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アムステルの治癒魔法

読んでいただきありがとうございます!

「アムステル!アムステルを連れてこい!!」


なにやら大声で私を呼ぶのはこの国の王太子、ラハエル・エンターナだ。常日頃から大変偉そうな男だが、このように声を荒げることは珍しい。


目の前の怪我人の手当てを終え、近くの神官に経過観察を頼み、アムステルは立ち上がった。


4月に15歳を迎え、フジヤマと真昼、アムステルの3人で転生者鑑定を受け、そこから半年程が過ぎた。


ここはエンターナ王国の北。魔物の森と呼ばれる森のすぐ傍にある小さな神殿だ。

王都から馬で1日とかからない距離だが、出現する魔物が急激に増加し、王太子自らが討伐隊を編成、魔物討伐に向かった。

魔物自体はあらかた片付いたものの負傷者多数で甚大な被害が出た。

王都で待機を命じられていたアムステルは救援の知らせを受け、馬を飛ばし、つい先ほど駆けつけたところだ。

討伐隊に参加していたフジヤマは無事で、彼から大まかな状況を聞き、豊富な魔力を惜しみなく使い手当たり次第に治癒にあたっていた。


小さな神殿内は横たわる兵士たちで溢れていた。ほとんどの者達が血だらけで、鉄錆のような匂いが充満していた。

王太子の近衛も数人、冒険者や傭兵の姿も見える。近くの村の民達も手伝いにかけつてくれているようで、神殿の神官や討伐隊の治癒術師たちが治療にあたっている。


王太子の指示なのだろう、貴族や平民、身分差に順序なく治療が行われていた。

どの世界でも命は平等ではないが、今この神殿内はそうではないらしい。強いて言えば重症者優先なのが見てとれる。


最近の魔物出現率の高さはこの森に留まらず各地で報告されており、度重なる緊張感と遠征で兵士たちも疲労困憊。


そろそろ出所(でどころ)を探るか…


ここ2ヶ月ほどの森の様子はやはりおかしい。一度森の奥まで見回る必要がありそうだ。

アムステルの見立てではこの先もまだまだ悪化するだろう。楽な手立ては辺境の小さな小さな村に住む前世での仲間、ノアを呼び寄せることだが…それはやはり気が乗らない。


この世界の国々は概ね転生者に対しての待遇が良い。

転生者と言うだけで衣食住はもちろん、特に何もせずとも毎日贅沢できてしまうほどの金額が約束される。


この世界に産まれるものには女神様からギフトが与えられることがある。いわゆる魔法スキルだ。持っている者もいれば、持っていない者もいる。

ギフトの能力値も能力自体も様々だが、中でも100年に1人現れるかどうかの『転生者』は強大な力を持った者が多いそうだ。それこそレア度高め、国々の均衡を崩すようなギフト。言い方を変えればチートってやつで、転生者はもれなく女神様の特別ってやつらしい。


女神ってのには会ったこともないから

その辺の信憑性については知らんけども…


その転生者がエンターナ王国王城の転生者鑑定により現在3人確認されている。世界の歴史上で見ても異例中の異例。


アムステル達の登場により、今やエンターナ王国の力は盤石となった。

この国での転生者待遇は破格。

王族と同等扱い。いやそれ以上かもしれない。


『転生者には何人たりとも手出しを許さず』


そんな法律があるくらいだ。

まぁでも、ようするに

『破格の待遇なんだから国の有事の際はその能力を存分にふるってくれよ?』

って感じのそういう国との契約みたいなものだ。


歩み近づいてきた私を見とめた王太子ラハエルが怒鳴り声を上げた。


「何をのんびりしてる!!早くコチラに来てコイツを治せ!!!」


普段見せない必死の形相だがアムステルへの口の悪さは平常運転。

まだ余裕ありそうだ。


「はいはい。言われんでも治しますよ」


アムステルも国の王太子に対して軽口で答える。


不敬罪?そんなの知らんよ。

この国では誰も転生者に手を出せないのだから。ふふふ。


目の前に横たわる怪我人の横に膝をつき手をかざして状態をみてみる。

なるほど失血がひどい、内臓の損傷もなかなかのものだった。誰かを庇って前に出たか。体の前面、そして内部に損傷が集中している。

この神殿内で飛び抜けて重症かもしれない。

この場の神官がヒールを尽くしたようだが、ここに今いる神官たちではこれは手に負えまい。

何より聖属性の回復魔法では失った血液は戻らない。

これはたしかに私にしか無理な案件だと悟る。


「こ、声を荒げてしまい、すまない。友人なんだ…助けてくれ。頼む…」


怪我人を挟んでアムステルの反対側に膝をついた王太子が頭を深く下げた。周りの神官や近衛たちの顔が焦りに染まる。


あの王太子が私に殊勝なことを言っている…。

これはもう駄目なのでは?


内心ニヤつきつつもアムステルは平静を装い、黙って治癒を開始した。

グッタリと横たわる男の頭を自分の膝の上にずらす。膝枕のような状態。

すると本人が小さな声で呟いた。


「アムステル様…」


驚いた。

この状態でも意識があったか。

感心しつつ声をかける。


「今から凄ーいことするから一度強制的に眠らすよ?」

「いえ…出来れば、このままで…。意識があるほうが治りが、早いと聞きますので」


確かに治癒の最中は意識を保ったままのほうが魔力の巡りが早く治癒魔法の効きが良い。

ここまでの怪我なら完治するまでの期間に一週間ほどの差が出るだろう。

たが、私の治癒魔法は…


「…お願いします」


もう言葉を発することも辛いであろう状態での彼からの頼みに私は「わかったよ」と了承を告げた。


「でも、限界がきたら意識を手放しな。必ず治すから」


彼の青白い顔が少し綻んだような気がした。


なるほど好ましい顔だ。


魔物の返り血や土汚れなどで気付かなかったが、よく見ればこの男はいつもラハエル王太子の隣に付き添い、護衛をしていた白騎士だと気付く。

名は確か、カークリヒト・アニスベルク。

この王国の五大公爵、アニスベルク公爵家子息だった気がする。王太子ラハエルとは幼馴染と聞いている。無口で職務に対して実直な印象だ。


さて治療に入ろうか。

私の治癒魔法はいわゆる神官の使うヒールとは違い、癒すなんて崇高なものではない。

闇属性の魔力を使って無理矢理に細胞を活性化させるエグい代物だ。


受ける側は辛い。

辛いなんてものではない。

半端ない。やばい。

腹部の上に手をかざし内部に魔力を通していく。

損傷した内臓を一つずつ魔力で触り正常な形に戻るように促していく。

苦しげにビクビクと震える身体。

反射もあるだろう。


「もうちょっと凄いとこ視ちゃうよ」


受ける側の感覚としては腹の中を手でグチャグチャに掻き混ぜられるような感じで、そらもう嫌悪感はとんでもないだろう。


「少し苦しいけど付いてこいよ」


普段は強制的に魔法で寝かせてから治療に入るのだが…。

王太子のそばにいつもいた彼なら、私の治癒魔法がどのようなものか、当然理解しての決断なのだろう。

これを覚悟の上とはちょっと凄い。


私なら嫌だ。


「ぐっっっゔゔぅ!」


とてつもない嫌悪感に襲われているであろうがカークリヒトはそれに耐えて呻き声を押し殺す。


「多少楽になるから声は出した方がイイ。大丈夫だ。すぐ気持ち良くしてやるからな」


耳元に向かって囁きかける。


「こっからもう少し奥にいれるぞ」

「ぐ!ぁぁぅぅっっっ」


損傷した内臓の処置をあらかた済ませて、心臓に触れて血液を作るように働きかけた。


「イイ子だ」


ここまでくればもう大丈夫だ。

私は彼を抱きしめ、最後の仕上げに全身に代謝を促した。見逃した損傷箇所がないかも視る。


「すごく良かった。安心していい。『眠れ』」


それまで嫌悪感と苦しさでビクビクと震わせていた身体からストンと力が抜けて眠りについた。

この分なら3日もすれば目が覚めるだろう。


日頃の鍛え方が良かったな。結構結構。

と顔を上げると、王太子をはじめ周囲の人達が顔を赤らめて目を伏せていた。


なにごと…


「お、おまえは…!もっとまともな言葉選びが出来んのか!!!」


真っ赤な顔の王太子に怒られた。

揃いも揃って初心(うぶ)だな。


「いや、雰囲気作りは大事だろ」


言い返した後、もっと怒られた。

気分を高めるのは大切な事なのに、解せない。

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