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人嫌いの錬金術師

読んでくださりありがとうございます!

閑話。短めです。

ノックの音がする。かれこれ30分。


「たーのーもー」


コンコンコン、コンコンコン

居留守を決め込んでいるが声の主に諦める気配はない。


ここは鬱蒼とした森の中。

森の各所に配置された手製の魔導具にて存在を隠されたこの家は、そもそも招かれざる客を辿り着かせはしないのだ。


が、それでも声の主はこの家の扉を叩いている。結界用の魔道具の故障か、有り得ないが奇跡的に迷い込んでしまったのか…

錬金術師エクリスは思う。


(誰だか知らんが絶対厄介な奴だ)


無視だ、無視無視。と研究を続けていたエクリスだったがーー


「まぁいいか。扉前で野営させてもらいますねー」


とんでもないことを叫ばれて追い払うこととした。

すぐさま扉を開けたエクリスの眼前には、既に張られたテントと焚き火、パンを齧ろうとする桃色髪の女の姿があった。

「手際よすぎだろ…」


***


「作って欲しいものがあって」


アムステルと名乗る女は出された薬茶を啜りつつ、そう言った。産まれて11年と言っていたがとてもそうは見えない。


追い払おうと思い開けた扉であったが、とりあえず話だけでも聞くかと思わせる何かがこの女にはあった。

エクリスは顎に手を当て考える。


なんと言うか少し…、そう、面白そうだと思ったのだ。


野営道具は使い込まれ、旅慣れて見える旅装。

ショートボブの桃色の髪は目立つが、何より印象的なのはその朱色の双眸。

そして気安い声と言葉選びだ。

エクリスが何者か分かっているようだが、その声に気負いはない。初対面なのに畏まった様子もなく、それでいて蔑んだ態度でもない。あくまでフランク。

対等な立ち位置を思わせるが、こちらへのリスペクトも感じさせる。

一言でいえば不思議な女だった。


「四次元のポケットみたいな鞄が欲しい」

「は?」


なんだって?


「結構探し回ったけど見つからなくて。前世では良くあったんだ。いや、正確には前世で読んだ物語の中だけど」

「ちょっと待て。お前転生者か?」


女は頷き、「産まれて11年だから、正式鑑定はまだだけどね」といってのけた。


「驚いた。なんて貴重な…」

「魔法紋で組み上げて色々試してみたけど上手くいかなくて。稀代の国家錬金術師エクリス様なら出来ると思って」

「元だ。『元』国家錬金術師だ。今は国には仕えていない」


エクリスはうざったそうに眉間を寄せた。生まれ育った国から離れ、この森に篭ってからもう15年は経つ。今更国家錬金術師を名乗るつもりも、名乗る資格も自分にはない。

アムステルは気にする様子もなく茶菓子に手を伸ばし口に放り込んだ。


「それで四次元のポケットみたいな鞄とはなんだ」


曰く、外見は普通の鞄で中を別空間に繋げた無尽蔵に物を放り込める鞄だという。取り出したい物を思い描いて手を差し入れれば、目当てのものを難なく出せるようにしてほしいという。

一見すると無理難題のように思える。


が……


「以前、中に入れた物が小さくなる魔法鞄を作ったことがある」

「おおお!どうだった!?」

「どうやっても質量が中で固定してしまって取り出しても小さいままだった」

「うわぁ!何それ面白そう!精巧なドールハウスが作り放題じゃん!」


キラキラと目を輝かせているが、それはその道の職人に最初から小さいサイズで頼みたい。


「しかし別空間か…」


面白い発想だ。エクリスの頭の中で様々な素材と加工方法、魔法紋が組み立とうと踊っている。


「魔導具の隠蔽魔法を掻い潜ってこの家に辿り着いたんだ。お前、腕は立つんだろ?必要そうな素材は狩りか採取でもして取ってきてもらうぞ」

「おぉぉぉ!合点承知ぃ!」

「対価はどうする。俺は金ではなかなか動かんぞ」


正直、このアイデア提供だけでも充分な気はするがいちいち面白そうな桃色髪の女に意地悪をしてみたくなり問い掛ける。

先ほど研究時間を邪魔されたのだ。このくらいの意趣返しはあっていいだろう。

腕を組みしばし考える仕草をしたアムステルは答えた。


「ヴァンパイアの血液は何かに使える?」

「は?」


貴重過ぎる素材ゆえ、錬金術の文献を読み漁っても数行ほどしか記述は無いだろう。そもそもヴァンパイアなどそうはいない。討伐したという話も聞いたことはない。

エルフほどではないが大変な長命で、ほぼ不死身。この世のものであるようでこの世のものではないような、それこそ物語の中の空想に等しい存在だ。

だからこそ欲しい。

想像する様々な用途に心が躍る。

隅々まで調べて文献に残し、後世に繋げたい。

そんなものがあったらその研究に一生を捧げることも出来そうだ。


「それの生涯無償提供でどう?その代わり、これから先も色々作ってもらいたい」

「お前…」


驚くエクリスに、桃色髪を揺らし、赤の双眸が妖しく笑み細められた。

ヴァンパイアには魅了の魔法があるという。これがそうなのかは分からないが、これだけの研究材料を目の前に頷く他の選択肢など無かった。

エクリスの了承を前にしてアムステルが顔を輝かせ、ガタリと椅子から立ち上がった。


「ありがとう!エクリス様!!」

「敬称はいらない。エクリスでいい」

「じゃぁ、エック」


エクリスは顔を顰め、アムステルはこれ以上ないほどニッコリと笑った。


「あと、この家の前に転移魔法陣置いてもいい?」


転移魔法は難易度が高い。その魔法陣はさらにやばい。

絶句しながらもエクリスは思う。


これから楽しくなりそうだ。

ゆっくり更新!

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