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カークリヒトは恋を知る

読んでいただきありがとうございます!

「カークリヒト、此度の貴殿の功績を讃え国王陛下が褒賞を授けたいとのことだ。希望は出来うる限り叶えると言っている。なんなりと申すがよい。私から王陛下に伝えよう」


数日前。

王都から少し離れた小さな村にベヒーモスを含む魔物の群れが出た。

一報を聞いたカークリヒト達、第二騎士団は急ぎ討伐に向かった。

村に到着後、すぐに魔物討伐に踏み出し、粗方片付けたが群れのボス的存在であったベヒーモスが逃げ遅れていた幼い少女を抱えて逃走をはかる。

少女を盾にされ攻撃を仕掛けられない他の騎士たちを置いて、カークリヒトは走り出した。

躊躇のない一閃はベヒーモスを正確に仕留め、少女を見事助けた。


これまでも数多の武勲を挙げていた彼は、今回特別な褒賞を希望出来るということで、王太子ラハエルの執務室に呼ばれていた。

公爵家子息カークリヒト・アニスベルクは間髪入れずに答える。


「転生者アムステル様の護衛騎士の役目を仰せつかりたく思います」

「いや、あいつに護衛は要らんだろう」


一蹴された。

代案として、新設する『ラハエルの近衛、白騎士隊の隊長』を出された。


「謂わば私の護衛騎士だ。誇りに思え。お前は文官試験も通過してるんだ。私のそばなら執務も手伝える。アムステルの護衛騎士よりよほど有意義に過ごせるぞ」


得意げなラハエルに、これは仕組まれた人事だと悟る。何をどう足掻いても就いたのはその座であっただろう。


ラハエルにも護衛は不要では…と、その場の誰もが思ったが誰も口にはしなかった。

今までも近衛はいたが連れ立って歩く為の見目の良い者を選んでいた気がする。

今回、新設するということはラハエルが行う政務の幅が広がり、より精力的に活動開始するからだろう。

カークリヒトはひとつ息を吐き、それを飲む形となった。


「俺の傍に侍る権利を提示されて、そこまで不服そうな顔をするのはアムステルとお前くらいだ」


心外だと言わんばりに金髪碧眼、美貌の王太子はその目を眇めた。

執務室にて仕事をこなしつつ経緯を見守る文官達も密かに苦笑いであった。


***


彼女はとても目立つひとだった。


存在自体が珍しいとされる転生者が、あろうことか3人連れ立って鑑定のため登城したことから始まり。

その3人がそれぞれ類稀な能力を保有していたこと。特に彼女はこの国で馴染みのない闇属性の持ち主であり、その魔力量は果てしなく、皆を驚かせた。


回復魔術は聖属性持ちの特権だ。

聖属性が至上だと謳い、国の政治にも大きな影響力を持つ大神官をはじめとする神官たちの大半は彼女を厭うのを隠さなかった。

「魔物の化身だ」「あの女は危険だ」「どうせ闇属性など大したことはない」と、様々な見解を至るところで口にした


魔法学校に客員として招かれた際、案内役の神官に仲間を侮辱され、王都丸ごと夜闇に包んだ5日間はあまりにも有名だ。

その際、即興で魔法陣を描き魔法を行使する彼女はこの世の者とは思えぬほど妖艶で嫣然と輝いていたという。


アムステルにより王都が夜になった翌日、学生達に聞き取り調査をしたカークリヒトは何故その場に自分が居なかったのかと内心酷く落ち込んだ。


***


彼女が魔法を使う姿を初めてみたのはドリコラ山脈にて遠征訓練中、悪天候のため『飛竜の棲家』に迷い込んでしまった時。


戦ってどうこうできる数ではなかった。

何より竜は畏れ敬うものであり、女神の遣いと表されることもある神聖な存在だ。

人里を襲ったりする個体でない限り戦うなど有り得ない。悪いのは彼らのテリトリーに足を踏み入れてしまった我々。


自分が死んでも公爵家は妹が継ぐだろう。特に野心も無い自分よりよほど向いているように思う。あいつは優秀だ。何も問題はなさそうだ。


思えば自分はとても恵まれていた。欲しいものも叶えたい夢を抱いた事もなかったが、それは両親や周囲に不自由なく育ててもらえたからだ。

そう考えると自分の人生も悪いものではなかったなと、少し笑う。

ここで竜の糧になるのも悪くないかと思った矢先であった。


目の前を横切ったのは一迅の風。

桃色の髪に翻る黒いマント。しっかりした編み上げのブーツを履いてはいるがマントの中は雪山には似つかわしくない薄着の女性。

彼女は幾分か体勢を低くし竜の群れへと突っ込んでいく。その間際、一瞬だけこちらに視線を向けた。

その瞳の色は出血を思わせるほどの赤。

実際はそうではないのだろうが、自分がそれに映ったような気がした。

その刹那、カークリヒトは恋を知る。

『落ちてみればわかる』と、どこかの酒場で吟遊詩人が謳っていたのを思い出す。

家族を大切で愛おしいと思う気持ちは分かるが、他人に対して恋だ愛だと心揺さぶられる事など自分の人生には訪れないものだと思っていた。


幼少期から同じ乳母に育てられたこの国の王太子ラハエルもその類の人間で、お互いにそういった話には苦い表情であった。

同僚の恋愛話を聞いていても遠い国でのお伽話のような感覚で微笑ましくも羨ましく思っていた。

誰かを想い胸を焦がす時間とは一体どれほど素晴らしいのかと想像し、誰にも心動かぬ自分に落胆する夜もあった。


殺気立っていた飛竜たちはどういう訳か大人しくなり、我々の帰り支度が整うまで黙認してくれることとなる。

彼女たちのお陰であることは明らかであったが、目の前の光景が受け止めきれず騎士団の面々は簡単な礼を述べるしか出来なかった。


用は済んだとばかりに去っていく3人の背を呆然と見つめつつ、カークリヒトは決意する。

何がなんでも無事に帰還し、どんな手を使ってでも彼女たちを探し出そうと。


そして聞くのだ。

あの珊瑚の髪に朱の瞳、華麗なる魔法捌きの妖艶なる彼女の名を。


これからの自分の生涯をどんな形であろうと彼女に捧げられるのならば、こんなに素敵なことはない。

これは僥倖だ。

人生はなんて素晴らしいのか。


その後、カークリヒトは転生者アムステルの名を知ることとなるが、一介の騎士が転生者様に話しかけるチャンスなどなかなかあるはずもない。

最初は遠くから見ているだけで気分が高揚し、とても幸せであった。

が、彼女と軽口を叩き合う王太子ラハエルになんとも経験のない気持ちになってきた。


アムステルに名を覚えてもらう為、カークリヒトはがむしゃらに武勲を積むようになる。

やっと手に入れたのはラハエルの近衛、白騎士隊の隊長の座であった。


ラハエルの少し後ろから彼女の美しい(かんばせ)を見つめられる機会が少しばかり増えた。

自分の顔は覚えてもらえただろうか。

次は愛くるしい声で名を呼んでほしい。

日に日に欲が出てくる自分が何故だか楽しい。

アムステルに出会い、塗り替えられていく自分に気を抜くと口元が弛んでしまう。


***


そんな彼女に自分が初めて一対一で認識される時が訪れた。

続く魔物の発生に兵力が疲弊していた矢先、かつて無いほどの大規模な討伐要請があった。

ラハエルが自ら手を挙げ、方々からの協力を得て挑んだ。その最中、カークリヒトは咄嗟に部下を庇い瀕死の重症を負う。


正直、死の淵で朦朧としており勿体無いことに記憶は朧げだ。

それでも鮮明に思い出せるのは

慈愛に満ちて、でも試すような彼女の朱色の瞳と、


「今から凄ーいことするから一度強制的に眠らすよ?」


脳に残る彼女の艶めかしい声と言葉たち。


「いえ…出来れば、このままで…。意識があるほうが治りが早いと聞きますので」


なんとか答える。

本当は彼女にされることを出来うる限り覚えておきたいと言う欲目が9割だ。

彼女の瞳は一瞬迷ったように揺れたが「わかったよ」と了承してくれた。


「でも限界がきたら手放しな。必ず治すから」


またとない彼女との関わりに意識を手放すなど勿体無い気がした。

彼女の治癒魔法は噂よりもずっと凄かった。


「声は出した方がイイ。大丈夫だ。すぐ良くしてやるからな」


腹の中身を全て掌握されているあの感覚。

襲いくる強烈な吐き気と嫌悪感、そして恍惚。


「こっからもう少し奥にいれるぞ」

「ぐ!ぁぁぅぅっっっ」


まだ奥に入るのかという絶望にも似た期待。

自分では触れることの叶わない場所への接触。

そして最後に抱きしめられた温もり。


「すごく良かった。安心していい。『眠れ』」


きっと一生忘れることはないだろう。

出来ることならまたお願いしたい…。

そう思いながら彼女の睡眠魔法によりカークリヒトはストンと眠りに落ちたのだった。

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