初めてのオフ会
読んでいただけて嬉しいです!
慣れない都内の複雑な電車を乗り継ぎ、目当ての居酒屋の暖簾をくぐったのは約束の時間15分過ぎ。
待ち合わせであることを告げると、感じの良い店員が奥の個室に案内してくれた。
「おっ。来た。ノアじゃん」
個室に入った瞬間に名前を呼ばれたことに少し驚き、ゲームの中と同じ桃色の髪の女性に苦笑いを返した。
相手も自己紹介前なわけだがコレはわかりやすい…
「アムさん、ご自身のゲームキャラまんまじゃないですか」
カラコンだろうか…赤い瞳。目にかからない前髪と耳下肩上少し長めの派手な桃色ボブヘアで髪型までゲーム内のキャラに見事に寄せている。服装は普通に洋服なのでコスプレとはまた違うが、それ以外の寄せ方は見事だった。
キャラデザや聞いていた話と違うのはその豊かな胸元だけ。
「貧乳が偽りだったことを不服に思う」
ビールジョッキを片手にぼやいたこの男性はきっと…
「フジヤマさんだ」
生フジヤマさんのゲーム内と同じ口調に笑ってしまう。
清潔なカッターシャツに生地の良さそうなスーツ。仕事帰りのまま来たのだろう。ノーネクタイだがしっかり着こなしている。リアルは50歳手前だと聞いていた。きちんと役職に就いている落ち着いた大人の印象だ。
「正解ー!じゃぁ私は誰でしょー」
試すような上目遣いで聞いてきた女性は隣のフジヤマさんにピタリとくっついている。
「真昼さんでなければわりと問題のある距離感ですよ」
「当たりーー!」
すでに酔っているのかゴキゲンそうに答えるこの女性はフジヤマさんのリアル奥様だ。夫婦で同じネットゲームが趣味だとはなんとも仲が良い。
年齢は聞いたことがないが、フジヤマさんより若そうに思う。
細身の体型。ふわりと揺れる少し明るい紅茶色の髪を腰の辺りまで揺らし、清潔感があり好印象だ。
いつも明るく良く喋り、ムードメーカーのような人だ。
「文字チャしかしたことないけどわかるもんですね」
とりあえず着席し、アムステルから渡された注文用のタブレットで最初のアルコールをタップしつつテーブルの上を見渡す。
まだお通しとみんなの飲み物しかきてない状態のようだ。グラスの中身はみなそれぞれに減っている。
「遅刻すみません。何か他に頼みました?」
「いいよいいよ。とりま一通り、食べたいのあったら押しちゃえ。かぶってもかまわん」
今この個室にいるのはオンラインゲーム内にて同じギルドのメンバーだ。進む過疎化が止められず、この度サービス終了が間近に迫ったため「最後に、来れる人達で一回会うか」と誰かが言い出した。
正直、自分には初めてのオンライゲームであり、文字チャットのみのギルド内で『リアルで集まる』ということに多少の抵抗と不安があった。
おまけに人生初めてのオフ会。どうしようかと迷ったが、最後に背中を押したのは単純にこのメンバーとの楽しかったという思い出だ。
ギルドマスターのアムステルが率いる我がギルドは少数であることも手伝ってとても仲が良かった。
その仲の良さは他のギルドの人達にも伝わり、ログインしているとギルド外の人達もたくさん声をかけてくれた。
我々のギルド『月の輪』は最強ギルドと言うには程遠いが、「楽しい人達だ」と言う点において名の通った、ちょっと有名なギルドだったと思う。
ギルドメンバーと野良の垣根はあまりなく、いつもワイワイと遊び、楽しいことに貪欲な人達が毎夜集まっていたので、少々消極的な自分も素直に楽しめた。
「効率は二の次。とにかく楽しんだもん勝ちだよ」
アムステルのモットーは自分にピタリと合ったのだ。
最初の注文が届き、みなで乾杯し、共に食事をする。実際に会うのは本日が初めてだが、そんなことも感じないほどに話が弾んだ。リアルの居酒屋で、みんながゲーム内のハンドルネームで呼び合うのも不思議と違和感はなく、ちょっと特別な感じで楽しめた。
普段の自分では有り得ないほどのリラックスした気持ちに驚きつつ「これが苦楽を共にした仲間ってやつなんだ」と、少々恥ずかしい事を内心に抱いていた。
すると、個室の襖が開き男性が1人入ってきた。
今日のオフ会は開始時間と場所、お開きの時間だけ事前にギルドメンバーに知らせておき「参加は自由」としていた。
オフ会に抵抗がある者、単純に予定が合わない者、住んでいる場所が都内から遠く物理的に難しい者。様々いる為「行けたら行く」くらいの軽い気持ちでとのことだった。
自分も住まいは都内から遥か遠く、今夜はどこかに一泊し、明日は都内の有名なランドマークを巡ってから帰ろうかと、観光気分でやってきた。
入ってきた男性は遅れてきたギルドメンバーなのだろう。
身長は190cmほどありそうな大柄。いわゆるゴリマッチョ体型と言うものだろう。良く鍛えられた体躯に肌の色は日に焼けて黒い。
「へぇ、まさか来るとはねぇ…」
空耳かもしれないと思えるほどのとても小さな一人言を隣に座るアムステルがこぼした。
心なしかピンと緊張の糸が張られたような気がした。アムステルには誰なのか心当たりがあるらしい。
全く分からない。誰のリアルさんなんだろう。
アムステルはゲーム内から飛び出して成長させたような出立ちですぐに分かったが、それはこの人が可笑しいのだ。
通常はこうして分からない。
こういう場合は下手なことは言えないなと口を引き結んでいると長身マッチョがとんでもない挨拶をした。
「初めまして。ネコニャスです。こんばんは」
「えええっ」
驚きの声を出したのは
僕と真昼さんだった。
フジヤマは少し目を見開き、彼を凝視している。
それもそのはず。ネコニャスさんはいつも
『私のリアルは、長身の看護師女子でバストはHカップ』だと言っていた。
がっつり信じていた。
長身。は、あってる。190cm近くありそうだ。
看護師。なのかは分からないが体力仕事は任せてくれ!って感じはする。
女子。…ではない。明らかに。
Hカップ。…胸囲はたしかに凄そうだ。が、思っていたのとは違うな!
チャットの口調も可愛い女の子そのもので、拗ねたり我儘を言ったりと周囲を翻弄することもあった。
アムさんは何事も無いかのように枝豆を食べつつ「何飲むー?」なんて聞きながら着席を促している。
『ネコニャスはどー考えても男だろ。まぁどっちでも良いけども』
そういえばゲーム内でアムさんはそんな事言ってたなぁ…。
あの時は、あんな可愛さ溢れるチャットが出来る男はおらんやろぉ!とかツッこんでたけど
そうか…そうだったのか…。
なんだか複雑な気持ちだ…。
それに北海道在住だと聞いていた。今日は北海道から来たのだろうか…。
何よりHカップとはなんだったのか。
チラリと視線を向けるとフジヤマさんと目が合った。なんとも複雑な表情で頷いてくれた。同志がいて嬉しい。
ゆっくり更新!




