仲間との再会
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王都の中はそれはもう賑やかだった。
人手がすごい。今世においてこんなに沢山の人を見たことはなかった。服装も様々だが人種も多種多様だ。
獣の耳と尻尾がある者。尖った耳にローブ、両手魔法杖を持った男性はきっとエルフの冒険者だ。かっこいい。
目の前の光景はまさにファンタジー。住んでいた小さな村には獣人もエルフもドワーフもいなかった。
鬱蒼とした深い森の中にある小さな村には冒険者が訪ねてくることもなかった。
初めての光景だがノアにはどこか懐かしい。
前世、日本人だった彼は幼少の頃からアニメもゲームも大好きだった。それは大人になっても変わることはなく、自分がこんな世界の住人だったらと妄想した夜は数えきれない。
剣と魔法、様々な人種で溢れる世界に、まさか自分が生身で降り立つ日が来ようとは!!
ノアは転生したことを改めて実感し、既に感無量であった。
「我が人生に一片の悔いなし…」
誰に聞こえるともなしに呟いた。
転生者鑑定なるものを受けるには王城に行って申請をせねばならないらしい。
時間はまだ昼前だがどうしたものか。
実際の手順も正直なところ分からない。どのくらいの時間を要するのか。前世の市役所などのように受付窓口が分かりやすく設置されていると助かるが、望みは薄そうだ…。
「とりあえずお腹すいた…」
ここ数日間の道中は硬いパンや干し肉、ドライフルーツなどの携帯食料だった。何か温かいものが食べたい。
せっかくだから美味しい物を。幸いここは王都。なんでもありそうな気がする。
ノアはマーケットがありそうな方向へ歩き出した。
デレックに聞いていた通り王都は祭りのようだった。なるほど店も人も多い。
美味しそうな匂いを頼りにあてもなく飲食店街を歩いていて、ふと目が止まる。カフェの店先によくある黒板のような看板に書かれた『ロコモコ料理』という文字。
え、ロコモコ?ロコモコってあのロコモコ?
思い浮かぶのはハンバーグに目玉焼きの載ったアレだ。日本産まれ、日本育ちだが馴染みは深い。小学校の家庭科の授業でみんなで作った事すらある。大人になってからも好きで良く食べていた。
記憶の中の懐かしい味が無性に恋しくなり、ノアはこの料理屋に入ろうと決めた。
(でも、『ロコモコ料理』なんて言い方するかな…)
いやしかし!もしかするともしかするかもしれない。
店はまだそれほど混んでないようで、
元気な店員に案内された席に着き、一応メニュー表を眺めていた時。
店の入り口側で声がした。
「こんちは、マスター!ちょっと覗かせてー」
「お!いつものお二人さん!今日も食べてってくれよ」
「んー、今日はちょっと人を探して…て。あ!!マスター、やっぱ食べてく!奥の席使うよぉ」
「おう!お前たちには世話になってんだ。遠慮なく使ってくれ!」
(どっかで聞いたことある声のような)
声の主が近づいてくる気配にノアはようやくメニュー表から顔を上げて、あやうく椅子から転がり落ちそうになった。
「うそでしょ…」
「よ!ノア、ひっさしぶり」
桃色の髪に赤い瞳のアムステル。
「元気だったか?お前なかなか王都に来ないから死んだかと思ったぞ」
黒い髪に黒い瞳、あの夜よりも遥かに若いが精悍な顔立ちのフジヤマ。
目を白黒させるノアへの挨拶もそこそこに2人は当たり前のように向かいの椅子に腰掛けた。
「もうオーダーした?」
「…いえ、まだ」
まてまて。状況が飲み込めない。
「おーけー。すみませーん!ロコモコ定食3つでー」
厨房脇のカウンターに控える店員へ向けてアムステルが注文を通した。
え?…えぇ?
「あの。お2人の登場にまだビックリしてるんですけど…ロコモコってそもそもあのロコモコで合ってますか?」
ふっと妖しく笑ったアムステルの横から、フジヤマがメニュー表の最終ページを開いてノアに向けた。
「このイラストの生き物がロコモコだ」
目にしたページにはまんまるな体に丸い尻尾を生やしたアイボリー色のフワフワの毛に全身包まれたそれはそれは可愛い生き物が描かれていた。
「ちょっと待って。俺、これ食べられないかも…」
可愛すぎた。つぶらな瞳がキラキラとコチラに向けて『食べないで!』と訴えてきているような気がする。絵だけど。
「最初はみんなそう言うんだ」
「真昼もそんなこと言ってたな」
フジヤマとアムステルは感慨深そうに頷いている。
「え!真昼さんもいるの!?」
「ふ。今度会いに行こうな」
アムステルが笑う。
嬉しい。すごく驚いたけど、旧知の仲間との再会に心の底から安堵した。転生したのは自分だけではなかったのだ。正直泣きそうだ。
「それにしても遅いよ、ノア。普通15才になったら王都来て転生者鑑定だろ」
アムステルが不服そうだ。
転生者鑑定は15才から受けられるのだと聞いてはいた。
「遅くとも16才には王都に来て魔法学校だな」
やれやれと言った顔をするフジヤマ。
どうやら魔法学校というところには16才から入れるらしい。
「すみません。情報に…とにかく疎くて…」
嘘ではない。外からの情報は年に数回王都に行くデレック頼りだったし。実際、魔法学校なんて初めて聞いたし。
自分に自信が持てず、なんとなく後回しでズルズルと村で暮らしていたら19歳になったとは言うまい。
そうこうしていると頼んだロコモコ定食が運ばれてきた。
焼きたてのテーブルパンは山盛り。それとシチュー。串に刺さった大ぶりな肉と野菜。前世ぶりに嗅ぐ照り焼きソースの香り。
見ただけで美味しいのがわかる。
開いたままのメニュー表の最終ページに視線を向けるとつぶらな瞳が「食べて♡」と言っているような気がする。絵だけど。
アムステルの「いただきまーす」に合わせて気がつけば躊躇なく齧り付いていた。
皮はパリパリに焼き上げられ、柔らかな赤身からは溢れる肉汁。
何これ美味しい。
前世で食べていたまんまの照り焼きの味。一緒に刺さっている野菜はカブのようで、これもめちゃくちゃ美味しい。
王都きて良かった。ロコモコさん凄い。食べ進めるそばから次回の来店を決意する。
目を閉じてゆっくりと咀嚼しているとアムステルが口を開いた。
「このあと転生者鑑定行こうぜ」
「えっ!そんないきなりで大丈夫なんですか!?」
「だいじょーぶ、大丈夫。私達が付き添うし」
「いや…でも、明日とかに」
「駄目だ。転生者の立場って色々と便利なんだよ。早い方がいい」
何を躊躇することがあるんだとアムステル。横でフジヤマも頷いている。
「ノア。さてはお前。まーた余計なことをグルグル考えてビビって王都来るのも先送りにしてきたな」
返す言葉もなく視線を逸らした。
「相変わらず過ぎて安心するな」
フジヤマのフォローがフォローになっていない。
「ち、ちなみに鑑定してくれる方ってどんな感じのひとですか?怖い人じゃない?」
いきなり行って怒られたりしないだろうか…
アムステルが安心しろと笑う。
「信頼できる優秀な兎とその忠犬だよ」
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