書エルフは、道にゆっくりと停めると皆を降ろす。
「私は、ここの近くのパーキングでお待ちしております。場所はコハク様なら匂いで分かるでしょうし」
「分かったわ。それじゃあ、行ってくるわね」
「お気をつけて」
秘書エルフは、優雅に一礼すると、車をパーキングに停めるために移動させる。
「それじゃあ、出発よ」
エリザは、コハク、タケル、ジーナを見回すとそう言った。




